モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方   作:超かぐや姫!脳焼きの民

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まさかの1万字超えたので初見です。

感想、誤字報告いつもありがとうございます。
励みになります。


炸裂!第7の封印指定兵装パイルシステム

 

 

 

運命の第3戦。

 

先に告げておく。

 

この戦いの結末は酷いものだ。

 

 

 

『あら~

彩葉主役やもんね頑張り』

 

第3戦の開始を待つ中、

 

第3戦の開始を待つ静寂の中。

いろPは、瞼の裏に古い記憶を見ていた。

 

それは、小学校での学芸会。

彩葉は主役という大役を任されていたはずだった。

 

『あ...あんなぁ

みっちゃんがやりたい言うたから

代わってあげてん...』

 

帰宅した彩葉が、消え入りそうな声で告げる。

その瞬間、母が立ち上がり、声を荒げた。

 

『あんたは欲しい言われたら全部渡してしまうんか!』

 

激しい叱責。彩葉はただ、地面を這う虫を見るように目を背ける。

 

『母さん。大丈夫。

彩葉にも譲れんもんはあるよ』

 

その言葉と共に、ソファで本を読んでいた兄の朝日が二人の間に割って入った。

 

 

 

だが、その盾も、ある日突然消えてしまった。

 

『俺、来週から東京行く』

 

『唐突やね。

ええよ』

 

母の冷ややかな返事。

彩葉の心は、取り残される恐怖で凍りついた。

 

(やったら私独りやん...

なんで...)

 

父を亡くし、母との溝は深い。

唯一の理解者であった兄さえも、彩葉を置いて去っていく。

 

寂しくて、辛くて、どうしようもない思い出。

 

 

 

冷たくて、寂しい思い出。

その澱んだ記憶を引き裂くように、無遠慮な声が響いた。

 

「お~い!いろPさ~ん。

大丈夫でっか~?」

 

視界が過去から現在()へと引き戻される。

そこには、どこまでも気楽な顔をしたMr.Mkが立っていた。

 

二戦目でリベンジを果たした彼は、今や隠しきれないウキウキ顔だ。

 

「ごめん。

大丈夫」

 

いろPは、意識して声を整えた。

だが、そのわずかな揺らぎを、Mr.Mkが見逃すはずもない。

 

「折角、景気よ~勝ったんやから、辛気臭い顔はあかんあかん!

似合うてないで!」

 

Mr.Mkは、重苦しい空気を物理的に切り裂くような声で笑う。

 

「そうだよ!彩葉!

折角勝ったんだから笑おうよ!」

 

隣から、かぐやが屈託のない笑顔で身を乗り出してきた。

 

「そうだね。ごめん。

ちょっと昔のこと思い出してた」

 

いろPは小さく息を吐き、自嘲気味に呟く。

謝ることで、自分を縛っていた過去の重みを消し去ろうとした。

 

「謝るの禁止~!」

 

だが、かぐやは食い気味に、その言葉を遮った。

 

「え?」

 

「彩葉はなーんも悪くないでしょ! 昔のことも、今のことも!」

 

かぐやは腕を組み、ぷくっと頬を膨らませてみせる。

 

理屈じゃない。

 

あまりにも感情的な発言。

 

しかし、いろPにとってそれが救いであった。

 

 

 

「俺はさ、()()()()が1人で頑張る理由は前に聞いた。

でもさ、それって1人じゃないとあかんってわけじゃないやん?」

 

Mr.Mkとしてではない。

アバターの向こう側にいる1人の男、遠田匠として。

1人の酒寄彩葉の友人として、彼は真っ直ぐに告げた。

 

「やからさ、俺らも頼ってくれ」

 

その言葉は、彩葉がこれまで築いてきた、

「自立という名の孤独」の壁を、いとも容易くすり抜けて胸に届く。

 

兄に置いていかれ、一人で立たなければならなかった彼女にとって、

それは一番勇気の要る、けれど一番求めていた提案だった。

 

「まぁ、俺自身は頼りにならんかも知らんが、俺の道具は頼りになるで!」

 

しんみりした空気を耐えかねたように、彼はガハハと笑い飛ばす。

 

1人で戦う必要なんて、最初からなかったのだ。

 

隣には、理屈抜きで肯定してくれるかぐやと、いつでも明るく笑う遠田がいる。

 

「...うん。頼りにしてるよ、二人とも」

 

「おう!

こっちはボトムで、雷、乃依を抑えるわ。」

 

Mr.Mkが、自らの役割を誇らしげに宣言する。

 

「やから!そっちは盛大に兄妹喧嘩してこい!」

 

快活な、あまりにも彼らしい送り出しの言葉。

 

家族から与えられた「呪い」の言葉も、もう怖くない。

 

最高の友人たちと、最高に楽しい兄妹喧嘩(ゲーム)を終わらせるために。

 

 

 

トップレーンを独り進む帝。

 

マップ上には、2戦目と同じくかぐやといろPの反応。

 

先制攻撃は、かぐやが放つ9連装ミサイルによる苛烈な爆撃。

 

逃げ場を奪うような弾幕が、帝の周囲を焼き払う。

 

帝は爆撃を回避し、射撃による反撃を試みる。

 

しかし、その銃口を、ワイヤーによる変則的な軌道で接近してきたいろPが遮った。

 

今、(朝日)の前にいるいろP(彩葉)の表情は先ほどまでとは違う。

 

悲壮感も、迷いも、そこにはない。

憑き物が落ちたように、ただ真っ直ぐに、明るい。

 

(なんや、そんな顔出来るなら、もう心配なんていらんな...)

 

帝がこのKASSENを挑んだ真の目的。

 

それは、孤独に沈む妹の安否を確かめ、

 

その殻を打ち破ることだった。

 

「いい顔するようになったじゃんか!」

 

帝は笑いながら棍棒を振るう。

 

もはや、手加減の理由も、背中を案じる必要もなくなった。

 

あとは、目の前の全力の相手を、全力で叩き伏せるだけ。

 

最高に楽しい兄妹喧嘩(ゲーム)に勝つために。

 

兄として、そして絶対王者であるプロゲーマーとして。

酒寄朝日は、目の前の輝きに最高の障壁として立ちはだかる。

 

 

 

ボトムレーンの攻防は、1、2戦目とは似ても似つかぬ光景となっていた。

 

そこには、縦横無尽に空を駆ける「光の翼」の姿はない。

 

代わりに現れたのは、全身を無骨な重装アーマーで固めた、鋼鉄の巨躯だった。

 

 

Mr.Mkは大地を滑るように、ホバー走行で前進する。

 

その手に、腰に、そして背部のバックパックに。

 

これでもかと積み込まれた大型ビームキャノンが、戦場の空気を重く圧していた。

 

だが、何よりも異彩を放っていたのは、両肩に装備された巨大な盾のような装置だ。

 

それは、開発当時に「燃費が悪すぎて使い物にならない」と断じられた代物。

 

アイテムストレージの最奥で埃を被っていた、エネルギーシールド発生装置。

それの改修型である。

 

そんなMr.Mkに対し、雷の魔術と乃依の矢が次々と襲いかかる。

 

だが、そのすべてが無意味だった。

 

放たれた攻撃は、重装甲の表面を掠りもしない。

 

雷が放った、回避不能のはずの一撃でさえ、エネルギーシールドに霧散させられる。

 

「ヒャッハー!!!」

 

大地を滑りながら、Mr.Mkが叫ぶ。

 

同時に、全身に装備された6門のビームキャノンが、一斉に火を吹いた。

 

標的となった雷は大地を隆起させ、防御する。

 

しかし、

 

「なっ...!?」

 

雷の驚愕と共に、即席の盾は紙細工のように容易く貫通された。

熱線は勢いを殺さぬまま雷の身体を焼き、そのHPを無慈悲に削り取る。

 

「あれは防いじゃだめなやつか~」

 

その桁外れの火力を目の当たりにし、乃依の顔から余裕が消えた。

 

そして即座に正面切っての撃ち合いを放棄する。

 

生い茂る竹林の陰へと滑り込み、徹底した回避行動へと移行した。

 

そんな最強の装備を携えたMr.Mkの動力源は、もはや装備のエネルギーだけではなかった。

 

「...頼りにしてるよ」

 

脳裏にリフレインするのは、出撃前にいろPがくれた、あの言葉。

 

好きな女性から真っ直ぐに頼られた。

 

その事実だけで、彼のテンションは無意識のうちに、

リミッターを振り切り、銀河の果てまでぶち上がっていた。

 

「気もちぃぃ!!!」

 

Mr.Mkが叫ぶ。

 

テンションが振り切れた影響で

 

「ヒャッハー!!!」

 

 

「気もちぃぃ!!!」

 

以外の語彙を失っている。

 

Mr.Mkの脳内に残っているのは、

 

いろPの言葉とロマンを求める心だけであった。

 

 

 

機動力の差でMr.Mkを一旦振り切った乃依は、リスポーンを果たした雷と合流する。

 

「ねえ雷。

Mr.Mkの動きを止めることって出来る?」

 

乃依が雷に問いかける。

その真剣な表情に雷が答える。

 

「一瞬なら可能なはずだ」

 

「それだけあれば十分」

 

乃依は手にした2張の弓を、迷いなく重ね合わせた。

 

金属同士が噛み合う重厚な駆動音。

 

変形機構が作動し、それは1張の特大の「大弓」へと姿を変えた。

 

火力に劣る乃依が編み出した最後の切り札。

 

Mr.Mkの知らないもう1つの形態。

 

機動力、連射性能を犠牲にし、

 

有効射程と威力を極限まで伸ばした最終形態。

 

これを以てあの忌々しい防御をぶち抜く。

 

これが雷と乃依の作戦である。

 

 

 

作戦を知らぬMr.Mkは、マップ上で雷と乃依が合流したのを確認し、足を止めた。

 

合流地点は竹林エリアの少し手前。

 

開けた空間で1vs2を挑むほど、Mr.Mkの理性は溶けていなかった。

 

(相手は合流した。

でもこっちの防御を突破する手段がないはずや

知らんけど...)

 

頭を冷やしながら、戦況を分析する。

 

(でもな~

こっちも当たれば屠れる火力あるけど、当たらんのよな~)

 

どこかの赤い彗星も言っていた。

 

『当たらなければどうということはない』

 

どれほど火力が高くとも、当たらなければ被害はゼロである。

 

 

 

その思考を遮るように、大地が隆起し、激しい落雷が奔った。

雷の魔術だ。

 

術を行使しながら、雷が肉薄する。

 

鬼の顔が刻まれた大団扇をMr.Mkへと猛然と振り下ろした。

 

Mr.Mkは両腕のビームキャノンでそれを受け止め、

力と力の鍔迫り合いに陥る。

 

「接近すればキャノンは使えんと思うたか!!」

 

Mr.Mkは腰部のビームキャノンを小型の物へと換装。

 

銃口を雷の腹部へ押し付け、ゼロ距離で引き鉄を引いた。

 

雷のHPを完全に削り取る。

 

だが、敵を仕留めた一瞬。

 

集中力が途切れたその隙を、乃依は見逃さなかった。

 

認識の外から、音を置き去りにした一矢が迫る。

 

死角からの頭部狙撃。

 

Mr.Mkは咄嗟にエネルギーシールドを展開したが、無残にも貫かれる。

 

こめかみに突き刺さる衝撃。

 

視界が暗転し、HPがゼロになる直前。

 

Mr.Mkの目に、乃依の姿が焼き付いた。

 

「まじかよ...

アレのさらに奥の形態があったんか...

かっけ~な~」

 

一戦目で見た大弓よりも、さらに巨大で、力強い最終形態。

 

驚愕と、そして抑えきれない技術者としての羨望。

 

Mr.Mkは悔しさを滲ませながら、リスポーンする。

 

その間にもボトムレーンの櫓は、乃依によって占拠されてしまう。

 

 

 

場所はトップレーン。

 

ここでの戦いもまた、激しい一進一退を繰り返していた。

 

悩みと迷いを振り切ったいろPの足取りは、羽が生えたように軽い。

 

彼女はブーメランを二つに分離させると、それを双眸の大剣へと変貌させた。

 

迷いのない、鋭利なラッシュが帝を襲う。

 

さらに、その猛攻に呼応するかのように。

 

かぐやが帝の背後へ回り込み、

巨大なハンマーを力任せに振り落とした。

 

いくら最強の名を欲しいままにする帝と言えど、

このレベルの1vs2を無傷で捌き切ることは叶わなかった。

 

「ほんとに厄介だな!」

 

斬撃を受け流し、ハンマーの衝撃を身のこなしで最小限に逃がしながら、帝は笑っていた。

 

絶対王者として君臨してきた、帝アキラ。

 

王者として挑戦を受けることは、これまで幾度となくあった。

 

だが。

 

挑戦者(チャレンジャー)として、格上の連携に食らいつく勝負は、いつ以来だろうか。

 

勿論、かぐやもいろPも、単独であれば帝にとって余裕の勝利を収める相手だ。

 

技術の差、経験の差。

 

プロの壁はそれほどまでに厚い。

 

しかし。

 

今の二人には、個々の能力を超えた「何か」が宿っていた。

 

一人が攻めれば、もう一人が影のように死角を埋める。

 

言葉を交わさずとも成立する、奇跡のような共鳴。

 

「ほんとに厄介な相手になったよ!

お兄ちゃんとしては嬉しい限りだ!」

 

帝の棍棒が火花を散らす。

 

迷いも、悩みも、過去の確執さえも置いてきた妹。

 

そして、理屈抜きでその隣に立つ少女。

 

二人の絆が、王者の牙城を刻一刻と切り崩していく。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

いろPの2振りの大剣が帝の棍棒を弾き飛ばす。

 

武器を失い、無防備に晒される王者の胸元。

 

「そっこだーー!」

 

その隙にかぐやがハンマーで帝を地面に叩きつける。

 

どおぉぉん! と大地が震える。

 

伏した敵の至近距離で、ゼロ距離からの、

9連装ミサイル一斉発射。

 

爆炎が巻き起こり、最強を誇った帝のアバターは、文字通り消し炭となって霧散した。

 

「やったーーー!

彩葉!私たちで帝を倒したよ!!」

 

絶対王者帝アキラを撃破した。

 

その事実にかぐやは飛び上がり、無邪気に勝利を喜ぶ。

 

「かぐや!喜ぶのはまだ!

まだ残機は2つ残っているから!」

 

ゲームはまだ終わっていない。

 

二人は即座に反転し、トップレーンの要所である櫓を瞬く間に占拠する。

 

目指すは、敵の本陣――天守閣。

 

王者が玉座に戻る前に、この勝負を終わらせる。

 

二人の背中には、もう迷いの影など微塵も残っていなかった。

 

 

 

戦況は、完全なる五分。

 

ボトムレーンから攻め上がる雷と乃依。

 

かぐやチームの天守閣付近で防衛線を張るMr.Mk。

 

トップレーンから攻め上がるかぐやといろP。

 

待ち受けるはリスポーンを果たした帝アキラ。

 

残機の総量も両者同じ。

 

どちらにも勝機は残っている。

 

 

 

かぐやチームの天守閣付近で雷と乃依を待ち構えるMr.Mk。

 

重装アーマーを解除し、光の翼を再展開している。

 

右手にはビームサーベル。

 

そして左手にはパイルシステムが構えられていた。

 

Mr.Mkの視界に、二人の姿が飛び込む。

 

その瞬間。

 

「さっきのリベンジマッチや!!!

受けへんとは言わせへん!!!」

 

その異常な挙動を予測していた雷と乃依が、即座に迎撃態勢に入る。

 

空を覆い尽くす矢の雨。

 

足元から隆起する巨大な土壁。

 

さらに頭上からは、猛烈な勢いで落雷が降り注ぐ。

 

だが、今のMr.Mkは止まらない。

 

紙一重で矢を避け、土壁を蹴り、落雷の隙間を縫って雷へと肉薄する。

 

距離、ゼロ。

 

しかし、彼は手に持った武装を使わなかった。

 

「どっせい!!」

 

かの赤い彗星リスペクトを込めた、渾身の前蹴りを。

 

雷が衝撃で後方へと吹き飛んでいる、わずか数秒の空白。

 

Mr.Mkはその隙を逃さず、今度は乃依へと狙いを定めた。

 

最短距離。最大加速。

 

光の翼を軋ませながら、彼は一気に肉薄する。

 

「さっきのお返しや!

こっちもかっけ~もん見せたる!!」

 

左腕に装備したパイルシステムを、逃げようとする乃依の胸部へ強引に叩きつけた。

 

そして引き金を引く。

 

肉眼では追えぬ速度。

 

それは回避を許さず、乃依の胸部を深々と貫いた。

 

「そんなのってあり~?」

 

乃依のアバターは、突き刺さった杭と共に、データの塵となって消え去る。

 

戦場を揺るがす轟音。

 

そして、物理的な破壊が巻き起こした猛烈な土煙が視界を覆った。

 

「これでしばらくはタイマンやな」

 

パイルシステムから立ち昇る白煙。

 

だが、安堵の暇はない。

 

乃依がリスポーンして戦線に復帰するまでの、わずかな空白。

 

その間に、もう一人の敵――雷を完全に叩ききらなければならない。

 

 

しかし、Mr.Mkは気が付かない。

 

乃依に刺さった杭が爆発する前に消失した違和感に...

 

この違和感こそがパイルシステムを第7の封印指定兵装に認定される原因であることに...

 

 

 

 

黒鬼チームの本陣、天守閣。

 

その門前に、絶対王者・帝アキラが再び立ちふさがっていた。

 

だが、その姿は先ほどまでとは決定的に異なっていた。

 

「...悪いな。こっちも、遊びは終わりだ」

 

帝の両手に握られていたのは、Mr.Mk製の特注棍棒、二振り。

 

先ほどは手数で押し切ることができたかぐやといろP。

 

もうその手には乗らんと帝も手数を増やしてきた。

 

「え~!それずるくな~い?」

 

かぐやが頬を膨らませて抗議する。

 

「これがズルなら、かぐやちゃんのとこのMr.Mkはどうなるの?」

 

帝がこれを突っぱねる。

 

その言葉の裏には、

 

「お前らのところのMr.Mkの方がよっぽどヤバいからなんとかしろ」

 

という、対戦相手としての切実な本音が隠れていた。

 

「確かに!

遠田の方がズルいわ!」

 

かぐやが、あっさりと納得して叫ぶ。

 

哀れMr.Mk。

味方からもズルいといわれる始末。

 

そして戦闘が始まった。

 

右の棍棒で、かぐやが振り下ろした渾身のハンマーを軽やかに受け流す。

 

その流れるような動作のまま、

左手の棍棒でいろPの鋭い大剣のラッシュをすべて相殺してみせた。

 

2人の攻撃が、一人の男に完全に封殺される。

 

そこにあるのは、圧倒的な技術の差。

 

プロとして積み上げてきた、絶望的なまでの経験の差だ。

 

1人で2人を相手にしながら、帝の防御には微塵の揺らぎもない。

 

それでもなお、かぐやといろPは挑み続ける。

 

2人の顔に曇りはない。

 

絶望も、恐怖も、そこには存在しない。

 

ただ「この最強の壁を越えたい」という、純粋な闘志だけが瞳の奥で燃えている。

 

 

 

ドォォォォォォン!!

 

地響きと共に、かぐやチームの天守閣付近から巨大な黒煙が立ち上る。

 

あまりの衝撃に、剣を交えていた三人の動きが一瞬止まった。

 

「...なあ。やっぱり、Mr.Mkってズルくね?」

 

帝の口から、隠しきれない本音が漏れ出す。

 

マップの端から端まで、全プレイヤーの鼓膜を震わせるほどの爆音。

 

もはやゲームの演出の範疇を超えている。

 

「お前、一体何をやらかしたんだ」

 

帝の視線は、遠く離れたボトムレーンの技術屋へ向けられていた。

 

「いやいや! Mr.Mkがやったとは限らないでしょ!」

 

いろPが、反射的に仲間のフォローに回る。

 

健気に、そして必死に。

 

だが、その瞳だけは隠しきれない真実を物語っていた。

 

しかし彼女も

「これ絶対遠田がやったわ」

と確信していた。

 

 

 

そんな三人の視界に、リスポーン地点から復帰した乃依の姿が映り込む。

 

だが、その光景はあまりに異様だった。

 

復帰したばかりの乃依が、自分の胸元を見て首をかしげる。

リスポーンした乃依の胸にはパイルシステムの杭が刺さったままであった。

 

「あれ?なんでまだ刺さってるの?」

 

乃依がその不気味な鋼鉄の塊に手を触れようとした、その瞬間。

 

カチッ、という無機質な作動音。

 

ドォォォォォン!!

 

「えっ……!?」

 

乃依の叫びをかき消し、胸元の杭が猛烈な勢いで爆発した。

 

リスポーン直後の無敵時間が切れた、あまりに精密で残酷なタイミング。

 

爆炎に包まれた乃依のアバターは、反撃の機会すら与えられず、再び光の塵となって霧散した。

 

「「「え~~~~」」」

 

その光景を目の当たりにした帝、かぐや、いろP。

 

戦っていたはずの三人の声が、完璧にシンクロして響き渡った。

 

「...なんか、うちの仲間が。ごめんなさい...」

 

いろPが、深々と頭を下げて咄嗟に謝罪する。

 

先ほどまで、兄を越えるために燃え上がっていた彼女の熱意は、今や完全に冷え切っていた。

 

恥ずかしさと、申し訳なさと、そして「アイツならやりかねない」という諦め。

 

「...いや。...彩葉が謝ることじゃないさ」

 

帝が、二振りの棍棒を力なく下ろした。

最強の王者が、これほどまでに困惑し、戦意を削がれたことは一度としてない。

戦略や技術を超えた「何それ...」という虚脱感が、戦場を支配していく。

 

「遠田~なにやってんの~!」

 

かぐやは笑いながら、ハンマーを地面に置いた。

祭りだ、勝利だ、と盛り上がっていた気分はどこかへ霧散した。

 

 

 

ネタ晴らしをしよう。

 

ここで種明かしをしよう。

 

パイルシステムから放たれる杭は、相手に突き刺さった直後、強烈な急制動をかける仕組みになっている。

 

そして、相手の内部から爆破し、トドメを刺す。

 

本来、それは牛鬼などの巨大NPCモンスターを狩るための、過剰なまでの悪魔の兵器であった。

 

今回起きたのは、ぶっちゃけると位置ずれである。

 

超高速で打ち出された杭が刺さった時点で乃依のHPはゼロになった。

 

だが、杭は仕様通り、乃依の体内に留まろうと急制動をかける。

 

すなわち、

 

超高速移動オブジェクトが、コンマ数秒で完全静止する。

 

この極端な速度差が、計算の限界を超え、深刻なバグを引き起こした。

 

さらに不幸は重なる。

 

バグが発生したその瞬間に、乃依のリスポーン処理が開始されたのだ。

 

その結果、杭の相対座標が「乃依の胸」に固定されたまま、

彼と一緒にリスポーン地点へ転送されてしまった。

 

そして、リスポーン後の無敵時間が切れた、その刹那。

 

乃依の胸に刺さったままの杭が、プログラムの深淵で思い出す。

 

(僕の仕事は、この後、爆発することでした)

 

ドォォォォォン!!

 

かくして、前代未聞の「リスポーン直後爆死」が完成した。

 

それは、開発者であるMr.Mkですら予想だにしない、システム上の大事故だった。

 

おそらく、この件について問いただせば、犯人はこう叫ぶだろう。

 

「俺は悪くねぇ!!」

 

だが、断言する。

間違いなく、お前が悪い。

 

 

 

実況解説席は、かつてない静寂に包まれていた。

 

「これ...どうするの?」

「このまま続けても、公平性とか...大丈夫かな?」

 

乙事照琴と忠犬オタ公は、モニターの前で揃って頭を抱えていた。

 

もはや実況の言葉が出てこない。

 

ゲームバランスの崩壊。

 

システムの隙間を突いた、理不尽すぎる「バグ爆死」。

 

それが運命を賭けた最終戦という大舞台で起きてしまったのだ。

 

そして。

 

「フフフ、本当にメイクは好き勝手してくれるね...」

 

ヤチヨの堪忍袋の緒は、ついに限界を迎えた。

 

その声は極めて穏やかだが、瞳の奥には、すべてを無に帰しかねない暗黒の炎が揺らめている。

 

ヤチヨは、魂が抜けたような顔で隣のオタ公を振り返った。

 

「ヤチヨカップの結果報告は明日に回すね...

集計は予定通りの時間にするから安心して...」

 

「えっ、ヤチヨさん!? どこへ――」

 

止める間もなかった。

 

ヤチヨはそのまま、静かに席を立って去っていった。

 

それは、運営としての責任を放棄したわけではない。

 

これから始まるバグ取りに備えて、一足早く休みに向かったのだ。

 

残されたのは、冷や汗を流すオタ公と、言葉を失った実況席。

 

そして、今なおトップレーンで立ち尽くしている三人。

 

「「「.........」」」

 

まさに、カオス。

 

 

 

「もう戦う気も失せちまったしさ。

ここらで手打ちといかね?」

 

帝が、二振りの棍棒を肩に担ぎ、深いため息をついた。

そこには「絶対王者」としての威圧感など、微塵も残っていない。

ただ、予想外のバグに振り回された、一人のプレイヤーとしての疲労感だけがあった。

 

「それでいいと思う...

本当にうちの遠田がご迷惑をおかけしました...」

 

帝からの提案に、いろPが力なく応じる。

 

彼女は、もう一度深々と頭を下げた。

 

兄を超えたい、最高の勝負をしたい。

 

そんな純粋な熱意は、空中で爆発した杭の火花と共に、どこかへ消え去っていた。

 

「ま、まあ?こんな日もあるよ...

知らんけど」

 

かぐやも投げやりである。

 

両チームのリーダーによる、異例の合意。

 

かくして、ヤチヨカップ決勝・第3戦は「引き分け」という形で幕を閉じた。

 

最終結果。

 

1勝1敗1分。

 

全チームが死力を尽くし、最後の最後で「バグ」というMr.Mkの悪戯によって、勝者不在のまま終焉を迎えた。

 

大会史上、最も熱く、そして最も何とも言えない終わり方。

 

天守閣の門前で、かつての仇敵たちが並んで夕暮れの空を見上げる。

 

その背中には、共通の災厄(Mr.Mk)を乗り越えた者同士の、不思議な絆が生まれていた。

 

 

 

そんな翌日、

 

会場には、ヤチヨカップの結果発表を待つプレイヤーたちが集まっていた。

 

かぐやといろPは、2人並んでその瞬間を待つ。

 

直前の話では遠田も一緒に結果を見るはずだった。

 

しかし、どこを探しても彼の姿はない。

 

昨日の大騒動の主犯が不在のまま、ついに発表の時間を迎える。

 

発表会場の中央に鳥居が出現する。

 

「ヤオヨロ~

神々のみんな~昨日はごめんね~

これからヤチヨカップの優勝者を発表するよ~」

 

鳥居の頂上で、ヤチヨが満面の笑みを浮かべて手を振っている。

 

昨日の限界寸前だった表情はどこへやら、今は実にご機嫌な様子だ。

 

そして鳥居に簀巻きで吊るされているMr.Mk。

 

彼は鳥居の横木からぶら下がり、芋虫のようにジタバタと暴れている。

 

口にまで布を噛まされているのか、言葉にならない悲鳴が会場に虚しく響いた。

 

「「あ...」」

 

かぐやといろPが、同時に声を漏らす。

 

予想はしていた。

 

覚悟もしていた。

 

だが、まさか公式の発表会場で、神の生贄のような姿で晒されるとは。

 

「犯人、確保済みだったね...」

「...うん。ある意味、いつも通りだね」

 

主犯不在ではなかった。

 

彼は、最も目立つ場所で、最も惨めな形で「出席」させられていたのだ。

 

そんな姿に観客の間で笑いが広がる。

 

「遠田ァ!いつかやるとおもってたぞー!

 

あちこちから容赦ない野次が飛ぶ。

 

Mr.Mkのファンにとって、この簀巻きの光景は、最高に愉快なエンターテインメントだった。

 

 

 

「ヤッチョとコラボる人を発表!」

 

ヤチヨが元気に宣言する。

 

「期間中に最もファンを獲得したのは~?」

 

空中に巨大なディスプレイが出現した。

 

華やかなアニメーションと共に、集計結果がカウントアップされていく。

 

そして、最高潮に達した数値が、一つの名前を弾き出した。

 

「ヤチヨカップの優勝者は!

『かぐやいろP』!!

めでたしや~!」

 

「えっ!昨日勝てなかったのに!?

えっえ...やったやった~!」

 

かぐやが、爆発したように拳を天に突き上げる。

 

純粋な喜び。

 

勝利の確信がなかったからこそ、その叫びには心からの熱がこもっていた。

 

「えっ?

えっえぇえ~!」

 

一方、いろPこと彩葉は、ただただ困惑していた。

 

優勝できるなんて、微塵も思っていなかった。

 

昨日の自分は、ただ必死だっただけ。

 

それなのに。

 

「彩葉~!

彩葉と遠田のおかげだよ!!」

 

かぐやが、勢いよく彩葉に飛びつき、彩葉の体を力一杯抱きしめる。

 

「いや、これはかぐやがさ...」

 

彩葉は、顔を赤くして謙遜する。

 

自分はただ隣にいただけだ。

 

本当の主役は、かぐやなのだと。

 

「いろP昨日すごかったよね~」

「エイムの正確性まじすごかった」

「えっかぐやの曲も作ってんの?マジ?」

 

しかし、外野が許さない。

 

「あ、うぅ...」

 

止まらない称賛の嵐に、彩葉はたまらずかぐやの背中へと隠れる。

 

だが、そんな彼女を逃がすまいと、会場の熱狂はさらに加速した。

 

「かぐや!いろP!かぐや!いろP!」

 

と、観客たちのコールが巻き起こる。

 

地響きのようなコールが巻き起こる。

 

それは、絶対王者すらも認めた二人の絆に対する、最高級の賛辞だった。

 

鳥居に吊るされたMr.Mkも、その光景を見て、満足そうに「もがもが」と鼻を鳴らしていた。

 

締まらないから何もするな遠田。

 

 

 

そんな2人の元に黒鬼の3人がやってくる。

 

「かぐやちゃん、彩葉。

おめでとう

昨日のも含めて俺たちの負けだよ」

 

帝が、晴れやかな顔で負けを認める。

 

王者の余裕、そして潔さ。

 

彼はそのまま、戦いの前に交わした「ある約束」を切り出した。

 

「で...

お願いってあったりする?」

 

勝てば何でも願いを聞く。

 

宣戦布告時に告げたその誓いを、彼は律儀に果たしに来たのだ。

 

正々堂々とした、実にかっこいい引き際である。

 

本当に、どこかの鳥居に吊るされている男に爪の垢を飲ませてやりたい。

 

「...いいの?

引っ越したくて、保証人になってもらえないかと...」

 

「なんだ、そんなことか。...いっそ、家ごと買わなくていいの?」

 

「出たよ成金発言! ...結構です!」

 

帝の豪快すぎる提案に、彩葉が即座にツッコミを入れる。

 

数千万、あるいは億の買い物を「ついで」のように口にする兄。

 

まさに成金の極みである。

 

だが、彩葉はもう、独りぼっちで頑張る少女ではなかった。

 

他者に頼る勇気は持った。

 

けれど、甘えすぎて自分の足がおろそかになるのは良くないと、彼女は知っている。

 

「そっか

お安い御用だ」

 

帝は満足そうに微笑むと、待機しているファンの群れへと戻っていった。

 

保証人の約束。

 

それは、帝から彩葉へ贈られた、最も「対等な」信頼の証でもあった。

 

 

 

そんな中、雷だけが残る。

 

「すまない。

少し質問がある。

Mr.Mkには姉がいたりするか?」

 

雷の脳裏には、ある人物の影が浮かんでいた。

 

同じ「遠田」という姓。

 

そして、しゃべくり漫才にこだわりがある癖の強さ。

 

大学で知り合ったある女の姿だ。

 

「遠田の姉ですか?

前に居るって聞いた気がするけど...」

 

彩葉が記憶を頼りに返す。

 

「そうか。

時間を取らせた。

ありがとう」

 

そう言って、雷もファンのところへ向かう。

 

「なんだったのかな~?」

 

かぐやのそんな疑問に答えを与えるものはいない。

 

最初から最後まで遠田に振り回されっぱなしの結果発表が終わりを告げた。

 

 

 

 

「てか彩葉~

ほんとに引っ越し?」

 

かぐやが、期待に目を輝かせながら身を乗り出す。

 

その声には、隠しきれない喜びが滲み出ていた。

 

「だってかぐや

どんどん物ふやすでしょ!

しかも遠田のお母さんに『引っ越す』って宣言しちゃってたし...」

 

彩葉が不服そうに答える。

 

 

 

 

「2人とも~!」

 

そんな声と共に空から落ちてくるヤチヨとFUSHI。

 

ヤチヨの右手には簀巻きのままの遠田がいる。

 

「彩葉!かぐや!よく頑張った!」

 

ヤチヨが、満面の笑みで二人を称賛する。

 

その言葉は、単なる運営としての労いを超え、二人の成長を心から喜ぶ親愛に満ちていた。

 

「...あの。俺は?」

 

 

名前が上がらない遠田は自分も頑張ったでとアピールする。

だが、ヤチヨの視線は氷のように冷たかった。

 

「メイク君は昨日何しでかしてくれたのか忘れちゃったのかな~?」

 

「...すんませんでした」

 

遠田の努力は昨日のやらかしで帳消しのようだ。

 

 

 

「さて。

ここからはクライマックスに向けて

ハードな展開が待っているかも

このお話を最後まで見届けてね」

 

ヤチヨの真剣な声。

 

真剣な、どこか祈るような響き。

 

それは、これから彼女たちに待ち受ける運命の過酷さを、あらかじめ知っているかのような意味深な発言だった。

 

「それってヤチヨのバグ取り配信のこと?」

 

しかし、かぐやは、そこまで考えていないようだ。

 

「違うよ!!

違うからね!!!」

 

ヤチヨの必死な訂正に3人は笑う。

 

そうして、長い長いヤチヨカップは終わりを迎えた。

 

 

 

余談であるが、

 

Mr.Mkのヤチヨカップでの順位は黒鬼についで3位であった。

 

かぐやの配信に巻き込まれ続けたことが原因である。

 

 

 

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