モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方   作:超かぐや姫!脳焼きの民

20 / 47
超かぐや姫!を見返していてガチ泣きしたので初見です。

花火のシーンまじで涙止まらん...

いつも感想、誤字報告ありがとうございます。
めっちゃ助かります。


夏祭り、そして日常の期限

コラボライブの翌日。

 

「これはいったい?」

 

夏期講習に向かうため、制服に着替えて部屋を出てきた彩葉が絶句する。

 

キッチンの中心で、かぐやがその細い腕に似合わない巨大な魚――

高級魚の代名詞、シロアマダイと格闘していたからだ。

 

「シロアマダイ!

炭で焼きたいんだけど、ダメ~?」

 

かぐやは彩葉におねだりをする。

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

彩葉は食い気味に即答した。

 

室内での炭火焼き。それは煙式の火災警報器の誤作動を招くだけでなく、

一酸化炭素中毒という命の危険すら孕んでいる。

 

この狭いマンションが、一瞬で事故物件に早変わりだ。

 

「私、もう出るね」

 

「いてら~」

 

そんなやり取りの後、彩葉は学校へ向かう。

 

遠田?

 

奴は昨日の頭痛が収まっていないからサボりである。

 

ゲームのし過ぎで頭が痛い?そんな理由のサボりが許されるものか。

 

早く夏期講習に向かうのだ。遠田。

 

 

 

彩葉が玄関のドアを閉め、足音が遠ざかっていく。

 

賑やかだった部屋が急に静まり返り、

かぐやがシロアマダイをどう料理しようかと考え始めた。

 

その時だった。

 

そんな彼女のスマコンが強制的にARモードで起動する。

 

かぐやの視界には、昨夜の灯篭頭のナニカが3体。

 

1体は窓から外を眺めている。

 

1体はテレビの前を歩き回っている。

 

最後の1体はソファーに座り、かぐやに頭を下げる。

 

お前ら意外とくつろいでんな。

 

 

 

仮想空間ツクヨミのいつもの溜まり場。

 

夏期講習の疲れもどこかへ飛んでいくような、

女子三人だけの賑やかな放課後が続いていた。

 

「昨日のライブめっちゃ良かった!

彩葉の演奏感動して泣いた~!」

 

真実が身を乗り出して、興奮気味に彩葉を褒めちぎる。

 

芦花は、「うんうん」と相槌を打っている。

 

「あ...ありがと」

 

彩葉は照れながら返す。

 

「そういえばかぐやはどたん?」

 

真実がここにいないかぐやについて問う。

 

「なんか魚さばいてたよ。

シロアマダイ」

 

「シロアマダイ!? ちょっと、それ超高級魚じゃん!

いいな〜、すごいな〜! さすが売れっ子ライバーのかぐやはすごいな~」

 

真実が「いいな〜、一切れわけてほしい!」と身悶えしながら羨ましがる。

 

 

「ところでさ!

聞いて彩葉!!」

 

話はライブの話に戻る。

 

真実はなにやら不満があるようだ。

 

「昨日のライブさ!めっちゃ良かったけど、

芦花と遠田さ、気を失ってて

記憶がないとか言い出すんだよ~」

 

「真実!?ちょっとやめ...」

 

「うるさ~い!

昨日どれだけ苦労したかわかってんの!!」

 

芦花が止めようとするも真実は止まらない。

 

「え?まじ?」

 

彩葉の口から、困惑と驚きが混じった声が漏れる。

 

視線を向けられた芦花は、

まるで逃げ場を失った小動物のように、視線を逸らす。

 

「芦花と遠田はね~

彩葉のライブ衣装と『ヘイベイビー』でキャパオーバーしたんだよ」

 

真実が追い打ちをかける。

 

昨日さんざん迷惑をかけたんだからいいだろ。と圧をかける。

 

「い、いや...その...はい...

彩葉の破壊力にやられて意識と記憶を飛ばしてました...」

 

芦花がついに全面降伏を宣言した。

 

顔を真っ赤にし、指先をモジモジさせながら告白する親友の姿に、

彩葉は怒るのを通り越して、もはや何とも言えない脱力感に襲われる。

 

「てか?匠も?」

 

彩葉が驚き半分、呆れ半分で聞き返すと、真実は「そうよ!」とばかりに大きく頷いた。

 

「匠?

遠田はね~なんかね~

強制ログアウトキマッてたよ」

 

真実の暴露は止まらない。

 

昨日、二人の「限界オタク」の介護を押し付けられた恨みは深く、

その舌鋒は容赦なく遠田を奈落へと突き落とす。

 

芦花はなにも言わない。

 

なにも言えない。

 

真実の怒声も、遠田の醜態も、今の彼女の耳には届いていない。

 

ただ一点。

彩葉が無意識のうちに、あまりにも自然な響きで、遠田のことを「名前呼び」した。

 

その事実だけが、芦花の脳内を爆速でリフレインしていた。

 

親友である自分が知らないうちに。

 

あの遠田を下の名前で呼ぶほど親密になっている。

 

同じ屋根の下で暮らし、自分たちが預かり知らぬ「日常」を共有し、

ついに呼び方という最後の一線を越えたのだ。

 

「う、うああ...あああ...」

 

芦花の脳と意識、そしてアバターが崩れ落ちてゆく。

 

 

 

補足しておくと、

 

「同じ屋根の下で暮らし」

これは、動かしようのない事実である。

 

「互いに名前呼びになった」

これもまた、否定のしようがない事実である。

 

しかし。

肝心の遠田と彩葉の関係は、実際には別になにも変わっていないのである。

 

生活費を折半し、かぐやの作った料理を食べ、

 

つまり、芦花は自身の勘違いにより、

勝手に脳を破壊されているのだ。

 

絶妙な距離感で同居しているだけ。

 

そこに色恋沙汰の進展など、今のところ一ミリも存在しない。

 

つまるところ、芦花は、勘違いと彩葉への恋心が暴走し、

勝手に脳を破壊されているだけなのだ。

 

まさに、自爆である。

 

 

 

そんな自爆した芦花を放置して真実は彩葉にあるチラシを共有する。

 

「夏の終わりに花火などいかが~」

 

明日、9/1にサマーフェスティバルが開催されるのだ。

 

「電車で1時間ぐらいか

皆で?」

 

彩葉は参加メンバーについて問う。

 

「のんのん!

我らには大事な使命があるのです。

...『夏休みの課題』という、血塗られた使命がね!」

 

しかし、返ってきたのは、あまりにも無情な宣告だった。

 

「えっ、二人とも終わってないの?」

 

「終わってるわけないでしょ!

昨日の今日で、そんな余裕あると思ってんの!? というわけで...」

 

真実はニヤリと、どこか確信犯的な笑みを浮かべる。

 

「彩葉は、かぐやちゃんと、...あ、あと名前呼びの『匠くん』と、三人で楽しんできて!」

 

「ちょ、ちょっと! 真実...っ」

 

「じゃあね! 宿題の山に埋もれてくるわ!」

 

言い残すやいなや、真実は電光石火の速さでツクヨミからログアウトした。

 

彼女はストレス発散と言わんばかりに盤面を荒らして帰っていた。

 

 

 

残されたのは、真っ白に燃え尽きた芦花のアバターだったモノと、

突然突きつけられた「三人での花火大会」という、

あまりにも意識せざるを得ないイベントの招待状だけだった。

 

「ところで、匠って課題終わってるのかな?」

 

ツクヨミの中で一人残された彩葉は、ふとそんな疑問を口にした。

 

しかし、心配は無用である。

 

遠田匠という男は、面倒なことは最初に「ちゃっちゃと」終わらせて、

残りの休みを全力で遊ぶことに命を懸けるタイプの人間なのだ。

 

 

 

ツクヨミからログアウトした彩葉は、

かぐやを夏祭りに誘うべくキッチンへ向かう。

 

「かぐやさん絶好調っすか?」

 

「あ!彩葉いいとこに来た!」

 

キッチンに足を踏み入れた途端、かぐやが弾んだ声で振り返る。

 

その手には、白く透き通った身が美しく整えられた、

握りたてのシロアマダイの寿司があった。

 

かぐやは躊躇なく、それを彩葉の口へと押し込む。

 

「んむ...っ!?」

 

不意打ちを食らった彩葉だったが、舌の上に脂の乗った身が触れた瞬間、目を見開いた。

 

「ナニコレ美味すぎ」

 

噛みしめるたびに上品な甘みが広がり、口の中でとろけていく。

 

普段口にする機会などまずない、高級魚の王様。

 

その圧倒的な破壊力に、彩葉の表情は一瞬でとろけ、語彙力が消失した。

 

あまりにも美味い。

 

「でしょでしょ~

匠にも好評だったんだ~」

 

かぐやは嬉しそうである。

 

「明日は麺からラーメン作る!フフ~」

 

「すげぇ...」

 

さらにとんでもないことを言い出したかぐや。

 

彩葉は言葉を失う。

 

 

 

彩葉は一度、深く息を吐いて呼吸を整える。

 

思い返せば、自分から誰かを遊びに誘うなんて経験は、これまでの人生でほとんどなかった。

 

親から自立し、奨学金とバイトに追われ、自分の生活を守ることで精一杯だった日々。

 

彩葉にとって「遊び」とは、誰かに連れ出されるものであって、自ら企画するものではなかったのだ。

 

スマホに表示された夏祭りのチラシを握りしめる指に、力がこもる。

 

彩葉は勇気を振り絞り、その一言を口にした。

 

「遊ぼう」

 

そんな一言にかぐやはフリーズする。

 

彩葉から遊びに誘われたことなど、これまで一度もなかった。

 

いつも自分か匠が、強引に連れ回し、

彩葉が「もう、しょうがないなぁ」と付き合ってくれる。

 

それが3人の関係性だったからだ。

 

初めて、彩葉の方から誘ってくれた。

 

その事実が理解できた瞬間、かぐやの中で感情が爆発する。

 

「やった!

やったやったやった~!」

 

かぐやはその場で跳ねながら回転する。

 

一通り喜びの舞を披露し、息を弾ませながらかぐやは問う。

 

「匠は!? 匠は行くの!?」

 

「まだ聞いてない。

これから誘う」

 

彩葉は少し照れくさそうに視線を逸らす。

 

さあ、次はもう一人の同居人――

 

昨夜のダメージから回復している遠田の番だ。

 

 

 

未だに布団の住人と化している遠田は、

重い瞼を閉じたまま、先ほど体験した奇跡の味を思い出していた。

 

昨夜、自分の全リソースを用いて、叩き込んだビット兵器の反動は、想像以上に重い。

 

ズキズキと鳴り止まない頭痛は、まさに限界までオーバークロックしたCPUの断末魔のようだった。

 

少しでも栄養を摂らねばと、這うようにしてキッチンへ向かったのが数分前。

 

そこで待っていたのは、包丁を握りしめた「月のお姫様」による、有無を言わさない歓迎だった。

 

『はい、匠! お口開けて!』

 

返事をする間もなく、口内にねじ込まれたシロアマダイの寿司。

 

その瞬間、脳を突き抜けるような旨味が全身を駆け巡った。

 

高級魚の脂が、ボロボロになった神経細胞に染み渡っていく。

 

「...うまっ」

 

余りの美味さに遠田は涙した。

 

実家にいた時も、こんなに美味い料理は食べたことがない。

 

その感動の余韻だけを抱えて、彼は再び戦場...

もとい、万年床へと帰還したのである。

 

(かぐやの飯マジでうまいなぁ

ライバーじゃなくて料理人の方が向いてんのちゃう?)

 

頭痛に苛まれながら、そんなことを考えていた。

 

シロアマダイ効果で多少マシになったものの、遠田の頭痛は収まらない。

 

そんな時だった。

彼の部屋のドアを、控えめに、けれど確かな意志を持ってノックする音が響いたのは。

 

「匠、起きてる?」

 

聞き慣れた、けれどどこか緊張を含んだ彩葉の声。

 

遠田は布団の中から、亀のように首だけを少しだけ出して、扉の方を見つめる。

 

「明日さ、電車でちょっと行ったとこで夏祭りがあってさ...

だからさ...

一緒に行こ?

かぐやと3人で...」

 

恥ずかしさからか、消え入りそうな声。

 

そんな誘いに遠田の脳はオーバーヒートした。

 

頭痛は、それ以上の衝撃で吹っ飛んだ。

 

「ああ...ええよ...」

 

遠田はギリギリ残った意識でたどたどしく返す。

 

「匠ほんとに大丈夫?」

 

返事のあまりの覇気のなさに、彩葉が心配そうに身を乗り出す。

 

そして、布団にうずくまる彼の顔を、心配そうに間近で覗き込んだ。

 

「ミッ!!」

 

そんな、およそ人間とは思えぬ短い悲鳴と共に、遠田.exeのプロセスは完全に停止した。

 

目の前数センチに、昨夜「ヘイベイビー」と微笑み(注:幻覚です)、自分の理性を文字通り粉砕した彩葉の顔がある。

 

しかも、今度は仮想空間の解像度ではない。現実の、吐息すら感じるほどの至近距離だ。

 

ピュアな遠田少年の脳は止まり、心臓は衝撃に耐えられず爆発四散した。

 

「...匠?」

 

彩葉が首を傾げるが、もう遅い。

 

返事がない。ただの屍のようだ。

 

昨夜のダメージからようやくシロアマダイで微回復したばかりの遠田のHPは、

彩葉の至近距離からの「心配」という名の4倍弱点ダメージにより、

 

再びゼローー

 

どころか、マイナスへと叩き落とされた。

 

恐らく遠田の視界には

 

YOU DIED」と表示されていることだろう。

 

遠田はその日、目を覚ますことはなかった。

 

 

 

次の日の朝。

 

遠田の体調は、驚異的な回復力によって完全に復活を遂げていた。

 

あれだけズキズキしていた頭痛も、爆発四散したはずの心臓も、

朝の光とともに再構築されている。

 

しかし、脳の処理速度はいくらか落ちたままだ。

 

昨日の衝撃が脳裏に焼き付いている。

 

「匠!おはよう!!

元気出して!祭りだよ!祭り!」

 

かぐやは朝からハイテンションである。

 

「...おはよう。

すまんけど、病み上がりやからエンジンかかりきんのに時間かかんねん...」

 

遠田はのろのろと椅子に座り、まだ半分寝ているような声で答える。

 

「分かった!

朝ご飯もうすぐ出来るから待っててね!」

 

かぐやはキッチンに引っ込む。

 

「いつもすま~ん」

 

遠田はカウンター越しに、小さく、けれど実感を込めて声をかけた。

 

 

 

 

「おはよう匠。

大丈夫?無理してない?」

 

エンジンがかかり始め、ようやく思考の歯車が噛み合い始めたタイミングで、

彩葉がやってくる。

 

昨夜、彼の心臓を爆発四散させた張本人である。

 

「大丈夫やで。

昨日ようさん寝たから完全復活や」

 

遠田は努めて平然を装い、いたって普通に返事をする。

 

瞬間、脳裏に昨夜の光景――

 

吐息を感じる距離で見つめてきた彩葉の瞳――

 

がフラッシュバックしたが、なんとか理性で抑え込み、処理できる範疇に留めた。

 

「...そっか。ならいいんだけど。

...じゃあ、早く食べて準備しよ?」

 

彩葉が小さく笑う。

 

その、春の陽だまりのような無害な微笑み。

 

それこそが一番の猛毒であることを、遠田は身をもって知っている。

 

「そ、そやな...」

 

遠田は、わずかに震えそうになる声のトーンを必死に抑え込み、ギリギリのところで耐え抜いた。

 

心臓の鼓動がわずかに跳ね、脳内インジケーターが赤色に点滅したが、

シャットダウンだけは免れた。

 

この新居に引っ越してから遠田の精神は振り回されてばかりだ。

 

(それもまた一興か...)

 

と、遠田は笑う。

 

 

 

「よし! 彩葉、匠! お待たせー! かぐや特製、祭りの前の気合メシだよ!」

 

キッチンから、お盆を高く掲げたかぐやが、後光が差さんばかりの笑顔で現れた。

 

テーブルに並ぶのは、今日も今日とて過剰に豪華な、けれど愛の詰まった朝食。

 

「...。よし、食うか」

 

遠田は箸を割り、祭りの喧騒へと飛び込む準備を整えた。

 

精神はボロボロ、心臓は爆発四散の残骸。

 

けれど、その表情は、どこか昨夜よりも晴れやかだった。

 

 

 

祭りへ向かうための準備をしている遠田の元へ、

かぐやがパタパタと足音を立ててやってくる。

 

「匠!浴衣ってどうする?」

 

夏祭りといえば浴衣。

 

そんな単純な思考の元、かぐやは尋ねる。

 

「浴衣?俺の?

着る気ないけど...

かぐやと彩葉で着たらええやん」

 

遠田は自身の衣服に興味がない。

 

機能性だけで十分とのたまう男である。

 

「ええぇ~

皆で浴衣着ようよ~」

 

かぐやは露骨に頬を膨らませ、不満をあらわにする。

 

「だって、彩葉だってきっと着るんだよ? 私たちだけ可愛くして、

匠だけいつものTシャツなんて、そんなのバランス悪いじゃん!」

 

「そもより野郎の浴衣なんぞ需要ないて」

 

遠田は、面倒くささを隠そうともせず吐き捨てた。

 

彼にとって、男の浴衣姿など「風情」よりも「着崩れ」や「歩幅の制限」という、

デバフが目立つだけの装備品だ。誰がそんなものを見て喜ぶというのか。

 

「需要の問題じゃないの! 気分の問題なの!」

 

かぐやが食い下がる。

 

「もーめんどくさい!!

彩葉! 匠拉致って浴衣を強制しよう!!」

 

あまりにも物騒な、けれど一切の迷いがないかぐやの声がリビングに響き渡った。

 

「...は?」

 

遠田の口から、素っ頓狂な声が漏れる。

 

本人の目の前で、「拉致監禁および衣装強制執行計画」を

堂々とぶち上げる奴がこの世にいてたまるか。

 

「はいはい。かぐやの言う通りに

おとなしく拉致られてね~」

 

あろうことか、最後の希望であったはずの彩葉すら、楽しそうに計画に賛同している。

 

「おい、待て! 彩葉お前まで...!わかったから離せ! 自分の足で歩けるわ!」

 

抵抗むなしく、両脇をがっしりと固められた遠田は、

まるで出荷される子牛のように「ドナドナ」のメロディを背負って、

駅前の浴衣レンタルサービス店へと引きずられていった。

 

 

 

浴衣レンタルサービス店の外で、遠田は所在なげに二人を待っていた。

 

遠田の格好は、シンプルな紺色の浴衣に白い帯。

 

余計な装飾を一切削ぎ落とした、実に落ち着いた着こなしだ。

 

このデザインを選んだ理由は、極めてシンプルかつ消極的である。

 

「服の良し悪しなんぞわからん!

一番目立たんやつでええねん!」

 

衣服に興味を持てない遠田。

 

店内で最も地味な組み合わせを選び取り、「これでええ、これが正解や」と自分に言い聞かせたのだ。

 

もう少しタッパがあればちゃんと似合うの考えたかもと遠田は語る。

 

恐らくだが、もう少しタッパがあろうとも遠田は、適当に選んでいただろう。

 

結局、遠田は遠田なのだ。

 

タッパがあろうとなかろうと本質は変わることのない。

 

 

 

そんな、自身の外見など二の次、三の次と考えていた遠田の元へ、

着付けを終えた2人がやってくる。

 

かぐやは黒を基調とした浴衣に赤い帯。

髪には紫の花飾りがついている。

 

彩葉は白を基調とした浴衣に赤い帯。

髪には薄い青の花飾りがついている。

 

「和服よき~」

 

かぐやは初めての浴衣にテンションが天元突破しており、

その場でくるりと回って見せる。

 

「何か変じゃない?」

 

彩葉は、遠田の前に立つと、自身の格好に確信が持てない様子で裾を少し持ち上げた。

 

「彩葉は何着ても似合うよ~!」

 

かぐやが背後から彩葉に抱きつき、

その華やかさをさらに強調するように頬を寄せる。

 

「匠もそう思うよね!」

 

間髪入れずに飛んでくる、かぐやからの鋭いキラーパス。

 

昨夜の遠田であれば、ここで「ミッ!!」という悲鳴と共に、

脳内サーバーがダウンしていたところだ。

 

しかし、遠田は成長する男である。

 

適応速度は遅くとも、少しずつ耐性を得てきた。

 

浴衣を着てくることさえわかっていれば対策が可能である。

 

「よう似合うとると思うで...

2人とも...」

 

だが、その言葉を最後まで言い切る間に、自身の吐いた言葉の熱量に耐えきれなくなった遠田。

 

最後は「2人とも」と付け加えることで、彩葉への直撃コースを強引にお茶を濁した。

 

「だよねだよね!」

 

 

 

そして彼らは電車を乗り継ぎ、祭り会場へ向かう。

 

彩葉とかぐやの楽しそうに歩いている。

 

その後ろをついていく遠田の顔には普段とは異なる、

どこか穏やかな「楽しさ」が滲み出ている。

 

(髪型変わると、印象って結構違うもんなんやな~

俺も髪をちゃんとセットしたほうがええかな?)

 

ふと、遠田は自分の無造作な髪に触れる。

 

いつもは、

 

「目にかからなければいい」

 

「寝ぐせさえ残ってなければいい」

 

という機能性一点突破の放置スタイルだった。

 

しかし、これほどまでに「整えること」の視覚的効果を突きつけられると、

自身の無頓着さが急に「最適化不足」のように思えてきたのだ。

 

そんな思考の裏で、

 

(かぐやの普段の髪型やと『アホの子』感すごいのに、

こうしてまとめると、なんか...

ちゃんとええことのお嬢様に見えるのすごいな)

 

くっそ失礼なことを考えていた。

 

照れ隠しでもなんでもなく、ガチでそう思っている。

 

マジで失礼な遠田である。

 

 

 

祭り会場はすでに熱狂的な盛り上がりを見せていた。

 

立ち並ぶ屋台の電球が夜を黄金色に染め、

ソースの焦げる匂いや甘い蜜の香りが混ざり合って、鼻腔をくすぐる。

 

射的の乾いた音、カニ釣りに興じる子供たちの歓声、

そして威勢の良い店主たちの呼び声。

 

かぐやは、そのすべてに興味を示し、

文字通り「興味を持ったすべての店」に片っ端から立ち寄っていた。

 

「匠!たこ焼きあるよ!

大阪人として一言!」

 

かぐやがソースの香ばしい匂いに誘われ、たこ焼きの屋台を指差しながら無茶振りをかます。

 

「本場の住人なら、さぞかし熱いこだわりがあるに違いない」という、

これまた単純かつ真っ直ぐな期待の眼差しだ。

 

「たこ焼きについて?

そんなんどこで、誰が作ってもうまい料理としか言えんで

たこ焼きまずく作れるヤツの方が天才やろ」

 

遠田は、期待を正面から粉砕するような、身も蓋もないことを言い放った。

 

だが、彼はそのまま口を閉ざすことはなかった。

 

「でもあれやな、ソースはオタフクのに限るな」

 

結局、譲れないこだわりはあった。

 

「おっちゃん!

たこ焼き3人前ちょうだい!」

 

遠田は、迷いのない足取りで屋台の暖簾をくぐった。

 

先ほどまで「誰が作ってもうまい」などと、

身も蓋もないことを言っていた男とは思えない、実に淀みのない発注である。

 

彼にとって、たこ焼きを食べることはもはや食事ではない。

 

関西人の必須栄養素であるカンサイニウムの補給である。

 

「はいよ! 焼きたて、熱いから気をつけてな!」

 

舟に乗せられた大粒のたこ焼きが3人前、遠田の手に渡される。

 

「関西人からのおごりや」

 

と、遠田は彩葉とかぐやにたこ焼きを手渡す。

 

かぐやが目を輝かせ、彩葉が大切そうに舟を受け取る。

 

熱々のたこ焼きをハフハフと頬張りながら、

 

互いの顔を見ては「熱い!」「でも美味しい!」と笑い合う。

 

そんな風に騒がしくも、楽しく、時間は過ぎていく。

 

 

 

花火の時間が迫ってきたため、3人は河川敷へ向かう。

 

レジャーシートがあちこちに敷かれており、そのうちの一か所を占拠する。

 

「いや~お祭りってたのしいね~

楽しキングダム!」

 

かぐやはそういうと頭上で手を合わせる。

 

彩葉も同じように頭上で手を合わせる。

 

「うぇ~い彩葉まねっこ~

アハハハ」

 

無邪気に笑い合う二人を眺めながら、遠田も思わず口角を上げる。

 

「彩葉ってそんな感じのノリをせんイメージあったわ!

あ~おもろ!」

 

普段のしっかり者な彼女が見せる意外なノリの良さ。

 

それは、この祭りの魔法か、あるいは隣で暴走するかぐやの影響か。

 

いずれにせよ、遠田にとっておもろい光景であった。

 

そんな賑やかな会話の最中、彩葉の視線がかぐやの細い手首に留まる。

 

そこには、夜の闇の中でも鈍く光を放つ銀色の腕輪があった。

 

「いつもつけてるよねそれ?」

 

かぐやは腕輪にそっと触れる。

 

その指先は、いつになく愛おしそうに、そして少しだけ寂しげに動いた。

 

「ん?あぁ

何か落ち着くんだ。

'故郷(ふるさと)'って感じ?」

 

「あれか?

新喜劇見て大阪を感じるみたいな?」

 

遠田が、台無しと言えば台無しの、けれど彼なりの「故郷愛」に変換した例えを放り込む。

 

「それは違うと思う...」

 

彩葉に間髪入れずにツッコまれ、かぐやにも呆れ顔を向けられる。

 

だが、そのおかげで、かぐやの瞳に宿りかけていた小さな郷愁は、いつもの賑やかな笑いにかき消された。

 

「あ、始まるよ!」

 

彩葉の声に導かれるように視線を上げると、遠くの河原から鋭い音が夜空を切り裂いた。

 

 

「月ってさ、味も温度もなくて

マジつまんないの」

 

かぐやが故郷()について語りだす。

 

打ち上げを待つ静かな河川敷で、彼女の言葉だけが浮世離れした響きを持って響いた。

 

「決められた役割をずっと繰り返すだけなんだよね」

 

「なんかプログラムみたいな感じなんや。

そんなとこ嫌やな

なんもおもろいもんないやん」

 

遠田が感じたことを、素直な言葉にして投げ返す。

 

効率化やシステムを好む彼であっても、

そこに「面白さ」や「変化」がない世界は、

ただのバグのない退屈なコードの羅列にしか見えないのだろう。

 

「そうなの!

なんも面白くないの!」

 

かぐやはわが意を得たりと、遠田の言葉を強く肯定した。

 

「全然想像つかない...」

 

目の前でたこ焼きを頬張り、

「楽しキングダム!」とはしゃぐエネルギーの塊のようなかぐやを見ていると、

そんな静止した世界から来たとは到底信じられなかった。

 

「かぐやだけ浮いてたんだ...

厳密に言うともう1人浮いてたけど」

 

かぐやが自嘲気味に、けれど懐かしそうに付け加える。

 

月という完璧に管理された社会において、かぐやのような異分子は極めて稀な存在であること。

 

そして、そんな場所で「娯楽が少ない!」と堂々と不満を述べる、もう一人の変わり者がいたこと。

 

その人物は、退屈な月の環境から無理やり楽しみを見出し、自分なりの娯楽を構築していたという。

 

「...なんか、その人って匠みたいだね」

 

話を聞いていた彩葉が、ふとした直感で言葉にする。

 

環境をハックし、自分のルールで楽しみを見つけようとするその姿勢が、今の遠田に重なったのだ。

 

「俺よかまともそうやん。

俺なら『つまらん!』って思った瞬間、逃亡するで」

 

遠田が訂正を入れる。

 

「確かに!匠に似てるけど匠とはまた違う感じのヤツだったよ」

 

かぐやが笑い飛ばす。

 

 

 

そんな穏やかな話を引き裂くように、

一際大きな音が河川敷の空気を震わせた。

 

――ドォォォォォォン!!

 

漆黒の闇に、大輪の黄金が咲き誇る。

 

一瞬で河原全体が昼間のような明るさに照らし出され、

会話は強制的に打ち切られた。

 

3人ともが会話を忘れて、花火の美しさに目を奪われている。

 

かぐやが、夜空に消えゆく火花の残像を見つめながら

静かに語りだす。

 

「寂しいし、退屈

毎日繰り返し

『退屈死にそう』

『もうイヤだどっか行きた~い』

って思って

窓から彩葉たちの世界を見たら皆好き勝手動いてて、

複雑で1回きりで自由に見えた」

 

賑やかな祭りの喧騒が遠のくような、かぐやの独白。

 

月の無機質な秩序から見た地球は、

彼女にとって目も眩むようなカオスであり、憧れの対象だったのだ。

 

「みんな抑えてもいるんだよね

自分の気持ち。

もっと大事なもののために」

 

かぐやが、らしくない、けれど核心を突く発言をこぼす。

 

自由に見えるこの世界の住人たちが、実は目に見えない絆や責任、

あるいは「誰か」のために自分を律して生きていることに、彼女は気づき始めていた。

 

「何?大人じゃん...」

 

彩葉が、少し泣きそうな、震える声で言う。

 

「へへ、彩葉のまね~」

 

かぐやは、しんみりした空気を振り払うように、

いつものおどけた調子で茶化す。

 

「まあ世間一般の人はそんなかんじやろうな」

 

遠田が言葉を零す。

 

遠田は自分の気持ちを抑えることなどしない。

 

しかし、そんな人間は少数派であることを知っていた。

 

 

 

「ねぇ彩葉。

いっこ聞いていい?」

 

かぐやは彩葉に対して問いを投げかける。

 

「彩葉はお母さんのこと好き?」

 

核心を突くような、純粋すぎる問い。

 

彩葉にとって、それは最も答えに窮する、

けれど避けては通れない棘のような問題だった。

 

「好き...好きか...

どうだろう...分かんないな」

 

彩葉の瞳に涙が浮かぶ。

 

「そうだね...

嫌いになれたらなって何回も思ったよ...」

 

そんな発言にかぐやは涙を浮かべる。

 

「そんなん彩葉、

余計かわいそうじゃん...

てかごめんね

怒ったってよかったのに...

『かぐやにはわかんない』って

言いたかったっしょ?」

 

かぐやが、申し訳なさそうに、けれど彩葉の痛みに寄り添うように告げる。

 

経験していない者に何がわかるのか。そう突っぱねられても仕方のない問いだったから。

 

「違うよ...

言いたかったんじゃない...」

 

彩葉は息をのんで答える。

 

彼女の脳裏には父の葬儀の光景が思い浮かんでいた。

 

あの日、母から言われた『あんたにはまだわからん』

 

そんな言葉を、かぐやに向けたくはなかった。

 

「匠は?」

 

かぐやが、涙を溜めた瞳のまま遠田を振り返る。

 

その問いには、彩葉の痛みを和らげたいという願いが込められていた。

 

遠田と遠田母の関係なら笑えるようなものであろうと期待して。

 

「俺もな、正直わからんとしか言えん」

 

遠田の答えはまさかの物であった。

 

あの明るい遠田母と、遠田の関係は悪いようには見えなかった。

 

「おかんはずっとあんな感じやからさ...

好きとか嫌い以前に、もうあの在り方が当たり前やねん...

そんなもんに好きも嫌いもあらへん」

 

遠田らしからぬ、淡々とした、けれど真面目な回答。

 

彼はそう言って、少しだけ決まり悪そうに頭を掻いた。

 

遠田にとっての「家族」とは、愛情という不安定なパラメータで測るものではなく、

そこにあることが「前提」となっている世界の基本仕様のようなものなのだろう。

 

 

 

彩葉と遠田は、察していた。

 

この時間が、3人で笑い合える時間が永遠ではないことを。

 

そして、目の前で無邪気に笑うかぐやが、

そう遠くないうちに自分たちの手の届かない場所へ帰ってしまうことを。

 

「いや~

仕事放り出してきちゃってさ...

強制送還的な?ハハハ...」

 

かぐやは寂しげに笑う。

 

「かぐやはかぐや姫だったみたい...」

 

彩葉は息をのむ。

 

「次の満月の夜にお迎えが来る」

 

かぐやは当たり前のように告げる。

 

「お迎えってうちに?」

 

「う~ん多分ツクヨミにかな?

仮想の世界って月ととっても近いから」

 

彩葉の問いに平然と答えるかぐや。

 

「また逃げればいいじゃん

かぐやはかぐや姫じゃないよ

もっとハチャメチャで、もっとめちゃくちゃで...

だから...おとぎ話とは違う...」

 

彩葉は自分自身に言い聞かせるように、震える声で言葉を紡ぐ。

 

竹取物語の結末なんて、今の彼らには関係ない。

 

目の前にいるのは、奇しくもかの姫様と同じ名を持つだけの少女「かぐや」なのだから。

 

「そんなはちゃめちゃかぐや姫にもお迎えが来ましたが、

最後の日までめちゃくちゃ楽しく過ごしましたとさ...って

そういうのがいいじゃん!」

 

かぐやが、パッと花が咲いたような笑顔で遮った。

 

「これがかぐや()のエンディング!

超~楽しく運命に向かって走ってく」

 

一点の曇りもない、明るい宣言。

 

抗うのでもなく、嘆くのでもなく、最後まで「自分らしく」駆け抜けるという、彼女なりの誇り高い決意。

 

しかし、それを遠田は、

 

『別れを認めて、抗うことを諦めているよう』に感じる。

 

運命を潔く受け入れることが、まるで「正しい仕様」であるかのように振る舞うかぐや。

 

それに遠田は納得できなかった。

 

だからこそ、彼は口をはさむ。

 

「ほんまにそれでええの?

かぐやはそれで納得したん?」

 

彼はかぐやに問いかける。

 

向けられた視線は鋭く、けれどその声は、

自分でも制御しきれないほどに少し震えていた。

 

「そりゃホントはさ、もっともっと彩葉と歌いたかったし、

匠ともバカ騒ぎしたかったよ」

 

かぐやが、ぽつりと本音を零す。

それは、月の姫としての諦めではなく、一人の「かぐや」としての、血を吐くような本心だった。

 

「そうだ!ライブしたいな

お迎えが来る日

派手に!」

 

寂しさを振り払うように、かぐやが叫ぶ。

 

運命に向かって走るのなら、ただ歩いて帰るのではなく、

ステージの上で、最高の音と光に包まれて、世界を揺らすほどの爆音を響かせて消えてやりたい。

 

「それとね...

かぐや()が心置きなく笑って過ごすために、

やらなくちゃいけないことを終わらせに行くんだ!」

 

かぐやのその言葉に、遠田は返す言葉を持たなかった。

 

心置きなく笑うために、やるべきことを終わらせる。

 

その主張こそ、まさに遠田匠という人間の根底にある「在り方」そのものだったからだ。

 

やらなくていい無駄なタスクは平気で放棄する。

 

けれど、自分が「やらなければならない」と定義したタスクは全うする。

 

そんな生き方をする遠田は、

かぐやが示したその決意は、あまりにも正しく、美しく、そして否定のしようがないものだった。

 

だからこそ。

 

かぐや(お前)がそうしたいなら俺は止めん。

やりたいようにやればええ」

 

遠田が立ち上がって告げる。

 

「た、匠...?」

 

遠田なら、持ち前の屁理屈と価値観でかぐやを引き止めてくれる。

 

彩葉は心のどこかでそう信じていた。

 

だからこそ、あっさりと「行かせる」ことを認めたような彼の言葉に、戸惑い、その名を呼んだ。

 

「やけど、

俺はその運命がハッピーエンドとは思えん」

 

遠田の声は、夜の静寂に低く、けれど鋭く突き刺さった。

 

「やからな...

俺も好き勝手やらせてもらう」

 

遠田は宣言する。

 

それが運命だからって、ハイそうですかって納得してたまるか。

 

月へ帰り、決められた役割に戻り、また「味も温度もない」退屈な日々を繰り返す。

 

そんなものが、この騒がしくて愛おしい日々の終着点であっていいはずがない。

 

運命とかクソくらえ。

 

宇宙の摂理だの、月の掟だの、そんな壮大な話はどうでもいい。

 

そんな遠い場所の理屈で、今この手の中にある体温や、

耳に残る笑い声を奪われてたまるものか。

 

俺は今、この3人で笑っていられることが、何よりの幸福である。

 

だから、それを壊させはせん。

 

そんな自分勝手で、強欲で、傲慢な宣言。

 

「アハハハ! そうだね!

匠だもんね!」

 

かぐやが、腹の底から突き抜けるような声で笑う。

 

遠田の傲慢さ、不器用な優しさ、

そして「運命なんて書き換えてやる」という無謀なまでの自信。

 

そのすべてが、月での退屈な日々には欠けていた「最高に面白いもの」だったから。

 

彩葉も、こぼれそうになっていた涙を指先で拭い、釣られるようにして笑った。

 

「匠なら、本当にやってくれるかもしれない」

 

そんな根拠のない、けれど確かな信頼が、

彼女の胸の奥にあった重い石を、希望という名の光に変えていく。

 

笑い声が、静まり返った河川敷に溶けていく。

打ち上げが終わった後の夜空は、少しだけ寂しげで、けれど不思議と晴れやかだった。

 

 

 

次の満月の夜。

 

その時、何が起きるのか、どうなるのかは誰にもわからない。

 

運命を捻じ曲げ、ねじ伏せるのか。

 

それとも、おとぎ話通りの終幕が静かに訪れるのか。

 

けれど、三人はもう決めていた。

 

もし、どうしても避けられない別れが訪れることとなっても、

 

その瞬間に口にするのは、悲鳴でも嘆きでもなく、

 

「お別れは、笑顔で」

 

最高にハチャメチャで、ノイズだらけで、愛おしかったこの日々の記憶を、

 

一番綺麗な形のまま心に刻むために。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。