モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方 作:超かぐや姫!脳焼きの民
ヤザカマが宣言した1年の期間。
その期間、遠田と彩葉は並行してサブプランを進めていた。
それは――「かぐやとヤチヨの、機械的肉体の製作」
かぐやとヤチヨに、極限まで人間に近い精密な機械の体を与え、独立した個体として現実の世界に存在させること。
だが、現代の技術では「人型ロボット」は作れても、「人間と見分けがつかないレベルの機械の肉体」を構築するには、あまりに技術が足りなかった。
「...やけど、彩葉。ほんまにええんか?
法学部志望やったやん。それを工学部に変えてまで...」
遠田が入院している間、彩葉は自らの進路希望調査票を大きく書き換えていた。
高校二年の夏休み明け。
それは文理選択の最終決定を下し、人生の舵を切る実質的なリミットだった。
「いいの。
ヤチヨのことがなくたって、工学部に変える予定だったし...」
彩葉は遠田、特に遠田の左目を見つめながら答える。
「まあ、彩葉のことやし、理系に移ってもなんら問題ないやろ」
遠田の一周回った雑な信頼。
遠田のように理系特化の
そんな彼女であれば、転科のハードルなど造作もなく飛び越えてしまうだろう。
「最悪、匠に教えを乞うから」
理系教科で詰まったら、遠田を頼ればいい。
彩葉の中ではすでに、そんな算段がついていた。
こと理系教科においては信頼と実績のある遠田。
その他は...まあ...うん...
「ええで~
代わりに英語教えてくれ...」
自分から話題を振っておきながら、見る間に顔色を土気色に変える遠田。
英語に対する苦手意識、アレルギー反応が出ている。
そんな遠田を見て、彩葉は静かに笑う。
彼らのサブプラン。
それは月の技術に依存しない代わりに、膨大な時間を用いた研究開発を必要とするものだった。
今の彼らにできるのは、将来的に専門機関で研究、開発を進められるよう、その土台を作ることである。
そこから彼らの日常が駆け足で過ぎ去っていく。
まず、Mr.Mkの活動が再開された。
以前に比べれば、配信や動画の更新頻度は落ちたものの、カルト的なファンたちが彼のもとを去ることはなかった。
むしろ、その「不屈の再起」を歓迎する声さえあった。
遠田の左
視界こそ永久に失われたものの、外見上は以前と遜色のない健常さを取り戻している。
しかし、遠田がただで起き上がるはずもなかった。
早速、義眼に超小型レーザーを内蔵させ、物理的に「目からビーム」を放とうと画策。
だが、発射ボタンを押すより早く彩葉の鉄拳制裁が炸裂し、その野望は文字通り打ち砕かれることとなった。
放課後の教室では、遠田によるクラスメイトを巻き込んだ地獄の補習『魁!遠田塾』が開校。
受講した生徒たちの理系教科の成績は、驚異的な右肩上がりを見せた。
しかし、代償はあまりに大きかった。
解放された生徒たちの目からは光が消え、口々に「ケイサン、ケイサン、ケイサン...」と呪詛のように呟く、マシーンと化した姿が目撃されるようになった。
彩葉はヤチヨとのライブを行いながら、勉学とバイトに精を出した。
時には遠田母――あの工学博士のおかんに教えを乞うことで、彼女は自分自身の目標へと着実に、力強く近づいていった。
そんな生活が半年ほど過ぎ、ヤザカマから連絡が入った。
この日のためにヤチヨがツクヨミの特殊サーバー内に用意した空間。
そこにはヤチヨ、彩葉、遠田、そしてヤザカマの4人が集まっていた。
「突然の連絡にも関わらず、集まってくれたことに感謝する」
ヤザカマが静かに報告を始める。
「まず、月見ヤチヨのタケノコ型宇宙船『もと光る竹』の修理の算段が付いた。
いつでも修理可能だ」
その朗報に、遠田は安堵の溜息をつき、胸をなで下ろした
「次に、
件の隕石との衝突を確実に避けるには、2032年7月12日以降に地球に着くようにする必要がある」
ヤザカマは2つ目の課題もこなしていた。
「...最短で、かぐやが帰ってこられるようにしてほしいんだけど」
彩葉が、祈るような心地で言葉を継ぐ。
「任せておけ」
ヤザカマは、至極当然のことのように告げる。
「そして、肝心の輪廻の観測についてだが...」
ヤザカマの次の一言に、その場の全員が耳を傾ける。
ここで希望ある報告が聞ければ、彼らの物語はハッピーエンドへと王手をかけることになる。
だが、ヤザカマの口から漏れたのは、あまりに不可解な解析結果だった。
「正直なところ、現状では『判別不能』と言わざるを得ない」
彼が試みたアプローチは、大きく分けて二つ。
一つは、未来予測システムと過去観測システムの並列運用による輪廻の同定である。
これは。
一つは、未来予測システムと過去観測システムの並列運用による、輪廻の同定である。
自らの選択がどのような結末を招くかを算定する『未来予測』と、確定した事象を遡る『過去観測』。
これらを同期させることで、現在の選択が未来をどう変え、その変容した未来が翻って過去、現在へ、どのような結果をフィードバックさせるのかを観測する手法だ。
もう一つは、輪廻の系そのものを仮想展開し、今回の条件で「輪廻の檻」の外へと脱却できるかを確認する箱庭シミュレーション。
幾重もの演算試行を繰り返した。
だが、導き出された結論は、奇妙という他なかった。
「輪廻の外にある可能性が約4割。そして残りの約6割は、観測不能...。
断っておくが、輪廻の範疇に留まっているという『否定的な結果』が出たわけではない。
ただ、予想だにしなかった現象が起きている」
「それって、計算条件とか、境界条件的なもんがおかしい説ない?
それによるエラーとかあるやろ?」
ヤザカマの結果に、遠田はシミュレーションでよくあるミスについて問う。
計算条件がおかしくて、結果がイカれたものになりました!はよくあることだ。
「それはありうる。
故に残りの半年でどうにかしてみせよう」
ヤザカマは迷いなく遠田の問いを肯定する。
「すまん、頼んだ」
その一言を最後に、この日の会合は幕を閉じた。
そして、また日常が始まる。
遠田と彩葉の生活に、表面上の大きな変化はない。
強いて言うなら、遠田の志望校が
遠田のスペックをもってすれば、国語を底上げし、件の英語アレルギーを克服しさえすれば、それは決して夢物語ではなかった。
この理系の
――もっとも、本人の精神的余裕については、一切考慮されていないのだが。
こうして、遠田の英語アレルギー克服を掲げた彩葉塾が強行開催された。
彩葉の端正な顔立ちに癒やされるという飴と、容赦なく浴びせられる英文法の鞭。
遠田の脳内では、眼福による多幸感とアルファベットへの拒絶反応が激しく衝突し、かつてない異常事態が発生していた。
そうしてまた半年が過ぎた。
2031年10月1日。
約束の日であり、計画実行の可否を決する最終期限。
特殊サーバー内に構築された空間には、ヤチヨ、彩葉、遠田、そしてヤザカマの4人が顔を揃えていた。
「この1年で得た結果について共有する」
ヤザカマが静かに語りだす。
「未来予測と過去観測の併用による輪廻の同定の結果、7割ほどの確率で輪廻から脱している。
残りの3割は未だに観測不能となった」
ヤザカマは淡々と、しかし確かな数値を並べていく。
「また、箱庭シミュレーションによる輪廻の同定の結果、9割以上の確率で輪廻から脱している。
こちらも同様に、残りの1割未満、観測不能という結果であった」
全員から声が漏れる。
「総評として、メインプランの成功率は8割を超えるとみていい。
オレ個人の意見として、メインプランの続行で構わないと考える」
ヤザカマは、かつてないほど明確にメインプランへの肯定を示した。
だが、その劇的な精度の向上に、遠田は微かな違和感を抱く。
「...結果がええのは嬉しいんやけど、なんでそんなにシミュレーションの精度が上がったんや?
その原因が分からんままやと、手放しには喜べん」
遠田は、前回の報告から大きく変化したシミュレーションをどこまで信じていいのか迷っている。
遠田の問いに、ヤザカマは待っていたと言わんばかりに応じた。
曰く、箱庭シミュレーションの条件を変化させた。
前回までの条件は、遠田がヤザカマに勝った時点までの輪廻を計算していた。
今回のシミュレーションでは、その後、遠田が左目を失い、ヤザカマに協力を持ちかけるところまでを計算条件に含めた。
「余談だが、どの変化が最も輪廻に影響を与えたかを調査してみた。
遠田の左目の喪失が最も輪廻から外れる要因となっているようだ」
ヤザカマの説明を聞き、遠田は深く得心した。
あの時、あの戦いで左目を失ったことが、決して無駄ではなかったという証明。
その事実が、遠田の心を何よりも深く、静かに安堵させた。
「そして、ここからはオレなりの『観測不能』についての考察だ。
恐らくだが、『観測不能』となったのは、パラドックスの発生により、世界が破綻し、消失した可能性がある。
観測すべき世界が、そこには存在しなかったのだ」
ヤザカマが『観測不能』について、自身の考察を述べる。
観測するものが消失したため、観測不能となったと考えたのだ。
誰かが小さく息を呑む音が静寂に響いた。
失敗すれば、ハッピーエンドどころか世界ごと消え去る。
その事実が、ずしりと全員の肩にのしかかる。
だが、そんな極限状態の中で、一人だけ反応の違う男がいた。
我らが遠田である。
「やったらやり得やん。
成功すればハッピーエンド。もしミスっても、世界ごと全部消えるんやろ?
ほんなら誰にも怒られんし、文句言う奴もおらん。
実質、ノーリスクやん」
あまりにも救いようのない、カスのような思考。
彩葉は深い、深いため息をつき、天を仰いだ。
しかし、遠田のカス発言により、意思は固まった。
メインプランの実行へと舵を切った
かぐやが月の仕事を引き継ぎ次第、2032年7月12日の夜に地球に着くように、約38万kmの距離と、時間を超えた帰還が始まる。
その時、ヤザカマもまた『もと光る竹』の修理リソースを携え、合流することとなる。
そして訪れる高校3年の冬。
親と担任、そして生徒が膝を突き合わせ、将来という名の現実を決定づける最後の三者面談の時期がやってきた。
彩葉の指先は、緊張で微かに震えていた。
長年確執のあった母に対し、自分が本当にやりたいこと、そしてそのために歩むべき道を、真っ向からぶつけるのだ。
そんな彼女の背を、遠田はいつもの調子で押してくれた。
「流石に家庭の事情にまで首は突っ込めへんけどな。
...でも、彩葉なら大丈夫や。自信持って行ってこい!」。
その言葉をお守りのように携えて、彩葉は
左目を失った
iPS細胞と機械を組み合わせた、真に『視る』ことのできる義眼を作りたいと。
そのために東京大学の工学部を目指し、将来は情報理工学系研究科で研鑽を積むのだと。
さらに、その研究の過程で仮想空間における味覚、嗅覚、触覚を完全に再現してみせるのだと。
既に、同分野の先駆者である遠田美海博士から協力の約束を取り付けていることまで、一息に告げた。
――それが、私の選んだ道なのだと。
「ええよ。やってみ」
酒寄紅葉は彩葉の決意に反対することはなかった。
三者面談を終え、彩葉と酒寄紅葉が校舎を後にしようとした、その時。
紅葉にとっての「地獄」が、向こうから全力でやってきた。
「あら!彩葉ちゃんやん!
さっきまで面談やったん!?」
背後から響いたのは、豚骨ラーメンよりも脂っこく濃いキャラクターの持ち主
――遠田の母にして、天才工学博士、遠田美海である。
「お隣はお母さん?
いやぁ、親子そろって美人さんやな~」
彩葉の返答を待たず、アクセル全開で喋り倒す遠田母。
対照的に、紅葉の端正な顔は引きつり、硬直していた。
「え、え~と、この人がさっき話に出てきた遠田美海博士...」
彩葉は、目の前の「怪物」を困惑気味に紹介した。
彩葉にとって、母・紅葉は常に完璧で強大な存在だった。
だが今、その母の目は見たこともないほど見開かれ、「え、この人が? 博士? 嘘でしょ?」と語りたげに泳いでいる。
「初めまして~!
遠田美海と申します!
息子が彩葉ちゃんにはお世話になってて、もうほんまに~~~!」
遠田母のマシンガントークにタジタジな酒寄紅葉。
彩葉はそんな光景を見て、笑みをこぼす。
最強はやはり遠田母か。
「おかん!どこで油売っとんねん!
時間過ぎてるわ!アホ!!」
そんな地獄に光が差し込む。
カオス極まる地獄に、一筋の光が差し込む。
予定時刻を過ぎても現れない遠田母を、実力行使で連行しにきた遠田匠その人である。
「だれがアホか!
こんなんでも工学博士や!」
「博士なんやったら時間ぐらい守ってくれへんか!!」
美海の反論に、遠田が鋭いツッコミを叩き込む。だが、美海も負けてはいない。
「匠こそアホ言うたらあかんで!
大体な、博士課程まで進むような奴がまともなわけないやんか!」
「開き直るな、このバカ親がぁぁ!!」
校舎の廊下に響き渡る、親子揃っての怒号。
高尚な学術の徒とは思えないその低レベルな言い争いに、酒寄紅葉の引きつった表情は、もはや困惑を通り越して虚無へと至っていた。
「ホンマにうちの母がすんません...
ちゃんと言い聞かせとくんで...」
遠田が深々と、紅葉に対してぺこぺこと頭を下げる。
そうして、嵐の元凶である遠田母を文字通り引きずるようにして、その場を去っていった。
「彩葉...
あんたが助けたいって言ってたんがあの子?」
「う、うん。そうだけど...」
彩葉の歯切れの悪い返答に、紅葉は遠くを見つめるような目で頷いた。
「そうか...
あの子と絡むのに文句はつけん。
けど、あの博士と関わるのなら、私が居ないとこでして...」
完璧主義を誇った母のプライドが、遠田母という「劇物」によって粉々に粉砕されている。
もはやトラウマの領域に足を踏み入れている母の姿に、彩葉は複雑な心境を抱く。
だが、現実は非常である。
遠田母にタゲられたものは、遠田母から逃げることができない。
ましてや「こいつ、おもろい奴やん!」と、その好奇心のアンテナに引っかかってしまったのなら、なおさらのこと。
逃げ場のない「日常」が、紅葉の背後に忍び寄っていた。
ちなみに遠田の三者面談は、途中から技術会議になり、担任が置いてけぼりとなった。
時は少し飛び、3月上旬。
東大の合格発表まであと数分。
遠田と彩葉は、自宅でその時を待っていた。
張り詰めた緊張感...などは微塵もなく、二人の胸中にあったのは「まあ、受かってるやろ」という極めて不遜な、しかし確信に満ちた予感だけだった。
それほどまでに、二次試験の手応えは完璧だったのだ。
そして、運命の時刻。ブラウザのページが更新される。
スマートフォンの画面に浮かび上がったのは、2つの受験番号と、簡潔な「合格」の2文字。
予想通り、遠田と彩葉は揃って東大理科一類への切符を手にした。
日本最高峰の難関を「案の定」の一言で片付けてしまうあたり、やはりこの2人の感覚は、どこまでも常軌を逸していた。
「これで、また一歩近づいた...」
それでも、志望校に受かったこと、目標に近づけたことは、嬉しいのだろう。
彩葉の顔に笑顔が浮かんでいる。
「前から聞きたかってんけど、彩葉のやりたいことって、なんなん?」
不意に、遠田が問いかけた。
彩葉はこれまで「やりたいことがある」と口にしながらも、その具体的な中身を彼にだけは明かしてこなかった。
「私のやりたいこと...
私は...匠の左目を治したい。
匠がもう一度、両目で世界を見ることができるようにしてあげたい」
迷いのない言葉に、遠田は絶句した。
遠田母と定期的に連絡を取っていることは知っていた。
しかし、それはツクヨミに味覚、嗅覚、触覚を実装することだと思っていたのだ。
遠田の顔に、形容しがたい申し訳なさが広がる。
「やりたいこと」や「楽しいこと」を至高の価値観とする彼にとって、自分の負傷が原因で彼女の進路を縛り、歪めてしまったのではないかという懸念は、あまりにも残酷な毒として胸に突き刺さった。
「違う!」
その思考を、彩葉の鋭い声が断ち切る。
「私がやりたいから、そうしたいからしてるだけ。
だからそんな顔しないで...」
彩葉は一歩踏み込み、遠田の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「私はね...匠のことが好き...
好きだから...笑っていてほしいし、ちゃんと目が見えるようにしてあげたいって思ったの」
至近距離で放たれた直球の言葉に、遠田の顔が一気に朱に染まる。
「い、彩葉って...かぐやのことが...」
動揺のあまり、思考回路がショート寸前の遠田が絞り出す。
「かぐやも好きだよ...ヤチヨも...
でも、その感情と、匠への感情は違う」
「彩葉...俺は...俺も...」
そうして、運命の7月12日。
かつて彩葉たちがかぐやを拾ったあの日と同じ、因果の巡り合わせ。
遠田、彩葉、芦花、真実、酒寄朝日、駒沢雷、乃依兄弟――
そして、スマホ越しにヤチヨ。
あの卒業ライブを共に作り上げたメンバーが再集結し、固唾をのんで夜空を見上げていた。
「...なんか数多くね?」
遠田が怪訝そうに空を指差す。
彼らの視界に飛び込んできたのは、夜の帳を虹色に切り裂く
かぐやとヤザカマの分で2つ、ヤチヨの『もと光る竹』の修理用と仮定してもう1つ。
――ならば、最後の一つは何なのか。
「あれ?爆ぜた??」
真実が呆然と呟く。
。
先頭を駆けていた流星が突如として軌道を変え、中空で鮮烈に爆散したのだ。
集まった8人の脳内は疑問だけが残る。
困惑が一同を支配する間もなく、残る3つの光が彼らの目前へと降り立った。
目の前には3つも『もと光る竹』。
そのうち二つから溢れ出した光の粒子が、瞬く間に人の形を編み上げていく。
「彩葉~!匠~っ!」
懐かしい、鈴の鳴るような声。
実体化を終えるなり、かぐやが全速力で二人の元へと駆け出した。
その背後では、ヤザカマもまた静かに肉体の構築を完了させている。
本来ならば、涙なしには語れない再会の抱擁となるはずだった。
だが、この作品がそんな予定調和で終わるはずがない。
再会の喜びで加速しすぎたかぐやは、ブレーキを忘れて彩葉と遠田に激突。
「ちょっ、かぐ...っ!」
制止の声も虚しく、もつれ合うようにして三人は地面へと崩れ落ちた。
「...ぐぇっ」
静寂を破ったのは、感動の再会に相応しくない遠田の濁った声。
倒れ込んだ際、かぐやの肘が見事な角度で遠田の鳩尾を捉えていた。
「...帰るか」
誰かがそうつぶやくと各々解散していく。
どうあがいても感動の再会の雰囲気ではなくなったのだ。
「ヤチヨ、竹の場所まで案内を頼む」
ヤザカマは滞りなく、この旅の最後となる仕事へ向かう。
遠田たちもまた、未だに鳩尾をさすりながら、その後を追った。
そしてヤチヨの『もと光る竹』があるアパートの部屋に到着。
そしてヤザカマが修復作業を開始する。
その隣ではかぐやも修復作業を手伝っていた。
遠田は鳩尾をさすっている。
やがて、部屋を満たした光の粒子が、一つの輪郭を編み上げていく。
それは電子の海から解き放たれ、ついに肉体を得て現実世界へと降り立った、ヤチヨその人の姿だった。
「彩葉、匠...ただいま」
ヤチヨにとって、八千年ぶりとなる現実世界での再会。
その一言が、欠けていた最後のピースを埋めるように響いた。
ここに、ひとつのハッピーエンドが完成した。
かぐやが八千年の孤独な旅路を辿ることもなく。
ヤチヨが消え去ることもなく。
彩葉、遠田、かぐや、ヤチヨ。
4人が共に笑い、明日を語り合える未来が、今ここに、確かな形として成立したのだ。
「聞きたいことがあるんやけど...」
遠田は爆発したもと光る竹についてヤザカマに問う。
「帰還ルートを計算しているときにな。
あの隕石が地球に衝突する可能性が出てきたんだ。
だから、
ヤザカマは事も無げに言い放つ。
そんな会話の裏で、彩葉もまた、かぐやに抱いていた疑問をぶつけていた。
「ねぇ、かぐや。私たちがヤザカマと連絡している時に、かぐやも来ることができなかったの?」
「ん~っとね、できたけど、彩葉と匠に会うのは仕事をきっちり片付けてからって決めてたから!!」
かぐやは自身で決めたルールを守るために、あの会議に参加しなかったと告げた。
「そんなことよりさ!早く帰ってパンケーキ食べよ!!」
かぐやが子供のように走り出す。
彼女にとっては、約80年ぶりとなる待ちに待ったパンケーキだ。
「いいね!ヤッチョも食べたい!」
「はいはい、材料はちゃんと用意してるから焦らなくてもいいのに...」
はしゃぐ二人を追いながら、彩葉が優しく微笑みかける。
「...あ! やっぱり、彩葉の顔、なんか大人になってる!」
不意に振り返ったかぐやが、鋭い指摘を飛ばした。
照れくさそうに笑う彩葉、それを少し離れて見守る遠田とヤザカマ。
そんな、なんてことのない、けれど二度と手放したくないかけがえのない日常が、これからもずっと続いていく。
遠田がヤザカマと好き勝手やって、ヤチヨに2人そろって簀巻きにされたり。
遠田の左目の違和感に気づいたかぐやが少し曇ったり。
彩葉をめぐって、遠田vsかぐやvsヤチヨvs帝という、救いようのない四つ巴の抗争が勃発したり。
...彼らの騒がしい日常は、まだまだ、どこまでも続いていくのだ。
さらに、8年の月日が流れた。
『万能の天才』あるいは『現代のダ・ヴィンチ』。
そう称されるまでになった遠田彩葉の手によって、ついに新たなる義眼が発表された。
iPS細胞によって視神経や角膜、網膜を再生し、欠損部を精密な機械で補完する。
真に『視る』という機能を取り戻した、人類の英知の結晶。
その記念すべき第一号を装着したのは、彼女の夫であり、かつて左目を失った男――遠田匠だった。
ついでと言わんばかりに、右目の損傷した角膜も修復された。
長年連れ添った眼鏡との別れ。
遠田匠は、実に10年という歳月を経て、再び両の眼でこの世界を捉える力を取り戻したのだ。
ハッピーエンドを掴み取るために、自ら刻んだ傷跡。
それすらも、愛と技術によって過去へと変えられた。
欠けることのない光に満ちた、真のハッピーエンド。
それは、彼らの手によって、今この瞬間に創り上げられたのである。
原作:超かぐや姫!
モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方
これにて完結!
拙作をここまで読んでいただきありがとうございました。
初めて書いた作品ながら、多くの方々に読んでいただき、大変恐縮です。
感想誤字報告ありがとうございます。
ものすごい励みになりました!
今後、ゆっくり番外編を書いていきます。