モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方   作:超かぐや姫!脳焼きの民

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死ぬほど難産だったので初見です。

戦闘描写苦手すぎて泣きそう...

もしかしたら書き直すかもしれん...

いつも閲覧、感想、誤字報告ありがとうございます。


月との決戦、絶望の果て

 

 

「何という急展開!

突如ツクヨミに現れたフリーダム!

超新星かぐやの卒業ライブ!」

 

忠犬オタ公の、喉を枯らさんばかりの絶叫がツクヨミに響き渡る。

 

「泣いてる場合じゃないぞ!

最後のファンサだ!

目に焼き付けろ~!」

 

彗星のごとく現れ、わずか2ヶ月でツクヨミの伝説となった少女。

 

その卒業。

 

それは、ツクヨミ内外関係なく配信され、今、最も注目を集めていると言っても過言ではない。

 

KASSENのフィールド。

 

そこに聳え立つ天守閣。

 

その頂上に今日、この日、かぐやのために作られたステージ。

 

ライトアップされた先に、本日の主役(かぐや)が居る。

 

「みんな~

ありがと~!」

 

ステージの中央、主役の少女がかぐやが両手を振る。

 

「今日でお別れみたいなんだけど、

悲しくはしたくないんだ!

皆で見送って、ハッピーに卒業させて!」

 

観客たちに、自分の思いを伝えたかぐや。

 

そんな彼女の目の前に7つの桃が降り注ぐ。

 

見慣れたKASSENのリスポーン演出。

 

現れたのは、帝アキラ、雷、乃依、芦花、真実。

 

そして――

 

大好きな2人(彩葉と匠)

 

「ライブの余興!

かぐや。私たちは私たちのやりたいようにやるから。

かぐやもやりたいようにやって。

万が一勝っちゃったら、ドンキで買い出ししてパンケーキ作ろ!」

 

彩葉がかぐやに宣言する。

 

「派手に演出したるから、そこで目かっぽじって見とき!

...まあ、演出が凄すぎて主役を奪ってしもたら、そん時はすまんな!」

 

遠田が不敵に笑う。

 

今日ここで月の迎えを迎撃することをかぐやは知らなかった。

 

「そっか...そっかぁ

みんな...自由だ~!」

 

かぐやが涙を浮かべながら、満面の笑みを夜空へ放つ。

 

その瞬間、世界で一番美しくて、一番「無茶苦茶」なライブの幕が上がった。

 

 

 

何もない空に光が集まり、月が形成される。

 

月は粘りつくような液体のように歪み、渦を巻き、その中心から大型のナニカ(月人)が這い出した。

 

その掌の上にはコラボライブに出現した小型の月人。

 

さらにその周囲を、一回り大きな中型の月人たちが6体、衛兵のように固める。

 

そして――

 

中心に立つのは、大きさも形も限りなく「人」に近い、異質な月人が一人。

 

ルールはKASSEN。

 

7vs7の乱戦。

 

残機はチームで共有して3機。

 

相手の天守閣を攻め落とせば勝利。

 

非常にシンプルなルールである。

 

 

 

開戦の狼煙を上げたのは遠田であった。

 

月が出現した瞬間。

 

超高速戦術強襲支援機『エンフォーサー』を装着。

 

そして、無人弾幕防衛システム『フォートレス』と168基のビットを展開。

 

放たれたのは、マスターアクセスによって極限まで最適化された、光の一斉射。

 

「雑魚狩りはなぁ!得意分野や!」

 

遠田の咆哮がフィールドに響き渡る。

 

空を埋め尽くそうとしていた先行の小型月人たちは、

抵抗の暇さえ与えられず、一瞬で光の塵へと変えられていく。

 

運よく直撃を免れ、網の目を潜り抜けようとした個体も、

フォートレスの無慈悲で正確な弾幕が逃さない。

 

機械的な正確さで放たれる追撃により、戦場に降り立つ前にそのすべてが消滅した。

 

大型の月人の背後から無限に出現する小型の月人。

 

それを笑いながら殲滅し続ける遠田。

 

「相変わらず無法だな...」

 

味方であるはずの帝が引いている。

 

「匠ってあんな数のビット使えたっけ?」

 

彩葉は一瞬、その異常な演算処理能力に疑問を零すが、今はそれを追求している時間はない。

 

「――今は匠を信じるしかない。行こう!」

 

彩葉たちは、このライブのために用意された「自由の翼」を展開し、夜空へと舞い上がる。

 

背後で歌うかぐやをを守るために。

 

 

 

小型を殲滅している遠田を排除せんと中型たちが動き出す。

 

しかし、翼を得た彩葉たちが行く手を阻む。

 

中型の月人と言えど人より大きい。

 

だが、大きさの差など、この世界で最も自由な翼を得た戦士を捉えることはできない。

 

彩葉たちは、ひらり、はらりと蝶のように空を舞い、死角から鋭い一撃を叩き込み続ける。

 

観客の目には、歌声に合わせて夜空に軌跡を描く、極上の航空演舞(アクロバット)に見えているだろう。

 

 

しかし、月人たちも黙って屠られるだけの木偶ではない。

 

「――しまっ...!」

 

芦花が叫ぶ間もなかった。

 

球体の個体が、自らの命を弾丸に変えて上空から突撃し、彼女の眼前で爆散する。

 

視界を奪うほどの爆炎。その光を盾にするようにして、

シンバル状の武装を携えた個体が、

無防備な真実の頭上へと肉薄した。

 

叩き潰さんとする、金属同士の不吉な軋み。

 

だが。

 

「見えとんねんアホ!!」

 

爆炎を貫き、一筋のビームが月人を貫く。

 

爆発を察知した遠田がエンフォーサーの主砲を放ったのだ。

 

放たれた熱線は、芦花を包んでいた爆炎さえも飲み込み、

真実を襲おうとしていた個体を真正面から蒸発させる。

 

その周囲の空間ごと「浄化」するかのような圧倒的な破壊。

 

「遠田!ありがと!」

 

真実は感謝を述べると次の相手に向かう。

 

 

 

その間に酒寄兄妹(帝と彩葉)のコンビネーションにより、長物を持った月人を仕留める。

 

この時点で月陣営は残機を使い果たし、3体を復活させた。

 

戦場を悠然と見下ろす中心の「人型」は、まだ動かない。

 

酒寄兄妹(帝と彩葉)は次の獲物である、狛犬型の月人へ迫る。

 

危機を察知した狛犬型は奥の手を切る。

 

口の中から、禍々しい鬼のような肉体がせり出す。

 

四本の剛腕、太くたくましく変化した下半身。

 

しかし、今の全力全開の遠田にとっては、的がデカくなったに過ぎない。

 

彩葉たちからは離れた戦場で戦っていた遠田は、デカい鬼の姿を認識するや否や、

エンフォーサーの主砲の最大火力を頭部へお見舞いする。

 

変身明けの硬直を容赦なくぶち抜かれた狛犬型――ならぬ、大鬼型の出番は、

産声を上げる暇もなく潰えた。

 

 

 

 

無限に湧き出す小型を殲滅し続ける遠田は、

しかし、拭い去れない不安に駆られていた。

 

あまりにも順調すぎる。あまりにも、余裕がありすぎるのだ。

 

芦花が相手の特攻によって一度は消し飛ばされたものの、

チーム共有の残機を一つ消費しただけで済んでいる。

 

それを含めても、戦況は当初の絶望的な予測を裏切り、自分たちの優勢で進んでいた。

 

168基のビットとエンフォーサーの同時運用は遠田の限界を超えていたが、

ヤチヨとの同期のおかげで負荷を感じない。

 

圧倒的にこちらが優勢な状況。

 

相手の残機はすでにゼロ。

 

さらには先ほどの大鬼型を瞬殺したことで、盤面上の数でもこちらが上回っている。

 

なのにあの不気味な「人型」に動きがない。

 

この事実こそが不安と恐怖を駆り立てていた。

 

仲間が屠られ、陣形が瓦解してもなお、中心で佇むその異形は静止したままだ。

 

――まるで、自分たちの全力を値踏みしているような。

 

 

 

 

 

 

「なかなかに無法してるヤツがいるな。

オレが来て正解だったな」

 

人型は楽しげに笑う。

 

大型の月人の傍ら、それまで彫像のように沈黙していた人型が、初めて言葉を発した。

 

それは、感情など持ち得ないはずの月人の中で生まれた、明らかな異物。

 

夏祭りの日、かぐやがその存在を語っていた「もう1人のイレギュラー」。

 

人型は楽しげに笑い、戦場を暴れまわり、支配する遠田を見据える。

 

「アイツの相手はオレがする。

久方ぶりに楽しめそうだ」

 

そう言い残すと、人型が静かに歩き出した。

 

直後、彼の姿がかき消える。

 

 

 

「――ッ!?」

 

遠田がその攻撃を回避できたのは、文字通りの奇跡であった。

 

脳裏を焼くような不吉な予感に突き動かされ、

無意識に全スラスターを吹かして移動を開始した、その刹那。

 

これまで動かなかった人型の月人が一筋の閃光と化し、遠田がいた空間を貫いた。

 

回避は成功した。

 

しかし、身代わりとなったエンフォーサーの装甲が紙屑のように引き裂かれ、

さらにその奥に鎮座していた無人弾幕防衛システム『フォートレス』の心臓部が、跡形もなく破壊された。

 

大破したエンフォーサーから強制パージされ、地面に叩きつけられた遠田。

 

彼はフォートレスが設置されていた地面へと視線を向ける。

 

土煙が晴れたそこに、ヤツは立っていた。

 

鮮やかな青い袴を纏い、その手には光を束ねたような大型の槍。

 

ツクヨミのシステムすら追いつけない速度で戦場を横断した、人型の月人。

 

そして人型の月人が槍を掲げると、穂先に光が集まる。

 

「全員!防御態勢!!!」

 

遠田の喉が裂けんばかりの叫び。

 

直後、穂先から放たれたのは、無数の光の矢。

 

それは標的を狙う「射撃」ではない。戦場という空間そのものを一律に貫く、慈悲なき「掃討」だった。

 

光の矢は敵味方の区別なく、周囲のすべてを無慈避に打ち抜いていく。

 

「ッ、ガァアア!!」

 

シールドの展開が辛うじて間に合った遠田は、

衝撃に内臓を焼かれながらも、その一撃を生き延びた。

 

だが、視界に広がるログは、目を逸らしたくなるほどの惨状を告げていた。

 

実弾、ビーム、その双方に耐性を持つはずのシールドが跡形もなく溶解。

 

168基のビットすべてが大破。

 

さらに、戦線を支えていた真実、雷、乃依のHPが、防御の上から全損。

 

たった一撃である。

 

息をするかのように放たれた一振りが、盤面のすべてを、この世界の理をひっくり返した。

 

「あの距離で耐えるか...

いや、見事見事」

 

静まり返った戦場に、乾いた拍手の音が響く。

 

青い袴を翻し、人型の月人は心底楽しそうに遠田を称えた。

 

「煽っとんのかてめぇ...」

 

遠田は膝をつきそうになる身体を、折れないプライドだけで支え、眉間に深い皺を寄せた。

 

視界の端で、消滅していく仲間のエフェクトが残酷に散っている。

 

それを「見事」と称える男の言葉が、神経を逆なでしていた。

 

「煽りでもなんでもない。

正当な評価だと思うが?」

 

人型の月人は、心底不思議そうに首を傾げ、そしてまた楽しげに笑う。

 

「まあいい。文化の違いだろう」

 

男は槍を傍らに突き立て、値踏みするように遠田を見つめた。

 

その瞳には、かつての月人たちには欠片も存在しなかった「知性」と、強者ゆえの「愉悦」が宿っている。

 

「オマエ、名は?」

 

再びの問い。

 

それは獲物に対する興味か、あるいは同じ「無法」を冠する者への敬意か。

 

「名を聞くならてめぇが名乗ってからやろ...」

 

遠田は言葉を吐き捨て、睨みつける。

 

(こいつはやばい。

...リミッター外してでも処さんと、全員蹂躙される)

 

スマコンの最終リミッターの解除申請をヤチヨに飛ばす。

 

命に代えてでも、ここでこいつを止める。

 

突きつけられた絶望を前に、遠田の腹は決まっていた。

 

「...違いない。非礼を詫びよう」

 

追い詰められてなお、一切折れることなく牙を剥く遠田の態度。

 

それが琴線に触れたのか、男は愉悦に口角を深く吊り上げた。

 

「オレの名はヤザカマ。

戦いが趣味の技術屋だ」

 

光の槍を構え、名乗るヤザカマ。

 

「技術屋を名乗ってええ強さやないやろ...」

 

目の前の「無法」に対し、遠田は精一杯の皮肉を込めて愚痴を吐いた。

 

「名乗られた以上はこっちも名乗らんといかんよな。

俺は遠田や」

 

ハンドルネームではなく、苗字を名乗る遠田。

 

「そうか!では遠田。

心行くまで戦うとしよう!」

 

ヤザカマが神速の突きを繰り出す。

 

脳幹を直接狙ったその一撃を、遠田は紙一重で首を逸らして回避した。

 

だが、ヤザカマは止まらない。

 

突き出された槍の形状が、瞬時に巨大な戦斧へと変化する。

 

そのまま流れるような動作で繰り出された横薙ぎの一閃。

 

遠田は咄嗟に防御姿勢を取るが、まともに受け止めきれる質量ではない。

 

衝撃を殺しきれず、身体ごと瓦礫の山へと吹き飛ばされた。

 

「初見のコレを防ぐか!

月でも初見で防げたものは居ないぞ!!」

 

瓦礫を砕く衝撃音の中、ヤザカマの興奮した叫びが響く。

 

彼が携えるのは、実体を持たない「光」で構築された武装。

 

光である故に、無形、故に自由。

 

変幻自在の魔装である。

 

 

 

(嫌な予感したからギリ防げたけど...

こりゃ二度目はないわ)

 

遠田は自身の直感を信じることで、辛うじて防御を間に合わせた。

 

しかし、次も同じように対応できる保証などどこにもない。

 

ヤザカマが振るうのは、光で編まれた千変万化の武装だ。

 

ヤザカマの身のこなし、武器の形状、そしてその変化の予兆――。

 

その全てに対し、一瞬の隙も許されない極限の警戒を強いられていた。

 

 

 

ヤザカマの光の戦斧が、空を裂いて振り下ろされる。

 

遠田は、咄嗟に背後へ展開した光の翼を吹かし、紙一重で後方へと距離を取った。

 

離脱の勢いそのままに、封印指定兵装No.07の片割れ――

 

パイルキャノンをヤザカマへ向け、引き金を引いた。

 

唸りを上げて放たれる超高速の鉄杭。だが、ヤザカマは眉一つ動かさない。

 

光の武装を瞬時に盾へと変化させ、回避不能と思われたその一撃を、軽やかに逸らしてみせた。

 

「今のは危なかったぞ!

正面から受けると貫通していたな」

 

ヤザカマは愉快そうに笑いながら、光の盾を鞭のように細長く伸ばす。

 

しなやかに虚空を走ったその「光」は、遠田が次の一射を放つよりも早く、

パイルキャノンをその手から強引に弾き飛ばした。

 

「ホンマにそれズルいな!」

 

遠田は目の前の無法な光に対し、剥き出しの苛立ちをぶつけた。

 

「この光はオレの自信作だからな!」

 

ヤザカマは、最高の褒め言葉を受け取ったと言わんばかりに胸を張る。

 

その言葉に合わせるように、彼の手元の光がさらに密度を増し、

周囲の空間を陽炎のように歪ませた。

 

ヤザカマの光の槍による神速の突きが、空中の遠田へ迫る。

 

そこで、ヤザカマは我が目を疑うような現象を目の当たりにした。

 

光の槍は、確実に、寸分違わず遠田の頭部を貫いたはずだった。

 

だが、そこにダメージエフェクトは散らず、手応えすらも一切存在しない。

 

「――何だと?」

 

万能の「光」が虚空を突いた、一瞬の困惑。

 

その隙を逃さず、遠田が肉薄し、ビームサーベルを振り下ろす。

 

致命傷には至らない。だが、それは遠田が初めてヤザカマに刻みつけた、確かな有効打であった。

 

位置ずれ(量子)回避システム:『青』で自身の当たり判定をずらし、反撃の糸口を作ったのだ。

 

 

「どんな手品なのやら...

いや、答えなくていい。

自分で攻略法を見つけるのもまた一興だからな」

 

有効打を食らってなお、ヤザカマは不敵な余裕を崩さない。

 

(オレ)にとってこの戦場は遊びでしかない。

 

そんな態度に、遠田は苛立ちを感じる。

 

ヤザカマのラッシュが遠田に迫る。

 

一振りごとに形状を変える光の奔流。

 

遠田はそれを防ぎ、弾き、あるいは『青』によって透過し、猛攻の隙間を縫う

 

――だが、その連撃の最中、不意に光の散弾が遠田を包囲した。

 

轟音と共に爆炎が上がる。

 

ヤザカマは精密な連撃の合間に、逃げ場を奪う広域制圧攻撃を混ぜ込んだのだ。

 

土煙が晴れたそこには、球状のエネルギーシールドを展開して耐え忍ぶ遠田の姿。

 

「なるほど...なるほど...」

 

何かを確信したように頷くヤザカマ。

 

彼は観察をやめず、さらなる連撃を開始する。

 

戦斧の豪快な振り下ろし、薙刀の鋭い斬り上げ、槍の苛烈な突き。

 

自由自在なラッシュ。

 

そして、直剣による目にも留まらぬ二連斬り。

 

遠田は最小限の身のこなしでそれを回避し、ヤザカマの懐へと肉薄する。

 

――その瞬間、ヤザカマの口角が吊り上がった。

 

直剣の先端から、新たな槍が触手のように射出される。武器から別の武器を生み出す、文字通りの初見殺し。

 

遠田は咄嗟に『青』を発動。突き出された穂先をすり抜け、

ヤザカマの胸元にビームサーベルを突き立てようとした。

 

だが、その瞬間――遠田の身体は、側面から受けた衝撃によって激しく吹き飛ばされた。

 

「やはりな...

オマエのそのすり抜ける手品。

自身の位置を誤認させるものか

そして本体は、オレから見て一人分左側で固定されているな」

 

ヤザカマの右手には直剣。

 

そして、いつの間にか形成された左手の光の棍棒が、遠田を打ち据えていた。

 

分離し、独立して機能する光の武装。

 

それはヤザカマの推論を即座に実行に移すための、「検証」の道具でもあった。

 

 

 

――ヤザカマの推理は、半分正解で、半分は間違いだった。

 

『青』は位置を誤認させているのではない。

 

あくまで当たり判定のみをデータ上でスライドさせているに過ぎない。

 

しかし、動作軽量化のために「ずらした判定」の相対位置を固定しているという仕様上の欠陥を、

ヤザカマは一瞬の攻防で暴き出したのだ。

 

吹き飛ばされた遠田は、すぐには動けなかった。

 

この短時間、わずか数合の打ち合いで、初見のはずの『青』を完全に攻略してみせたヤザカマ。

 

その底知れない戦闘知能を前に、遠田の心は折れかかっていた。

 

(負けられへんのに...負けたらあかんのに...

俺は...)

 

先の連撃の最中から、遠田の心は、自分でも気づかないうちに深い迷いの中に沈んでいた。

 

ここで自分が負ければ、ヤザカマの矛先は彩葉たちへ向く。

 

そうなれば、戦いは終わる。

 

――かぐやが月に帰ってしまうという、最悪の結末で。

 

それだけは、阻止しなければならない。

 

脳裏に張り付いたその強迫観念が、遠田の意識をドス黒く蝕んでいく。

 

阻止しなければ

 

――俺が今日まで積み上げてきた全否定になる。

 

焦燥が、強迫観念となって遠田の意識を蝕む。

 

「もう動かないのか...

まあいい。

なかなかに楽しめたぞ遠田」

 

興味を失ったヤザカマの声は、どこまでも冷たく、軽い。

 

彼はトドメを刺す価値すら失ったと言わんばかりに、無防備な背中を晒して歩き出した。

 

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