ネブカドネザル号乗組員消失事案に関する資料   作:統合惑星連盟特務調査局

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はじめに

《統合惑星連盟・特務調査局 機密文書 コード:Ω-4/閲覧制限:最重要》

 

文書分類:極秘

 

本書類は統合惑星連盟憲章第11条および特務軍規第4項に基づき、Ω-4級に指定される。

 

当該区分は、地球圏および外縁宙域全域に適用される現行情報保全規定における最高位の機密区分に該当する。

本資料の無許可閲覧・複写・転写・口頭伝達・データ抽出は一切禁止とする。

違反者に対しては民事・軍事双方の裁定に基づき、最低でも無期懲役、最高で即時抹消措置が適用される。

本書類は以下に定める情報を含む。

∙ 恒星間移民調査船ネブカドネザル号に関する全公式記録

∙ 消失乗員1,000名の身元・配置情報

∙ 唯一の生存者に関する精神・医学的記録

∙航行データ、観測ログおよびフライトレコーダーの復元情報

∙事案発生宙域における未解明現象の一次解析報告

∙事案に関する暫定結論(公開不可)

 

上記に鑑み、本報告書は統合惑星連盟執行部、外縁コロニー管理評議会、および特務調査局Ω班の権限保持者以外への提供を禁ずる。

 

 

第一章 事案背景

 

1-1 地球環境の臨界到達と移民計画の経緯

西暦3000年現在、人類の本拠地たる地球は環境収容限界(以下、E.C.L.)を完全に超過し、旧来の生態系としての機能を喪失している。

 

生態系の悪化は21世紀末より継続的に進行し、25世紀には大気酸素飽和度の急減少、海洋酸性化の最終段階への移行、および陸上生物多様性の97%消失が記録された。

 

これを受け連盟は、大規模軌道コロニー群の建造および段階的移住政策を推進した。

 

しかし西暦2700年代後半より建造が開始された第3世代超大型全居住型コロニー群は、人類の生存期間を延長したものの、以下の構造的問題を内包していた。

∙微量毒素の長期的蓄積

∙資源循環効率の低下

∙精神疾患罹患率の上昇および人口停滞

∙外部天体資源への依存度増大

 

西暦2950年以降、連盟は現行体制による総人口の長期維持が困難である旨を公式に認定し、「恒星間テラフォーム適格惑星の確保」を最優先戦略目標として設定した。

 

 

1-2 恒星間移民調査船計画(I.E.S.P.)

 

テラフォーミング候補天体の探索および実地評価を目的として、統合惑星連盟はI.E.S.P.(Interstellar Exoplanet Settlement Program:恒星間移民調査船計画)を立案した。

同計画の中核艦として建造されたのが、本事案の当事船である恒星間移民調査船「ネブカドネザル号」である。

 

■ ネブカドネザル号 基本諸元

 

・排水量:1.8億トン

・総乗員数:1000名(科学班、軍事班、技術班、医療班、植民候補者選定班を含む)

・航行方式:量子跳躍航法(第3次改良型)

 

■ 任務概要

1.居住可能惑星の探索

2.希少資源の賦存調査

3.生態系安定性の評価

4.初期テラフォーム基準適合天体のリスト化

5.定住適性に係る地質・気候・病原体・大気組成の確認

 

1-3 発航から通信断絶までの経緯

 

ネブカドネザル号は西暦2999年12月3日、外縁軌道ステーション「ヘリオス環状区」より発航した。

 

目的宙域はアルゴ=XΩ宙域——外縁星図において居住可能性指数が最上位に格付けされた新星団である。

 

航行は当初の計画通りに推移し、同艦は目的宙域中心部への最終量子跳躍準備段階に移行していた。

 

しかし西暦3000年6月18日21時14分(標準統合時間)、ネブカドネザル号は突如として全通信を断絶。

その後、宙域外縁部において漂流状態で発見された。

発見時の船体状況は以下の通りである。

 

∙船体:損傷なし

∙外部干渉痕:なし

∙電力系・環境維持系:正常稼働

∙緊急脱出ポッド:全基未使用

∙艦内抗争・暴力行為の痕跡:なし

 

しかし乗員1,000名のうち、発見された1名を除く999名は艦内いずれの区画においても発見されなかった。

 

発見された乗員は医療区画において昏倒状態にあった女性乗員、アマリー・ヘッシュ(当時28歳)の1名のみである。

同乗員は言語中枢に器質的異常は認められないにもかかわらず、発語不能かつ外部刺激への反応が著しく低下した重篤な心的外傷状態にあることが確認された。

 

上記状況を受け、連盟は本事案を《ネブカドネザル号乗員集団消失事案》として即時最高機密指定とし、特務調査局にΩ班を新設して専任対応に当たらせた。

 

1-4 本報告書の目的

本書は以下の情報を体系的に記録・整理したものである。

 

1.ネブカドネザル号消失事案の背景および経緯

2.事案発生宙域ならびに航行データの解析結果

3.艦内において検出された異常現象の記録

4.唯一の生存者アマリー・ヘッシュの医学的所見

5.復元された艦内ログ、航行記録装置データ、個人端末記録

6.原因仮説の列挙および蓋然性評価

7.連盟としての暫定結論および対応提言

 

なお、本報告書には生存者アマリー・ヘッシュが記録した私的航行日誌の原文データを後章において収録する。

当該日誌は事案解明に係る重要な一次資料であり、また閲覧者に対して精神的負荷を与える可能性のある記述を含むため、一般要員への公開は認可されない。

 

1-5 機密保持の必要性

 

本事案に関する情報は、不完全な状態であっても外部へ漏洩した場合、以下の重大リスクを惹起する可能性がある。

∙移民計画全体に対する連盟内外の信頼失墜

∙コロニー居住人口における組織的パニックの発生

∙外縁宙域進出政策の停止または後退

∙各コロニー自治勢力による分離独立運動の激化

∙軍事的混乱および周辺勢力との外交摩擦の誘発

 

以上を踏まえ、連盟は本事案の公表が惑星規模の社会秩序崩壊を招きうると判断し、Ω-4級機密指定を維持する。

 

——以上をもって前文および事案背景の記述を終える。

次章では、ネブカドネザル号の建造沿革、漂流発見時の船体内部調査記録、および確認された説明不能な痕跡について詳述する。

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