モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方 作:超かぐや姫!脳焼きの民
やっぱりストーリーを一から考えるの難しい...
一時創作やってる人らすげぇや
今後は目指せ2日に1投稿でやっていきます...
いつも閲覧、感想、誤字報告ありがとうございます。
「ねえ、芦花と真実から『来週に海に行かない?』って誘われたんだけど、どう?」
リビングに集まった面々に、彩葉がスマートフォンの画面を見せながら問いかける。
8月の頭、夏休みが始まって誰もが遊びたがる頃。
届いたのは、親友の芦花と真実からの、至極真っ当で夏らしいお誘いだった。
「かぐや行きた~い!」
「ヤッチョも行きたいな~」
真っ先に反応したのは、かぐやとヤチヨだ。
2人は椅子から身を乗り出すほどの勢いで、非常に乗り気である。
かぐやにとっては、実に80年ぶり。
ヤチヨに至っては、驚愕の8000年ぶりとなる海水浴である。
気の遠くなるような歳月を経て、再び波打ち際へ。
この千載一遇の好機、逃すはずも、逃させるはずもないのである。
「ヤチヨの水着ってないね。今度買いに行こう」
「彩葉~、私たちの水着も新調しよ~」
盛り上がる女子陣の傍らで、遠田は何とも言えない気まずそうな表情を浮かべていた。
考えてみてほしい。
現状の参加メンバーは、彩葉、かぐや、ヤチヨ、そして誘い主である芦花と真実。
全員、女性、しかも美少女である。
そんな中に野郎1人で混ざるのはハードルが高い。
「いや~俺はええわ。5人で楽しんでき」
遠田は、これ以上ないほど自然なトーンで辞退の言葉を口にしようとした。
だが、言葉を最後まで紡ぐことは許されなかった。
彩葉、かぐや、ヤチヨ。三対の視線が、逃走経路を完全に遮断する。
「匠も行くよね!?行こ!!」
拒否権などという概念は、今のかぐやには存在しない。
80年ぶりの海を前にした彼女のテンションは、物理法則すら書き換えかねない勢いだ。
「いやいやいや、流石に野郎1人は気まずいって!」
「でも、今とあんまり変わんなくない?
だって、この家で男って匠1人じゃん?」
遠田の必死の抵抗を正論パンチで粉砕するかぐや。
ぐうの音も出ない。
確かにこの共同生活において、彼は常に紅一点ならぬ黒一点状態。
海に行こうがリビングにいようが、構図自体は変わらないのだ。
「もしかして、匠は彩葉と2人きりで行きたいの?
いや~ヤッチョもその気持ちわかるよ~」
さらに、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべたヤチヨからの追撃。
「い、いや...否定はできひんし、せえへんけど...」
なんとか絞り出した遠田の反論は、語尾が消え入りそうなほどに弱々しい。
その顔は、夕焼けを先取りしたかのように朱みを帯びていた。
そして、その当事者である彩葉もまた、耳の付け根まで真っ赤に染めている。
リビングに漂う、甘酸っぱくも気まずい沈黙。
遠田は決死の覚悟で、妥協点を探し出した。
「ヤ、ヤザカマとか黒鬼の面々も誘ってもええか?
そうやと、男女比がトントンになるねんけど...」
必死の形相で提案する遠田。
それはもはや相談ではなく、溺れる者が藁を掴むような懇願に近い。
「ちょっと芦花たちに聞いてみるね。
...いいってさ」
彩葉が差し出した助け舟に、遠田は全力で飛びついた。
遠田は恥も外聞もゴミ箱へ放り捨て、すぐさまスマホを操作する。
そしてヤザカマ、黒鬼の3人を海水浴に誘うことに成功した。
雷からは『もう1人連れて行きたい人がいるのだが』と言われたが、即座に許可を出す。
1人でも多くの男を巻き込み、戦場を「女子会」から「グループ旅行」へと塗り替える。
そこに、迷いなど微塵もなかった。
しかし、この裏で精神が危険域に到達しそうなものが居た。
真実である。
彼女は熱心な黒鬼、特に帝アキラ推しである。
そんな推しが、自分たちの海水浴に合流する。
しかも、水着という、これ以上ないほど生で、あまりにもリアルな姿で。
「ねぇ! 芦花!! どうしよう!?
死ぬ、私、海に着く前に蒸発して死んじゃう!!」
真実は、震える手で親友の芦花に電話を叩きつけ、半狂乱で叫んでいた。
「い、いや...いつも通りでいいんじゃ...
ほら...彩葉のお兄さんだって、普通の人だし...」
電話の向こうで、芦花が困り果てたような、それでいてどこか遠い目をして答える。
「普通じゃないよ!!あの帝様だよ!?
同じ空気を吸っていいの!? 窒息しない!?」
真実の叫びは、もはや電話のスピーカーを突き抜けて物理的な衝撃波として芦花の鼓膜を揺らしていた。
中の人が「彩葉の兄」という現実を突きつけられてもなお、彼女の中の「帝アキラ」は神格化された聖域のままである。
いや、むしろ「実在が証明された」ことで、その信仰心はより実体的な狂気へと昇華されていた。
「真実、落ち着いて...帝だって、水着になればただの男の人だし。
浮き輪も持つし、焼きそばだって食べるよ」
「食べないよ! 霞を食べるんだよ!! もしくは、勝利の美酒しか口にしないはずだよ!!」
「...いやいや、彩葉のお兄さんだよ...仙人じゃなくて人間だよ...
もしそうなら、海の家でラーメンすする帝さん見たら、真実、ショックで心肺停止するんじゃない?」
「...っ!!」
電話の向こうで、真実が息を呑む音が聞こえた。
想像したのだろう。
あの最強の帝アキラが、割り箸を割って醤油ラーメンのナルトを突っつく姿を。
「...いい...平民の文化に歩み寄る帝様...控えめに言って、鬼」
「ダメだこりゃ...」
暴走し続ける親友に、芦花は完全に頭を抱えた。
推しの前では、どんなに賢明な人間だって、いとも容易く理性を失うのだ。
真夏の太陽が照りつける、海水浴場の最寄り駅。
そこに集まった彩葉御一行。
これから皆で海水浴というのに、空気は最悪であった。
その原因は、他でもない。
雷が「もう1人連れて行きたい」と連れてきた人物
――遠田匠の天敵にして実の姉、遠田姉の登場である。
遠田姉弟の仲は、お世辞にも良いとは言えない。
いや、「そこそこに悪い」という表現ですら生ぬるい。
鉢合わせれば挨拶代わりに罵詈雑言が飛び交い、隙あらば物理的な拳を交えることすら躊躇わない、まさに犬猿の仲であった。
「久しぶりやね
相変わらずおもんないことしとんの?」
「いやいや~お久しぶりですね~3年ぶりかクソ姉貴。
相も変わらず漫才以外に楽しみを見出せへん、クッソ寂しい生き方してるんですかぁ? 可哀そうですね〜〜」
普段、他者に対して罵詈雑言を投げることのない遠田。
そんな彼ですら、汚い罵詈雑言を投げかける程度には仲が悪い。
今にも拳が飛び出してもおかしくない一触即発な雰囲気。
「叶華、これ以上は辞めておけ...」
「匠、ストップ!落ち着いて!」
雷と彩葉が全力で互いの恋人を止めようとする。
しかし遠田姉弟の間に吹き荒れる暴風雨は止まるところを知らない。
「だからお前は、
「なんやと!クソ姉貴こそ、
飛び交うのは、公共の電波に乗せれば一発で番組が打ち切られ、SNSならアカウントが永久凍結されるレベルの罵詈雑言の嵐。
もはや語彙の殴り合いというより、汚物の投げ合いに近い。
あまりの惨状に、周囲の海水浴客たちが「...えっ、何、ヤクザの抗争?」と怯えた表情で距離を取り始める。
「これが配信じゃなくて良かったね~」
「ネットに乗っていたら一発で大炎上ものだな」
そのカオスを横目に、かぐやがストローで飲み物を啜りながら、笑いながら呟き、ヤザカマが遠田一族のキャラの濃さに笑っていた。
そして、そんな地獄のような光景の横で――。
「...あ、帝様が、あんなに近くに...っ。...さ、酸素が、酸素が足りない...っ!!」
芦花の背後で、また別の理由で死にかけている真実。
海水浴場にたどり着く前に、一行の精神はすでに崩壊の危機に瀕していた。
雷と彩葉が半ば物理的に2人を引き剥がし、一行はようやく本来の目的地である海水浴場へと足を踏み入れた。
着替えを済ませた男性陣は、ジリジリと照りつける太陽の下でパラソルを立て、レジャーシートを広げる。
設営作業の合間に漏れ出すのは、先ほどの爆撃の余韻を含んだ会話だった。
「すまない、遠田。
叶華から仲良くないと聞いていたがここまでとは...」
「ええよ、ええよ!
あんなんいつものことやから!!」
連れてきた張本人である雷が、申し訳なさそうに眉を下げて謝罪する。
だが、当の遠田はカラリと笑い飛ばした。
「アレがいつものことなんはまずいやろ...
母さんだってそこまでは言わんかったぞ...」
妹への悪影響を本気で懸念し、朝日がドン引きした表情で遠田を見つめる。
最強の義兄をもってしても、遠田家の血筋が持つ「毒」の濃度は想定外だったらしい。
「でも~見てる分には面白いよね~」
乃依は、設営を手伝うふりをしながら、先ほどの罵倒合戦を思い返してクスクスと肩を揺らしている。
そんな喧騒の輪から少し離れた場所で、ヤザカマは会話に加わることなく、ただ静かに周囲を見渡していた。
月という何もないつまらない世界からやって来たヤザカマにとって、この青い海と白い砂浜は、データ上の知識でしか知らなかった未知の光景だ。
人々はどうやってこの広大な水溜まりで遊び、何に楽しみを見出すのか。
初めて踏み締めた砂の感触に戸惑いながらも、その瞳には少年のような好奇心が宿っていた。
砂浜の熱気から遮断された女子更衣室内。
ビニールバッグの擦れる音と、日焼け止めの香りが充満する中、芦花がおずおずと口を開いた。
「あ、あの...遠田さんって...」
先ほど駅前で繰り広げられた、地上波放送不可能なレベルの罵倒合戦。
その主役の一人である女性に話しかけるのは、草食動物が肉食獣の檻をノックするような勇気が必要だった。
「叶華でええよ、遠田やとアレと混ざるし」
振り返った叶華の言葉は、意外なほどに落ち着いていた。
鋭利なナイフのようだった眼差しはどこへやら、今の彼女には、年相応の大人の余裕すら感じられる。
かつては狂犬じみていた性格も、雷と出会ったことで丸くなった。
遠田に対しては、これまで通りの毒舌を発揮するが...
「叶華って匠と仲悪いの?」
かぐやが持ち前の恐れを知らぬコミュ力を発揮した。
誰もがタブーだと思って言葉を呑んでいた核心を、事も無げに問いかける。
「仲悪いというより、相容れないって感じやな。
信じてる宗教が違うから争いが絶えないみたいな?」
遠田姉は豪快に笑いながら疑問に答える。
母譲りの美貌と豪快な笑い方に、彩葉は血の繋がりを感じる。
「で、彩葉ちゃんやっけ?アレが迷惑かけてない?」
遠田姉が真剣な、それでいてどこか品定めをするような鋭い視線を彩葉に向けた。
「アレ」呼ばわりされる恋人のことを思い浮かべ、彩葉は少しだけ困ったように、けれど迷いなく言葉を返す。
「匠には、色々と助けられてます...」
「ふ~ん、そっか。
そやったらええわ」
遠田姉はそれ以上踏み込むことはなかった。
ただ、「こいつの男の趣味ズレてんなぁ~」ぐらいは思っている。
「た~く~み~!」
レジャーシートの上で休んでいる遠田の耳に元気なかぐやの声が聞こえる。
顔を上げ、振り返った先にいたのは、夏の陽光を味方につけた3人の少女たち。
サイドテールにまとめ、活動的な印象を与えるかぐやとヤチヨ。
そして、その中心で少し照れくさそうに佇む彩葉。
「3人とも、よ~似合ってるで」
素直な称賛が口をついて出る。
だが同時に、強烈な既視感が遠田の脳を揺さぶった。
「...どっかで見覚えのある感じやねんけど...どこで見たんやったか...」
三人が纏っているのは、優雅なパレオがセットになった大人びた水着。
黒、白、水色を基調とした洗練されたカラーリング。
その構成、そのシルエット……。
「コラボライブの時の衣装みたいだよね~
遠田は気を失ってたから分からないと思うけど...」
背後から、助け舟という名の鋭い追撃を放ったのは真実だった。
彼女は、推しである帝こと朝日を視界の端で捉えつつ、呼吸を整えながら冷酷な事実を突きつける。
「えっ!?うそでしょ!コラボライブのこと覚えてないの!?」
その事実を今初めて知ったかぐやが、信じられないものを見る目で絶句する。
「ちゃうねん!アレはやな...」
「彩葉のビジュの破壊力にワンパンされてたからね~」
真実の淡々とした補足が、遠田の言い訳を粉砕する。
「ヨヨヨ...匠があのライブのこと覚えてないなんて...
ヤッチョは悲しいよ...」
ヤチヨがオーバーに腕で目元を隠し、悲劇のヒロイン然とした仕草で泣いたフリをする。
「ヤ、ヤチヨさん、泣かんで!ライブの最初と最後は覚えとるんよ!
...ただ、道中はすっぽり抜けてるだけで...」
その姿に慌てふためき、必死に弁明する遠田。
「「言い訳無用!」」
そんな弁明が聞き入れられるはずもなく、かぐやとヤチヨに詰め寄られる遠田。
「かぐや、ヤチヨ、落ち着いて。
...それに関しては後で家で詰めればいいから」
「彩葉さぁん!?」
凛とした、それでいてどこか冷ややかな温度を含んだ彩葉の鶴の一声。
それは助け舟でも、救済でもない。
ただの処刑延期の宣言であった。
だが、この時の彩葉は、まだ気づいていなかった。
自分もまた、逃げ場のない自爆スイッチを自ら踏み抜いていることに。
彩葉は、コラボライブの後に、真実から遠田が意識を失っていたことを聞いていた。
つまり、彼女はこの事実を知っていたのだ。
この事がかぐやとヤチヨにバレ、遠田と共に詰められることになる。
「冷たっ!! でも、最高に気持ちいいーーー!!」
ようやく、ようやくである。
罵倒合戦、コラボライブの記憶喪失という修羅場。
それらを乗り越え、一行は青い海へと飛び込んだ。
真っ先に波しぶきを上げたのは、かぐやとヤチヨだ。
「...はぁ。まだなんもしてへんのに疲れた...」
パラソルの陰で遠田は黄昏ていた。
決して多くはない遠田の体力。
そのおおよそを、遠田姉との罵倒合戦と修羅場の回避に費やしていた。
「匠がそこまで疲れ果ててるの珍しいね。
レアな光景が見れてちょっと嬉しいかも」
悪戯っぽく微笑む彩葉。
そのパレオに隠された水着のラインが、パラソルの影の中で妙に眩しく映る。
「勘弁してくれ...」
そんな彩葉を見て顔を朱くする遠田。
恋人の色気ある姿を見て真顔でいられるほど、遠田は大人ではない。
そんな2人を傍目に、朝日&乃依vs雷&遠田姉でビーチバレーをしていた。
「雷!高いの頂戴!!」
雷の華麗なトスをハイジャンプからプロ顔負けのスパイクを放つ遠田姉。
どうしてビーチで室内と同じぐらい跳ぶことができるのか?
ハイパワーなスパイクをお手本のようなレシーブで上にあげる朝日。
それを雷と遠田姉のちょうど間に向けて打つ乃依。
砂飛沫が舞い、ボールが時速100キロを超えそうな勢いで行き交うその光景。
そんなコートの脇では、真実が膝から崩れ落ち、過呼吸寸前で砂浜を掻き毟っていた。
「真実、しっかりして! 鼻血出てるから! 上向いて!」
「無理...尊すぎて酸素が拒絶反応を起こしてる...っ。芦花...私の遺灰は、あのコートの砂に...」
必死に親友を支える芦花。
かつて、コラボライブの時に芦花が彩葉の輝きにワンパンされた時とは、ちょうど鏡合わせのような光景がそこにはあった。
因果応報、あるいは類は友を呼ぶ。
そんな阿鼻叫喚の砂浜を余所に、海上では別の異常事態が発生していた。
「あの人、めっちゃ早くね...!?」
「波を切り裂いて進んでるんだけど...モーター付いてるの?」
一般客がざわめく視線の先にいるのは、ヤザカマだ。
彼は、ボードの上に立ってパドルで漕ぐ
パドルを一掻きするごとに、ボードは物理法則を無視した加速を見せ、ヤザカマは水面を滑るというより、文字通り爆走していた。
「いいな!これ!海の上でも自由だ!!」
楽しみすぎて、獰猛な笑みを浮かべ、水平線の彼方へと消えていくヤザカマ。
彼もまた海を最大限楽しんでいた。
「ちょっと食べ物買って来るね」
黒鬼with遠田姉のビーチバレーを見て限界化し、気を失った真実。
芦花はそんな真実を日陰の特等席へ安置すると、食料調達のために海の家へと足を向けた。
「かぐやも行く~!焼きそば! イカ焼きも食べたい!」
かぐやもまた、砂浜を跳ねるような足取りで芦花の後を追っていく。
80年の空白を埋めるかのように、彼女の食欲と好奇心は止まるところを知らない。
「い~ろは!た~くみ!どう楽しんでる?」
そこへ、一足先に海を満喫し終えたヤチヨが、濡れた髪をかき上げながらやってきた。
その肌には真夏の水滴が光り、その美貌も相まって、周りの視線を釘付けにしていた。
「楽しんでるよ。ヤチヨも、すっごく楽しそうだったね」
「いや~、8000年ぶりの海は気持ちよかったよ~
魚もいっぱい見れたし!」
屈託のない笑顔で語るヤチヨ。
彼女にとって、この今という時間は、かつての孤独な電子の世界では決して味わえなかった、何物にも代えがたい祭のようなものなのだろう。
「あ~~気持ちいい~!楽しいなぁ!」
水平線の彼方から、小型モーターボートのような航跡を引き連れて、ヤザカマが戻ってきた。
SUPのボードを片手で軽々と抱え、全身から滴る海水さえも勲章のように輝かせている。
「乙。ヤザもめっちゃ楽しんでたな」
遠田が、半分呆れ顔で労いの言葉をかける。
ヤザカマが地球に降り立ってからというもの、この人は驚くほど頻繁につるんでいた。
最新の漫画を貸し借りし、夜通しKASSENに明け暮れ、時には突発的な配信で視聴者を沸かせる。
似た者同士な2人は、遠田が気安く「ヤザ」とあだ名で呼ぶ程度には、深い仲になっていた。
「おう、やっぱ地球は最高だな!砂の熱さも、水の重さも、全部が生きてるって感じがする。
それに比べて月は...」
ドリンクを豪快に飲み干すヤザカマと、それを見上げる遠田。
パラソルの下で、あだ名で呼び合いながら肩の力を抜いて駄弁る男2人の姿は、夏の陽光も相まって、どこか絵画的な青春を想起させた。
配信でも、この2人が醸し出す絶妙な距離感は、隠しきれないどころか溢れ出している。
その結果、ネットに生息するご腐人たちが、日夜「おん×ヤザ」か「ヤザ×おん」かを巡る、戦争が起きていた。
「流石に腹が減るな。遊び過ぎたか」
「あんなに動いてりゃそら腹も減るわ」
そんな会話を続ける遠田とヤザカマの視線の先で、面倒ごとが発生した。
「ねぇ!君らかわいいね!
俺らと遊ばん?」
「私たち友人と来てるんで...」
「じゃあそのお友達も一緒にさ!」
海の家から食料調達を終え、帰って来た芦花とかぐやが、ナンパどもに絡まれていた。
「ちょっ!あいつら!!」
彩葉がナンパを追い払おうと立ち上がる。
「待て、酒寄嬢。あの手の輩相手に女性の援軍は意味がないだろう。
俺が行こう。一度言ってみたかったセリフがあるんだ」
「ヤザ~?後半が本音やろ...」
そう言ってヤザカマが芦花たちの元へ歩き出す。
「すまないがそちらの2人は俺の連れだ。
手出ししようというのなら、相手になろう」
「な、なんだよ...」
日本人離れしたガタイにビビったナンパ連中は蜘蛛の子を散らしたように去る。
「なんだ...張り合いのないヤツらめ...面白くない...」
「ヤザカマさん...ありがとう...」
「ヤザカマ!ありがと~助かった~
最後の一言がなければ心の底から感謝できたのになぁ」
芦花とかぐやは買ってきた食料を抱え直し、呆れ半分、感謝半分といった様子でヤザカマを見上げた。
「ツクヨミならあそこからもう一悶着あって、ようやく戦闘開始なんだが...」
ヤザカマは、去っていくナンパたちの背中を、獲物を取り逃がした猟犬のような不満げな目で見送っている。
彼にしてみれば「連れだ、相手になろう」というセリフは、格闘ゲームの対戦受諾のようなものだったらしい。
ゲームと現実を一緒にしないでほしい。戦国の世ならともかく、今の日本でそのノリは通用しないぞヤザカマ。
遠田がパラソルの下からひょいと手を挙げて、戻ってきた芦花とかぐやを迎え入れる。
「綾紬さん、かぐや。災難やったな。...で、食料は無事か?」
「うん、死守したよ! 焼きそば、イカ焼き、あとフランクフルトも!」
芦花が少し息を切らしながら、戦利品をレジャーシートの上に広げた。
「これ美味いな!」
いつの間にか焼きそばのパックを手に取り、口にしていた。
「あ、ヤザカマ! それ私がお勧めしようと思ってたやつ...! って、もう食べてるし!」
かぐやの制止も聞かず、ヤザカマは豪快に麺を啜り上げる。
「俺たちの分残ってる~」
ビーチバレーを終えた黒鬼with遠田姉が戻って来た。
「クソ姉貴の分はいらんやろ?食い過ぎたら太ってまうもんな!」
遠田の口から飛び出したのは、もはや生存本能を放棄したとしか思えない特大の燃料だった。
日頃のストレスと、海という開放的な空間が、彼の理性を一時的に焼き切ったらしい。
「はっ!お前と違ってちゃんと運動しとるから問題ないわ!
ちょろがりもやし!」
遠田姉も間髪入れずに言葉のナイフを突き立てる。
鍛え抜かれたアスリート体型を見せつけながら、弟の貧弱さを物理的・精神的に抉りにいく。
別に遠田はそこまで貧弱ではない。一般人レベルである。
ただ、遠田姉と比較すると貧相なだけである。
「はぁ!?
なんやと!この
「愚弟の癖に生意気やぞ!
その
再度始まった放送禁止用語のオンパレード、
遠田姉弟は火花を散らして睨み合ったかと思えば、
次の瞬間には「ボフッ!」という擬音と共に、ギャグ漫画さながらの砂埃を巻き上げ始めた。
「ゴラァ!愚弟が!!さっさとくたばれ!!」
「うっさいねん!クソ姉貴が!!お前の出番は終わっとんねん!!」
砂浜の上で、もつれ合い、転がり合い、互いの尊厳を削り合うキャットファイト。
「今のうちに俺たちの分を確保しておこう」
雷は悟りを開いた僧侶のような手つきでフランクフルトを皿に分けた。
もはや、この姉弟の争いは止める方が無駄であり、巻き込まれれば昼飯のソースが砂まみれになるだけだと、本能が理解していた。
「ヤザカマ! どっちが勝つと思う!?」
かぐやがワクワクした様子で、焼きそばを啜るヤザカマに問いかける。
「残り体力と身体能力を考慮すると遠田が負けるだろう」
ヤザカマは焼きそばの紅生姜を一摘みしながら、極めて冷静に、そして無慈悲に勝敗を予測した。
そこには悪意も同情もなく、ただ冷徹なシミュレーション結果があるのみだった。
「舐めんな!愚弟風情が!私に勝とうなんぞ8000年早いわ!!」
その予言通り、数分後には砂まみれで息を切らし、動かなくなった遠田。
そんな遠田を足蹴にして勝利の雄たけびを上げる遠田姉。
そんな2人を食べ物片手に観戦し、笑うかぐや達。
1人悲惨なことになっているが、誰もが楽しそうに笑っている。
笑顔が満ちる中、水平線にかかる太陽が、いつの間にかオレンジ色の光を長く伸ばし始めている。
バカげた熱量は消え、心地よい疲れが一行を包み込む。
「そろそろ帰るか」
あらかた遊び倒し、食べつくした頃、朝日の一言を以て、各々が帰る準備を始める。
朝日が歩いた後を、「帝様の歩いた跡...! この砂を瓶に詰めて家宝に...っ!」と呟く真実と、それを必死に止める芦花が追っていく。
「おい、もやし! いつまで寝とんねん! 荷物持ちの仕事が残っとるぞ!」
勝利の余韻に浸りきった遠田姉が、容赦なく遠田の尻を蹴り飛ばした。
「...理不尽や。この世の理不尽を全て凝縮したのが、あのクソ姉貴や...」
ぶつぶつと文句を言いながらも、遠田はよろよろと立ち上がった。
結局、一日の大半を罵倒と格闘に費やした海水浴。
「楽しかった」と手放しで言えるかは微妙なところだが、少なくとも、彼らの「夏」は、誰よりも熱く、そして誰よりも騒がしかった。