モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方   作:超かぐや姫!脳焼きの民

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ライブシーンなので初見です。

ライブの描写めっちゃ難しかった...

いつも感想、誤字報告ありがとうございます。

感想の数を見ると、
遠田が明確にやらかした回が多くて笑いましたw
何やってんだ遠田ァ!


彩葉限界オタクの末路

 

 

 

 

2030年8月29日。

 

明日に迫ったヤチヨとのコラボライブ。

 

そのプレッシャーを散らすように、彩葉は自室でスマホゲームに興じていた。

 

そこへ、遠慮のない足音が近づいてくる。

 

「彩葉!

これ、何?」

 

「ちょっと、勝手に見ないでよ」

 

かぐやが突き出したノートPCの画面を覗き込み、

彩葉の手が止まる。

 

そこに表示されていたのは、かつて今は亡き父と共に紡ぎ、

結局形にできなかった音の断片。

 

『タイトル未定(彩葉と共作).wav』

 

「なんか途中までなんだ。

続きは?」

 

かぐやはこの曲の続きが聞きたいらしい。

 

しかし。

 

「ない...続きは...もう作れない」

 

父との思い出を閉じ込めたようなそのファイル。

 

続きを望むかぐやに、彩葉は寂しげな微笑みで答え、静かにPCを閉じた。

 

「いいのいいの。

明日は本番だし、もう寝よう」

 

自分に言い聞かせるようにそう呟き、布団に入る彩葉。

 

「ライブの曲クソむじ~んだが。

ヤチヨの奴AIだからって...」

 

かぐやが愚痴をこぼす。

 

隣で愚痴をこぼすかぐやの声を聞きながら、

彩葉は暗闇の中でこれまでの軌跡を辿っていた。

 

そんなかぐやを見ていると、彩葉の脳裏にこれまでのことが思い出される。

 

「かぐやが来てからいろいろありすぎて目回しそ...」

 

かぐやと出会ってからのことを思い出す彩葉。

 

ゲーミング電柱から出てくる赤ん坊。

 

クラスメイトに誘拐犯と勘違いされそうになり、

そのまま始まった子育て生活。

 

急速に成長したかぐやに翻弄される毎日。

 

遠田()とかぐやに、心の底から救われたあの日。

 

兄妹喧嘩で前に進むことができた日。

 

非常にしんどく、大変で、楽しく、充実した日々であった。

 

そしてそんな日々が明日も、明後日も訪れる。

 

そう信じていた。

 

 

 

「彩葉。明日の予定大丈夫だった?」

 

かぐやは心配そうに彩葉に問う。

 

明日は模試の開催日。

 

だが、彩葉は迷うことなく模試に出ないことを決めていた。

 

彼女の学力をもってすれば、模試を一回すっぽかしたところで、

その後の進路に影響など微塵も出ないのである。

 

それは慢心ではなく、積み上げてきた実力に裏打ちされた冷徹な判断だった。

 

ちなみに、この家のもう一人の同居人――

 

遠田もまた、当然のように明日の模試はすっぽかす予定である。

 

もっとも、彼の場合は「戦略的な欠席」などという高尚な理由ではない。

 

単に模試があることそのものを綺麗さっぱり忘れているだけなのだ。

 

 

 

部屋の明かりが消える。

 

「フヘヘ...」

 

なぜかかぐやが布団に潜り込んでいる。

 

「うぅ...ったく

寝室分けた意味ないっつ~の...

フッ」

 

そんな風に口では言いながら、彩葉の口角は緩み、

表情は満更でも無さそうである。

 

そして夜が明ける。

 

 

 

「いや、俺部屋からログインするって。

わざわざ一緒にいる必要ある??」

 

ライブ開始前の静寂を破ったのは、遠田の至極まっとうな抗議だった。

 

防音処理が施された、いつもの配信部屋。

 

そこに彩葉、かぐや、そして当然のように連行された遠田がいる。

 

いつもの如く、かぐやに拉致られた遠田。

 

今回の主役はあくまでかぐやと彩葉だ。

 

観客である自分は、自分の部屋からツクヨミにログインすれば済む話である。

 

そう何度も言い聞かせたのだが、かぐやは一向に耳を傾けない。

 

「いいから匠はここで聞いてて! 特等席だから!」

 

かぐやは自信満々に言い切る。

 

ヤチヨカップを共に戦い抜いた戦友であり、「家族」である遠田()が、

目の届かない場所にいることなどあり得ないのだ。

 

遠田は藁にもすがる思いで、彩葉の方へと視線を向けた。

 

彼女ならこの状況の非効率さを理解してくれるはずだ、と。

 

「いいんじゃない?

匠のおかげってとこもあるし」

 

だが、返ってきたのは共犯者のような微笑みだった。

 

「彩葉さん!!」

 

絶望に染まる遠田の叫び。

 

結局、いつものように2人の女性陣に押し切られる形で、

彼は配信部屋の隅っこでその「特等席」に座らされることになった。

 

しんどくて、大変で。

 

けれど、この騒がしさが何よりも心地いい。

 

いよいよ始まる運命のライブを前に、3人の間にはいつも通りの、

けれど今日だけの特別な空気が流れていた。

 

 

 

仮想空間ツクヨミ。

 

ライブ会場の控室。

 

そこに彩葉とかぐやはいた。

 

「ダラララララ...カニ!

ダラララララ...うさぎ!」

 

彩葉の目の前で、かぐやが高速でハンドサインを繰り出す。

 

「はいはい

かわいいかわいい」

 

緊張している彩葉は適当にあしらう。

 

「練習しすぎてお腹すいた~

終ったらパンケーキ食べよ?」

 

かぐやは既に、ライブを成功させた後の甘いご褒美に思考を飛ばす。

 

「あ...私は緊張でごはん食べれんかったよ...」

 

彩葉は食事が喉を通らないほど緊張している。

 

「ダラララララ...どじょう!」

 

そんな会話をする2人の元にヤチヨがやってくる。

 

「あっ!」

 

ヤチヨの大ファンである彩葉は、驚きのあまり、

咄嗟に立ち上がる。

 

「おまたせ~

パンケーキいいな~

ヤチヨも食べたいな~」

 

先ほどの会話を聞いていたのか、空中でくるくる回転しながら願望を述べる。

 

「一緒に食べる?」

 

かぐやはヤチヨに誘いかける。

 

しかし。

 

「あ...よよよ

ヤチヨは電子の海の歌姫なので、

食べられないのです」

 

ヤチヨはデフォルメされた涙を流しながら答える。

 

「え~それ何の拷問?

かぐやだったら絶対ムリ!」

 

かぐやはヤチヨに対して同情する。

 

美味しいものを食べ、笑い、騒ぐ。

 

そんな当たり前の日常を積み重ねてきたかぐやにとって、

食事という概念がないAIの生活はあまりに過酷なものに思えた。

 

 

 

そしてライブ開始の時間が迫る。

 

「いざ行こうか」

 

そんなヤチヨの発言と共に、足場は上昇していく。

 

そしてライブ会場へ。

 

「まいどヒリヒリなんだよね~

この雰囲気」

 

ヤチヨは語る。

 

そんなヤチヨに彩葉は以前からの疑問を投げかける。

 

「ヤチヨのデビュー曲って...

もう歌わないの?」

 

ヤチヨのデビュー曲であるRemember。

 

その曲に彩葉は何度も助けられた。

 

「あれはもう届いたからお役目完了~」

 

ヤチヨは悪戯っぽく、けれどどこか慈愛に満ちた微笑みを浮かべて答える。

 

その言葉の意味を深く考える暇もなく、会場の照明が弾けた。

 

ついに、運命のライブの幕が上がる。

 

 

 

「ほら時間だよ!」

 

ヤチヨの一声で、衣装と髪型が瞬時に変化する。

 

黒いトップスに白いスカート。

 

髪型はサイドで纏められた。

 

そして、今まで彩葉のアバターに生えていた狐の耳としっぽ、かぐやに生えていたウサギの耳が消える。

 

余計な装飾を削ぎ落とし、ただ一人の「人間」としての姿でステージに立つ。

 

そして、会場が目も眩むような光でライトアップされる。

 

さあ、ライブの開始だ。

 

 

 

「ヤオヨロ―!

みんな!生きるのどうですか~?」

 

ヤチヨが観客に呼びかける。

 

「いいことあった?

それとも泣いちゃいそう?

よしよし全部大丈夫」

 

慈しむようなその言葉は、観客一人ひとりに降り注ぐ。

 

電子の海の歌姫は、その場にいる数万人の孤独を、一瞬で溶かしていく。

 

「どんなに孤独な道のりでも

楽しかったな~って記憶が足元を照らすよ」

 

「この瞬間を

忘れられない思い出にしたいから...」

 

遠田()と出会い、かぐやと出会い、楽しい思い出がたくさんできた彩葉。

 

そんな彼女は、ヤチヨが言った「記憶の光」が、

今の自分たちを形作っていることを誰よりも理解していた。

 

「どうか一緒に踊ってくれる?」

 

ヤチヨの誘いに、会場全体が地鳴りのような歓声で応える。

 

同時に、ステージに爆発的なリズムが刻み込まれた。

 

 

 

そして演奏が始まる。

 

一曲目は「ワールドイズマイン」

そのRemix曲である。

 

ヤチヨが、世界を支配するかのような高らかな歌声を響かせ始める。

 

普段に比べてとても楽しそうな声である。

 

その隣で、かぐやは大舞台の熱狂に瞳を輝かせ、興奮を隠しきれない。

 

練習での愚痴も、身体の重さも、すべてがこの光の海に溶けていく。

 

目の前の何万というペンライトの光景に、ただ純粋な高揚感を感じていた。

 

「世界で一番おひめさま...」

 

歌い出しの瞬間、会場のボルテージは最高潮に達した。

 

 

 

ステージの上の熱狂とは裏腹に、

観客席の一角には奇妙な「静止画」が出来上がっていた。

 

真実と芦花、そしてばったり出会ってしまったがゆえに拉致られた遠田である。

 

だが、そのうちの二名――

 

芦花と遠田は、もはやライブを楽しむ段階にすら至っていなかった。

 

完全に脳の機能が停止し、魂がどこか遠くへログアウトしている。

 

原因は、ステージ上でスポットライトを浴びる彩葉の姿だ。

 

いつもの彼女からは想像もつかない、サイドでまとめられた髪型と、

凛とした黒のトップス、そして清楚かつ華やかな白いスカート。

 

その破壊力に、2人の心臓は文字通り「フリーズ」してしまったのである。

 

「芦花?遠田?

ライブ始まっちゃったよ!

早く戻ってきて~!」

 

真実が必死になって、石像のように固まった二人の肩を激しく揺らす。

 

本日の苦労枠である。

 

幸いだったのは、防音室の椅子に深く腰掛けた状態でログインしていた遠田だ。

 

現実の身体がどれほど脱力しようとも、座っていたおかげで転倒することだけは免れていた。

 

 

 

ステージ上では、数万人の観客が目撃しているとは思えないほど、

「身内感」あふれるドタバタが繰り広げられていた。

 

曲の合間、ヤチヨがいたずらっぽく彩葉の右腕にぴたっと密着する。

 

憧れの歌姫からのゼロ距離攻撃に、彩葉は一瞬で「限界」を迎え、顔を真っ赤にしてフリーズしかける。

 

「それ私の~返して~」

 

そんな二人の様子を見て、嫉妬に駆られたかぐやが参戦。

 

彩葉の左腕を掴んで強引に引き剥がそうとする。

 

客観的に見れば、別に彩葉はかぐやの所有物でも何でもないのだが、

今の彼女にそんな理屈は通用しない。

 

そんな、ライブ中には見えない不思議な光景。

 

そして、曲はサビのラスト、最大の決定打へと向かう。

 

これまで演奏と痴話喧嘩に集中し、余裕のなかった彩葉が、ふと客席に視線を投げた。

 

「ヘイベイビー」

 

至近距離で放たれた、魂を射抜くようなキラーフレーズ。

 

その一瞬で、消し炭になるほどの大ダメージを受けた者が二人いた。

 

先ほど真実の必死の蘇生作業によって、

ようやく息を吹き返したばかりの芦花と遠田である。

 

「あ......」

「......(沈没)」

 

一撃。

 

あまりにも鮮やかなノックアウトだった。

 

2人は白目を剥いて再度地面に沈み込み、再起動の目処は完全に立たなくなった。

 

遠田に至っては強制ログアウトが実行された。

 

椅子から落下してスマコンの安全機能が作動したのである。

 

「ちょっと! また!? もういい加減にしてよ二人ともー!」

 

真実の叫びが、爆音のライブ会場に虚しく消えていく。

 

本日の苦労枠、真実の前途は多難であった。

 

 

 

そして、新曲が始まる。

 

このライブのために、そして彼女たちのために作られた「かぐや姫」の曲。

 

「EX-Otogibanashi」

 

先ほどのドタバタとした空気は一瞬で霧散し、会場は息を呑むような静寂と、

それに続く圧倒的な旋律に包まれる。

 

ちっとも望んでいない結末。

 

それが運命だからと、

 

あらかじめ決められたプログラムだからと、

 

ただ受け入れるのか。

 

いいや、違う。

 

たった一度きりの人生。

 

たった一度きりの、この眩しい今。

 

いつか訪れるかもしれない「終わり」を恐れるのではなく、

そんな今を忘れず、確かに私たちはここで生きている。

 

激しいリズムの中に、どこか胸を締め付けるような叙情的なメロディが混ざり合う。

 

それは、いつか必ず訪れる別れを予感しながらも、もう一度再会することを強く願う、

 

明るくも悲しい、祈りのような曲だった。

 

 

 

ライブが終わる。

 

観客席から声援が飛び交う。

 

とてもいいライブだった。

 

誰もがそう語るだろう。

 

仮想空間「ツクヨミ」の空には、

まだ歌声の余韻がキラキラと光の粒子になって舞っている。

 

「真実さん...

すまんねんけど...

ライブ中の記憶がないねん...

何があったん?」

 

強制ログアウトから帰還した遠田の情けない発言。

 

「ごめん真実...

私もライブ中の記憶がない...」

 

魂が帰還した芦花も告げる。

 

友人の、そして居候たちの晴れ舞台を、

揃いも揃って意識不明で過ごした大馬鹿者たち。

 

真実は、無言で二人を交互に見つめた。

 

二人がフリーズしている間、自分がどれほど必死に肩を揺らし、

周囲の視線に耐えながら「苦労枠」として奮闘したか。

 

真実の冷ややかなジト目が、二人の罪悪感をこれでもかと突き刺す。

 

「彩葉やかぐやちゃんに何言われてもしらないよ~」

 

 

 

そんな悲惨な観客席の事情をまだ知らない彩葉とかぐや。

 

彼女たちはツクヨミでのライブで精いっぱいだったため、

背後で起きた珍事件を知らない。

 

「フフッ

め~ちゃ楽しかった!」

 

かぐやのテンションは既に限界を超えていた。

 

ライブの成功と、数万人の熱狂。その余韻に当てられた彼女は、

今、超超ハイテンションの真っ只中にいる。

 

その勢いに任せて、かぐやの口からとんでもない言葉が飛び出した。

 

「彩葉、匠

好き」

 

「わっ私?」

 

あまりに突然の、そしてストレートすぎる告白に、彩葉は一瞬でテンパる。

 

かぐやの言う「好き」が、家族としての親愛なのか、友人としての友愛なのか、

それとももっと別の何かなのか。今の彩葉にはその区別をつける余裕などない。

 

しかし、かぐやにとっては理屈ではなかった。

 

この最高の瞬間に、この溢れる気持ちをどうしても伝えたいと思ったのだ。

 

「あ~もう。

彩葉と匠と結婚しようかな~」

 

「あんた結婚の意味知ってんの?

日本じゃ重婚はできないよ...」

 

続けて放たれた特大の爆弾発言。

 

彩葉は顔を火照らせながら、

精一杯の照れ隠しで常識的なツッコミを返すのがやっとだった。

 

「ダメ?」

 

かぐやが小首を傾げて覗き込んでくる。その無邪気な瞳に、彩葉の動揺は加速する。

 

「まあ、生活費折半してくれるなら

一緒にいるのはいいけどさ...」

 

「えっほんとっ?

それって今と変わんないね」

 

許可を得られたと思って喜んだかぐやだったが、

すぐにその条件が自分たちの「今の生活」そのものであることに気づく。

 

「じゃあ、今のままでいいね!」

 

かぐやは本当に幸せそうに笑った。

 

 

 

そんな発言の直後。

 

仮想空間「ツクヨミ」の夜空に、異変が走る。

 

輝いていた満月の周囲に、どろりとした不気味な黒い雲が急速に集まりだした。

 

ライブの熱狂を世界中に届けていた配信映像が、唐突に乱れる。

 

映し出されたのはステージの上の三人ではなく、

現実の夜空に浮かぶ、冷たく冴えわたる「月」そのものだった。

 

異変は仮想空間だけにとどまらなかった。

 

街中のスマートフォン、ビルの外壁を埋め尽くす大型ディスプレイ。

 

そのすべてが何者かにジャックされたかのように、一斉に同じ「月」を映し出す。

 

そして、スマートグラスを装着している人々の視界には、さらに異常な光景が混入し始めた。

 

雑踏の中に、あるいはビルの屋上に。

 

真っ白な体を持った、謎の「ナニカ」が音もなく立っている。

 

人間離れした、滑らかで物質感の希薄な真っ白な胴体。

 

しかし最も異様なのは、その首から上だった。

 

本来なら頭部があるべき場所には、古びた、

けれどどこか神聖な気配を纏った「灯篭」が、そのまま乗っかっているのだ。

 

 

 

ツクヨミ内ではさらなる異変が起きる。

 

会場の外でライブを見ていた観客のアバターが、そのナニカに変貌する。

 

ナニカが空へ飛び、ライブ会場、

 

その中にいるかぐやに迫る。

 

 

 

「なんやこの感覚?」

 

唐突に、遠田が声を絞り出した。

 

隣にいる真実と芦花が、怪訝そうに周りを見渡す。

 

2人の目には、依然として「熱狂の余韻」に包まれたいつものツクヨミしか映っていない。

 

だが、遠田の視界もまた、彼女たちと同じ「正常」な風景のままだった。

 

不気味な灯篭の群れも、空を埋め尽くす異変も、彼の目には見えていない。

 

しかし、遠田の本能が警笛をならす。

 

「このままだと後悔するぞ」と。

 

迷いはなかった。

 

遠田は虚空を掴むようにして、右手に愛用のビームライフルを展開する。

 

エンジニアとしての冷静さをかなぐり捨て、

目に見えぬ「何か」の気配に向けて、彼はトリガーに指をかけた。

 

 

 

周囲を死に物狂いで警戒していた遠田。

 

そんな遠田でも、かぐやの背後から迫るナニカには反応できなかった。

 

ナニカがかぐやの腕を掴む。

 

「――っ!?」

 

掴まれた瞬間、かぐやの瞳から鮮やかな意志の光がふっと消え、

深い霧に包まれたような虚ろな色に変わる。

 

糸の切れた人形のように、彼女の体がその場に崩れ落ちた。

 

「かぐや!?」

 

咄嗟に彩葉がその体を抱き留め、床に膝をつく。

 

彩葉が周囲を見渡すと、灯篭頭のナニカに包囲されている。

 

ナニカが一歩踏み出すその瞬間。

 

上空から、無数の閃光が雨のように降り注いだ。

 

ビームライフルでは射程と手数が足りない。

 

そう瞬時に判断した遠田が、空間を制圧するために展開した、ビット兵器だ。

 

ビームによって貫かれたナニカは、デジタルな火花ではなく、

粘り気のある黒い血のような液体を撒き散らして次々と倒れ伏した。

 

「かぐやから離れろ!」

 

彩葉もまた、ブーメランを投擲する。

 

次から次へとやってくるナニカ。

 

遠田のビットと彩葉のブーメランにより迎撃するが数が減る様子はない。

 

「なんなの、こいつら...っ!」

 

冷や汗が頬を伝い、彩葉の呼吸が荒くなる。

 

その目の前にいた一体が、突如として不可視の衝撃に弾き飛ばされた。

 

「おいたはダメだよ~」

 

冷めきった、けれど絶対的な拒絶を孕んだ声。

 

そこには、先ほどまでのライブの余韻を微塵も感じさせない、

冷徹な管理者としてのヤチヨが立っていた。

 

そんなヤチヨの姿を認識したナニカは

 

「モウシワケアリマセン」

 

と、片言の日本語で返答。

 

そして去って行く。

 

 

 

「今のはいったい?

何が起こってしまうんだ?

続報を待て!」

 

ヤチヨは、何事もなかったかのように観客席へ向かって茶目っ気たっぷりにポーズを決めた。

 

ナニカたちの襲撃。

 

黒い血を流し、かぐやの意識を奪おうとしたあの異様な光景を、

彼女は一瞬で「ライブの演出(ギミック)」へと塗り替えてみせたのだ。

 

「みんな~!

今日は本当にありがと~!」

 

ヤチヨは観客に手を振り、ライブの幕を閉じる。

 

降り注ぐ拍手と歓声。

 

観客たちは、今見た恐怖が巧妙に仕組まれた「次章への伏線」だと信じ込み、

興奮を隠せない様子で手を振り返している。

 

ライブの幕が、華やかに、けれどどこか空虚に閉じられた。

 

ステージの照明が落ち、完全なプライベート空間になった瞬間、

彩葉が震える声でヤチヨに詰め寄った。

 

「ヤチヨ、今の、一体...」

 

腕の中には、まだ焦点の合わない瞳でぐったりとしているかぐやがいる。

 

先ほどまで「好き」だと、「結婚しよう」とはしゃいでいた彼女の面影はどこにもない。

 

「う~ん。

バグじゃなさそうだし、

やんちゃっ子のいたずらかにゃ~?

調べとくよ」

 

ヤチヨは首をかしげ、いつものトーンで答える。

 

 

ツクヨミから2人が帰還すると、防音室で遠田が待っていた。

 

「かぐや!彩葉!

大丈夫か?」

 

先ほどの一連の流れを目撃していた遠田が駆け寄ってくる。

 

「私は平気。

ただ、かぐやが...」

 

彩葉は、隣に立つかぐやを不安げに見つめる。

あの、虚ろな瞳。魂を吸い取られたような、石像のような姿。それが脳裏に焼き付いて離れない。

 

「私は大丈夫!」

 

だが、かぐやは弾けるような声でそう言った。

 

つい数分前まで意識を失っていたとは思えないほど、

いつもの、天真爛漫で少し騒がしい「かぐや」がそこにいた。

 

「匠、そんなに心配しなくても平気だよ! ほら、ピンピンしてるでしょ?」

 

かぐやは遠田の前でくるりと一回転して見せる。

その笑顔は、ライブの時と同じ、一点の曇りもないものだった。

 

「...わかった。

でもなんかあったら言ってな」

 

遠田は、激しい頭痛に耐えながら、絞り出すようにそう言った。

 

こめかみを指で強く押さえ込む。

 

普段は制御にリソースを食いすぎるため封印しているビット兵器。

 

それを未知の相手に使用した代償として、彼の脳を内側から焼き切るような痛みとなって襲っていた。

 

「いっぺん風呂入ってき。

疲れたやろ」

 

遠田は、努めて穏やかな声で二人を促した。

 

今は、限界まで魂を削って歌い上げた彼女たちを、休ませるほうが先決だった。

 

「...うん。わかった。かぐや、行こう?」

 

彩葉にかぐやが連れられるようにして、パタパタと軽い足音が遠ざかっていく。

 

脱衣所の扉が閉まる音が響き、リビングには完全な静寂が戻った。

 

その瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、遠田はソファになだれ込んだ。

 

「...っ、ぐ、あ...」

 

視界がチカチカと明滅する。

 

脳内を直接、熱い鉄串でかき回されているような感覚。

 

自身の限界ギリギリの数のビットの運用。

 

通常、個人用のスマコンで扱っていいリソースの限界を、

彼はあの一瞬で優に超えていた。

 

 

 

遠田は震える手で壁をつたい、無理やり立ち上がった。

 

足元がおぼつかないままベランダへ出ると、

夜の冷たい空気が、オーバーヒート寸前の脳をわずかに鎮めてくれる。

 

眼下に広がる街の灯りは、いつもと変わらず穏やかだ。

 

数分前に世界中のディスプレイをジャックした「月」や、

AR視界を埋め尽くした「灯篭のナニカ」の騒ぎなど、

まるで悪い夢だったかのように静まり返っている。

 

遠田は手すりに身を乗り出し、熱を持った頭を夜風にさらした。

 

「...アレの挙動的に、狙いはかぐややった。

月からのお迎えとでもいうんか...」

 

独り言のように漏らしたその言葉は、誰に届くこともなく夜風に流されて消える。

 

 

 

「匠?大丈夫?」

 

風呂から上がってきた彩葉が、

タオルで髪を拭きながらベランダの遠田へと声をかける。

 

その声には、隠しきれない不安が滲んでいた。

 

かつて、遠田が冗談めかして言っていたことを、彩葉は思い出していた。

 

「(ビットは脳への負担がデカすぎて、俺にはとても使えんのよな~)」

 

そう言って笑っていた彼が、あの瞬間、迷わずその禁じ手を使った。

 

それがどれほど無茶なことだったか、彩葉には痛いほど伝わっていた。

 

「大丈夫...

って言いたいとこやけど...

頭ズキズキするわ」

 

遠田は手すりから体を離し、自嘲気味に、不甲斐なさそうに笑った。

 

夜風を浴びても、脳の芯に残る熱は引いてくれない。

 

むしろ、緊張が解けたことで、限界を超えたツケが濁流のように押し寄せてきていた。

 

「すまん。

ちょっと脳みそが限界やから寝るわ」

 

これ以上、まともな思考を維持することすら難しい。

 

遠田はふらつく足取りのまま、心配そうに見つめる彩葉の横を通り過ぎ、自室へと戻っていく。

 

最高のライブは最後に最大の謎を残して幕を閉じた。

 

 




楽曲コード:156-1821-8
「ワールドイズマイン」

楽曲コード:N01701831
「Ex-Otogibanashi」

を使用しています。
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