モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方 作:超かぐや姫!脳焼きの民
番外編の内容がどうしても短くなる。
完全新規でストーリー考えるのムズイ...
いつも閲覧、感想、誤字報告ありがとうございます。
小説版読み終わったよ...
涙止まらんかった...
彩葉...お前は幸せになるんや...
遠田家は4人家族である。
我らが遠田ァ!こと、遠田匠。
工学博士であり、豚骨ラーメンの如く濃いキャラを持つ遠田母こと、遠田美海。
優しそう、常識人そうな見た目をしてる癖に、思ったより常識人じゃない遠田父こと、遠田
そして、この話の主人公である遠田姉こと遠田
遠田叶華は遠田匠の2つ上の姉である。
彼女は、母譲りの美貌、文武両道を武器に同学年の視線を釘付けにする魔性の女であった。
だが、その瞳の奥に宿る真理は、愛でも恋でもなく、ただ一つの笑いに捧げられていた。
遠田叶華は「しゃべくり漫才」のみを正道とする、しゃべくり漫才狂信者であった。
センターマイク1本。
誤魔化しの利かない言葉の応酬。
肉体と喉のみで空間を支配するその様こそが正道であり、それ以外の笑い
――コント、リズムネタ、ましてや日常のハプニングなどはすべて「不純物が混じった邪道」と切り捨てる。
対して、弟の遠田匠はこの世界の全てに笑いの種を見出し、形にこだわらず面白ければそれでいいと豪語する。
しゃべくり漫才のみを至高とする叶華。
無限の笑いと究極の一。
混沌の肯定と純粋の追求。
笑いを起こすエンターテイナーと笑いを追求する求道者。
相反する主義を抱えるこの2人が分かりえることなどない。
分かり合うどころか、互いの存在を認められず、排除し合う仲である。
遠田姉弟の仲が拗れたのは遠田匠が小学2年生の頃。
当時の遠田少年は、家の中でいつも凛として、どこか冷めた視線を投げかける姉・叶華の「笑顔」を見たことがほとんどなかった。
そのため、姉を笑わせたいと思ったのだ。
学校でやればクラス中がひっくり返るほどウケる、今をときめく芸人のリズムネタ。
自信満々で、全力のパフォーマンスを姉の前で披露した。
それが、彼にとっての地獄の門を開く鍵になるとも知らずに。
「...お前はそれがほんまにおもろいと思ってんの?」
当時10歳の叶華から放たれたのは、熱を帯びた怒りではなく、絶対零度の蔑みだった。
「しょーもないネタとしょーもない奴がやった所でなんもおもんないわ...
そんなんやからお前はおもんないねん」
『おもんない』
関西という土地において、この五文字は単なる感想ではない。
存在意義の全否定であり、魂の抹殺宣告だ。
「お前には何の価値もない。今すぐ死んだほうがええ」と同義の、最大級の侮蔑。
大好きな姉を笑わせようとした純粋な善意は、その一言で粉々に粉砕された。
遠田少年のメンタルは、木っ端微塵に崩壊した。
「...う、うあああああああああん!!」
彼はそのまま、帰宅した父・健夫の足に縋り付き、過呼吸になるほど泣き叫んだ。
遠田少年にとってこの出来事は、生涯において絶対にして唯一の絶望にしてトラウマであった。
これをきっかけに遠田姉弟の仲が拗れ、互いを否定せんと争いを続けた。
弟・匠の心をバッキバキにへし折った遠田叶華。
その凶器のごとき毒舌は、血の繋がった身内だけに向けられたものではなかった。
中学、高校時代。母譲りの美貌に惹かれ、勇気を振り絞って告白してきた男子生徒たちに対しても、彼女は一律に「処刑宣告」を下してきた。
「お前みたいなおもんない奴が、私に告白する権利を持ち合わせると思ってんの?
しゃべり磨き直してから出直してこい」
淡い恋心とともに差し出された花束を、笑いの理論という名の重機で粉砕する。
告白した男子たちは、恋愛対象として見られないこと以上に「人間としての面白さ」を否定され、再起不能のトラウマを植え付けられた。
まさに笑いの狂犬。
色恋沙汰など、低俗で非論理的な時間の無駄。そう断じてきた彼女に、人生最大の転機が訪れる。
大学進学を機に、叶華は笑いの本場・関西を離れ、東京へと居を移した。
そこで彼女を待っていたのは、これまでの人生で一度も経験したことのない「衝撃」だった。
出会いの相手は駒沢雷。
180cm近い長身に、整った顔立ち。
一見するとクールで寡黙なモデル風の男だが、いざ会話をしてみれば、
相手の言葉を拾うセンス、間、そして何より、過度な主張をしないのに場を和ませる「ノリの良さ」を兼ね備えていた。
「……っ」
雷と初めて言葉を交わした瞬間、叶華の脳内に激震が走った。
整った顔立ち以上に、彼の性格に叶華のハートは文字通り鷲掴みにされた。
だが、ここで叶華は冷静になる。
(...あかん。今のままの私やったら、仲良くなることすらできん!)」
彼女は自覚していた。
自分の性格が、お笑い界の極北に住まう狂犬であり、およそ万人受けするものではないということを。
愛する「究極の一」を貫く代償として、周囲を焼き払ってきたこれまでの自分。
そこからの叶華の変貌は、劇的だった。
圧倒的口撃力をもつ毒舌は鳴りを潜め、尖っていた漫才至上主義は軟化していった。
叶華と雷の相性は、まるで精密に計算された漫才の台本のように、完璧な噛み合わせを見せていた。
叶華の趣味は、各地の劇場を巡り、生で漫才の熱量を肌で感じること。
対する雷の趣味は旅行。
「劇場がある街へ旅をする」という共通の目的が、二人の距離を加速度的に縮めていった。
新幹線の隣同士で座る時間も、地方の小さな演芸場のパイプ椅子で肩を並べる時間も、叶華にとっては夢のようなひとときだった。
何より叶華を驚かせたのは、雷の底知れない包容力だった。
雷との待ち合わせ場所。
少し気合を入れすぎて早く到着してしまった叶華の美貌は、案の定、獲物を探すハイエナたちの目に留まった。
「ねえ、お姉さん一人? この後どっか行かない?」
「格好いいじゃん、モデルさん? LINE教えてよ」
(喋りは下手やし...そもそも一言もおもんない...こんなんでようナンパとかできんなこの阿保ども...)
叶華にとって、今日は大切な雷とのデート。
その神聖な待ち合わせ時間を、この「おもんないカスども」に汚されているというストレス。
それが臨界点を超えた瞬間、彼女が必死に被っていた「清楚な女子大生」の皮が、音を立てて弾け飛んだ。
「さっきから黙って聞いてりゃペチャクチャうるさいねん!!
そのおもんないことしか言えん役立たずの口、今すぐこの場で縫い付けたろか!?」
周囲の空気が一瞬で凍り付いた。
清楚なワンピース姿の美女から放たれたとは信じがたい、ドスの利いた関西弁と、魂を抉るような罵詈雑言。
「な、なんだよ急に...」
「お前、見た目と全然違うじゃねーか!」
「見た目通りやったら大人しくナンパされてるとでも思ったんか!?
おめでたい脳みそしてんなぁ、自分ら。
あんな、笑いの取れん男に割く時間なんて、私には1秒もありゃせんのや。...とっとと失せろ、この粗大ゴミども!!」
相手の性格、価値、そしてこれまでの人生すら一瞬で全否定しうる猛毒。
かつて弟の心をバッキバキに粉砕した「狂犬」の牙が、東京の街角で剥き出しになった。
ナンパ男たちが恐怖に顔を引きつらせて逃げ出そうとした、その時。
「叶華?大丈夫か?」
背後から、聞き慣れた、けれど今は一番聞きたくなかった穏やかな声が響いた。
振り返れば、いつも通りの顔で歩いてくる雷の姿。
叶華の脳内に、最大級の警告音が鳴り響く。
(終わった...さらば私の初恋...)
「おもんない」と吐き捨て、相手の存在価値まで否定する狂犬の本性。
これを見られて、引かない男などこの世にいない。
そう確信して絶望の淵に立った瞬間、視界に聞き慣れた背中が割り込んできた。
叶華の肩にそっと手を置き、ナンパ男たちを射抜くような視線で制する雷。
「悪いが彼女は俺の恋人だ。
...何か彼女に用があるなら、俺が聞こう」
「えっ...」
叶華は呆気にとられた。
二人はまだ、付き合ってすらいない。あくまで気の合う「お友達」のはずだ。
それなのに、雷は迷わず言い切った。
自分の毒舌に引くどころか、窮地に立たされた(実際は相手をなぎ倒していたのだが)自分を守るために、「恋人」という嘘を吐いてまで矢面に立ったのだ。
「っ...、ぁ...」
叶華の顔は、一瞬で沸騰したように朱く染まる。
これまで、乱れたことのない心臓が、今にも爆発しそうなほど高速で鼓動を打ち始めた。
「ちっ、男居んのかよ! 行こうぜ!」
捨て台詞を残し、ナンパ男たちがクモの子を散らすように撤退していく。
静まり返った待ち合わせ場所。肩に置かれた雷の手の熱だけが、やけに鮮明に伝わってきた。
「すまない。遅くなった。
怪我はないか叶華?」
雷はいつもの穏やかな調子のまま、真っ直ぐに彼女の目を見て心配する。
その瞳に、軽蔑や恐怖の色は微塵もなかった。
「...雷は、引かへんの?」
先ほどまでの威勢はどこへやら、叶華の声は小さく震え、今にも消えてしまいそうだった。
「あんな罵詈雑言を並べ立てる、私なんか...清楚でもなんでもない、ただの口の悪い...性格の悪い女やで...」
視線を地面に落とし、自分の靴先を見つめる。
せっかく手に入れた、雷との温かい時間。
それが自分の「業」によって壊れてしまったという自責の念が、彼女の胸を締め付ける。
だが、雷はふっと短く、けれど優しく笑った。
「そうか?俺はかっこいいと思ったんだが...」
「...えっ?」
叶華が驚いて顔を上げると、そこには嘘偽りのない、感心したような雷の表情があった。
「あそこまでしつこい2人に啖呵を切れるのは、叶華が自分の芯をしっかり持っている証拠だろう。
俺としてはそんな叶華の方が好ましい」
雷の口から自然にこぼれた「好き」という言葉。
漫才の論理でも、技術論でもない。ただ一人の男としての、絶対的な肯定。
「...っ、ほんま...そんなセリフ吐いて恥ずかしくないんか...」
叶華は再び俯いたが、今度は絶望からではない。
沸騰しそうなほど熱くなった顔を隠すためだ。
「...でも。...ありがと...」
彼女は震える手で、雷のシャツの袖をぎゅっと掴んだ。
雷によってかつて狂犬とまで呼ばれた叶華の牙が完全に抜かれ、1人の恋する少女になった瞬間であった。
この劇的な事件を境に、叶華と雷は正式に交際を始めた。
それからの二人は、まさに「理想のカップル」そのものだった。
時間が合えば二人で全国各地へ旅行に出かけ、名所を巡り、その土地の美味しいものを食べる。
そして旅の締めくくりには、必ず現地の劇場へと足を運び、生の漫才を楽しむ。
「アレは今後売れるで。まだ面白さがバレてへんだけやな」
「そうだな。2人の間の取り方、声のトーン。
どれをとっても素晴らしかった」
地方の小さな演芸場からの帰り道。
夕暮れの街を歩きながら、2人は今日の興行を振り返る。
かつては「おもんない」と切り捨てていた他人の芸も、雷の隣でなら、純粋なエンターテインメントとして楽しめるようになっていた。
毒舌が消えたわけではない。
ただ、その名刀の如き鋭利な言葉は、雷という「最高の鞘」を得たことで、無闇に周囲を傷つける刃から、二人の日常を彩る心地よいスパイスへと変わっていったのだ。
尚、愚弟に向ける刃は、鈍る事なく、常に研がれている。
遠田姉弟の喧嘩は終わる事を知らない。