モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方   作:超かぐや姫!脳焼きの民

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少し短めなので初見です。

この話で月との決戦の半ばまで行く予定やったのに...

感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
やっぱりなくならない誤字脱字。
ズッ友かもしれない。


決戦前夜

深夜。

 

足元でかぐやが寝ている中。

 

彩葉はノートPCとキーボードを睨みつけ、

音の海を彷徨っていた。

 

だが、作曲は難航を極めていた。

 

かつて彼女が、亡き父と作り始め、

そして彩葉が初めて「音を紡ぐ」ということに触れた、

あの日のメロディ。

 

時を止めたままのその旋律に、

どうしても新しい息吹を吹き込むことができない。

 

焦りだけが、闇の中で膨らんでいく。

 

月からの使いが来る期日は、刻一刻と迫っていた。

 

そんな彩葉の耳から、いつの間にか目を覚ましていたかぐやが、

ひょいとワイヤレスイヤホンを奪う。

 

「うわ!あの曲じゃん!!」

 

かぐやは目を輝かせる。

 

自分の出した無茶な要望に、彩葉が必死に応えようとしてくれている。

 

その献身が、かぐやには何よりも嬉しかったのだ。

 

「これ。お父さんと一緒に作りかけてた曲なんだ...

初めての曲」

 

彩葉が語りだす。

 

父が亡くなった後、何曲か作るも、「何か違う気がして」辞めたこと。

 

続きの作り方を思い出せないこと。

 

「じゃあ彩葉の代わりに勝手に歌詞作っちゃお!

きっとお父さんも喜ぶに違いない!」

 

かぐやはそう言い放つ。

 

かぐやの言葉には自信が満ち溢れている。

 

「壁ドンだって暮らしを盛り上げるプレリュード~♪

これでいいんじゃん」

 

そんな歌詞で彩葉の父が喜ぶのか不明だ。

 

しかし、かぐやのあまりの奔放さに、

彩葉の肩の力を縛っていた見えない鎖が、

ふっと軽くなった気がした。

 

「いいのかも...

あっそうだ。

ライブ、ヤチヨがプロデュースしてくれるって」

 

「えっウソ~

頼んでくれたの?」

 

彩葉が、先日の会合の前に頼んでいたことを告げる。

 

「やり~!

振付考えてくるっ!」

 

かぐやは走って彼女の部屋に向かう。

 

その背中からは、隠しきれないハイテンションなオーラが溢れ出ていた。

 

「私は曲を仕上げなきゃ」

 

一人残された部屋で、彩葉はふっと微笑み、再びモニターを見つめる。

 

かぐやの「願い」を形にするために。

 

止まっていたメロディの続きを、今度こそ紡ぎ出すために。

 

 

 

そして夜が明ける。

 

「あ~~。

やっぱ続きは無理だわ...

ワンコーラスでいくか...」

 

彩葉は絞り出すような一言と共に、机に突っ伏した。

 

気休めに、今しがた書き上げたばかりのデータを再生してみる。

 

ここ数日、耳にタコができるほど聴き馴染んだメロディ。

 

しかし、ここではないどこか別の場所で、この音を聴いた記憶が確かにあった。

 

父が遺し、自分が今日まで守ってきたはずの未完成の楽曲。

 

この部屋以外で流れるはずなど、絶対にない。

 

だというのに、彩葉の記憶はある一点へ辿り着いた。

 

――月見ヤチヨのデビュー曲「Remember」。

 

かつて、彩葉の心を救ってみせたあの曲の旋律が、

今流れている自分の曲と重なり合う。

 

何故?どうして?

 

そんな疑問が脳内で飛び交う。

 

しかし、彩葉は震える手でマウスを握り直すと、

それらの疑問を強引に脳の隅へと追いやった。

 

今は、一分一秒が惜しい。

 

真実を追うのは後だ。

 

今はただ、この曲を完成させなければならない。

 

 

 

 

 

決戦前夜。

 

遠田は特殊サーバーに居た。

 

ギリギリまで、封印指定兵装の改修作業を行っていた。

 

封印指定兵装No.03(ドライブユニット)の大型改修しかできんとは...」

 

改修前のドライブユニットは背部に装備するものであった。

 

しかし、改修後のドライブユニットはバトルスーツのように、全身に纏う形式となった。

 

ジェネレータの出力向上。

 

過剰エネルギーを刀身および全身に展開・放出。

 

過剰なエネルギーの放出が陽炎のように揺らめき、

それはさながら、某幽霊の名を冠するガンダムのようになっていた。

 

欠点は、

 

背部ユニットの干渉により、封印指定兵装No.01(エンフォーサー)との併用が不可能であること。

 

そして、放出される過剰エネルギーがビームの指向性を消失させるため、

極限速度下の近接戦闘を強いられること。

 

この二点に集約された。

 

 

 

埋められない欠陥を補填するかのように、

 

遠田はドライブユニットの大型改修の裏で、一つの準備を進めていた。

 

かつて設計され、お蔵入りとなっていたビット兵器の量産である。

 

大型ロングレンジビット、8基。

 

中型ビット、60基。

 

小型ビット、100基。

 

計168基に及ぶその物量は、遠田個人で扱える限界を遥かに超過している。

 

だが、ヤチヨの演算リソースを同期させ、

 

処理負荷を分担することで、その超常的な同時運用の道が――

 

理論上、拓かれた。

 

その「超常的運用」の内訳は、以下の通りである。

 

168基のビット兵器。

 

超高速戦術強襲支援機『エンフォーサー』

 

無人弾幕防衛システム『フォートレス』

 

この3種の兵装の圧倒的手数で、敵の大部分を殲滅し、

 

残る強敵に対しては、ドライブユニット改修型、位置ずれ(量子)回避システム:『青』で肉薄し、排除する。

 

それが、遠田の導き出した算段であった。

 

 

 

遠田が現実へと意識を戻した時、世界はまだ深い闇の中だった。

 

乾いた喉を潤そうとリビングへ向かうと、そこにはたまたま、彩葉の姿があった。

 

「匠...?

そっちの作業はどう?」

 

「...まあ。最低限形にはなったって感じやわ

無限に時間が足りん...

...そっちは?」

 

「私もだよ...

なんとか最低限完成したって感じ...」

 

彩葉は力なくソファに沈み込み、震える声で答えた。

その指先は、自分では制御できないほどに細かく揺れている。

 

恐怖があった。

明日が、かぐやと過ごせる最後の日になる。彼女の理性は、その未来を残酷なまでに察知していた。

かぐやを拾ってからの2か月。

 

どたばたして、慣れなくて、しんどくて。

 

だけど、明るくて、楽しくて、幸福な2か月であった。

 

そんな日々が、終わろうとしている。

 

また、以前のような『普通』に戻ってしまう。

 

ただ勉強して、バイトをして、同じ明日を繰り返すだけの『普通』。

 

かつて、あれほど渇望したはずの平穏。

 

しかし、今の彩葉にとってそれは、何よりも恐ろしい孤独の深淵だった。

 

独りで頑張らなくていいことを知った。

 

もう、自分は孤独(ひとり)でないことを知ってしまった。

 

誰かを失う怖さ、悲しさ、辛さ。

 

かつて父を失ったあの日から、彼女はその痛みを誰よりも知っている。

 

だからこそ、その再来に、彩葉の心は音を立てて蝕まれていった。

 

 

 

「かぐやを月に連れて行かせたりせん。

...なんてかっこええ言葉は吐けん」

 

そんな彩葉に遠田はつぶやく。

 

「正直な...

心の底では『どうせ守り切れん』なんて思ってる俺も居る」

 

遠田が弱音を吐く。

 

これまで遠田が弱音を吐いたところを見たことがない彩葉は目を見開く。

 

「でもな。

抗うって決めたんや。

結果に後悔することはあっても、

その過程に後悔なんてしたくない」

 

「匠は強いね...」

 

彩葉は力なく答える。

 

「強くなんてない。

ただ、身近な誰かを失う怖さを知らんだけや」

 

遠田の周りには常に誰かが居た。

 

そして彼ら、彼女らとの離別などなかった。

 

だからこそ、遠田は失う恐怖を知らない。

 

地獄の深さを知らないからこそ、彼は迷いなくその縁を歩けるのだ。

 

「たとえ、かぐやが月に帰ったとしても...

彩葉は孤独(ひとり)やない。」

 

遠田は、夜明け前の薄暗い空気を見つめたまま言葉を紡ぐ。

 

「たぶん、これまでもそうやったんや。

心の余裕がなくて、気が付けんかっただけやと思う」

 

「綾紬さんも、諌山さんもおる。

...それに俺だって」

 

「やからそんなにビビらんでいいと思う」

 

「胸張って明日に挑もうや」

 

思いがけない名前の羅列に、彩葉が息を呑む。

遠田は視線を落とし、少しだけ照れくさそうに、けれど確かな重みを持って続けた。

 

「せやから、そんなにビビらんでええ。

...胸を張って、明日に挑もうや」

 

それは、絶望に沈みかけていた彩葉の背中に、

遠田がそっと、けれど力強く手を添えた瞬間だった。

 

「まあ、誰も失ったことのないヤツの言葉に重みもなんもないけどな」

 

遠田は笑う。

 

どれだけ張りつめていても遠田は変わらない。

 

(いつも遠田に助けられてるな...)

 

「そうだね...

やれることは全部やった。

後は全力で抗うだけだね」

 

彩葉の手から、震えは消えていた。

 

恐怖が消え去ったわけではない。

 

ただ、隣に立つ男から勇気を分けてもらった。

 

今の彼女には、それだけで十分だった。

「ありがと。匠」

 

「おうよ」

 

短く交わされた言葉を最後に、彼らは決戦前、

最後の眠りにつくためにそれぞれの部屋へと戻っていった。

 

 

 

2030/9/12

 

かぐやの卒業ライブの時間が目前に迫る。

 

配信設備が整った部屋。

 

そこで3人は最後の準備をしていた。

 

「ねえ彩葉!匠!

これ!あげる!」

 

張り詰めた空気を打ち破るように、かぐやが声を弾ませた。

 

差し出されたのは、彼女がいつも大切に身に着けていた腕輪だった。

 

「いいの?」

 

彩葉が問う。

 

これは彼女が大切にしていたもののはずだ。

 

「いいのいいの!」

 

かぐやは笑う。

 

「腕輪って柄じゃないし、彩葉が持っとき」

 

遠田は視線を自身の端末に向けたまま、不器用に断った。

 

彼が目に装着しているスマコン。

 

レンズ自体の外見は市販品と変わりないが、その実態は魔改造の極致だ。

 

演算を担うケース本体は、ここから離れた自室のPCと太い有線ケーブルで直結され、

莫大なリソースをレンズに転送している。

 

2人を心配させぬよう同じ部屋に居ながら、

 

その目には魔改造されたスマコンという「物理の劇物」を。

 

その脳内では、ヤチヨとの神経同期という「電子の劇物」を飲み込もうとしていた。

 

物理的な装飾品を握りしめる余裕など、今の自分にはない。

 

 

 

そんな会話を最後に、彼らはツクヨミへ向かう。

 

 

 

遠田は独り、無機質な部屋にいた。

 

本来ならば彩葉と共に、KASSENに向かうための集合場所に降り立っているはずだった。

 

しかし、この世界の管理人であるヤチヨが、彼をここへ引き止めたのだ。

 

「匠...

ほんとに同期を行うの?」

 

ヤチヨが問う。

 

一歩間違えればヤチヨのシステム領域と共に、自身の命を破壊しうる選択。

 

本当に後悔しないのか。

 

月との決戦前の最後の問いだった。

 

ヤチヨは遠田に命を投げ出すようなことをやめてほしかった。

 

しかし、遠田は止まらない。

 

止める気もない。

 

「やめへんよ。

知っとる癖に」

 

迷いのない笑みを浮かべて遠田は答えた。

 

「そっか...

そうだよね...」

 

ヤチヨの声が震える。

 

それは、高度なAIが見せる精巧なシミュレートを超えた、剥き出しの感情だった。

 

「なんで悲しそうな顔すんねん。

最悪でも、俺独り消えるだけや。

ツクヨミを荒らすような問題児、一人消えてもバチは当たらんやろ」

 

遠田は自虐を含めた発言をする。

 

目の前で悲しむ彼女(ヤチヨ)を笑わせたかった。

 

しかし、返答は――

 

パチンッ

 

ヤチヨによるビンタだった。

 

「そんな風に言わないで!

そんなんじゃ...笑えないよ...」

 

ヤチヨは泣きながら、激しい怒りを露わにする。

 

「すまん。

今の発言は取り消す」

 

遠田にはそこまで気にかけてくれる理由がわからなかった。

 

だが、遠田自身を卑下するような発言では、彼女が笑えないことは理解した。

 

「分かってくれたならいいよ...」

 

ヤチヨは涙を拭い、遠田を許す。

 

そして2人は宣言する。

 

「「封印指定兵装No.XX(マスターアクセス)起動」」

 

ここに遠田とヤチヨの演算領域は統合される。

 

人の領域を超えた処理能力が実現した。

 

「ありがとう

...行って来る」

 

そう言って遠田は去る。

 

「いってらっしゃい...

無事に帰ってきてね...匠...」

 

ヤチヨの声は寂しく響く。

 

 

 

遠田は無機質な部屋から集合場所に移動する。

 

「匠、遅かったね?

何かあったの?」

 

遅れてきた遠田に彩葉が問いかける。

 

「ヤチヨと最後の打ち合わせしとってん。

んでビンタされた」

 

頬にまだ残っている(気がする)微かな熱をさすりながら、

遠田はあっけらかんと言い放った。

 

「...ヤチヨにビンタされるとか、一体何をやらかしたのよ」

 

彩葉の、そして背後で準備をしていた全員のツッコミが、声にならずに一致した。

 

 

 

そして、今、かぐやの最後で最高のライブが始まる。

 

 

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