モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方   作:超かぐや姫!脳焼きの民

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最近始めたゲームに浮気していたので初見です。

いつも閲覧、感想、誤字報告ありがとうございます。

短くなったので、2つの話の抱き合わせです。

周りの反応
ツクヨミβテストー触覚―


住所変更・ツクヨミ五感実装

周りの反応

 

 

時は遡り、2030年8月半ば。

 

彩葉、かぐや、遠田がタワマンで同棲を始めてすぐの話。

 

 

 

 

彩葉と遠田は、2人並んで立川市役所のロビーに立っていた。

 

目的は至ってシンプル。生活の基盤を整えるための、住民票の異動である。

 

ちなみにかぐやは置いてきた。

 

住民票どころか戸籍もない厄ネタを市役所に連れて行くわけにはいかないからだ。

 

「引っ越しをしたので、住民票の変更に来ました」

 

「はい。では、こちらの書類に記載をお願いします」

 

窓口の女性職員から手渡された書類を手に、2人は備え付けのデスクで筆を走らせ始める。

 

(あらあら、カップルが同棲を始めたのかしら? いや~、若々しくていいわね。私もあんなキラキラした青春を送りたかったな~)

 

書類を記入する2人の背中に、女性職員の羨望の眼差しが突き刺さる。

 

彼女の目には、仲睦まじく新生活をスタートさせる幸せの絶頂にいる男女として映っているのだろう。

 

遠田と彩葉は交際関係ではなく、遠田が一方的に片思いをしているだけと知ったら、彼女の脳はどうなってしまうのだろうか?

 

また、月から来た異星人も同じ屋根の下で暮らしていると知った時、果たして彼女の胃は無事にもつのか。

 

役所の平穏な空気感とはあまりにかけ離れた裏事情に、傍観者としては誠に心配である。

 

 

 

 

 

「...書き終わった。2030年にもなって、未だにこの手の書類が手書きなんおかしいって...」

 

「まあ、手書きはしんどいもんね」

 

書類の記載を終えた遠田と彩葉が、前時代的なお役所仕事に対して不満を漏らしながらカウンターに向かう。

 

そんな何気ないやり取りさえも、女性職員の目には痴話喧嘩という名の甘いスパイスに変換されていく。

 

「すんません。これお願いします」

 

遠田が書類を提出する。

 

そこには、転居先として同じタワーマンションの、全く同じ部屋番号が並んで記されていた。

 

「はい、承りました」

 

(うひょ~~~!!同じ部屋だ!!この2人やっぱり同棲するんだ!!確定演出キチャーーー!!)

 

女性職員は公務員としてのポーカーフェイスを崩すことなく、内心ではサイリウムを振り回すかのように狂喜乱舞していた。

 

「...?あの、どうしましたか?」

 

彩葉が首を傾げて覗き込む。

 

一瞬、職員のペン先が震えたが、彼女はプロの意地で平静を装った。

 

「いえ、なんでもありません。仲がよろしいんですね。立川での新生活、楽しみですね!」

 

「...あ、あぁ...まぁ、ほどほどに頑張ります」

 

遠田が気恥ずかしそうに顔を背ける。

 

その反応すらも、女性職員にとっては初々しい彼氏の最高なリアクションとして脳内フォルダに保存されていった。

 

まさか、提出された住民票の1枚が「戸籍のない月の姫」が潜む伏魔殿への招待状だとは夢にも思わず、彼女は幸せな勘違いに浸ったまま、淡々と事務処理を進めていく。

 

 

 

 

 

 

住民票の変更を終え、次なる目的地は二人が通う高校だった。

 

彩葉と遠田は、連れ立って職員室の重い扉を叩く。

 

その手にあるのは、学校指定の住所変更届。

 

あのオンボロアパートから立川の高級タワマンへ。

 

住環境のギャップがあまりに激しすぎるため、事務的な手続きとはいえ、報告する側としてはどこか気まずいものがある。

 

「失礼します...住所変更の書類を持ってきたんですけど」

 

遠田が恐る恐る書類を差し出すと、対応した教師が眼鏡の奥の目を丸くした。

 

「おっ、遠田と酒寄か。引っ越したんだって? ...って、おい。これ、住所...」

 

書類に記載された、地域でも有名なタワーマンションの名称と高層階の部屋番号。

 

教師の視線が、提出された紙と遠田と彩葉の顔を何度も往復する。

 

「お、お前ら...ま、まさか...闇バイトとかしてないだろうな!」

 

「してないっすよ!!!ちゃんと、真っ当にバイトと配信で稼いでますよ!!!」

 

配信は真っ当と言っていいのか不明だが、遠田たちは汚い金を得てはいないことは確かである。

 

「しかも、お前ら...同じ住所...いや、何も言うまい...」

 

教師の脳内で、先ほどの市役所の職員と同じ、あるいはそれ以上に複雑な方程式が組み上げられていく。

 

男子生徒と女子生徒が、同時に、同じタワーマンションの一室へ。

 

遠田の片思い、かぐやの存在。

 

そんな裏事情など一切知らない教師たちの間を、困惑と憶測の嵐が吹き抜けようとしていた。

 

「遠田...間違っても、間違った行為はするなよ...」

 

「先生!!!何を言ってるか分からんけど、そんなことせんわ!!!」

 

遠田はこれ以上面倒ごとになる前に、職員室を去る。

 

だが、面倒ごとは職員室内で留まるはずもなかった。

 

 

 

 

 

月が替わり、2学期が始まった高校生活。

 

遠田と彩葉を知る者達はある噂を耳にし、そわそわしていた。

 

かの遠田匠と、皆の憧れ酒寄彩葉が同棲と共に、交際を開始したという噂である。

 

そんな噂を聞き、最も早く行動を開始したのは、遠田の悪友達であった。

 

この噂が真実であろうが、デマであろうが、これが遠田をイジリ倒す最高のネタになると判断したのだ。

 

「遠田ァ!!お前、酒寄さんと付き合ったって噂はマジ???」

 

悪友3人で遠田を取り囲み、問い詰める。

 

「つ、付き合ってないわ!!」

 

遠田は上ずった声で否定するも、周囲の目にはそれが単なる照れ隠しにしか見えなかった。

 

「そうかそうか!!ちょっと酒寄さんにも聞いてくるわ!!」

 

そう言って悪友どもは彩葉の元へ向かう。

 

もし彩葉から「付き合っている」との証言、もしくは照れ隠しの反応が得られたならば、遠田に「幸せのお零れ寄越せ!」とラーメンなりを強請りに行く――。

 

そう、()()()()()()()のだ。

 

「酒寄さん!!遠田と付き合ったってマジ!?」

 

「匠と?いや別に??」

 

彩葉は唐突な質問に対して、極めて冷静に返答する。

 

その声に、上ずりも緊張もない。

 

頬を赤らめることもない。

 

「...そ、そうか。いきなりすまんかった。ありがとう」

 

彼らは早々に引き下がり、遠田の元へ戻っていく。

 

その顔には、先ほどまでの冷やかしとは一転し、遠田に対する圧倒的な憐憫が浮かんでいた。

 

いつの間にか「匠」と名前で呼ばれるほど距離が近くなったにも関わらず、交際関係には至れず。

 

それどころか、恋愛対象として見られているかすら怪しいというあまりにシビアな現実。

 

「...遠田。その...なんか...すまん...

俺らで奢るからメシに行こうぜ...」

 

「えぇぇい!!憐れむな!!同情すんな!!」

 

親友たちからの情け容赦ない慰めの言葉が、遠田の心に深く突き刺さる。

 

同じ屋根の下で暮らし、距離は誰よりも近いはずなのに、その一線が絶望的に遠いことを改めて突きつけられた放課後だった。

 

またこの時から、悪友どもの脳内で彩葉へのあだ名が、学名:Tennen Kuso Boke HitoTsrashi(天然クソボケ人誑し)となった。

 

無自覚に距離を詰め、名前で呼び、同じ屋根の下に住まわせながら、告白の隙も与えず、さらには周囲に「付き合ってない」と平然と言い放つ。

 

そのあまりの難攻不落ぶりと、遠田に対する(無自覚な)仕打ちの数々に、悪友たちは恐怖すら覚えたのである。

 

「...遠田、強く生きろよ。お前の戦ってる相手は、たぶん人間じゃねえわ」

 

「だから憐れむなって言っとるやろ!!」

 

夕暮れの教室で、遠田の叫びだけが虚しく響き渡っていた。

 

 

 

 

そんな放課後から約1か月半。

 

遠田が一か月に及ぶ入院から帰還し、高校生活を再開した。

 

そんな時期にまた、遠田と彩葉を知る者達はある光景を目にし、そわそわしていた。

 

遠田が失った左目。

 

その見えない左側を守るように、あるいは支えるように、彩葉が常に寄り添って歩く姿が目撃されたのだ。

 

それはもはや、甘酸っぱい片思いの関係を超え、瑞々しいカップルすらも超越していた。

 

互いの欠落を補うことが当たり前になった、どこか完成された熟年夫婦の空気感。

 

ちなみにまだ、付き合ってすらいない。

 

「「「「あ、あぁぁぁ...」」」」

 

その、あまりに不可侵な領域に達した二人の姿を見て、酒寄彩葉ファンクラブ(非公認)の面々は、声にならない悲鳴を上げながら脳を破壊されていた。

 

「あ、あの!さ、酒寄さんと遠田くんって、つ、付き合ってるの!?も、も、もしかして入籍まで...」

 

彩葉に脳をしっかりと焼かれた一般女子生徒が勇気を出して、2人の関係について問いかけた。

 

「付き合ってないし、入籍もしてへん!」

 

遠田は少し照れた様子を見せながらも、明確に否定する。

 

だが、その直後だった。

 

「匠、あんまり大きい声で叫ぶと左目に障るから...」

 

心配そうに顔を覗き込み、自然な動作で遠田の制服の裾を引く彩葉。

 

「...あ、あぁ。悪い」

 

彩葉に促されるまま、自然に歩き出す遠田。

 

その背中を見送りながら、ファンクラブの面々は悟った。

 

2人が「付き合っているか」などという問いは、もはや何の意味も持たない。

 

遠田の隣は彩葉のもので、彩葉の隣は遠田のものなのだという残酷な真実だけが、廊下に突き刺さっていた。

 

重ねて言うが、まだ付き合ってすらいないのである。

 

 

 

 

 

かの悪友どもも、今の2人を茶化しに行く勇気はない。

 

彼らは遠巻きに、もはや神域のようになった2人の背中を眺めていた。

 

「...なぁ。アレ、付き合ってると思う?」

 

1人がポツリと呟くと、もう1人が即座に断言する。

 

「付き合うどころか、入籍してると思う」

 

「いや、俺は一周回って付き合ってすらないと思うね。あの天然クソボケ人誑しなら、付き合ってなくてもあの距離感で遠田を誑かすと思うね」

 

「お前、それだと遠田が一生救われないだろ...」

 

遠田(あいつ)は不憫なほど面白いからいいだろ」

 

彼らは離れた場所で、2人の関係性を肴に次の飯の奢りを賭けていた。

 

遠田のあずかり知らぬところで、彼の不憫な恋路は友人たちの格好の娯楽となり、彩葉の無自覚な人誑しは伝説として語り継がれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツクヨミβテストー五感の実装―

 

2035年。

 

天才工学博士である遠田母こと遠田美海によって、仮想空間に触覚、味覚、嗅覚を実装するためのテスト装置が開発された。

 

大きめのヘッドギアと、頸椎を保護するように装着するデバイス。これらをスマコンと連動させることにより、脳へ直接信号を送り込み、仮想空間内での感触を再現することに成功したのだ。

 

その記念すべき試験運用として、共同開発者であり美海の教え子(兼、実子と愛弟子)でもある遠田と彩葉が抜擢された。

 

外部協力者として、かぐやとツクヨミの管理者たるヤチヨが選ばれた。

 

彼らのアバターに触覚プロトコルを実装し、クローズドな空間での挙動を確認する。

 

そんな名目のもと、一行はヤチヨのプライベートルームへと集まっていた。

 

 

 

 

 

「彩葉、彩葉!!すごいよ!ツクヨミに居るのに、このパフェ味がする!!」

 

「彩葉、彩葉!!すごいよ!ツクヨミに居るのに、手の温もりが分かる!!」

 

かぐやは、初めてツクヨミを訪れた際、視覚だけで味を堪能できなかったリベンジを果たすかのように、山盛りのパフェの甘さに舌鼓を打つ。

 

一方のヤチヨは、アバター越しとはいえ、しっかりと伝わってくる彩葉の手の温もりを噛み締めていた。

 

別に現実に戻れば同じ味を楽しめるし、同じ温かさを感じることも可能だ。

 

なんならそれ以上の美味や、彩葉の手以外の温もりだって、今の彼女たちならいくらでも享受していた。

 

彩葉と遠田を襲い、あんなことやこんなことまでしていたというのに...

 

「でも、まだ違和感あんのよな。これまで触覚とかない状態で慣れてもうたし」

 

「そうだね。まだ少し違和感が残ってる感じする」

 

一歩踏み出すごとに伝わってくる、地面に触れる足の確かな感覚。

 

そして、仮想空間独特の少しファンタジーな装飾が施された衣服が、動くたびに肌を擦る感覚。

 

「俺のアバターは現実の服とさして変わらんからいいけど、彩葉みたいに現実と差がある感じやと違和感すごそうやな」

 

遠田は自身のアバターと彩葉のアバターを見比べ、衣装に関しての感覚を述べる。

 

「確かに服装の違和感はあるかも。上半身と下半身の布面積の差が大きいからかな?」

 

彩葉のアバターは、上半身は着物然としたパーカーで肌の露出が少ない。

 

対して、下半身は脹脛の真ん中あたりから露出しており、その上下の差が感覚のズレを強調させていた。

 

真面目に違和感の原因を議論する彩葉に、未知の悪意(?)が迫る。

 

「そういえばさ~アバターの耳とか尻尾ってどんな感じなのかな?」

 

そんな疑問を呟き、両手をわしゃわしゃしながらかぐやが彩葉に接近する。

 

第六感が働いたのか、彩葉はじりじりとかぐやから距離を取る。

 

しかし、背後から音を消してにじり寄ったヤチヨに羽交い絞めされ、逃げ場を失う。

 

「い~ろは!だから触らせて!!」

 

かぐやは彩葉のアバターについた狐の耳を遠慮なくモフりだした。

 

「ああ...っ!な!んっでぇぇぇ...」

 

彩葉は困惑と共に色っぽい声を吐き出す。

 

研究開発段階では、アバターの耳や尻尾には神経を通す計画はなかったはずだった。

 

だというのに、かぐやに触られている部分から、逃げ場のないこそばゆい感覚が脳を直撃する。

 

ヤチヨと遠田母が、本人たちに内密で実装していたのが真相である。

 

「待っ!っ...って!だっぁっめ!かあ゛っぐっやあっ...」

 

「彩葉の耳と尻尾モフモフで気持ちいい」

 

必死に悶える彩葉をよそに、かぐやは至福の感触を楽しんでいる。

 

遠田の遠田を刺激するような声を無理やり無視し、遠田は長年の夢を叶えるべく動き出した。

 

向かう先は悶える彩葉を見てニヤニヤしているヤチヨの元。

 

「なあ、ヤチヨ。頼みがあるんやけどええ?」

 

「な、何かな?ヤッチョに出来ることならなんでも言って!」

 

ヤチヨは何かを期待したのか、少し頬を染めて遠田のリクエストを待つ。

 

「そのな...FUSHIをモフらせてくれん?」

 

「い、いいよ...ん?FUSHI?」

 

「そうFUSHI。前からめっちゃモフりたかってん」

 

「あ、そう...うん...いいよ」

 

そう言ってヤチヨはFUSHIを遠田に差し出す。

 

その表情は、期待していた展開とは違ったのか、どこか不満げであった。

 

しかし、遠田にそんなヤチヨの機微を察する余裕はない。

 

「おおお...! これが、FUSHIの感触...!

めっちゃふかふかモフモフで最高の触り心地や...」

 

遠田はFUSHIのマスコット的可愛さとふかふかモフモフの毛並みにメロメロであった。

 

裏で流れる彩葉の嬌声が気にならない程度には魅了されていた。

 

「なあ、ヤチヨ。FUSHIの超特大ぬいぐるみって製品化せん?

Yogib〇の人をダメにするソファみたいな」

 

「それって匠が欲しいだけだよね?」

 

「もちろん!!特大FUSHIぐるみを抱きまくらにしたい!!」

 

自身の欲望マシマシの願望を垂れ流す遠田に、嬉しさ半分、不満半分の表情を浮かべるヤチヨ。

 

ヤチヨが作ったFUSHIが遠田を魅了していることは嬉しい。

 

しかし、製作者であるヤチヨ以上に遠田を夢中にさせているFUSHIに対して、彼女は猛烈に嫉妬していた。

 

そんなヤチヨの複雑な感情に遠田は気が付きもしない。

 

遠田の視線も意識も、その全てがFUSHIに注がれていたためだ。

 

「むう~~」

 

不満げなヤチヨは、そのモヤモヤを解消すべく、かぐやに揉みしだかれている彩葉の元へ向かう。

 

「彩葉、ごめんね。でもね、匠が悪いんだから」

 

そう宣言して、かぐやがモフっていない耳の片方と尻尾の付け根を触りだす。

 

それは、純然たる八つ当たりであった。

 

「まあっっ...てっぇ、...ヤアッチ゛!...ヨ゛!...まっ!...でぇぇ...、...腰っやっ!めぇっ!...て、へ...ん゛っにっ゛!な!...っっちぃゃっうぅう゛!...」

 

刺激が倍以上に増えた彩葉の脳はキャパオーバーを起こしかけていた。

 

尻尾の付け根をトントンと優しく叩かれる感覚。

 

人にとって未知数の感覚に彩葉のナニカが壊れる音がする。

 

「あっあっ!...あ、...やめっっ...、゛!おぉかあ...しぃっ!...くう...なあっっ!...ちっゃっ...う!!!」

 

そうして彩葉の口から嬌声が止まる。

 

「...あ、もしかしてかぐや達やり過ぎちゃった?」

 

「...え? あ、ちょ、待てヤチヨ! かぐや! 一旦ストップや!!」

 

かぐやの不穏なセリフに、FUSHIの毛並みに埋もれていた遠田がようやく顔を上げると、そこには瞳の焦点が怪しくなり、今にもシステムから強制ログアウトしそうなほどに蕩けきった彩葉の姿があった。

 

「ばか...ほんとに...ばか...」

 

消え入るような声でそう呟いた彩葉の意識は、仮想空間の彼方へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

このテスト結果は即座に遠田母・美海へと共有された。

 

さすがの天才博士も、教え子であり愛娘同然の彩葉がシステム上で完堕ちした事態を重く受け止めたのか、最終的な仕様が決定した。

 

実際に実装する際には、公共のエリアでは感度を大幅に制限し、個人のプライベートルーム限定で触覚の制限を解除できるようロックをかけることになったのだ。

 

街中でいきなり耳を触られて醜態を晒す心配は、これで無くなった。

 

「ちなみに、プライベートルーム内ならそういうこと出来るようにする予定だよ

おばちゃんがフルダイブのシステム開発してるしね」

 

「それってツクヨミのレーティング的に大丈夫なん?」

 

そんな会話がどこかで行われたとかいないとか。

 

 

 

 

 

「...そもそも、アバターの耳とか尻尾とかの感覚を実装しなければ良かったのでは?」

 

後日、現実世界でぐったりとしている彩葉を看病しながら、遠田は遠い目で空を仰いだ。

 

かぐやとヤチヨに散々イジメられ、その全てを遠田母という、上司にして、教員にして、後の義母にも知られた事に気が付いた彩葉は、精神的ダメージと羞恥心から部屋で寝込んでいたのだ。

 

隣で頬を赤らめ、恨みがましそうにこちらを睨んでくる彩葉の視線が、FUSHIを優先した遠田には何よりも痛かった。

 

「...彩葉、そんなに睨まんでや...俺無関係や...」

 

「私の危機を無視して、FUSHIをモフってたじゃん...」

 

「あれは...その...彩葉の声を意識するとアカン感情が沸きそうやったから...無視してました...」

 

「........」

 

彩葉は頬を膨らませたまま、スッと視線を逸らして毛布に潜り込んだ。

 

アカン感情という言葉に、怒るべきか照れるべきか判断に迷っている様子だ。

 

「甘いもん、食べるか?」

 

「...食べる....」

 

「おっけー、持ってくるわ」

 

遠田が部屋を出ようと背を向けた瞬間、背後から「バカ」という小さな呟きが聞こえた。

 

ツクヨミの触覚実装がもたらしたのは、技術の進歩だけでなく、2人の間のなんとも言えない、甘くも気まずい空気感であった。




FUSHIの巨大ぬいぐるみは完全に作者の願望です。
FISHIをもふもふしてぇ
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