モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方   作:超かぐや姫!脳焼きの民

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戦闘シーンがあっさりしすぎたので初見です。

まじで難産でした...

プロットの面影ないなった...

いいつも閲覧、感想、誤字報告ありがとうございます。


月との決戦、虹の向こう側

 

時はヤザカマによる無差別攻撃の後に戻る。

 

光の嵐を防ぎ切った彩葉と帝の元に、リスポーンを果たした芦花、雷、乃依が合流する。

 

真実は残機が足りず、リスポーンを果たせなかった。

 

相手の残りは5体の中型と、大型、そしてヤザカマ。

 

こちらは、真実を除いた6人と、ライブ中のかぐや。

 

光の翼のおかげで機動力は勝っているが、それ以外で圧倒されている。

 

「彩葉。お前はかぐやちゃんのとこに行け。

――残りの5体はこっちで対処する

芦花ちゃん。申し訳ないけど彩葉を頼む」

 

帝が、鋭い視線を敵群に向けたまま二人に告げる。

 

その背中には、プロゲーマーとしての冷徹な戦術眼と、

彩葉の兄としての絶対に譲れない決意が宿っていた。

 

「分かった。

芦花行こう!」

 

そうして彩葉と芦花は自軍の天守閣に向かって羽ばたく。

 

その背中を見届けた帝は、低く、重い声で自分自身に、

そして仲間に言い聞かせるように呟く。

 

「...さて。こっから出し惜しみはなしだ!

いくぞ!!」

 

帝の号令と共に、黒鬼のメンバーは鋭く散開した。

 

彼らの身体には、チートの証である禍々しい『赤いライン』が浮かび上がっている。

 

ヤチヨの許可を得た正規の「例外処理」とはいえ、

これが世に出ればプロゲーマーとしてのキャリアは終わるかもしれない。

 

だが、今の帝にとって、プロの看板など妹の幸福に比べれば塵芥に等しかった。

 

そして雷と乃依もまた、そんなリーダーの背中に、迷いなくその身を預けている。

 

三人は、五体の強敵を屠る死神へと変貌し、絶望的な戦場の中央へと突き進んだ。

 

 

 

雷はチートによって得た無制限の魔力、そして極限まで拡大された攻撃圏を駆使し、

3体の中型月人を執拗に包囲していく。

 

月人たちも黙ってはいない。

 

巨大なシンバルのような兵器を打ち鳴らし、肉体そのものを弾丸とした体当たりや、

無数の光弾で反撃を試みる。

 

雷は光の翼で空を舞い、己の武器でそれらを弾き飛ばしながら、

息つく暇もなく魔術を行使し続けた。

 

激しく隆起する大地。視界を白く染める苛烈な雷撃。空中と地上に無数にセットされた魔力地雷による連鎖爆撃。

 

その一つ一つは、強固な月人を仕留めるには至らない。

 

だが、雷の目的は撃破ではない。

 

3体の月人を一点に縛り付け、その逃げ場を奪うことにある。

 

――トドメは、乃依()に任せてある。

 

 

 

乃依は雷の戦場から少し離れた場所に居た。

 

2張の弓を合体、変形させる。

 

かつてMr.Mkのエネルギーシールドを貫通せしめた一撃。

 

それを今、自身の全スキルとチートによる過剰出力によって、限界を超えて強化する。

 

目標は雷と交戦している3体。

 

信頼に足る()がおびき寄せた獲物を、一撃のもとに消し飛ばすために。

 

13本の矢が大弓につがえられ、眩い光の中で一本の巨大な矢へと姿を変える。

 

弓の目前には、3つの魔法陣が展開された。

 

雷が予め与えていた、この一撃を加速・増幅させるためだけの携帯型魔法陣だ。

 

「帝に任されちゃったもんね」

 

軽やかな独白と共に、指が放たれる。

 

瞬間、威力だけならばパイルシステムに匹敵しうる絶技が、

大気を絶叫させながら月人たちへと殺到した。

 

 

 

雷は3体の猛攻を防ぎきったものの、その身はすでに満身創痍であった。

 

視界の端、一際大きく輝く『星』が放たれたことを、彼は確信を持って察知する。

 

「...最後の仕事だ」

 

雷は静かにつぶやくと、残された全魔力を振り絞り、武器の柄で地面を強く叩いた。

 

出現したのは、大気すらも物理的に繋ぎ止める無数の光の鎖。

 

鎖は月人たちを容赦なく縛り上げ、逃走の自由を完全に奪い去る。

 

そこへ、乃依の放った絶技が音速を超えて殺到した。

 

矢が着弾した瞬間、一帯はまばゆい白光に包まれ、

あらゆる物質を塵へと変える荒野と化した。

 

爆炎が去った後。

 

そこには、3体の月人の残骸も、雷の姿もなかった。

 

自らの命を楔として打ち込み、雷は3体の強敵を道連れに戦場から消えたのだ。

 

 

 

 

帝はチートと、棍棒を2振り展開し、2体の月人と対峙していた。

 

唸りを上げる棍棒の近接攻撃。

 

そして間髪入れずに放たれる、回避困難な極太のレーザー射撃。

 

遠近の隙を埋め尽くす猛攻の只中で、帝は不敵に笑う。

 

「――ハッ! 封印指定兵装No.02(フォートレス)の運用試験に比べりゃ、

これくらいなんてこたぁねえな!」

 

あの時、絶望の滝のように降り注いだ回避不能の実弾、

防御不能の極太ビーム、そして視界を埋め尽くしたミサイルの弾幕。

 

それら「理不尽の結晶」を相手にするのに比べれば、

今の状況はまだ、ただの「ハードモード」に過ぎない。

 

プロの反射神経と蓄積された経験が、死線の隙間を平然と縫っていく。

 

レーザー持ちを優先排除すべく、帝が爆ぜるような突撃をかける。

 

それを阻まんと、もう一体の月人が巨大な棍棒を振り下ろすが

 

――帝はそれを左手の棍棒一本で、羽虫でも払うかのように無造作に弾き飛ばした。

 

レーザー持ちも死に物狂いで光線を連射するが、今の帝には掠りもしない。

 

チートによって強化された超感覚が、発射前のエネルギー充填を読み切り、

最小限の動きでその射線を置き去りにしていく。

 

「終わりだ!!」

 

そして帝は跳躍し、2本の棍棒を振り下ろし、月人の頭蓋を砕く。

 

あとは、自身と同じ棍棒を持つ月人のみ。

 

横薙ぎに振るわれた巨大な棍棒を、帝はあえて踏み台にして跳躍した。

 

逃げ場を失った月人の眼前に躍り出ると、両手の棍棒を交互に、眼にも止まらぬ速さで叩きつける。

 

それは攻撃というより、もはや狂ったように太鼓を打ち鳴らす儀式。

 

――轟音。

 

帝が着地したその跡地には、深々と抉れたクレーターと、

もはや頭部であったことすら判別不能なほど無残に潰れ果てた月人の残骸だけが転がっていた。

 

息一つ乱さず、圧倒的な実力を見せつけた帝。

 

この瞬間を以て、戦場に跋扈していた6体の中型の月人は、全て殲滅された。

 

 

 

 

 

 

 

 

帝が最後の1体を屠り、戦場に束の間の静寂が訪れる。

 

だが、ヤチヨは管理者として、この戦場を天守閣のさらに上空から

...ただ一点だけを見つめていた。

 

ヤチヨの瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。

 

彼女が見ていたのは、帝たちの勝利ではない。

ヤチヨは、遠田がヤザカマに吹き飛ばされ、泥に塗れるその光景を凝視していた。

 

――8000年前、天守閣から見えた光景の再来であった。

 

あの日、Mr.Mk()は、変幻自在の光の武器に翻弄されていた。

 

そして敗北した。

 

それも完膚なきまでに。

 

そして、そんな結末を変えることが出来るかもしれない鍵が今、彼女の手元にある。

 

『最終リミッター』

 

これを解き放てば、歴史を、輪廻を塗り替えられるかもしれない。

 

八千年前には辿り着けなかった「その先」へ行けるかもしれない。

 

祈りに似た思いが、電子の海に溢れ出す。

 

しかし、それは同時に残酷な宣告でもあった。

 

解除すれば最後、遠田はその命の残り火を、すべて戦いの中で燃やし尽くしてしまうのだから。

 

そして。

 

ヤチヨは、その運命の鍵を、静かに回した。

 

ヤチヨの手は、激しく震えていた。

 

今、自分の手で、鍵を回してしまった。

Mr.Mk()――八千年もの間、片時も忘れず、再会を願い続けてきた大切な恩人。

 

その人を、今度は自分の意思で、二度と帰れぬ死地へと送り出してしまったのだから。

 

頬を伝う涙が、電子の海に光の粒となって溶けていく。

 

そして、今、彼女を縛る輪廻は破却された。

 

 

 

絶望の最中、遠田は奇妙なほど冷静になっていた。

 

そして、自分自身の内にこびりつく決定的な違和感に気が付く。

 

どんな逆境でも不敵に笑い、その状況すら楽しんできたのが自分ではなかったか。

 

しかし、今日。

 

――ヤザカマが現れてからというもの、一度たりとも笑えていない。

 

それが不思議でたまらない。

 

なぜ、負けられないと思った?

 

なぜ、負けたくないと思った?

 

なぜ、そんな後ろ向きな強迫観念に縛られていた?

 

なぜ――「勝ちたい」と、そう思わなかったのか。

 

(違うんや。

負けたくないでも、負けられないでもないんや...)

 

遠田は泥濘のような意識の底で、真実を掴み取る。

 

(俺はアイツに勝ちたいんや。

俺の方が優れてる。

俺の作品の方が優れてるって証明したいんや)

 

これまでの人生で感じたことのない、剥き出しの執念。

 

遠田にとって、勝負とは常に「楽しむこと」が最優先だった。

 

勝ち負けなど二の次だったはずだ。

 

今、ここにあるのはゲーマーとして強敵に勝利したいという本能。

 

同じ技術屋として、ヤザカマの光より、

Mr.Mk(自身)の作品達の方が優れているという残酷なまでの証明。

 

そして。初めて得た、魂を削り合うに値する好敵手(ライバル)を超えたいという、純粋な意志。

 

「そっか...そっか...そやんな!

アハハハハハハハ!!!」

 

遠田は、喉を掻き切るような狂った笑い声を上げた。

 

絶望も強迫観念も、その笑い声がすべてを塗り潰していく。

 

その時だった。

 

【警告:最終リミッター解除申請を受理】

 

脳髄を直接叩くような無機質な通知が、視界を赤く染める。

 

スマコンが命の安全装置(リミッター)を完全に解き放ったことを告げていた。

 

 

 

「気でも触れたか?」

 

狂ったように笑う遠田に足を止めるヤザカマ。

 

「悪いけど最初から俺の頭はおかしいわ」

 

遠田が返す。

 

その表情は今までとは違う、獰猛な笑みを浮かべていた。

 

「やっと気が付いてん

俺はな、お前に勝ちたいんや

俺の道具がお前の光より優れてるって証明したいんや」

 

遠田は封印指定兵装No.03'(ドライブユニット改修型)を展開する。

 

黒いバトルスーツを飲み込むように、硬質な銀の装甲が全身を覆っていく。

 

背部で展開された2対のV字ユニット、全身の噴出口からは、光の翼の代わりに、

白い炎のような過剰エネルギーが猛烈に噴き出した。

 

漏れ出す熱量が周囲の空気を歪ませ、陽炎の中に立つその姿は、さながら地獄から這い出た幽鬼の如く。

 

遠田は、天を衝くような声で吠えた。

 

「やからさ!俺ともっと遊ぼうぜ!!!」

 

 

遠田はヤザカマに飛び掛かる。

 

視界から消えたと錯覚するほどの、絶大な初速。

 

荒れ狂う過剰エネルギーを纏った剣『フォトンレイ』が、

空間を断ち切る音と共に振り下ろされる。

 

ヤザカマは二振りの光の剣を交差させ、フォトンレイを防ぐ。

 

「何...っ!?」

 

これまで無敵、無法を誇ったヤザカマの光に、フォトンレイの刃が深々と食い込んでいく。

 

白い炎に焼かれた光は指向性を失い、火花となって周囲に飛び散った。

 

ヤザカマは距離を取り、光弾を放つ。

 

無情にも、遠田が纏う白い炎に触れ、無散する。

 

「遠田!オマエも大概無法だな!!」

 

ヤザカマは笑う。

 

光を完全に攻略されたというのに笑っている。

 

ヤザカマの本質は遠田と変わりない。

 

有利も、不利も。勝利も、敗北も。

 

その過程に生じるあらゆる火花を、魂の底から楽しんでしまうのだ。

 

そして。

 

「ああ!楽しいな!楽しいぞ!

月とは違うな!月よりもいい!」

 

ヤザカマは喚起する。

 

ヤザカマは、喉を震わせて歓喜を叫ぶ。

 

退屈に支配された月の生活。何かに楽しみを見出し、心を繋ぎ止めるだけの空虚な日々。

 

だが今、彼は人生で最大の甘露を知ってしまった。

 

「遠田!先ほど、オレに勝ちたいと言ったな!」

 

ヤザカマは、剥き出しの闘志を込めて遠田を指差した。

 

「オレもだ!オレもお前に勝ちたい!

お前のすべてを粉砕して、オレの方が上だと証明してやる!!!」

 

ヤザカマは、溢れ出す光を己の肉体へと凝縮させ、宿していく。

 

彼の纏う袴が薄く、だが刺すような鋭い光を放ち始めた。

 

そして。

 

彼は、一振りの刀を静かに展開した。

 

その名は『月光』。

 

月明かりを反射するような美しい刃。

 

深い闇の中で月明かりを反射したかのような、

冷たく、そして透き通るほどに美しい白銀の刃。

 

極限まで洗練されたその姿は、一級の工芸品のようでありながら、

同時に一切の無駄を排した「殺害の道具」として、見る者の本能に恐怖を刻み込む。

 

「ごっつ綺麗な刀やな

それもお前が?」

 

工芸品としての気高さと、凶器としての冷徹さ。

 

その相反する美を完璧に調律した『月光』に、遠田は心底からの感嘆を漏らす。

 

「そうだ。

名は『月光』

――最高にして最強の逸品だ!」

 

ヤザカマは、愛おしむようにその柄を握り直した。

 

誇らしげなその声には、一人の造り手としての純粋な自負が宿っている。

 

かたや、荒れ狂う白い炎の剣。

かたや、月の光を宿した究極の一振り。

 

2振りの刃が交差する。

 

リミッターが外れたことで加速し続ける遠田。

 

光を宿すことで強化した肉体で加速するヤザカマ。

 

そんな2人の戦場は地上から空へと向かう。

 

激しい白と静かな青がぶつかり合う。

 

(まだ足りねぇ!

ヤザカマに勝つにはもっと早く、速く...)

 

遠田の思考は、神経が焼き切れるほどの速度で加速し続ける。

 

スマコンの過剰排熱により、眼球を直接焼かれるような熱さと激痛が視界を蝕む。

 

(熱い、痛い、痛い...

でも、楽しい!最高だ!!)

 

苦痛すらも最大の娯楽へと反転させる狂気。遠田は笑いながら、天へと吼えた。

 

「ヤチヨ!!

全部だ!!お前の全部をくれ!!!」

 

遠田は同期しているヤチヨの処理能力の全てを要求する。

 

(いいよ。ヤッチョの全部をあげる。

だから、どうか生きて...)

 

同期を通じてヤチヨの声が聞こえる。

 

その言葉を最後にヤチヨは自我を一時的に封印。

 

そのリソースの全てを遠田に預けた。

 

 

 

振り下ろされた2振りの刃。

 

本来、純粋な筋力スペックで勝るヤザカマが、鍔迫り合いで遠田を圧倒するはずだった。

 

だが、現実はその予測を無慈悲に裏切る。

 

ドライブユニット改修型の圧倒的な推力。

 

拮抗などという概念を置き去りにし、

ヤザカマの巨躯は紙屑のように後方へと吹き飛ばされた。

 

フォトンレイの突きで追撃を試みる遠田。

 

その一撃は月光により逸らされる。

 

「「ああ!楽しい!!」」

 

重なり合う2人の声。

 

ただ、今、目の前の相手に勝ちたい。

 

好敵手(ライバル)を圧倒したい。

 

その純粋すぎる渇望だけが、2人の魂を加速させていく。

 

 

 

視界の端が、熱に溶けるようにぼやけていく。

 

だが、今の遠田にとってそれは些細なノイズに過ぎない。

 

感情が肉体を突き動かし、理性が道筋を作る。

 

直感により勝利に不必要なものが捨てられていく。

 

思考により、勝ち筋が積み上げられていく。

 

遠田の思考とアバターは人間の限界まで加速していた。

 

あともう一歩加速するともう戻ってこれない領域だ。

 

そこで遠田は虹を見る。

 

もちろん、現実にもツクヨミにも虹は出ていない。

 

しかし、遠田は虹を見た。

 

(あぁ...

この先には何があんのやろ...)

 

加速しすぎた意識の中で、音もなく走馬灯が流れ出す。

 

友人と馬鹿笑いした日々。

 

姉に「お前の話は芸人のパクリや」と毒を吐かれた記憶。

 

両親と夢中になってスマコンを弄り回した時間。

 

上京し、くだらないことに絶望したこと。

 

かぐやを拾った彩葉と遭遇したこと。

 

そして、かぐやを連れた彩葉と出会い、始まった2ヶ月間の騒がしい生活。

 

最後に浮かんだのは、酒寄彩葉という女性に恋をした、あの一瞬の光景だった。

 

(ちゃうわ

この虹の先にはなんもないんや)

 

境界線の直前で、遠田の足が止まった。

 

虹を超えれば、神のごとき力を得て、人を超越できるのかもしれない。

 

だが、その先には何もない。

 

誰もいない。

 

家族も、友人も、かぐやも、彩葉も。

 

その先では笑えない。

 

「人間でたくさんやってことやな...」

 

遠田は虹に背を向ける。

 

 

 

両目からさえも凄烈な白い炎を噴き上げ、加速し続ける遠田。

 

その神速を前に、ヤザカマはもはや視認することさえ叶わず、ただ予測のみで立ち向かう。

 

(アイツの速度に合わせてカウンターを入れるしかない!)

 

ヤザカマは月光を鞘に納め、一撃必殺の居合の構えでタイミングを研ぎ澄ます。

 

そして。

 

空間を断ち切るように、銀光の一閃が放たれた。

 

タイミングは完璧――

 

そのはずだった。

 

だが、月光の刃は虚空を切り裂くのみに終わる。

 

激突の直前、虹の境界線に背を向けた遠田が、

あえてその速度を殺し、劇的な「減速」を選んだのだ。

 

予測を裏切られ、完全な無防備となったヤザカマの懐へ、遠田が踏み込む。

 

全てを燃やし尽くす白い炎の剣が、がら空きの心臓を一息に貫いた。

 

ここに、勝負は決した。

 

勝利したのは、限界を超えながらも、最後に「人間」として足を止めた遠田であった。

 

 

 

「俺の勝ちや。

ヤザカマ」

 

消えかかるヤザカマに勝ち誇る遠田。

 

「オレの負けだ。

だが、我々の勝ちのようだ」

 

天守閣を見上げ、そうつぶやくヤザカマ。

 

2人の視線の先ではかぐやの元に駆ける彩葉。

 

そんな彩葉に向かって来る月人を20のビットを巧みに操り迎撃する芦花。

 

しかし、月からの迎えはかぐやの元へ到達していた。

 

「まじか~

勝った気しねぇ~

実質引き分けやんけ」

 

「なら次の機会だな!」

 

ほとんど輪郭を失いながら、ヤザカマは不敵にほざく。

 

「もうお前とやり合うのはこりごりやで」

 

遠田は短く笑った。

 

消えゆく男に背を向け、ボロボロになった身体を引きずりながら、

彼は彩葉たちの待つ場所へと歩き出す。

 

 

 

大型の月人は、かぐやの御前へと辿り着くと、その巨躯を静かに縮小させていった。

 

伝説の騎士が主君に跪くように、月人はかぐやへ向けて深く、深く頭を下げる。

 

「はるばるようこそ

逃げちゃってごめん!」

 

かぐやは屈託のない笑みを浮かべ、まるで古い友人に話しかけるように謝った。

 

「でも、すっごい、すっごい楽しかったんだ!」

 

弾むような声。

 

この2ヶ月間、この「地上」で過ごした日々を慈しむような最高の笑顔。

 

月人の顔は能面のように無機質で、感情を読み取ることはできない。

 

だが、その静謐な佇まいからは、「それは重畳でした」と優しく微笑んでいるような、

慈愛に似た気配が漂っていた。

 

そしてかぐやは、犬DOGEと共に、ゆっくりと歩み出す。

 

迎えの

――この世のものとは思えぬ輝きを放つ光の円盤(ふね)へと。

 

 

光の円盤の中には、この激戦で撃破されたはずの月人たちが、

何事もなかったかのように佇んでいた。

 

粒子となって消えたはずのヤザカマもまた、そこにはいた。

 

「ヤザカマ~

匠とめっちゃ楽しんでたじゃん!」

 

船に足を踏み入れたかぐやが、悪戯っぽく笑いながら声をかける

 

「匠?

あ~遠田か!

めっちゃ楽しかった!

――またやり合いたいもんだ!!」

 

ヤザカマは豪快に笑い飛ばした。

 

敗北の悔恨など微塵も感じさせない、ただ純粋に「良い勝負だった」と語るその姿は、一人のゲーマーそのものだ。

 

 

 

船が浮上を始めようとしたその時、地上から腹の底を震わせるような絶叫が響いた。

 

「かぐやーーー!!!!

この2か月間楽しかったかーーー!!!!」

 

遠田が最後の確認をする。

 

共に過ごした日々。

 

十分に楽しめたか。

 

その答えだけを求めて。

 

かぐやは船の縁まで駆け寄り、地上の二人へ向けて全力で手を振った。

 

「楽しかったーーー!

彩葉ーーー!匠ーーー!

ありがとーーーー!!!!」

 

嘘偽りのない、太陽のように眩しい叫び。

 

その言葉を聞き届けた瞬間、遠田は口角を上げ、満足げに笑った。

 

「――なら結構!!!!」

 

奪われる絶望も、別れの寂しさも、その一言ですべてを撥ね退ける。

 

彼らの2ヶ月間は、月からの迎えさえも侵せない「最高に楽しい時間」として完成したのだ。

 

 

 

月へと昇り始めた船が、名残惜しむように一度だけその歩みを止めた。

 

最後、地上に言葉を遺すために。

 

「最高の卒業ライブでした!!

いっぱいお土産貰っちゃった!

みんなありがと~~!」

 

凛とした、だが震える声を、これまで応援してくれたすべての人へ、世界へと響かせるかぐや。

 

仮想空間の観客席からは、彼女を称える無数の声が、星屑のように降り注ぐ。

 

その光景を、かぐやは目に焼き付けるように見渡した。

 

「名残惜しいけどこれでおしまい!」

 

彼女はそう、力強く宣言する。

 

天守閣の足元を振り返れば、そこには遠田と彩葉がいた。

 

2人の目元には涙が浮かんでいる。

 

けれど、その表情は紛れもない笑顔だった。

 

―「お別れは笑顔で」

 

その、ささやかで大切な約束を、誰も忘れてはいなかった。

 

そして意識を現実に戻し、まだツクヨミから帰らない2人(彩葉と匠)へ告げる。

 

「大好きだよ...彩葉...匠...」

 

 

そしてツクヨミに戻ってきたかぐやに月人は天の羽衣を着せる。

 

瞬間に、彼女の瞳から生気が失われ、深淵のような月の色が宿る。

 

地上の記憶を、愛を、その温もりをすべて塗り潰していく無慈悲な白光。

 

光の円盤は夜空へと溶け、その姿を消した。

 

正真正銘の、お別れだった。

 

 

 

 

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