モノづくり大好きライバーによるハッピーエンドの作り方   作:超かぐや姫!脳焼きの民

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お久しぶりです!
 
遅くなって申しわ毛ぇございません!!

久方ぶりに熱出して寝込んでました。

いつも閲覧、感想、誤字報告ありがとうございます。



温泉旅行

11月初頭。

 

「ムムム...」

 

かぐやがテーブルに広げた雑誌を睨みつけている。

 

「...かぐや?何、雑誌を睨みつけてるのよ?」

 

そんなかぐやの様子に彩葉が疑問を呈し、かぐやの後ろから雑誌の内容に目を通す。

 

そこに書かれていたのは、『冬の温泉デートで(以下略)』という特集記事だった。

 

「彩葉!かぐや温泉行きたい!!4人で!!」

 

雑誌の誌面を指差して、かぐやが鼻息荒く宣言する。

 

「温泉?私は良いけど...」

 

「じゃあ、匠とヤチヨを誘って来るね!!」

 

「あ、ちょっ!!」

 

かぐやはそう告げると、彩葉の制止も聞かず、遠田とヤチヨを誘うべく走り去る。

 

「...とりあえず、日程と宿を考えないと」

 

彩葉はそう呟き、電子の海を泳ぎ始める。

 

4人で泊まれる温泉宿。

 

露天風呂が付いている部屋だと尚良し。

 

「...混浴とか?いやいや流石にね...」

 

彩葉の脳内にピンクな考えが浮かぶも、理性で抑える。

 

「かぐやとヤチヨのせい...きっとそう...」

 

『自分がスケベなん人のせいにしたらあかんよ』

 

なんて、母・紅葉の呆れ顔と共に、声が聞こえてきたような、聞こえないような。

 

彩葉はブンブンと首を振って雑念を払った。

 

「落ち着け、私...ええと、この宿は...」

 

検索画面に並ぶ、情緒溢れる旅館の数々。

 

そんな中、一つの宿泊プランが目に留まる。

 

『グループ・家族に最適! 豪華客室露天風呂付き・冬の味覚堪能プラン』

 

彩葉の指が、予約の詳細ページを叩く。

 

金額がお高いが、今の彩葉達なら問題ない。

 

「ここ...いいかも。あとでかぐや達に相談しよ

いや...でも、高いか...」

 

それはそれとして、抜けきらない貧乏症により、彩葉はどこか後ろ髪を引かれる思いだった。

 

しかし、最終的にはかぐやとヤチヨの猛烈なおねだりに屈する形で、その旅館を予約することになった。

 

 

 

 

 

 

そうしてやって来た、冬の石川県。

 

日本海の滋味豊かな魚介を堪能でき、大浴場はもちろん、檜造りの客室露天風呂まで完備された最高級旅館である。

 

「予約段階で分かってたとはいえたけぇ...」

 

提示された宿泊費、驚愕の一泊35,000円。

 

遠田はあまりの金額に、現実逃避するように白目をむきかけている。

 

彩葉も同様に、支払いの重みを想像してか、財布を握る手が小刻みに震えていた。

 

対するかぐやとヤチヨは...

 

「彩葉!!匠!!すごい景色綺麗!!」

 

「部屋に露天風呂ついてるんだね~今から入らない?」

 

テンションMAXではしゃいでいる。

 

配信で圧倒的な収益を得ている彼女らにとって35000円は苦にならないのだろう。

 

「露天風呂は夜に入ろ。ここの大浴場も凄いみたいだし、先にそっち行こ?」

 

「「はーい!!」」

 

荷物をまとめ、大浴場へ向かう一行。

 

「匠~1人で寂しくない??」

 

「俺のこと6歳児と思ってはりますヤチヨさん??」

 

もちろん混浴風呂ではないので遠田は1人で男性浴場へ向かう。

 

庭園を眺めながら、こんこんと湧き出る源泉を楽しめる大浴場。

 

遠田は独り、冬の冷たい空気と湯気のコントラストを眺めながら、静かに湯舟を満喫する。

 

...しかし、1人で楽しまれると、会話もイベントも発生せず描写することがない。遠田、なんとかしろ。

 

 

 

 

 

「うひょ~~!こっちの景色も綺麗~~!!」

 

「かぐや、落ち着いて」

 

一方、豪華な女性用大浴場では、かぐやのテンションが完全に振り切れていた。

 

もし他に客が居たら、即座にフロントへクレームが入ってもおかしくないレベルの騒ぎっぷりである。

 

「ははは!他のお客さんが居なくて良かったね、彩葉!」

 

ヤチヨも、かぐやほど大暴れしている訳ではないが、隠しきれない高揚感で声のトーンが高い。

 

「...ほんと、実質貸し切り状態で良かったよ...」

 

彩葉は、広々とした浴槽に肩まで浸かり、ようやく人心地つく。

 

先程までの『一泊35,000円』という金銭的プレッシャーも、この極上の湯に包まれれば、少しずつ溶けていくような気がした。

 

外気と湯の温度のコントラストに、彩葉の表情も蕩けていく。

 

目を閉じ、脳に入る情報を絞ることで、温泉の気持ちよさに集中する。

 

そのせいで、迫るかぐやとヤチヨの魔の手に気が付かなかった。

 

「い~ろ~は!部屋の露天風呂見て、『匠と混浴』なんて考えてなかった?」

 

「そ、そんなこと...」

 

ヤチヨの唐突な発言に、彩葉は顔を真っ赤に染める。

 

「彩葉ってば、エロ葉だね~

そんなエロ葉にはこうだ!!」

 

かぐやから野次と共に腕が飛び出す。

 

「彩葉のお肌すべすべ!!」

 

「やっぱり彩葉、スタイルいいよね!!」

 

「ちょ、ちょっと!かぐや!辞めて!」

 

不意に肌に触れる滑らかな感触に、彩葉は悲鳴を上げた。

 

「良いではないか、良いではないか!」

 

「そんな時代劇みたいな...っ!ひゃんっ!ヤチヨまで!」

 

かぐやとヤチヨの両手が、遠慮なく彩葉の体をまさぐる。

 

逃げようにも、お湯の抵抗と二人の挟み撃ちに遭い、彩葉はなすがままにされるしかない。

 

「ひぅ、そこ、くすぐったい...!」

 

「「彩葉かわいい~!」」

 

女湯に響き渡る彩葉の悲鳴に近い嬌声。

 

その賑やかな騒ぎは、壁一枚隔てた男湯で、1人静かに湯船に浸かりながら、「...なんか、向こう側めちゃくちゃ楽しそうやな」と寂しく空を見上げる遠田の耳にも、微かに届いていた。

 

 

 

 

 

 

一足先に温泉からあがっていた遠田が目にしたのは、非常に満足げなかぐやとヤチヨ。

 

そんな2人の肩に寄りかかる顔を朱く染め、肩で息をする彩葉の姿であった。

 

浴衣を身に纏い、火照った彩葉の姿に遠田は息を飲む。

 

「彩葉!?大丈夫か!?」

 

「彩葉さ、のぼせっちゃったみたいで~」

 

遠田は慌てて彩葉の傍に駆け寄り、かぐやとヤチヨに何があったのか問い詰める。

 

かぐやは飄々と答えるが、彩葉がこうなった真の原因は、女湯で2人に散々可愛がられたからに他ならない。

 

(絶対ウソや...かぐやとヤチヨが好き勝手しよったな)

 

彩葉の様子から、だいたい何があったのかを察した遠田は、彼女をかぐやとヤチヨの手から引き取るようにして、そのまま横抱きにかき抱いた。

 

俗にいう、お姫様抱っこである。

 

「た、匠!だ、大丈夫やから!!」

 

「大丈夫そうに見えんて。おとなしく運ばれといて」

 

突然の浮遊感と、至近距離から伝わる遠田の体温。

 

彩葉はさらに顔を朱くして抵抗するも、湯当たりの脱力感も手伝って、抵抗むなしく遠田の腕の中に収まったまま運ばれていく。

 

「お熱いね~ラブラブだね~」

 

「ヒューヒュー!」

 

背後から飛んでくる野次を無視し、遠田は沸き上がったアカン感情を抑え込みながら、黙々と部屋へと続く廊下を歩く。

 

腕の中に伝わる彩葉の熱が、単なる温泉のせいだけではないことを感じ取りながら、遠田は少しだけ歩く速度を速めた。

 

 

 

 

 

 

彩葉を部屋まで運んだ遠田は、彩葉をかぐやとヤチヨから守るように彩葉を抱きかかえていた。

 

胡坐の上に彩葉を乗せ、背後から抱きしめる。

 

いろ吸いをさらっと行いながら、かぐやとヤチヨに対する警戒の手を緩めることはない。

 

「匠、ひどい~~!!彩葉を独り占めしてる!!」

 

「彩葉の独占反対!!ヤチヨたちにも彩葉成分を!!」

 

かぐやとヤチヨから抗議の声が上がるも、遠田はそんな声を跳ね返す。

 

「お前らを好き勝手させると彩葉がもたんやろ!!大浴場で好き勝手したんやし、どうせ夜も好き勝手するんやろ!

じゃあ、今は彩葉を休ませる方が先決やろ!」

 

「本音は?」

 

そんな遠田の建前を崩さんと、かぐやが短く、鋭い言葉を放つ。

 

ヤチヨもまた、面白がるようにニヤニヤと遠田の表情を覗き込んだ。

 

「...お前らばっか彩葉といちゃついてズルい!!

彩葉は俺のモンや!!」

 

そして、ついに堰を切ったように零れ出る本音。

 

「匠...」

 

遠田の腕の中で、彩葉の呆れるような声が漏れる。

 

しかし、そう言いながらも彩葉の表情はどこか満更でもなさげで、背後の遠田に身を委ねるように少しだけ深く体重を預けた。

 

「そんなこと言っちゃっていいのかな~いざとなれば匠ごと彩葉を襲ったっていいんだよ?」

 

8000年間熟成された気持ちを抑えることを辞めたヤチヨ。

 

そんな彼女にとっては、大好きな2人を同時に味わうことができるいいチャンスでもあった。

 

ヤチヨの瞳が、獲物を狙うそれのように怪しく細められる。

 

「このスケベ管理人め...やれるもんならやってみ!!」

 

遠田は彩葉を抱く腕に力を込め、半ば自棄気味にヤチヨを挑発する。

 

「かぐやも混ざる!!匠!!覚悟!!」

 

かぐやも勿論参戦を表明する。

 

かぐやにとってヤチヨ側に与する方がメリットが大きい。

 

「ヤチヨ!?かぐや!?匠も煽らないで!!」

 

「...フフフ。匠がそう言うならしかたないね。

遠慮なくいかせてもらおうかな!」

 

彩葉の静止も虚しく、ヤチヨとかぐやがゆっくりと立ち上がり、捕食者のような足取りで2人に歩み寄る。

 

「彩葉と一緒に、匠も可愛がってあげるよ~」

 

豪華な夕食を前にして、遠田と彩葉の理性と貞操は、かつてない危機に瀕していた。

 

かぐやとヤチヨの手が遠田たちの浴衣にかかり、ひん剥こうとするも遠田の必死の抵抗により、戦線は停滞する。

 

彩葉に手を伸ばそうにも遠田ガードにより弾き飛ばされる。

 

どうにかして遠田から排除しなければならない。

 

優先して、遠田の衣服を剥ぎ取り、遠田を堕とすしかなくなったかぐやとヤチヨは抱きかかえられた彩葉ごと遠田を押し倒す。

 

その時、絶妙なタイミングで――コンコン、と障子の向こう側から控えめなノック音が響いた。

 

「失礼いたします。お食事のご準備が整いました...」

 

「「「「...っ!!」」」」

 

仲居さんの落ち着いた声に、4人は一瞬でフリーズした。

 

彩葉を抱きしめたままの遠田、2人に覆いかぶさろうとしていたかぐやとヤチヨ。

 

静寂が、一瞬にして部屋を支配した。

 

「「...助かった...」」

 

遠田と、その腕の中で真っ白になっていた彩葉が、魂の抜けたような声で同時にそう呟いた。

 

「...あー、はい、今開けますんで! ちょっと待ってください!」

 

遠田は震える手で乱れた浴衣の襟合わせを直し、彩葉を座布団の上へと避難させる。

 

かぐやとヤチヨも、舌打ちしたい気持ちを抑えて、何食わぬ顔で定位置に座り直した。

 

スルスルと障子が開くと、そこには石川の冬の味覚をこれでもかと盛り込んだ、豪華絢爛な料理の数々を運ぶ仲居さんの姿があった。

 

「本日は能登牛の水晶焼、ノドグロの塩焼き、そしてズワイガニをご用意しました」

 

「「「「おぉ...」」」」

 

先ほどまでの淫靡な空気はどこえやら、普段ではお目にかからないような高級食材がふんだんに使われた調理が4人の目の前に並べられていく。

 

「すげぇ、カニや...食ったことなかってんよな...」

 

「こんなもの食べる日が来るとは...」

 

あまりの豪華さに、遠田と彩葉は再び別の意味で震え始める。

 

高級旅館の洗礼は、煩悩さえも食欲と畏怖へと塗り替えてしまった。

 

「うひょ~~めっちゃ美味しそう!!」

 

「これ、ほんとにヤッチョ達が食べていいの!?」

 

花より団子。

 

かぐやとヤチヨも高級料理に目をぎらつかせている。

 

「能登牛うめ~めっちゃ柔らかいねんけど!これが水晶焼の力か...」

 

「このノドグロ、すごい身がフワフワ。すごくおいしい...」

 

「彩葉!匠!カニも凄いよ!!身がぎっしりしてる!!」

 

遠田と彩葉、かぐやが高級食材とそれを十全に活かした料理の破壊力に興奮の隠しきれない。

 

対して、ヤチヨは。

 

「......」

 

無言で涙を流しながら料理を味わっていた。

 

「ヤチヨ!?ど、どうしたの!?もしかして口に合わなかった!?」

 

彩葉が慌てて箸を置き、彼女の顔を覗き込む。

 

かぐやと遠田も、その異様な光景に動きを止めた。

 

「...違うの。美味しい...美味しいんだけどね」

 

ヤチヨは目元を拭い、慈しむようにノドグロの身を口に運ぶ。

 

「こうやってね...4人で美味しいご飯食べて、笑い合って過ごせるのが嬉しすぎて...」

 

「...ヤチヨ」

 

肉体を得て、半年以上が経過したとはいえ、ヤチヨの人生の殆どを占める孤独な旅路。

 

そんな地獄の果てに、こうして笑い合える幸福を高級料理の味と共に噛み締めていたのだ。

 

「それにさ...」

 

ヤチヨはさらに言葉を紡ぐ。

 

感動的な場面のはずなのに、遠田の脳裏には、野生の勘に近い強烈な警告が走る。

 

「綺麗な大浴場に入って、美味しいご飯食べて、この後露天風呂に入って、彩葉と匠と愛し合える(意味深)なんて幸せすぎる...」

 

「おい、待てや。感動的な雰囲気どこ行った?」

 

前言撤回する。

 

ヤチヨにとって、花より団子ではなく、(彩葉と遠田)団子(食事)、その両方を余さず骨の髄まで楽しむつもりなのだ。

 

「フフフ、ヤッチョはもう我慢しないのだ!!彩葉と匠を朝までたっぷり愛するからね!」

 

不敵な笑みと共に放たれた爆弾発言に、彩葉と遠田の顔が沸騰したように赤く染まる。

 

「ヤチヨ...露天風呂なんだけどさ...ヤチヨとかぐやに悪いんだけど、露天風呂は匠と2人で楽しみたいなって...」

 

「彩葉!?」

 

隣で聞いていた遠田が、椅子から転げ落ちそうになりながら声を上げる。

 

まさかの2人きりでの混浴の指名。

 

彩葉は羞恥心で指先まで震わせながらも、その瞳には譲れない決意が宿っていた。

 

「ムムム...彩葉がそう言うなら...

だけど!その後は覚悟してね!!」

 

ヤチヨは少し不満そうだが、一時的に引くことにした。

 

「...覚悟はしとくね」

 

彩葉は意を決したように答え、まだ固まったままの遠田の袖をそっと引いた。

 

「匠...行こ?」

 

「お、おう」

 

遠田は彩葉と共に、露天風呂に向かって消えていく。

 

「ヤチヨ...ほんとに譲っていいの?今から乱入してもいいんじゃない?」

 

かぐやの問いに対して、ヤチヨは首を横に振る。

 

「今は匠に譲ってあげる。独占欲マシマシだったからね」

 

ヤチヨは残ったカニの身をゆっくりと口に運び、満足げに目を細めた。

 

「それに、匠にたっぷり彩葉を『温めて』もらった後に、ヤッチョ達も楽しむんだから。その方が、もっと美味しくなると思わない?」

 

「ヤチヨ天才過ぎる!!」

 

かぐやはヤチヨの戦略的撤退の真意に目を輝かせ、能登牛の最後の一切れを口に放り込んだ。

 

 

 

 

 

 

「...ふぅ。...冷たい風が気持ちええわ...」

 

「...そうだね」

 

外気は凍えるように冷たいが、肩まで浸かった檜の湯船は、驚くほど優しく二人を包み込んでいる。

 

遠田と彩葉。

 

先ほどまでのかぐやたちの喧騒が嘘のように、そこには波音と、時折パチパチと爆ぜる湯の音だけが響いていた。

 

「...匠」

 

「ん?どした?」

 

「...さっきの、『俺のモン』っていうの...すごく嬉しかった...」

 

彩葉が水面から顔を出し、上気した肌を月光に晒しながら、隣に座る遠田をじっと見つめる。

 

「......勢いで出た言葉やけど、嘘じゃないしな...」

 

遠田は決まり悪そうに視線を外の山へと逸らしたが、その耳たぶは温泉の熱以上に赤く染まっている。

 

「あとさ...普通にかぐやらに嫉妬してた。彩葉とめっちゃいちゃついてるのが羨ましかった」

 

「そっか...」

 

遠田の馬鹿正直な告白に彩葉は顔をさらに朱く染める。

 

「...匠」

 

遠田の名を呼んだ彩葉は、振り向いた遠田の唇に自身の唇を重ねる。

 

それは、ほんの一瞬。

 

けれど、冬の夜風を忘れさせるほどに熱い接触だった。

 

「どうせこの後、ゆっくりできないし、今、2人で...その...」

 

ここまで言って彩葉は我に返ったのか言葉を詰まらせる。

 

「自分から何を誘っているんだ」という羞恥心が、一気に押し寄せてきたのだ。

 

「あ、いや...その...今のは...!私、何を...!」

 

バシャバシャと小さく水音を立てて身を引こうとする彩葉。

 

しかし、その手首を、遠田が湯船の中で静かに、けれど強く掴んだ。

 

真っ赤な顔をしながらも、逃がさないという意思を込めて彩葉を見つめ返す。

 

「...言いかけて止めるのは、なしやろ」

 

遠田の視線は、もう外の景色には向いていなかった。

 

「...匠......」

 

「...この後、ゆっくり出来ひんの分かってるからさ。今は...」

 

遠田は掴んだ手に力を込め、彩葉の体をゆっくりと自分の方へと引き寄せた。

 

密着する肌、互いの心拍音が湯船の振動となって伝わってくる。

 

「...彩葉、ええ?」

 

「...うん...っ」

 

彩葉は小さく頷き、遠田の胸にそっと顔を埋めた。

 

石川の冷たい夜空の下、露天風呂は、2人だけの熱で満たされていく。

 

部屋で待ち構える捕食者(かぐやとヤチヨ)たちのことも、今は遠い世界の出来事のように思えた。

 

 

 

 

 

 

そんな捕食者たちは...

 

「いつまで経っても2人は照れ屋だね~!」

 

遠田と彩葉の様子を覗いていた。

 

邪魔しない、乱入しないというだけで、覗かないとは一言も言っていないのである。

 

それが彼女たちの言い分である。

 

「いけー!押し倒せ!!」

 

「いけ~!差せ!差せ!」

 

「ヤチヨ...刺せは色々まずくない?」

 

「え? 競馬的な意味だよ? ほら、匠が最後に差し切るかどうかっていう...」

 

「絶対ウソ!目がガチだったもん!!」

 

などと、小声で野次を飛ばしたりして楽しんでいた。

 

その姿は、片手にビールの缶とつまみのカニの脚を持っていても全く可笑しくない、完全におじさん化した観戦者の光景であった。

 

野次を飛ばしながらも、彼女たちは着々と戦支度を整えていた。

 

広い和室に敷き詰められた四人分の布団。

 

その中心が少しだけ乱れているのは、期待と興奮で転げ回った名残だろうか。

 

あとは、露天風呂で心も体も芯まで温まった2人を、美味しくいただくだけである。

 

「フフフ...彩葉も匠もヤッチョ達の魅力でメロメロにして堕とすぞ!!」

 

「「おーーー!!」」

 

2人は一致団結し、今夜の楽しみに期待で胸を膨らませる。

 

 

 

 

 

 

しばらくして、湯気と共に少しだけ覚悟を決めた顔の遠田と、湯上がりの上気した顔をさらに赤くした彩葉が、恐る恐る部屋の障子を開けた。

 

「...ただいま、戻り...」

 

言いかけた二人の視界に飛び込んできたのは、満面の笑みで「おかえりなさい!」と両手を広げる捕食者たちの姿。

 

「...2人とも露天風呂から出てきたってことは食べられてもOK!ってことだよね!!

合意と見ていいよね!!」

 

「さあ、石川の夜の本番はこれからだよ!」

 

遠田が「やっぱり一部屋増やしとけば良かった...」と遠い目をした直後、部屋の灯りがパッと消え、賑やかな悲鳴と笑い声が石川の静かな夜に溶けていった。

 

この後、彩葉たちがどうなったかは読者の皆さんの想像にお任せする。

 

ただ、言えるのは――

 

明日の朝、宿を出発する際、遠田と彩葉が心なしかげっそりと歩いている横で、ヤチヨとかぐやが非常にホクホクな、太陽のような笑顔で石川の景色を眺めていたことだけだ。

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