モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方 作:超かぐや姫!脳焼きの民
だいぶ暗めの内容になっているので、閲覧注意です。
この話では残酷な描写や犯罪行為が登場しますが、決して犯罪行為を推奨するものではありません。
2026/04/19にヤザカマの描写を追加しました。
遠田、かぐや、ヤチヨの3人はある計画を実行しようと企んでいた。
それは、彩葉の誕生日サプライズパーティー。
彼女の誕生日を、全力で祝い尽くそうとしていたのだ。
料理に必要な具材、誕生日プレゼントの用意はすでに完了し、あとはケーキを受け取るだけ...のはずだった。
「流石にかぐやが挙動不審過ぎて、バレバレだって...」
「ごめ~ん!彩葉にバレちゃった!!」
彩葉が深々と溜息をつく。
その視線の先では、彩葉の顔を見るたびに「ひゃっ!?」と変な声を上げ、不自然なほど高速で視線を逸らし、なぜか忍者さながら壁を伝って歩いていたかぐやが、テヘペロと舌を出している。
「ははは!それならしょうがないね!
明日!堂々とサプライズパーティーしよ!!」
「2行で矛盾すんのやめへんか??」
これ以上ないほど晴れやかな笑顔で拳を突き上げたヤチヨに遠田の冷静なツッコミが炸裂する。
堂々とした時点でそれはもはやサプライズでも何でもないし、ただの告知済みイベントである。
翌日、遠田と彩葉は大学へ向かい、かぐやとヤチヨは今日の告知済みサプライズパーティーの準備に全力を注いでいた。
部屋を華やかに飾りつけ、朝から手間のかかる料理の下準備を進める。
すべては派手に、豪華に、そして最高に楽しく。
彩葉の誕生日を笑顔で埋め尽くすための作戦会議は、もはや戦場のような熱気を帯びていた。
「「ただいま」」
「「おかえり~~」」
夕方、予定通り遠田と彩葉が帰宅する。
玄関を開けた瞬間、すでにリビングから漂ってくる香ばしい匂いと、隙間から見える極彩色のデコレーションが、主役を歓迎していた。
「ケーキの受け取りってまだやったよな?」
「そろそろ行く予定だよ~」
遠田が上着を脱ぎながら確認すると、ヤチヨがエプロン姿で顔を出す。
「俺行くわ」
「私もついて行くよ、匠」
彩葉も自然な動作で遠田の後に続こうとするが、それを制するように遠田の手が彼女の肩に置かれた。
「本日の主役はここで座って待っててもろて!!」
しかし、遠田は、
「ヤッチョがついてくよ!!」
すかさずヤチヨが立候補し、玄関へと駆け出す。
「いやいや、1人で大丈夫やって...
初めてのお使いやあるまいし」
そう言って、遠田はひらひらと手を振りながら、結局1人で家を出ていってしまう。
残されたのは、綺麗に飾り付けられたリビングと、主役席に座らされた彩葉。
そして、遠田を見送って不満げに頬を膨らませるヤチヨと、それを見て楽しそうに笑うかぐや。
そんな3人の温かい気持ちに反して、外の空はいつの間にか厚い雲に覆われ、不穏な空気を漂わせていた。
「ありがとうございました~!」
彩葉の魂にこびりついている貧乏性が発動しない範囲での、最高級のケーキ。
それを受け取った遠田は、はた目にもわかるほどの幸せなオーラを纏い、ホクホク顔で店を後にする。
そんな遠田を、突然の激しい雨が襲った。
「マジか!天気予報外れよった!」
遠田は反射的に、自身のパーカーを脱いでケーキの箱に被せた。
自分が濡れることなど二の次だ。
大切な主役のケーキを死守すべく、小走りで帰路を急ぐ。
「おい、お前が遠田匠か?」
背後から低く、冷徹な声が響く。
「ん?なんや...」
振り向きざま、遠田の視界に鈍い金属の光がよぎった。
直後、頭部に凄まじい衝撃が走り、世界がぐにゃりと歪む。
「...っ」
声にならない悲鳴とともに、遠田の意識は急速に闇へと沈んでいった。
雨脚はさらに強まり、アスファルトを叩きつける。
その場には、遠田が守り抜こうとしたパーカーとスマホ、無惨に落下して潰れたケーキの箱だけが、主を失った遺留品のように残された。
箱の隙間から溢れ出した純白のクリームが、泥混じりの雨水に溶けて流れていく。
幸せなはずの誕生日の夕方。
主役を待たせているはずの帰路には、ただ冷たい雨の音だけが、絶望をあざ笑うかのように激しく鳴り響いていた。
「匠、大丈夫かな...
結構雨強くなってきたし...」
彩葉はソファから、何度も窓の外を流れる雨粒に視線を向けていた。
胸の奥にざわつきが広がり、落ち着かない。
「彩葉、さすがに心配しすぎだよ~
匠だって、小学生じゃあるまいし、雨が降ったらどこかで雨宿りくらいするって」
キッチンでつまみ食いを狙いながら、ヤチヨがケラケラと笑い飛ばす。
ヤチヨは、遠田を多少の不運はあっても最後には必ず戻ってくると信じているのだろう。
「ご飯出来たよ~~!!
匠が帰ってきたら、すぐにでも食べれるよ~!」
かぐやが弾んだ声で、丹精込めて作り上げた料理をテーブルに並べ始めた。
色鮮やかなご馳走が、部屋の飾り付けと相まって、最高に幸せな空間を作り出している。
主役の席。その対面に座るはずの男が、特注のケーキを持って現れる。
そんな『当たり前の続き』を誰もが疑っていなかった。
だが、部屋を満たす芳醇な料理の香りと、外から聞こえる激しい雨の音の境界線で、彩葉の胸のざわつきは、確かな予感へと変わり始めていた。
何時間経っても、玄関のドアが開く気配はない。
彩葉の不安をよそに、時間は無情にも過ぎ去っていく。
「ねえ、流石に遅すぎない?」
彩葉の声は震えていた。
既に太陽は完全に沈み、雲の切れ間からは冷ややかな月が顔を出している。
テーブルの上に並んだ豪華な料理は、主を待つ間にすっかり冷め切っていた。
「...そうだね。雨宿りで帰宅が遅れるにしても、連絡ぐらい来てもおかしくないよね」
楽観的だったヤチヨからも、次第に笑顔が消えていく。
不自然な沈黙がリビングを支配し始めた。
「かぐやがちょっと、電話してみるね」
張り詰めた空気を変えようと、かぐやがスマホを取り出し、遠田の番号を呼び出す。
しかし、耳に当てた受話器から聞こえてきたのは、繋がる前の呼び出し音ですらなかった。
「ツーツー...ツーツー...」
無機質な電子音だけが、虚しく室内に響き渡る。
「...出ない。なんで...」
かぐやの指先が、わずかに強張る。
彼女たちが知らないところで、当たり前の日常が音を立てて崩れ去ろうとしていた。
夜はさらに深まり、日付が変わろうとする頃。
時計の針が進むたびに、リビングの空気はひび割れたガラスのように鋭く、危ういものへと変わっていった。
「絶対おかしい!
かぐや、探しに行って来る!!」
かぐやはそう言って、遠田を探しに行こうとする。耐えきれなくなったかぐやが、椅子を蹴るようにして立ち上がった。
上着を掴み、玄関へと飛び出そうとする。
「もう外暗くて危ないよ!探しに行くならもうちょっと待って、明るくなってからの方が...」
ヤチヨがその腕を掴み、必死に制止をかける。
「そんなこと言ってる場合!?匠の身に何かあったかもしれないんだよ!
匠にもしものことがあったら、私...!」
「それで、かぐやに何かあったら本末転倒だよ!匠だってそんなの望んでない!」
心配と焦燥が限界を超え、2人の口論は激しさを増していく。
遠田を想うからこそ飛び出したいかぐやと、遠田を想うからこそこれ以上の犠牲を出したくないヤチヨ。
どちらの言い分も、痛いほどに正しかった。
「...っ」
2人の怒声が響く中、彩葉はただ、冷めきった料理を見つめていた。
彼女の脳裏には、雨の中で潰れたケーキと、誰にも守られず濡れそぼるパーカーの幻影が、嫌なリアリティを持って浮かんでいた。
「かぐや...ヤチヨ。朝になったら、3人で探しに行こう。今は……体力を温存しなきゃ。
匠を見つけたとき、私たちがボロボロだったら助けられないでしょ?」
震える声を抑え、彩葉が二人を諭す。
「...分かった」
4人で豪華な食事を囲み、ケーキをつつき、彩葉にプレゼントを贈る。
そんな、ささやかで何物にも代えがたい幸せな光景が見られるはずだった夜。
しかし、現実は残酷だった。
飾られた部屋は皮肉なほどに美しく、テーブルの上では、ご馳走がただ静かに冷え切っていく。
かぐやは悔しげに唇を噛み、ヤチヨに掴まれていた腕をほどいた。
やり場のない怒りと、底知れない不安。
それが入り混じった彼女の瞳は、暗い窓の外へと向けられる。
窓の外では、止むことのない雨が依然として激しく降り続いていた。
アスファルトを叩く無慈悲な音だけが、彼女たちの沈黙を埋めていく。
「おめでとう」という言葉さえ失われた、最悪の誕生日の夜。
3人は寄り添うようにして、遠い朝の光を、そして大切な1人の帰還を、祈るように待ち続けるしかなかった。
夜が明け、太陽が顔を出すと同時に、彩葉たちは遠田を探しに街へ飛び出した。
自宅であるタワーマンションからケーキ屋までの経路。
そして、その周辺にある雨宿りできそうな施設や店舗を、一軒一軒しらみつぶしに探し回った。
芦花や真実、彩葉の兄である朝日にも「そちらに匠が来ていないか?」と連絡を取ってみたが、有力な手がかりは一切得られない。
捜索は、太陽が真上に昇り、そして再び沈みゆく刻限まで続けられた。
そんな中、ヤチヨが帰路から少し外れた場所にある薄暗い路地にて、遠田が着ていたパーカーと、無惨に潰れたケーキの箱を発見する。
パーカーのポケットには、強い衝撃で画面にひびが入ったスマホが残されていた。
それ以外は、何一つ残されていない。
「...嘘だよね」
震える手でパーカーを拾い上げるヤチヨの脳裏に、最悪の結末が浮かぶ。
誘拐、拉致監禁。
そして――
「彩葉!かぐや!...見つけた、けど...っ」
すぐに2人に連絡を入れ、合流した彼女たちは、そのまま近くの交番へと駆け込んだ。
遠田匠が行方不明であること。
そして路地に、彼の遺留品だけが不自然に取り残されていたこと。
震える声で事実を伝える彩葉たちの背後に、冷たい影が忍び寄っていた。
警察は彩葉達からの通報を受け、遠田匠の捜索を本格的に開始した。
ケーキ屋の店員への聞き込み、および周辺の監視カメラの解析により、彼がケーキを受け取り、店を出るまでの姿は確認された。
しかし、それ以降の足取りを完全に失ってしまう。
当時、突如として降り出した激しい雨の影響で、往来にはほとんど人がおらず、遠田の姿や犯行の瞬間を目撃した者は1人もいなかったのだ。
警察による捜査と並行して、彩葉たちも自分たちの手で遠田を探すべく、街を駆け回っていた。
捜索範囲を広げ、芦花たちにも協力を仰ぎ、昼夜を問わず、遠田の、彼のわずかな痕跡さえも見逃さないよう探し続けた。
しかし、無情にも時間は過ぎ去っていく。
手がかりの一切が雨に流されたかのように、遠田が姿を消してから、ついに3週間が経過した。
進展のないまま焦燥だけが募る中、警察にある一本の通報が入り、事態は急激に、そして最悪の方向へと動き出す。
『奥多摩大橋の麓に不審な大きいドラム缶が放置されている。
いつからあったか分からない』
通報を受け、警察が奥多摩大橋へ向かうと、橋脚の影に大人1人が収容できそうなサイズのドラム缶が発見された。
蓋の隙間からは、鼻を突くような異臭が立ち込めている。
警察が慎重に内部を確認すると、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
注意:この先、残酷な描写が登場します。
苦手な方、ご食事中の方はここから描写をスキップしてください。
皮膚や肉は溶けて爛れ、一部の骨が露出している遺体。
手足は生前に縛られていたのか、不自然な形に屈曲したまま固定されている。
骨格から辛うじて男性のものと判別できるが、生前の面影はどこにもない。
特に顔の皮膚は執拗なまでに溶かされており、眼球が脱落したのか、虚無を湛えた眼窩の奥が不気味に覗いていた。
被害者の特定を妨げるための、犯人の冷酷なまでの念入りさと憎悪が伺える。
ドラム缶の底には、ミネラルや塩、アミノ酸、脂肪酸などが溶け出した、どろりとした茶色い液体が溜まっていた。
それは、かつて人間として存在していた者を構成していた成分が、無慈悲に分解され、形を失った成れの果てだった。
警察が司法解剖を行うため、慎重にドラム缶から遺体を取り出した際、その底から一点の義眼と義眼台が発見された。
製造番号や医療データとの照合の結果、遺体の身元がついに判明する。
三週間前に行方不明届が出されていた、遠田匠。
その人であった。
検死の結果、頭蓋骨には鈍器によるものと思われる小さなひびが確認されたが、それが直接の死因ではなかった。
遺体の損傷があまりに激しく、正確な死因の特定は困難を極めたが、致命的な外傷や刺し傷などは認められなかった。
その事実が、逆に最悪の推論を導き出す。
彼は手足を縛られ、抵抗できない状態で――生きたまま、強アルカリ性の水溶液に沈められたと考えられた。
肉を焼き、骨を溶かす激痛の中で、彼は声も上げられず絶命したのだ。
それは、瞬く間に日本中を震撼させる凄惨なニュースとして報道された。
都心から離れた奥多摩の、深い山々に囲まれた橋脚の下で見つかった遺体。
強アルカリ性の溶液によって、生前の面影も残さぬほど徹底的に処理されていたというその手口は、あまりにも残酷で、世間の好奇と恐怖を煽った。
そんな中、彩葉の元に遠田の母親から一通の連絡が入る。
『匠が、遺体として見つかったって...これから東京の警察署に向かうねんけど、彩葉達も来てくれん...』
その震える声で告げられた言葉は、一縷の望みを打ち砕く、最悪の通知だった。
彩葉はその場に膝から崩れ落ち、放心する。
彼女の優秀すぎる頭脳は、ニュースが報じていた「奥多摩で見つかった身元不明の遺体」という点と、3週間帰らない「遠田匠」を、拒絶する間もなく結びつけてしまったのだ。
「彩葉!?どうしたの!なにが!?」
「彩葉!? どうしたの! なにがあったの!?」
異変を察したかぐやとヤチヨが、慌てて彼女の元に駆け寄る。
しかし、彩葉は言葉を返すことさえできず、ただ大粒の涙を流し続けることしかできなかった。
彩葉の誕生日を祝うはずだったあの日から3週間。
止まない雨の音とともに、彼女たちの日常は音を立てて崩壊した。
警察署の一室。
重苦しい沈黙が漂う中、遠田の両親と彩葉たちは、この凄惨な事件を担当する刑事と対峙していた。
「遠田匠さんのものと思われる遺体が奥多摩大橋の橋脚の近くで見つかりました...
これによって、身元が確認されています...」
刑事は言葉を選び、せめてもの配慮として残酷な事実を直接的な言葉にせず、証拠品を机の上に置いた。
それは、匠の左眼を限りなく忠実に再現していた、見覚えのある義眼。
そして、彼が手入れをする際にだけ見えていた、特有の形状をした義眼台だった。
「あ...あぁ....」
彩葉の口から、乾いた砂を吐き出すような声が漏れる。
ヤチヨとかぐやは、その「眼」から逃げるように視線を逸らした。
これが現実であるはずがない。何かの間違いであってほしい。
そう自らに言い聞かせるように。
一方で、遠田母は、唯一残された息子の一部から目を離すことができなかった。
「あ、あの...息子は...せめて息子の遺体は...」
遠田父が、今にも壊れそうなほど掠れた声で刑事に問いかける。
せめて、一度だけでも、冷たくなっていてもいいから、息子を抱きしめてやりたい。
その親心に、刑事は視線を逸らし、短く、重い沈黙を守った。
「...お願いします。せめて、息子の最期を...」
父の悲痛な懇願に、刑事は耐えかねたように、絞り出すような声で真実を告げた。
「遠田匠さんは...息子さんは...おそらく。手足を縛られ、抵抗できない状態で...生きたまま、溶かされたと...
ご遺体は...ご遺体として...お返しできる状態ではありません...」
「そんな...」
遠田父が絶望に顔を歪ませた、その瞬間だった。
彩葉の隣で、鈍い音が響く。
「美海!?」
遠田父の声が響く。
あまりの衝撃に耐えきれず、遠田母が崩れ落ちるように椅子から滑り落ち、意識を失った。
遠田匠の葬儀は、遠田両親と姉の叶華、彩葉たち親しい友人、黒鬼の三人、そして京都から駆けつけた酒寄紅葉だけで、静かに、そして重苦しく執り行われた。
式場の中心に置かれた棺の中には、本来そこにあるべきはずの遺体が収められていない。
遺体のない葬儀。
空っぽの棺というその事実が、遠田がこの世から消し去られたという残酷な現実を、何よりも雄弁に物語っていた。
「い、彩葉...かぐやちゃん...ヤチヨちゃん...」
喪服を身にまとった芦花と真実が、震える声で彩葉たちに歩み寄る。
この三週間、寝る間も惜しんで街を駆けずり回り、遠田を探し続けた彩葉たち。
その果てに降り注いだのは、あまりにも救いのない絶望だった。
少しでも、その重すぎる悲しみを共に背負うことはできないか。
そんな切なる優しさから、2人は声をかける。
しかし、彩葉は深くうなだれたまま、反応を返さない。
彼女の魂は、あの日、雨の中で途切れた遠田の足跡を追いかけたまま、暗い夜の底に取り残されているようだった。
かぐやは膝の上で固く拳を握りしめ、震える肩で必死に呼吸を繰り返していた。
かつての天真爛漫な笑顔は影も形もなく、その表情は行き場のない絶望と、犯人への煮えくり返るような怒りに満ちていた。
ヤチヨは視線だけを芦花たちに向けるものの、喉の奥が引き攣れ、どうしても言葉が出てこない。
仮想空間の歌姫と称される美しい声は、今や意味のある音を紡ぐことさえできず、ただ熱い吐息を漏らすのみだった。
「その...ごめん...っ」
3人のあまりに痛々しい姿に、芦花はどんな言葉をかけるべきか分からず、ただ、わけもわからず謝罪の言葉を口にする。
かけるべき言葉など、この世のどこにも存在しなかった。
焼香の煙だけが、静まり返った斎場に、白く、虚しく消えていった。
「...叶華、大丈夫か...」
葬儀の喧騒から少し離れた場所で、雷が叶華の隣に静かに寄り添い、声をかけた。
どれだけ口が悪く、衝突の絶えない姉弟だったとしても、血を分けた弟をこれ以上ないほど残酷な形で失ったのだ。
その心にかかる負荷は、計り知れないほど重い。
「...大丈夫...って言いたいけど...意外と来るもんやな...
あのアホ...死んだらなんも笑えんやろ...」
顔を合わせれば罵詈雑言が飛び交い、時には拳が出る。そんな荒っぽい関係だった。
そこに愛も友情もなく、ただ、不倶戴天の仇を討つという敵意のみがあった。
互いを認めないことで成立していた、歪な姉弟の絆。
けれど、そんな憎まれ口を叩き合う喧嘩すら、二度とできないという現実を突きつけられ、叶華の強気な仮面がわずかに剥がれ落ちる。
「雷...ごめん...今は傍に居って...」
「当然だ。気の済むまで隣に居てやる」
雷は迷いなく答え、彼女を静かに引き寄せた。
叶華は雷の肩に顔を埋め、声を押し殺して涙を流す。普段は誰よりも勝気で、弱みを見せない彼女の、初めて見せる脆さだった。
雷はそんな叶華を大きな腕で優しく抱きしめ、彼女の震えを鎮めるように、大きな手のひらでその背中をゆっくりと撫で続けた。
「『彩葉を笑わせる』って宣言したんはどうなってん...」
彩葉と朝日の母・紅葉は、主のいない空の棺の前で、消え入りそうな声を漏らした。
かつて京都の酒寄家を遠田が訪れた際、彼は紅葉の前で力強く胸を張ったのだ。
『彩葉を心の底から笑わせる』『彩葉が「楽しかった!」と言えるようにしてみせる』と。
その不器用なまでの真っ直ぐさを認め、娘を託したはずだった。
だというのに、彼は彩葉を遺して逝ってしまった。
「...どうやって、、あの子を笑わせるつもりやったんや」
かつて、愛する夫を失った紅葉。
最愛の夫を失った経験を持つ紅葉には、今の彩葉たちの絶望が、身を切られるほどに理解できた。
そんな紅葉の背に、二つの足音が近づく。
息子である朝日と、その恋人である乃依だった。
「母さん...彩葉のとこ行ってあげへんの...」
朝日の表情は泥のように暗い。
可愛い妹の恋人であり、ツクヨミ内で良くも悪くもドンパチやりやったMr.Mkこと遠田。
その彼が、あんなにも惨たらしい方法で殺された。
そんな事実をまだ受け止め切れていなかった。
それは乃依も同じだった。
ニュースの画面越しでしか聞いたことのない猟奇殺人という現実味のない悪意が、自分たちのすぐ隣にまで迫っていたのだ。
「行かへんよ...私が行っても彩葉が萎縮するだけや...」
紅葉は振り返らずに、静かに、だが断固として告げた。
「今、あの子に必要なんは、現実を直視できるようになるまでの時間や...」
紅葉はゆっくりと朝日の方へ向き直る。その瞳には、親としての冷徹なまでの客観性、その裏には慈愛が同居していた。
「朝日、彩葉達を見守ったって」
「母さんはどうすんの」
「あの子らがいつでも帰って来てええように、準備せなあかん」
紅葉の目には、心が完全に折れ、抜け殻のようになって実家へ戻ってくる彩葉の姿が、予見として映っていた。
今の遠田家に他者を迎え入れる余裕などない。
そして彩葉自身も、今の環境で再び立ち上がれる可能性は限りなく低いだろうと、紅葉は察していた。
紅葉はもう一度だけ空の棺に視線を落とすと、迷いを断ち切るようにその場を立ち去った。
「.........」
ヤザカマの表情は非常に暗い。
ヤザカマにとって、初めての葬儀。
だが、目の前にある棺の中に、遠田の姿はない。
横たわることすら許されなかった彼の最期を象徴するように、そこにはただ、埋めることのできない虚無だけが横たわっていた。
無残な姿で遠田が見つかったという報せを聞いた時、ヤザカマの胸中を埋め尽くしたのは、沸騰するような怒りだった。
大切なライバルを、その尊厳ごと踏みにじり、命を奪った犯人への、許しがたい激昂。
そして、何よりも——。
(なぜオレは……! 遠田を救うことができなかった!!
人の悪意を知らなかったから? そんなものが、彼を見殺しにした理由になるものか!!)
遠田の命の灯火が消えゆく前に、彼を見つけ出し、救い上げることができなかった自分自身の無力さに対する、裂けるような怒りだった。
拳を白くなるまで握りしめ、ヤザカマは静かに、だが激しく自らを責め続ける。
月から来た技術屋として、戦士として、今の自分が恥ずかしくて仕方がなかった。
何もできず、ただ空っぽの棺の前に立っている今の自分が、恥ずかしくて仕方がなかった。
「...すまん、遠田。俺がもっと...もっと早く、お前の危機に気づいていれば...」
唇を噛み締め、溢れそうになる後悔を飲み込む。
これまで築き上げた技術も、栄光も、今の彼には何の価値もなかった。
この葬儀の喪主である
2人の間には会話の一欠片すらなく、ただ底の見えない虚無だけが広がっていた。
息子があの魔改造スマコンで命を落としたのなら、まだ納得できただろう。
両目を失い、絶望の果てに自死を選んだのなら、血を吐くような思いで涙しながらも、その最期を見送ることができたはずだ。
しかし、現実はあまりにも無慈悲だった。
生きたまま溶かされ、尊厳を粉々に打ち砕かれて命を奪われた息子。
どんな顔で見送ればよいのか。なんて声をかけてやればよいのか。
工学博士、工学修士としての輝かしい知性を結集させても、その問いに対する解はどこにも見当たらなかった。
特に、美海の容体は正視に耐えないほど悲惨だった。
年齢を感じさせなかったはずのその美貌には暗い影が落ち、目元には濃い隈が浮かび、顔は痛々しいほどにやつれ果てている。
かつて豪快な笑い声を響かせていたその口、その喉からは、今や、生きていることを証明するためだけの細い呼吸音が漏れるばかりだった。
まともに眠ることすらできず、何も喉を通らない。
幸せだった頃、自分がどうやって笑っていたのかさえ、彼女はもう忘れてしまっていた。
夫である健夫もまた、崩れ落ちそうな妻を支えることだけで精一杯だった。
工学の世界ではどんな難問も論理的に解決してきた彼が、今、隣で音もなく壊れていく愛する人の心に対し、かけるべき言葉も、施すべき処置も持たなかった。
もう、笑う余裕もない。
それどころか、涙を流すことさえ忘れてしまったかのように、その瞳は乾ききっていた。
感情が摩耗し、感覚が麻痺していく。
彼はただ、何も入っていない、何も返してくれない空の棺を、いつまでも、いつまでも、虚ろに見つめることしかできなかった。
葬儀は静寂のうちに幕を閉じ、参列者たちはそれぞれの居場所へと、重い足取りで散っていった。
遠田の両親は、互いに一言も言葉を交わすことなく、魂の抜けたような足取りで大阪への帰路に就いた。
酒寄紅葉は、芦花と真実に「...あの子らを、頼む」とだけ短く、だが託すような言葉を残して京都へ。
雷と遠田姉は2人で互いの体温を確かめ合うようにして、2人きりで遠田姉の家へと消えていった。
朝日と乃依もまた、言いようのない沈黙を抱えたまま、自分たちの家へと帰っていった。
ヤザカマは、言葉を発することなく、姿を消した。
残された芦花と真実は、今にも崩れ落ちそうな彩葉たちの身体を支えるようにして、彼女たちが暮らすタワーマンションの一室へと向かった。
「...ッ!」
玄関の扉を開け、リビングに足を踏み入れた瞬間、芦花と真実は息を呑んだ。
そこには、彩葉の誕生日を祝うために施された、色鮮やかで、そして残酷なほどに華やかな飾り付けが、そのままの形で残されていた。
壁に貼られた『HAPPY BIRTHDAY 彩葉!!』の文字。
主役の帰りを待ちわびて萎んでしまった風船。
あの日、あの時、幸せの絶頂で止まってしまった時間が、埃を被りながらそこにあった。
この部屋は、そして彼女たちの心は、あの日、雨が降り出したあの瞬間から、1秒たりとも
「...とりあえず、着替えよっか」
真実が努めて穏やかな声で促し、重苦しい喪服を脱がせるために動き出した。
かぐやとヤチヨは、魂が抜けたような顔をしながらも、震える手でなんとかボタンを外し、部屋着へと着替えることができた。
だが、その動作の一つひとつが、まるで重い泥の中を歩いているかのように緩慢だった。
「彩葉...?」
しかし、彼女にはその声が届いていなかった。
喪服を身にまとったまま、彩葉はただリビングの真ん中で、虚空を見つめて立ち尽くしている。
彩葉の心は、他者の想像を絶するほどに深く、鋭く疲弊していた。
愛する人を失ったという事実だけではない。
かつて遠田が負傷して入院した際、彩葉を支え、絶望から救い出してくれたのは、誰よりも強く豪快な遠田母だった。
その心強い憧れでもあった女性が、目の前で音を立てて壊れていく瞬間を目にしてしまったこと。
あの太陽のような遠田母ですら、遠田の無残な死には耐えられなかった。
ならば、自分のような人間がどうやって立ち直ればいいのか。
支えにしていた柱が1本ずつ折れていくような感覚。
彩葉はただ、呼吸をすることさえ忘れたかのように、静まり返った部屋の空気と同化していた。
彩葉を芦花と真実の2人掛かりで、まるで人形のようになってしまった彩葉をなんとか着替えさせ、ようやく一息ついた。
彼女たちの目の前では、彩葉、かぐや、ヤチヨの三人が、ソファの上で互いの体温を確かめるように、そして互いの心に空いた巨大な穴を埋め合うように、身を寄せ合って座っていた。
「...飾り付けって片付けた方がいいよね」
「...多分。彩葉達も思い出して辛いだろうから...」
そう言って、部屋の飾りつけに手を伸ばす。小声で相談し、二人は壁に手を伸ばす。
色褪せた風船や、あの日から時を止めたままの装飾。それを取り外そうとした、その時だった。
「ま...って...だ、め...ま、だ。たくみが...かえ、って、きて...ない...」
鼓膜を震わせたのは、彩葉の枯れ果てた、掠れた声だった。
「おねが...い...ま、だ...」
彩葉は、空を掴むようなたどたどしい動作で、2人に手を伸ばす。
その瞳には、現実を映しているとは思えないほど、異様な光が宿っていた。
――察してしまう。
もう、彩葉は壊れてしまったのだ。
あまりにも残酷な喪失を、彼女の心は受け止めることを拒絶してしまった。
三週間前に交わした、『本日の主役はここで座って待っててもろて!!』という、あの悪戯っぽい遠田の言葉を今も信じ、あのドアが開いて彼が帰ってくるのを、この飾り付けの中で待ち続けている。
「あぁ、あぁぁ...」
真実は言葉を失い、芦花は耐えきれず、口を抑えてトイレへと駆け込んだ。
最愛の友人が壊れてしまった姿、その狂気すら孕んだ純粋な拒絶に、精神が悲鳴を上げた。
激しい吐き気に襲われ、胃の中のものが逆流する。
静まり返ったリビングには、彩葉の荒い呼吸と、三人の寄り添う気配だけが、不気味なほど重く漂っていた。
そこから先は、地獄のような日常であった。
彩葉は朝も昼も晩も、ただソファに座り、玄関のドアを見つめて遠田の帰りを待ち続けた。
食事も睡眠も、他者に促されなければ意識すら及ばない。彼女の時間は、あの誕生日の夜で止まったままだった。
ヤチヨは声を完全に失った。喉の奥が物理的に拒絶するかのように、意味のある音を紡ぐことができなくなったのだ。
それに、ツクヨミで活動していた分身の操作すらままならなくなる。
AIライバーとして活動する分身の1体はFUSHIの協力の元、なんとか維持することに成功するも、以前のような輝きは消え、配信頻度は壊滅的にまで減少した。
そして、かぐやは見てしまった。
自身のSNSのリプ欄、そして最新の配信アーカイブのコメント欄。
そこに投稿された、ある1つの不気味な書き込みが目に留まった。
『もう大丈夫だよ。あの忌々しい男は僕がやっつけたから』
それはもはや、純然たる犯行声明だった。
その言葉を目にした瞬間、かぐやの脳内に最悪の真実が組み上がっていく。
自分の熱狂的なファンが、遠田を奪い去ったのだ。
自分が配信の中で、親愛を込めて彼の苗字や名前を呼んでしまった。
その無邪気な一言が、狂信者に彼を特定させ、あの凄惨な殺害へと導く引き金となったのだ。
自分のせいで、遠田はあんなにも苦しみながら、形を失うまで溶かされて死んでいった。
「
裂帛の叫びを上げたかぐやは、そのまま断線した人形のように意識を失った。
遠田の葬儀から16日が経過した、ある日のことだった。
警察の執念の捜査が実を結び、一人の男が逮捕された。
強アルカリ性溶液の購入ルートの特定、ドラム缶や遺体に残された微細な証拠品、そして何より、かぐやのSNSに残されたあの
逮捕までに時間を要したのは、男が遺棄後に車で西へ、ひたすら西へと逃走を続けていたためだった。
取り調べに対し、犯人は「かぐやちゃんと
当然、それが卑劣な虚言であることは、彼女たちの周囲を洗えばすぐに判明した。
警察の聞き取りに対し、関係者全員が「そんな事実は断じてない」と強く否定した。
さらに、男の身勝手な悪意は殺人だけに留まらなかった。
遠田の財布から現金を奪い、あまつさえ彼のクレジットカードを不正利用して逃走資金に充てていたのだ。
強盗殺人、死体損壊、死体遺棄――
積み上げられた罪状はあまりにも重く、社会を震撼させた。
犯人は裁判所でも『遠田は彼女らを苦しめ、縛り付ける悪人なんだ。僕はそれを退治し、彼女らを救った救世主なんだ!』を叫んだ。
裁判の場においても、犯人は反省の弁を述べるどころか、「僕は彼女らを救った救世主なんだ!」と法廷で叫び続けた。
弁護士は、その支離滅裂な言動から心神喪失を主張し減刑を試みたが、裁判所は誘拐から殺害、周到な遺体遺棄に至るまでの極めて高い計画性を重視した。
判決は、無期懲役。
法的には、これで「遠田匠殺害事件」は幕を閉じた。
しかし、加害者が法の裁きを受けたところで、奪われた命も、壊れた彼女たちの心も、何一つ元に戻ることはなかった。
遠田家という一つの家族は、事件の終結後もなお、癒えることのない深い傷に蝕まれていた。
遠田母は完全に心が折れ、これまで情熱を注いできた研究活動を引退した。
毎晩のように息子の最期の叫びを聞く悪夢に魘され、時には誰の目にも発狂状態と映るほど取り乱す日々。
かつての快活な面影は消え失せ、崩壊した精神を繋ぎ止めるだけで精一杯だった。
そんな遠田母を支えるため遠田父は、自らのキャリアを犠牲にして仕事を大幅にセーブせざるを得なくなった。
これまでの貯蓄や犯罪被害給付金で当面の生活は維持できるものの、静かに、だが確実に、その家庭生活はじわじわと破綻の足音を忍ばせていた。
一方、若い世代はそれぞれの方法で前を向こうとしていた。
遠田姉は犯人逮捕から1か月もしないうちに立ち直り、雷と共に生活をしていた。
朝日と乃依は、芦花や真実と共に、壊れてしまった彩葉たちを懸命に支えながらも、自分たちの生活を再開させた。
黒鬼として活動を行い、莫大な資産を築き上げていった。
その巨万の富は、自分たちの贅沢のためではなく、精神を病み経済的破綻の危機に瀕していた遠田家、そして三人を抱え孤軍奮闘する京都の酒寄家への支援として、絶え間なく送られた。
それは彼なりの、妹を守りきれなかった、そして友人を救えなかった後悔に対する償いの形でもあった。
芦花と真実も彩葉たちを支えながら、インフルエンサーとしての地位を確かなものにしていった。
華やかな世界で活躍し、経済的には豊かな生活を手に入れた彼女たち。
しかし、平穏を取り戻したように見える彼女たちの心にも、抜けない棘は深く刺さったままだった。
ふとした瞬間に、空っぽの棺、そして変わり果てた彩葉の姿が脳裏をよぎる。
時折見せる笑顔がどこかぎこちなく、不自然に強張ることがあるのを、彼女たち自身も、そして互いも、気づかないふりをしていた。
一見すれば、誰もが羨むような成功を収めた彼ら。
しかし、その生活の底流には、常に癒えることのない喪失感が冷たく流れていた。
そして、彩葉、かぐや、ヤチヨの三人は、母・紅葉の予見通り、逃げるようにして京都の酒寄実家へと移り住んだ。
立川の高級タワーマンションにあった家財のほとんどは廃棄された。
手に残したのは、わずかな身の回りの品と、決して捨て去ることのできない遠田の遺品だけ。
彩葉は、酒寄家のリビングのソファで遠田を待ち続けた。
すでに彼女の認識は混濁し、今いる場所が立川のマンションなのか、京都の実家なのかという区別すらついていない。
ただあの日と同じようにソファに腰掛け、永遠に訪れることのない再会を、虚ろな瞳で待ち続けていた。
かぐやの心は、激しい自責の炎に焼かれ続けていた。
「自分が彼を殺した」「自分のせいで、彩葉もヤチヨも、彼の両親さえも壊してしまった」
そう自分に言い聞かせるように、彼女は自傷と自罰を繰り返した。
その傷跡だけが、彼女が背負い続ける罪の重さを証明していた。
ヤチヨは、あれから一度も声を出すことができなかった。
意味のある音を発しようとしても、喉の奥が石のように固まり、音を紡ぐことを拒絶する。
あの日、遠田について行っていれば...という後悔に対する謝罪の言葉すら、彼女の唇から溢れることは許されなかった。
ヤチヨはただ、これ以上「何か」を失うことに怯えていた。
今、3人で身を寄せ合い、互いの体温を確かめ合うだけの、あまりに脆くささやかな幸福。
それが一日でも長く続くことだけを、声を上げぬまま願い続けていた。
紅葉は、そんな壊れゆく三人を静かに、そして力強く支え続けた。
生活の糧は、紅葉自身の収入と、FUSHIが演じる月見ヤチヨの活動によって賄われていた。
逃避・自罰・声なき謝罪。
この3人に未来はなく、現在すらない。
ただ、互いの傷を舐め合い、埋まることのない心の穴をかろうじて塞ぎ、いずれやってくる終わりの時を、静かに、ただ静かに待つだけだった。
かつて彼女たちが謳歌していた、あの眩いほどの笑顔。
指の隙間からこぼれ落ちていった幸福。
物語を美しく締めくくるはずのハッピーエンド。
そんなものは、あの雨の夜の底に、すべて置いてきてしまった。
京都の静寂な屋敷の中で、彼女たちの時間は澱み、ただ緩やかな崩壊を続けていく。
開くことのない玄関の扉。
消えることのない身体の傷。
紡がれることのない言葉。
そこには、救いなど一片も残されてはいなかった。
Bad End3
溶け堕ちた幸福。
雨が降りしきる中。
遠田の命日。芦花と真実は、大阪の郊外にある霊園を訪れていた。
あの日から、5年。
彼女たちは1年に1度、この日だけは欠かさず遠田の墓前に立ち、変わらぬ祈りを捧げ続けてきた。
「...彩葉達ってさ...お墓参り、来られてるのかな...」
真実のふとした問いに、芦花は言葉を詰まらせた。
京都で「あの日」のまま時を止めてしまった3人の姿を思い出し、胸を締め付けられるような沈黙が流れる。
「ごめん...変なこと聞いた」
2人が静かに遠田家の墓所へと足を進めると、そこには雨に打たれながら立ち尽くす、1人の先客がいた。
葬儀の日を境に忽然と姿を消し、行方が分からなくなっていた男――ヤザカマだった。
「...ヤザカマさん」
芦花の声に、ヤザカマは墓石から視線を外すことなく、低く掠れた声を返した。
「...綾紬嬢に諌山嬢か...」
「今までどこに居たの?何をしていたの?
あなたが居ない間に、彩葉が...かぐやちゃんが...ヤチヨちゃんが...もう...
あなたが居たら!!!」
抑えていた感情をぶつけるように叫ぶ芦花。
しかし、ヤザカマの背中は微動だにしない。
「オレが居た所で何も変わりはしなかったさ...
オレは...遠田を救うことも、仇を取ることもできなかった...」
自嘲気味に吐き捨てられた言葉には、5年の歳月を経てもなお色褪せない、どろりとした後悔が滲んでいた。
「オレに出来るのは...酒寄嬢や姫様達の代わりにここに来ることしかできん...
それが、無力だったオレに許された、唯一の贖罪だからな...」
線香の代わりに手向けられた花が、冷たい雨に打たれて静かに揺れている。
ヤザカマもまた、彼なりの地獄の中で、終わることのない自罰の日々を送っていたのだ。
実は彩葉の誕生日に投稿しようかな?と思ってました。
犯人君はいろPガチ恋勢でした。
コラボライブで強めに脳を焼かれた結果こんなことに...
ちなみに、
遠田ともにかぐやorヤチヨが出かけた場合、彼女らの目の前で遠田が惨殺されます。
その結果、犯人は20年後ぐらいに出所し、復讐者に堕ちたかぐやにとって報復されます。
その後、かぐやは、自罰の意識から、自身の意識をもと光る竹に移し、独りで海の底を漂います。
彩葉とヤチヨはこの話同様、京都へ移り、両依存になりながら生涯を終えます。
また、彩葉と出かけた場合、「僕を裏切ったな!!」と意味わからん逆上をくらい、彩葉が負傷し、遠田がやり返すも逃亡。彩葉は入院します。
彩葉を傷つけられた怒りと、彩葉を守れなかった怒りにより、彩葉達の前から姿を消し、復讐に走ります。
犯人の命を奪った後、自身の義眼と犯人の左目を抉り出し、犯人の遺体を焼き払います。そしてその場に義眼と義眼台を残し、どこかへ消えます。
直前までどのパターンにするか悩んだ...