モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方   作:超かぐや姫!脳焼きの民

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最初はただのギャグ回の予定だったので初見です。

いつも閲覧、感想、誤字報告ありがとうございます。


義眼ピカピカ大作戦

2030年12月中旬。

 

仮想空間ツクヨミ内。

 

そこで遠田ことMr.Mkが配信を行っていた。

 

左目がない状況で、ものづくりは危険ということで彩葉から「ものづくり規制法」が出ていた。

 

そのため、ツクヨミ内でものづくりを行っていた。

 

「ツクヨミ内での義眼作りたいんよな。

現実でも義眼入れ終わったし...」

 

今回の配信内容は義眼作りである。

 

『ズーム機能つけようぜ遠田ァ!』

『とりあえず発光ギミックは必須。ゲーミング眼球にしよう』

『魔法陣的なのエフェクトで仕込んで、中二病全開の魔眼にしよう』

『小型ビーム兵器積んで、目からビーム撃とう。漢の夢だろ』

 

流れてくるコメント群。

 

そこには、技術と悪ノリを融合させることに長けた天才たちが揃っていた。

 

「おい、天才かよお前ら! 採用、全部採用や!!」

 

片目を失おうが、Mr.Mkと視聴者のノリが変化することはない。

 

浪漫と笑いを求める姿は配信者の鑑である。

 

 

 

 

 

 

「...あ、ちょ、待て...っ! ああぁ、また落とした!」

 

カラン、と無機質な衝突音がツクヨミの作業空間に響く。

 

仮想空間とはいえ、未だに距離感を掴み切れていない遠田。

 

ピンセットで摘もうとした極小のパーツが、虚空を泳ぐ。

 

距離を見誤った指先が、空を掴む。

 

現実で失った左目の「空白」は、データの海であるはずのここでも、執拗にMr.Mkの感覚を狂わせていた。

 

『遠田ァ!さすがに大丈夫かぁ!?』

『見てるこっちがハラハラするわ!』

『仮想空間内でも隻眼の影響ってでるのか...』

『だれか援軍呼んだ方がいいんじゃ?』

 

いつもの煽り合いや悪ノリが影を潜め、ガチの心配がコメント欄を埋め尽くす。

 

Mr.Mkが、たった一つのパーツを固定するのに何度も失敗する姿。

 

それは視聴者にとっても、彼の欠落を突きつけられる残酷な光景でもあった。

 

「確かに誰か呼ぶか...

手伝ってくれるやつぼしゅ~」

 

Mr.Mkはひょいと、まるでおやつでも分けるような気軽さで視聴者からの徴兵を開始した。

 

悲壮感など欠片もない。できないならできる奴を呼べばいい

――その合理的で図太い精神が、不穏になりかけたコメント欄の空気を一気に塗り替える。

 

直後、ログイン通知と共に現れたのは、かつて共に研鑽を積んだ懐かしい知己。

 

猛々しい笑い声と共に、その男――修士(マスター)・アジアが仮想空間の土を振るわせて降臨した。

 

「フッ...はーっはっはっは!!

遠田ァ! 久しぶりだな!

この修士・アジアが、お前のためにわざわざ駆けつけてやったぞ!!

さあ、何でも申してみよ! お前の目指す道、ワシが真っ向から導いてやろうではないか!!」

 

派手なエフェクトを背負い、高笑いを上げるマスアジ。

 

その尊大な物言いとは裏腹に、かつて共に切磋琢磨した工学徒としての信頼が言葉の端々に滲んでいる。

 

「マスアジさ~んおひさ~~!」

 

工学部の修士学生であるマスアジさんが参加したことで作業は一気に加速した。

 

『マスアジ(゚∀゚)キタコレ!!』

『マスアジなら安心!』

『ところで、マスアジさんは就活大丈夫なん?』

 

その一言が、弾幕の中に紛れ込んだ。

 

刹那、仮想空間の空気が凍りつく。

 

「――就活の話はやめんかぁぁぁ!!」

 

絶叫。

 

さっきまで威風堂々と物理演算を操っていたマスアジが、物理的な衝撃を受けたかのように胸を押さえてその場に膝をついた。

 

アバターの周囲に、心なしか精神的ダメージというエフェクトが舞っている。

 

時は2030年12月。

 

修士1年の冬。世の優秀な学生たちは早期選考の波に乗り、人によってはこの時点で大手メーカーの内定を手にし、余裕の笑みを浮かべている時期である。

 

そして、我らが修士・アジア――マスアジさんは。

未だ、内定ゼロであった。

 

「...ワシは、ワシはただ...自分の技術を真に理解してくれる組織を、真っ向から見定めようとしているだけなのだ...! 」

 

マスアジの叫びが、ツクヨミの作業空間に空虚に木霊する。

 

その言葉は、自分自身を鼓舞する咆哮か、あるいは剥き出しの現実から身を守るための、脆すぎる防壁か。

 

「決して、夏のインターン先から特別早期選考の話が友にのみ回って来て、ワシに回ってきていない現実から目を背けている訳ではない...!!」

 

致命傷。

 

もはや「心配」の域を超え、コメント欄には静かな、けれど深い沈黙が広がった。

 

理系修士にとって、夏のインターンは就活の本戦そのものだ。

 

同じ釜の飯を食い、同じ現場で汗を流したはずの友人の元には届いた秘密の招待状。

 

しかし、マスアジさんには...なんの連絡もなかった。

 

『うわあああああああ!!』

『それは効く...マジで効くやつだ...』

『学歴も技術も同じはずなのに、なぜか自分だけ弾かれるあの感覚...』

『マスアジィ!学位(デグリー)クロスだ! デグリークロスで全部薙ぎ払おうぜ!!』

 

コメント欄も本気の同情、そして過去のトラウマを刺激され発狂している。

 

遠田の失った距離感という物理的な欠落。

 

マスアジの選ばれなかったという社会的拒絶。

 

そして、コメント欄が垂れ流す過去のトラウマという名の怨嗟。

 

それらすべてを高出力の浪漫へと変換する、あまりにも辛く、悲しい義眼が完成した。

 

義眼型ビームライフル、愛称:就活生怨嗟砲。

 

 

 

 

 

しかし、ここで問題が発生する。

 

どうやって装着するのか?

 

一般的な眼鏡やバイザー型の装備なら、上から被せるだけでいい。

 

だが、これは義眼。

 

眼窩の奥に納める形状である以上、アバターの既存パーツと干渉してしまう。

 

ならばどうするか。

 

「よし。左目抉って無理やり埋めてみるか」

 

「...は?」

 

『は?』

『は?』

『何言ってんだ?こいつ』

『頭おかしい。いや、知ってたけど今のはガチで引く』

『現実で失ったのに、仮想空間でも自ら抉るのか...?』

 

痛覚のないツクヨミ内とはいえ、自身の目を抉り出すという狂気。

 

Mr.Mkのとんでもない発言にマスアジ、コメント欄一同がドン引きする。

 

「なんでそんなに引いてんの?」

 

Mr.Mkは、心底不思議そうに首を傾げた。

 

その瞳には、自分の肉体を損なうことへの忌避感など微塵も存在しない。

 

所詮アバター。いくら欠損仕様が問題ない。

 

「ネジ入れるためにドリルで穴あけるやろ?

それと一緒やん」

 

工学の論理。

 

素材が鉄であれ、カーボンであれ、自分のアバターの眼球であれ。

 

接合に邪魔な突起があるなら、それを取り除くのは至極当然のプロセスだと言わんばかりの平然とした口調。

 

次の瞬間、遠田は迷いなく自らの左目に指をかけ、抉り取る。

 

左目からはダメージエフェクトが溢れている。

 

そして、義眼をはめ込む。

 

「やりやがったこいつ...」

 

マスアジさんが、思わず後退りしながら呻く。

 

マスターアジアのロールプレイを忘れるレベルの狂気的な行動。

 

『仮想空間とは言えグロい...』

『おえっ...』

『ちょっと食欲ないなった...』

 

コメント欄は、もはや発狂を通り越して阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 

ノリと勢いで左目を抉り、義眼を装着したMr.Mk。

 

「流石に視界が戻りはせんか...まあええわ

マスアジさん、ありがとうな。

おかげで義眼完成したわ!」

 

当然ながら、視神経のデータが繋がっているわけではないため、遠田の視界が戻ることはなかった。だが、外装としてのギミックは完璧に稼働している。

 

「お、おう...

上手くいってなにより...」

 

マスアジさんが声を震わせながらドン引きしている。

 

工学的な成功を喜ぶよりも先に、「自分の目を抉り、異物を埋める」という手段を選んだ目の前の男に対する、根源的な恐怖が勝っている。

 

その手段で上手くいくのか...

 

『まじでやりやがった...』

『何やってんだ遠田ァ! いやまじで...』

『流石に異常』

『ちょっと笑えん...』

 

コメント欄は未だに阿鼻叫喚の地獄であった。

 

コメント欄は未だに静まり返り、一部の熱狂的な信者ですら引き気味の空気が漂う。

 

そんな中、当のMr.Mkは、左目を虹色のゲーミングカラーに発光させたり、虚空に向けて就活生怨嗟砲のビームを乱射して一通り楽しんだ。

 

「よし!満足した!今日はここまでや!

皆内定には気ぃ付けや!」

 

一方的な激励を残し、配信は終了した。

 

残されたのは、内定のないマスアジの悲しみと、視聴者たちの脳裏に焼き付いた、自分の目を抉る配信者という強烈すぎるトラウマだけだった。

 

 

 

 

 

配信が終了した匠は、管理者権限という強制的な力によって、ヤチヨのプライベートルームへと転移させられた。

 

そこには、いつもの快活さを失い、幽霊のように顔を青くしたヤチヨと、その隣で肩を震わせる彩葉の姿があった。

 

「...ねぇ匠。

ヤッチョも配信見てたんだけどさ...」

 

ヤチヨの声は、どこか現実味を欠いたように掠れていた。

 

管理者の立場も忘れ、ただ一人の少女として、目の前の遠田を見つめている。

 

「流石に...やり過ぎだと思うな...」

 

「匠...

アバターだから大丈夫なのは分かるけど...

流石に心配になるから、目を抉ったりしないで...」

 

彩葉も遠田の奇行に苦言を呈す。

 

2人もたまたまMr.Mkの配信を見てしまっていた。

 

そこでいきなり左目を抉り出すMr.Mkを見て、彼女たちの脳裏には、現実であの日、彼が左目の光を失った時の光景が鮮烈にフラッシュバックしてしまったのだ。

 

彩葉は、左目を失って苦しんでいた遠田を近くで見ており、

 

ヤチヨは自分のせいで遠田の左目を失ったと思っていた。

 

そんな2人にとって、今の配信は、単なる「悪ノリ」では済まされない、あまりにも残酷で「きつい」ものだった。

 

「ご、ごめん...」

 

遠田の口から漏れたのは、軽妙な言い訳ではなく、戸惑いに満ちた謝罪だった。

 

彼にとって、今の配信はあくまで欠落を浪漫で埋めるための、最高に愉快なエンターテインメントのつもりだったのだ。

 

「また変なもん作って...」と苦笑いされるか、呆れられる。

 

その程度の、いつもの日常の延長線上にある反応しか想定していなかった。

 

2人の表情に刻まれた、あの日と同じ絶望。

 

自分の遊びが、彼女たちが必死に蓋をしてきた古傷を、無遠慮に抉り散らしてしまったのだという事実に、遠田は初めて言葉を失った。

 

 

 

 

 

――ポロン。

 

静まり返った室内で、場違いなほど軽い音が響いた。

 

「あ...」

 

遠田の左眼窩から、先ほどまではまっていた義眼が床へと転がり落ちた。

 

ツクヨミの自己修復機能。アバターの部位欠損が時間経過とともにリセットされ、再生した本来の左目が、異物である義眼を外へと押し出したのだ。

 

「...っ」

 

彩葉の息を飲む音が響く。

 

作り物とはいえ、眼球が零れ落ち、床を転がる光景など誰が見たいものか。

 

彩葉はそんな光景から逃げるようにログアウトした。

 

「すまん...ヤチヨ...

こんなことになるとは思わんかった...」

 

遠田は、ヤチヨにもう一度謝罪すると、彩葉を追うようにログアウトする。

 

現実に帰って来た遠田は彩葉の部屋へ向かう。

 

扉の前で立ち止まり、震える手をゆっくりとドアに添える。

 

仮想空間で見た、彩葉のあの絶望に満ちた瞳が、まぶたの裏に焼き付いて離れない。

 

「すまん...彩葉...」

 

絞り出すような声が、冷たい扉に吸い込まれていく。

 

「そんなに左目のことで思い詰めてるとは知らんかってん...

ほんまにごめん...」

 

遠田にとって、すでに当たり前のこととなった左目。

 

それを笑いに変えることで、大丈夫であることの証明と考えていた。

 

「なんで...あんなことしたの...」

 

扉の向こうから、今にも消え入りそうな、震える彩葉の声が届く。

 

「所詮アバターやし、大丈夫やろって思ってん...」

 

言い訳がましく響く自分の言葉が、今の遠田には何よりも情けなく感じられた。

 

「...もう、あんなことしないで...

皆が皆、その目のこと、割り切れた訳じゃないんだよ...」

 

彩葉の声には、怒りよりも深い、祈るような哀しみが混じっていた。

 

「そうよな...すまん。約束する二度とこんなことせん...」

 

遠田は噛みしめるように、静かに、けれど明確に誓った。

 

その言葉を聞いて安心したのか、扉の向こうで衣擦れの音がし、ゆっくりと鍵が外れる音が廊下に響く。

 

自分の左側を埋めるのは、機械の義眼でも、就活生の怨嗟でもない。

 

隣で泣いてくれる人の想いなのだと、遠田は痛いほどに思い知らされていた。

 

 

 

 

 

リビングのソファー。

 

部屋の明かりを少し落とした静寂の中で、彩葉は遠田の左側

――光を失った方の側に寄り添い、祈るような強さでしがみついていた。

 

遠田の腕を、服を、離さない。

 

あたかもそうしていなければ、彼がまたどこか遠くへ、自分たちの手の届かない向こう側へ消えてしまうのではないかと恐れるように。

 

「彩葉さん...いつまでこうしてれば...」

 

遠田は、身動き1つ取れないまま呟いた。

 

その心の中は、今まさに2つに張り裂けんばかりの激流に飲み込まれている。

 

1つは、底なしの罪悪感。

 

自分の身勝手な浪漫のせいで、彩葉を、好きな人を追い詰め、怯えさせてしまった。

 

しがみつく指先の微かな震えが、遠田の心臓を直接締め上げる。

 

そして、もう1つは――心臓を暴走させるような緊張感。

 

静かな部屋に、2人の鼓動が重なって聞こえるほどの超至近距離。

 

柔らかい温もりと、彩葉から微かに漂うシャンプーの香りが、遠田の理性と感覚を容赦なく揺さぶる。

 

「黙ってて...私の気が落ち着くまで...そこにいて...」

 

彩葉は遠田の肩に顔を埋めたまま、掠れた声で拒絶を許さないお願いを口にする。

 

(誰か、助けてくれ...罪悪感と緊張で心臓がもたん時が来ている...)

 

内心で絶叫しながらも、遠田はぎこちなく自由な右手を浮かせた。

 

迷った末に、そっと彩葉の背中に添える。

 

そうして、彩葉の背中を撫でる。

 

撫で続ける。

 

彼女の震えが止まるまで。

 

彼女の傷が癒えるまで。

 

仮想空間とはいえ、目を抉るなどという、生物としての忌避感を無視した暴挙に出たMr.Mkはもういない。

 

そこにいるのは、ただ1人の少女の心に寄り添うことしかできない、不器用な1人の男だった。

 

そうして夜が更け、ゆっくりと明けていく。

 

朝の光が差し込む頃には、遠田の右腕は感覚を失いかけていたが、それ以上に、彼自身の心には「二度と彼女を泣かせない」という、重く、温かい戒めが刻まれていた。

 

当面の間――いや、おそらくこの先ずっと。

 

遠田は彩葉に、一生頭が上がらないだろう。




遠田は、この後、ヤチヨにも謝罪に向かい、しっかりと説教されました。

また、義眼が標準装備となるようにアバターを弄ってもらいました。



この一件がかぐやが帰って来た後に起きていたら、最後に彩葉達に押し倒されていました。
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