悪女は"正解"を咀嚼する   作:ギャン吠えチワワ

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80話 オフ会!

 

 アガルタは5つの区で構成されている。区を移動する際は電車が基本。もちろんお金を積めばタクシーでの移動も出来るが、電車で不便を感じないため使う人は少ない。それにたまに乗る電車はアトラクションみたいで少し楽しいから私は好きだ。

 そして今回のオフ会会場は私の区とは違う区だった。

 

『貴婦人連続殺人事件ですが、未だに進展はなく……』

 

 電車のモニターには音声こそないがニュースが流れている。最近話題の連続殺人。いくら安全とはいえ、人が集まれば当然そういうことも起こる。もちろん怖いとは思うが、同時にこの程度で済んでて良かったと思う自分もいる。上の世界で暮らしていた時は殺人なんて日常茶飯事だった。街から街に移動してる間に野盗に殺されました。村に入ってきた獣に殺されました。貴族の不興を買って殺されました。そんなことばかりであり、平民が数名死んだ程度では新聞にすら載らなかった。それに比べてここではこうやって報道してくれるのだ。それがなによりの平和の証だと思う。

 

「着きましたと……」

 

 携帯端末でKKちゃんとラグナロクさんにメッセージを送る。目印は忠猫キュウ公像。待ってればそのうち来るはずだ。私は2人が来るまでの間に手鏡で前髪を整える。やっぱり第一印象は良くしておきたい。

 

「ていうか私が一番乗り?」

 

 この場所は人がそこそこ多い。軽く見ただけでも待ち合わせで5名近くが使ってる。そういえば互いに容姿や服装を伝えていなかったけど、どうやって連絡を取るのだろうか……

 

「あ……」

 

 ふと一人の男性と目が合った。耳の尖ってない男性。彼は珍しいことにエルフではなく人間だった。ここには人間がいないことはないが、やはり人口の大半はエルフが占めている。

 そんな彼に目を奪われる。彼は人間であること以前に、顔があまりに整っていた。足も長くて、服の上からでも筋肉が分かるほどに肉体が鍛えられている。しかしマッチョという感じは不思議としない。イケメンに求める要素を全て兼ね備えたような理想の男性だった。それこそまるで乙女ゲームから飛び出してきたような存在。

 

(カッコいい……)

 

 そんな彼は目が合ったことに気づくとこちらに手を振る。誰かに見られることに慣れている仕草。あまりに格好良く、付き合うならああいう人がいいとすら思う。それほどまでに彼は魅力的だった。

 そして彼が私に近づいてくる。その事実に私の顔は真っ赤になる。私のようなつまらない女に彼のようなイケメンがなんの用だというのだろうか。心臓がバクンバクンと音を鳴らしていく。

 

「もしかしてみけねこさん?」

 

 彼が私に優しく声をかける。その声には言い表せないような色気があり、咄嗟のことに声がひっくり返ってしまう。

 

「は、は、は、はい!」

「人違いじゃなくて良かった。少し不安だったからな」

 

 彼はいまみけねこさんと私のことを呼んだ。もしかして彼が私の待ち合わせ相手だったのだろうか。そのことに気づいて頭が混乱してくる。こんなイケメンと偶然ネットゲームで知り合いました。そんな少女漫画のような展開が許されていいのだろうか。もしも口説かれてしまった日にはどうなってしまうのだろうか。

 

「あ、あ、あなたが、ラグナロクさんですか?」

「ううん。KK0412」

「ふへぇっ!?」

 

 あの可愛らしい幼女。それの中身がこんなイケメン。もはやギャップで風邪を引きそうである。なんでネカマしてるのかとか色々と気になるところはある。だけどそれ以上にエロいと思った。こんな完璧なイケメンが実はネトゲ世界では女の子でネカマしてます。そんなのギャップが凄すぎてエロい以外の言葉が出てこない。ていうかもはやなんか可愛い。彼ほどのイケメンならばネカマしてることすらも不思議と受け入れられてしまう。

 

「ほ、ほんとにKKちゃん?」

「なんか勘違いさせて悪いな」

「い、いえ……私は気にしてませんから」

「良かった。嫌われるんじゃないかと少し不安だったからな」

「そ、そんなことありません……よ」

 

 もはやずるい。あんなイケメンスマイルで微笑みかけられたらなにをされても許してしまう。イケメンならなにをしても許されるという言葉の意味を身をもって実感してしまう。

 

「ところでKKさん……」

「どうした?」

「良かったら連絡先交換しませんか?」

 

 私は勇気を振り絞った。彼と繋がりたい。彼のことを知りたい。もっと彼と通じていたい。そして親密な関係になりたい。

 

「いいよ」

 

 私の携帯にKKさんの連絡先が追加される。その事実で興奮して、顔が茹でダコのように真っ赤になっている。まるで夢でも見てるかのようだ。もはや夢なのではないだろうか。だってあまりに出来すぎている。

 

「ところでラグナロクさんは……」

「多分あそこにいる方じゃないか?」

「そうですかね?」

「ちらっと見えた携帯に俺たちのグループチャットの画面が見えたからそうだと思う。ちょっと声かけてくるから待っててくれ」

 

 そうしてラグナロクさんとも合流する。ラグナロクさんは人間で言うところの三十代前半くらいの男の人だった。顔は普通なのだが、KKさんの顔面を見たあとだと霞んで見えて、悪いところばかりが目立つ。

 

 ……ラグナロクさんになんかの用事が入ってKKさんと2人になれたら良かったのに。

 

「ラグナロクさん。こないだの奈落蜘蛛討伐では協力ありがとうございました」

「ぼ、僕は大したことしてないよ……ていうかKKちゃんってネカマだったんだね」

「ああ。カミングアウトのタイミングを逃してな。もし期待させてたら本当に申し訳ない」

「う、ううん! 別にいいんだよ!」

 

 ふとラグナロクさんの曇った顔が気になった。まるで気に食わないと言いたげな不満そうな顔。あまり深くは考えないようにしたいけど、見ていて気分の良いものではない。

 

「それで君がみけねこちゃん?」

「は、はい……」

「想像通り可愛いね」

「ありがとうございます……」

 

 なんだろうか。視線が嫌な感じがする。出来ることならラグナロクさんとはあまり話したくないなと本能的に思ってしまった。私はそっとラグナロクさんと距離を取って、KKさんの影に隠れた。

 

「そういえばラグナロクさんがお店の予約してくれたんだっけ?」

「あ、ああ!」

「立って話すのもあれだし移動しようぜ」

 

 そうしてラグナロクさんに案内されたのは人目の少ないバーだった。軽くメニュー表に目を通すが、どれも聞いたことのない名前のお酒ばかり。正直あんまりお酒は好きじゃない。だけどここで断って空気を悪くしたくないし……

 

「みけねこちゃん。このお酒がお勧めだよ」

「じゃあそれで……」

「俺はこれにする。あとフードも欲しいよな……なんか食べたいものある?」

「僕は何でもいいかな」

「私も……」

「それじゃあフライドポテトに唐揚げにカルパッチョと」

 

 KKさんがてきぱきと注文していく。まるでこういう場に慣れてるようで格好いい。彼がなにをしても魅力的に見えてしまう。

 

「そうだ。みけねこちゃんって名前はなんていうの……」

「えっと……その……」

「ラグナロクさん。リアルの詮索はマナー違反だ」

 

 質問に困ってるとKKさんがさらっと助け船を出してくれる。だけど内心少し残念だった。だってそれはKKさんの名前を聞く機会を喪失した気がしたから……もしここで私が名前を言えば……

 

「わ、私はカナリアって言います。その……ラグナロクさんは?」

「僕はタケだよ」

「……KKさんは?」

 

 自然と名前を聞く流れができた。心の中で少しガッツポーズをする。これなら気持ち悪いと思われることはないだろう。だけど彼の名前は予想外のものだった。

 

「俺はカオリだな」

 

 カオリ。明らかな女性名。しかし彼が偽名を使ってるとも思えない。それに最近どこかで聞いたような気がしなくもない。

 

「カオリってそれ本名?」

「ああ」

「なんていうか女の子っぽい名前だね」

「まぁそうかもな。俺は気にしたことなかったけど」

 

 ラグナロクさんがデリカシーのない言葉を投げるが、カオリさんは涼しい顔してスルーする。あまりに大人の対応で凄いと思った。なんていうか人の扱いに慣れている。

 

「そういえばカオリさんはどういう経緯でアガルタに来たんですか?」

「観光」

「え!?」

 

 観光。それには思わず耳を疑った。ここは一度入れば出られる場所ではない。観光なんかで来れる場所ではないのだ。それなのに彼はさらっと言った。

 

「だからあと数日もしたら外に出るかな」

「……冗談?」

 

 そんなタイミングでお酒と料理が提供される。カオリさんはグラスに注がれた酒を躊躇うことなく一気飲みする。そして提供されたカルパッチョをペロリと食べていく。

 

「やっぱりアガルタの飯は美味いな」

 

 カオリさんの一言が頭から離れない。観光と言ったり、外に出ると言ったりと発言が常軌を逸している。しかもあまりに完璧で理想的な男性。もはや隙がなくて、それが逆に不気味で怖くなってきた。私はなにか変なことに巻き込まれたのだろうか?

 そもそも相手が偶然絵に描いたようなイケメンなんて出来すぎだ。そんなイケメンが私なんかに優しくしてくれることもおかしい。

 

「まぁあれだ。俺は色々と特別だから気にしないでくれると助かる」

「わかりました……」

 

 そう言われたら私はなにも言えない。私は逃げるように運ばれたお酒を口に運ぶ。そのお酒は凄く甘くて飲みやすかった。

 

「この酒も美味そうだな。俺も同じの頼む」

 

 ◆ ◆ ◆

 

 それからのことは覚えていない。酔いが回り、記憶があやふやだ。そして気が付けば私は見知らぬ家にいた。

 

「気が付いた?」

 

 目の前には半裸になったラグナロクさんがいる。寝起きで状況が飲み込めない。目を擦ろうとしたが手が動かない。そこで手足が縛られていることに初めて気づく。声をあげようとするが、口に詰め物を入れられてるのか、声が出ない。そのことに気付いた瞬間に私の全身は氷のように冷たくなり、心臓が凍りついた。縛られた手足が私の不安を煽り、恐怖で頭が真っ白になる。

 

「んー!んー!」

「しかしくそっ! せっかく初の2人同時のボーナスステージかと思ったのによぉ! ネカマなんて頭おかしいんじゃねぇか!」

 

 気づけば目からは涙が零れていた。怖い。ここから逃げなきゃ……

 

「さてと。お楽しみといきますか」

 

 男が私に馬乗りになる。乱暴に服が引き裂かれる。必死に暴れるが頬を叩かれて黙らされる。怖い。なにをされるかわからなくて怖い。殺されたくない。嫌だ。誰か助けて……

 

 ——ピンポン

 

「あ?」

 

 呼び鈴が響いた。ラグナロクさんの手が一瞬止まる。その瞬間には分厚い鉄の扉が吹き飛んできた。その鉄の扉はラグナロクさんの頭に直撃し、彼の意識を一瞬で奪った。私は恐る恐る顔を上げる。

 

「もう大丈夫」

 

 そこにはカオリさんがいた。彼は私に優しく微笑むとコートを被せてくれた。そして彼の手で口の詰め物が外され、拘束が解かれる。私は泣きながら彼に抱き着く。本当に怖かった。殺されるかと思った。

 そんな私をカオリさんが男性らしい大きな手で優しく私の髪を撫でる。

 

「怖かった……怖かったよ……!」

「間に合って良かった。怪我はないか?」

 

 ふと落ちている扉が視界に入った。それは金属製の重い扉だった。恐らく数百キロの重さはあるだろう。それがまるで段ボールでも蹴り飛ばしたように吹き飛んだ。いったいカオリさんはどれだけ怪力なのだろうか。

 

「ところでカオリさん……どうして……」

「あんな強い酒勧めて、それで酔い潰れたから介抱すると言ったら普通は疑うだろ」

 

 まるで騎士様だ。喧嘩も強くて洞察力もあり、小さな違和感も見逃さない。そして私が傷つく前に助けてくれる。こんなに理想的な人がいるだろうか。

 

「もっとも俺が引き取れば良かったんだが、そうなると遺恨を残しそうだったから……まぁあれだ。一瞬でも怖い思いさせて悪かった」

「い、いえ! そんな!」

「まぁあとの処理はルイス姉に任せるとし……」

「ルイス姉?」

「あ、やべ……」

「も、も、も、もしかして!」

「あー悪い。そのことは内密に頼む」

 

 そうだ。カオリってどこかで聞いた名前かと思ったら聖女ルイス様の弟の名前だ。

 いきなり現れた私の騎士様。それは聖女ルイス様の弟君だった。不思議と腑に落ちる部分はあった。だってあの聖女ルイス様の弟君なのだ。そりゃ誰よりも格好良くて凄いに決まってる。それにカオリさんならば聖女ルイス様の身内ならば観光というのも納得だ。

 

「格好良かったな……カオリさん」

 

 それから私は治安維持隊に保護され、ラグナロクさんは連行されることになった。あれから二度とカオリさんとは会うことはなかった。気づけばアカウントは消えていた。まるで胡蝶の夢のようで現実感がない。だけど私はあの時のトキメキを忘れることはないだろう。もしまた会えたなら……

 

* * *

 

 あれから俺はルイス姉にガンガンに詰められていた。特にみけねこさんに俺がルイスの弟だと口を滑らせたのが大きな問題となった。そこだけは本当に反省せざるを得ない。そしてここぞと言わんばかりに2週間の予定だった滞在が、3週間に伸びていたことも非常に強い言葉で追求されることになった。

 

「もうこれ以上は看過出来へんよ?」

「いやでも本当に問題があるならルイス姉が止めると思って……」

「まぁカオリももう大人だから任せても問題ないと判断したうちの責任もあるし、カオリだけが悪いとは言わへん。でも限度ってもんがあると思わへん?」

 

 その結果として俺は正座させられ、ルイス姉に詰められている。仕方ないのだ。まず久々のネトゲが楽しかったというのもあるがそれ以上にプレイしていくうちに物足りなさを感じたのだ。だから少し弄ってModの開発もできそうだったので、環境構築をして、新規モデル作成とかしてるうちに気づけば3週間が経っていた。途中でオフ会したりと色々とあったがやはり一番悔しいのは全裸Modの開発が途中で終わったことである。もう少しで俺のKKちゃんを剥がし、公然露出プレイが出来たというのに……!

 

「それにモモのこと無視してネトゲ漬けとかほんまなに考えとるん?」

「モモなら1人でもなんでも問題ないだろ」

「そういうこと言っとるんやないんやけど? モモよりネトゲの方が優先順位高いのはどうなのかって話をうちはしとるんやけど?」

「ルカ。なんか言ってくれ」

「あー。これはカオリが悪いよ。うん。しこたま絞られてきなよ」

 

 そうして俺の楽しいネトゲ生活は終わりを告げ、本格的に魔族領へと向けた旅が始まった。もっとも旅といっても外に出ることはない。ここから先はアガルタから発射されるジェット機に乗り、そのまま国境を越えて魔族領に侵入。エルフ領に立ち寄ることすらないだろう。もうアガルタに着いた時点で作戦は成功したようなものなのだ。

 そんな俺達の会話を横で聞いていたルカがふと思い出したように発言する。

 

「そういえばアガルタでも犯罪って起こるんだね」

「たしかに……ルイス姉が運営してるなら犯罪なんて起きる前に対応出来そうなものだが……」

 

 アガルタは理想的な国だ。しかし犯罪はなくならなかった。例えばみけねこさんに暴行未遂を働いた男。その男は巷で話題になっていた連続殺人事件にも関与していた。なんでもネットを通じて女の子と接触を図り、のこのこついてきた子を食い物にして殺すということを常習的に行っていたようだ。もしも俺がみけねこさんと関わらなければ、きっと彼女も殺されていただろう。

 

「私はそこまでは言わないけどさ。少なくとも事件が起きてるのに犯人を特定できないってことに少し違和感があったかな」

「たしかに」

「まぁみんな幸せそうなのに犯罪に走る人もいるんだって意外性も少しあるけどね」

 

 街中にも防犯カメラは多くあったし、ネトゲのメッセージ履歴から被害者が最後に関与した人物も分かりそうなもの。それなのに特定出来ないというのはルカの指摘する通り奇妙である。それこそ犯人がルイス姉やメイみたいな存在ならまだしも、今回は素人だ。そんな簡単に隠し通せるとも思えない。

 

「まぁ一任しとるからな。なんでもかんでもうちがやったらいかんやろ」

「いやいや。どう考えてもおかしいでしょ。被害者のメッセージ履歴見るだけで一瞬で容疑者は割り出せるでしょ。いくらルイスが関与しないとはいえ、そんな簡単なことを見逃す?」

「うちに言われても知らへんよ。ただ捜査は少し杜撰やと思うし、そこはうちが口出しせえへんといけへんのかもな」

「だけど……」

「ただ1つ言うとしたら職業は適性配置。いったい捜査官はどこまでやる気やったんやろうねぇ」

 

 そうか。適性はあくまで苦もなく続けられること。仕事に真面目かどうか等は評価される項目ではないのだ。だからこそ面倒という理由で適当に仕事をしていてもおかしくはない。通常業務は続けられるが、連続殺人のような例外処理には向いていない。そういうことがあってもおかしくないのだ。

 なにせ悪いやつを捕まえたいみたいな気持ちは適性とは関係ないのだから。

 

「もしかしたら捜査官側に共犯者がいたりしてな。なにせ適性やからなってたとしてもおかしくはあらへんと思うで」

「どういうことだ?」

「例えば今回の捜査担当者を特定。その人に接触して賄賂を掴ませたり、拉致した女の子を献上したりする。そうすれば捜査を難航させることくらいは出来るやろ。うちが犯罪するならそうするで」

 

 実際にそうしたかどうかは置いておくにしても、それならば犯罪も不可能ではないし、今回の件について説明ができてしまう。なにより捜査官の能力がないからメッセージ履歴すら確認しませんでしたと考えるよりも自然だ。

 

「……それ。分かってて設計したわけ?」

「どんなに上手く組んでも穴は生まれるし、それを乗り越え、良いものにしてくのが人って生き物やろ。うちはうちの作った制度で人がどう加工してくのか見とるんよ」

「……ルイスならどうすればいいか答えは出てるんでしょ?」

「せやね。ただなんでもかんでもうちが口を出したら、うち抜きじゃなんも出来へん国になるやろ」

「それは……」

「もうこの話は終わりや。それより今後の話をするで」

 

 ルイス姉は誤魔化すように話題を切り替える。俺達もアガルタのことは話の本筋ではないため、これ以上の追求をすることなく話に乗っていく。

 

「まずこのまま魔族領に行くで。そんでモモに親書を渡す」

「予定通りだな」

「……せや。1つだけ言っておかへんといけへんことがあるんよ」

「ん?」

「恐らくモモは魔王を降りる。そんでうちを魔王に任命するで」

 

 * * *

 

 時刻はカオリ達がアガルタに立ち寄る少し前に遡る。

 王都を目指す勇者フウガと剣聖ロシェの前に1人の女が立ちふさがった。

 

「え、え、えっと……」

 

 女はおどおどした表情で声をかける。その声で2人の足が止まる。2人は彼女のことをよく知っている。目の前にいるのは2人にとって許してはいけない悪意だった。なんとしてでも倒さなければならない敵だった。

 

「お前は!」

 

 ロシェが声を荒げる。彼女の顔を見るのは初めてだ。しかしルイスから話は聞いている。その女の特徴も聞いている。目の前にいる女はその特徴と合致していた。

 彼らの前に現れた女の名は()()()。先日の大規模テロの主犯であった。

 

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