ルカが今にも飛びかからんとばかりにモモを睨む。ルイス姉はモモに
「ルカの幼女化もモモの指示なんか?」
「さすがに違うよ。まぁ状況証拠は揃ってるし、信用してもらえないだろうけどね」
「……リアルと組むメリットがどこにあるん?」
「魔族領は人手不足だから優秀な子なら誰でも大歓迎なんだよ。私に敵対の意思がないという前置きはつくけどね」
「は、は、はい……私にとっても都合が……良かったので魔王モモ様の奴隷となりました」
奴隷。その言葉に少しだけ首を傾げる。しかし奴隷と言うわりにはリアルは小綺麗。なによりモモに怯えの表情どころか、萎縮した様子すら見せない。奴隷という随分と物騒な言葉とは裏腹に、そこまで酷い扱いは受けてなさそうに思えた。
「彼女。私に喧嘩を売りに来たから負かして奴隷にしたわけ」
「……随分と過激だね」
「まぁ殺しても良かったけど、抵抗の意思がない人を殺す気はないからね」
つまるところリアルはモモに喰われた。そう解釈しても良いのだろう。ただ不思議と同情の気持ちは沸いてこない。むしろ自業自得だろう。
「魔王モモ。貴方はリアルがなにしたか分かってるの? どれだけ多くの人を殺したと思ってるの?」
「知らないよ。ただ便利だから使ってるだけだし」
「それなら身柄を引き渡すつもりは?」
「ないよ。そっちの遺恨は知らないけど私の所有物だし、渡す理由もないでしょ」
「だけど彼女はヤミ国の民をたくさん殺した。街を潰したテロリスト。それじゃあ納得できない」
「それなら裁判を開いて正当性を訴えてよ。裁判も通さずに人の財産を取るのは問題でしょ」
飛んできたのは痛いほどの正論だ。もしもモモが罪を
「もし彼女の行為に問題があるって言うならヤミ国に身柄の引き渡しを考えてもいいよ。ただ国としてどこが問題なのか明確にした上で話を持ってきてね」
恐らくモモは国として正式に身元の引き渡しを要求すれば交渉の席についてくれるだろう。だけどモモがそんな優しい対応をするとは思えない。
「……なるほどね」
「だけど引き渡しのメリットが私にないっていうのも念頭には置いておいてね。そんなに彼女が欲しいなら、もちろん足元は見させてもらうから」
タダで貰えるなんて思うなよ。そこまでやってあげるほどお人好しじゃない。それは正しい意見だ。だからこそ力尽くでリアルを取るという行為に正当性がない。モモが話し合いの場を開いてしまってる以上、暴力に訴えれば立場が悪くなるのは俺達だ。
しかしリアルはどこまでいこうがテロリスト。そのテロリストのためにどこまで資産を叩けるのかという話になる。なにせ殺したところで生産性があるわけではない。単純な無駄金となる。極端な話だが、リアルを引き渡す代わりに魔族全員をヤミ国に移住させろというような条件が提示されたら飲めるのだろうか。
「もしもリアルがなにかしたら魔王である貴方の責任になるって理解してるのかな?」
「もちろんだよ。だから私が目を光らせてる」
「そう……」
「少なくとも今は抵抗の意思も見せないし、話し合う意思も見せている。それなのに殺すっていうのは正しいことなのかな?」
テロリストが目の前にいるのに俺達はどうすることも出来ない。悪に染まる覚悟をしなければ彼女を殺すことすら叶わない。その事実に歯痒さを覚える。モモの介入で悪いやつをやっつけるという単純な話ではなくなってしまった。
「ただ今回は状況証拠が揃いすぎとる。そんなリアルを庇うんやったらモモが裏で手引きしたと疑われることは分かっとるん?」
「もちろん。それが事実なら私はリアルでテロを仕掛けたわけだし……戦争は避けられないね」
「戦争がしたいならそうしろってことやね」
「理解が早くて助かるよ。戦争というカードが手に入って良かったね。ちなみに私は戦争でも大歓迎だよ」
今のルイス姉の問いかけでハッキリとした。
あまりに論理に穴がない。モモの作り上げた盤面が完璧すぎる。だが同時に1つの疑問も浮かぶ。どうしてモモはリアルをそこまで庇うのだろうか。リアルはいつ爆発するかも分からない不良債権のはずだ。それこそリアルを味方にしたところで大きな利点がない。
「でもリアルは何十万人も殺した。貴方はそれが許せるわけ?」
「……そういうルカも大勢殺したでしょ。戦争で貴方は何人殺したのかな? 貴方に人殺しの是非を問う資格があるわけ?」
「それは……」
「人殺しって観点ならお姉ちゃんも核を落として大勢殺している。そこは私達がどうこう言っていいものじゃない。私達に責める資格はない」
再び正論が飛んでくる。リアルの殺しは駄目で俺達の殺しがどうして良いのか。国が主導する殺人ならば良いのか。殺人に正当な意味があればいいのか。そういう話になってしまう。
「私達が許されてリアルが許されない。それは理不尽な行為で私達が嫌悪すべきものじゃないのかな?」
「そうだね……」
「だから私はリアルの行為を問題視しない。もしも再発の危険性があったり、対話不可な相手ならば話は変わるけど、リアルはそういうわけじゃない。虐殺したという事実は私が腹を立てる理由にはならない」
俺達は王様ではない。俺達の所有物を壊されたわけでもなければ、威厳に関わるという話でもない。王様ならば自国民を殺したという大義名分がある。しかし俺達にはそれがない。リアルの虐殺を問題として指摘出来るのは国王だけなのだ。王族であるメイがこの場にいるのならば話は変わるが、そういうわけではないのだ。
「まぁお兄ちゃんを殺しかけたのだけは少しキレたけど、その落とし前は蹴り一発でつけさせたしね」
それ故に俺達はリアルに無罪の刻印を押すしかない。殺人という行為そのものを悪として扱えないのだから。その状況でルカが助けを求めるようにカミーラへと視線を向けた。その視線に応えるように今まで黙って聞いていたカミーラが口を開く。
「……僕の意見としてはルイス次第だと思うね。それでルイスは納得するのかい?」
「勝手にすればええやろ。うちが関与することやない」
「そんな世界は望んでいないとか言わないのかい? リアルは君のために動いたと聞いてるよ」
「気に食わへんなら使わんだけやし、気に入ったら使う。最終的に決めるのはうちや。あくまで選択肢が増えるだけで押し付けられるもんでもないんやろ?」
「なるほど。とても利己的だ」
「せやからうちはリアルの処遇に関しては、なにも言わへん。ただうちに迷惑かけたら覚悟しとき」
ルイス姉としては今すぐに動く動機もない。ルイス姉もリアルの所業に嫌悪していない。それ故に自分に火の粉が飛んできたら動けばいいくらいの感覚なのだろう。勝手に料理を食べさせられるならば嫌だと思うが、料理を目の前で並べられてるだけに過ぎないのだ。それではルイス姉の逆鱗に触れる要素がなさすぎる。むしろラッキー程度にしか映らない。
「は、は、はい! きっと満足いく……選択肢を用意させていただきます……ね」
「カオリはリアルのことはどうなの?」
ルカから話題が俺に振られる。俺個人としてはリアルは許せないし、許してはいけない存在だと思う。しかし裁く正当な理由がなさすぎる。とても不愉快ではあるが飲み込んで受け入れるしかないのだ。
「気持ちの話でするなら許せない。だけどこの場にいる全員の言い分も理解出来る」
「……そうだね」
「しかしテロに関しては俺達は直接的な被害者じゃない。どんなに胸糞悪い事件だろうが、第三者が勝手に罰を与えることは許さない。だから終わりにするしかないだろ」
それが俺の出した結論だった。少なくとも敵対する意思がないのならば問題はない。
「だけど虐殺以外の罪に対しては話が変わるよな?」
「え?」
「まずルカの幼女化。それとアリスをけしかけたことによる俺達への殺人未遂。そこの落とし前はきちんとつけねぇのは駄目だろ」
「せやね。そこに関しては明確な被害者やし、口出しする権利があると思うで」
ただ所詮は幼女化と殺人未遂。それを理由に死刑を正当なものとするのは難しい。かといって禁固刑とかされても納得はいかない。そうなると取れる選択肢は1つしかない。
「俺達にリアルを一発ずつ殴らせろ。それで今は水に流してやる」
「……え?」
「リアル。さすがにそのくらいは甘んじて受け入れなよ。こればかりは正当なものだし、仕方ないよ」
「ちょ、ちょ、ちょ……どうしてそんなことになるんですか!!」
「それじゃあ少し歯を食いしばれよ」
◆ ◆ ◆
そうしてリアルの一件は俺とルカに一発ずつ殴られることでとりあえず終わらせる運びとなった。しかし納得のいく終わり方ではない。彼女に殺された何十万人の犠牲者の無念は晴れない。その罪と向き合わせることが出来なかった。それが俺達の限界だった。
「カオリ。ありがとね」
「ん?」
「リアルを勝ち逃げさせないでくれて」
「当たり前だろ。あれで終わりなんて俺が納得しねぇよ」
あれからこの場は一度解散となり、明日に改めて今後のことについて話し合うことになった。そんな中で俺達は食堂で魔族の料理を食べながら今日の感想を話していた。
「それにしても魔王モモ。あまりに舌戦が強すぎない? まったく付け入る隙が見えないんだけど」
「あの感じだと裁判でも負けるだろうな」
「もしもルイスがリアルを否定してくれたら話は変わりそうだけどね」
ルイスがリアルの行為を否定する。そうすればリアルは当然ながら、モモにも響く。なにせモモはルイス姉のために動いている。だからルイス姉がリアルを否定すれば、リアルから手を引く。恐らくルカはそう認識したのだろう。
正直言って、俺はそんな楽観的には考えられない。
「無理だろ」
リアルはルイス姉を自由にしたいと言っていたが、モモはそう言ってるわけではない。あくまでルイス姉の勝ちが都合が良いと言っているだけだ。だからルイス姉の戦況を有利に進められるリアルを使っている。それ以上でもそれ以下でもない。少なくとも俺はそう読んでいる。
モモの場合はリアルと違い、ルイス姉の感情や意思を勘定に含んでいない。ルイス姉がどう動こうが関係ない。だからこそルイス姉の言葉でも立場を変えることはないだろう。
「ちょっと隣いい?」
「モモ?」
「うん。改めて今日のことを話そうと思ってね」
そんな中でモモが俺達の隣にやってくる。彼女が手に持つお皿にはカットフルーツが盛られており、座ると同時にそれらを食べ始める。
「なぁモモ。リアルを断罪するには虐殺の首謀者ってだけじゃ駄目なわけ?」
俺は改めて問いかける。このオフレコの場だからこそ聞ける本音があるはずだ。なにせ俺達はモモがリアルをどう思っているのか知らない。あのような魔王としてのモモとしか話せていないのだから。
「当たり前じゃん。そこのルカだって戦争で何十万人も殺してるわけだし、その理屈は通用しないよ」
「しかしリアルの場合は個人犯。ルカの場合は国の指示だろ」
「国が主体になったら人を殺していい。それが通るなら私が大量虐殺して、魔王という国の代表で動いたから国家主導なのでセーフがまかり通るけどいいの? その前例をつくることが貴方達に不利に働くと思うけど……」
「それはたしかに」
「リアルは誰もが納得する理屈を用意できないなら譲らないよ。それができないのに手出ししたという前例が残れば、お気持ちで裁いていいことになる。そうなったら一番強い私がルールになっちゃう。そこに秩序はないでしょ?」
ただ少しだけ違和感がある。モモの言うことは全て筋が通っている。モモの言葉は全て正しい。少なくとも反論の余地があるものではない。しかし同時にリアルにモモがそこまでする価値があるとは思えない。俺やルカの不興を買ってまでリアルを庇う意図が読めない。
「……それにリアルは必要なんだよ。魔王ウシカゲ戦の先を見据えるなら彼女を失うわけにはいかない。私は彼女の身柄を譲る気はないよ」
モモはそんな疑念を読んだかのように先回りして答える。俺達は首を傾げる。リアルが必要になるとはどういうことなのだろうか。その意味が分からない。
「それってどういう意味?」
「説明しても分からないと思うよ」
「……だから説明しないっていうのは乱暴じゃないかな?」
ルカの言葉にモモは呆れながら答える。その言葉は俺達の理解も共感も求めていない。ただ聞かれたから答えただけのものだった。
「あの子。スキルを抜きにしても能力だけは高いんだよね。頭の回転もそうだし、なにより計画立案能力が高い。事実としてテロを完遂させて、お姉ちゃんとルカを相手にチェックメイトまで持ち込んだ」
「そうだな」
俺の名前が出ないことが少しだけ腹が立つ。だがモモの言う通りリアルに負けていたのは事実。俺達が今も生きているのは彼女の気まぐれ。彼女の気分次第で死んでいた立場だ。
「それでいてリアルは一貫してお姉ちゃんのために動く。お姉ちゃんは凄すぎるから将来的に全ての負担が伸し掛かるようになる。ようするにお姉ちゃんに依存した社会となると思わない?」
「だから負担を肩代わりさせるためにリアルが必要ってこと?」
「そういうこと。聞いたところでピンとこないでしょ?」
「うん」
俺達はモモの見ている盤面が分からなかった。モモの考えてることがわからなかった。ただ少しだけ納得のいく部分もあった。
ルイス姉を前にして畏怖するわけでもなければ、絶望するわけでもない。本気でルイス姉のことを考え、彼女のために動こうとしている存在。言うならばルイス姉に代わって支配者になろうとしたのがリアルだった。ルイス姉を相手に本気で挑戦しようとしたのは後にも先にもリアルだけだった。それができるだけでもある種の才能だろう。
「まぁ安心しなよ。少ししたら私の言ってる意味が分かると思うよ」
「ただリアルはルイスの意図をきちんと理解してるわけ? 変な解釈起こして……」
「それはない。私が断言してあげる」
「え?」
「リアルほどお姉ちゃんの解像度が高い人はいないよ。あれは狂信に見えて誰よりも本質を突いてるから」
モモはカットフルーツを1つ口に運ぶ。まるで話を切り替えんと言わんばかりに。俺達はリアルを狂信者だと思っていた。しかしモモが否定した。人を怖いほど観察してるモモが違うと断言したのだ。
「なによりリアルは勝ちに必要なものを本能で理解してる。盤面を見誤るなんてことはしないよ」
「どういう意味? 盤面を見誤って貴方の奴隷になってるじゃん?」
「結果論で言うならそうだね。だけど私を引き入れるって発想は一番勝ち筋として濃い手だったと思うよ。問題は私を引き入れるほどの能力がなかったことだけど……それを差し引いても博打を打つ盤面だった。そうじゃなきゃあの子の目指す場所に辿り着く可能性が一気に薄くなる。本当に賢い子だよ」
リアルが盤面を見誤らないというところは一旦置いておくとしても、モモの元を訪ねるという一手は評価すべきだ。
もしもリアルが単独で動くようならばどうにでもなった。それこそ俺達がモモと協力して、リアルを一気に追い詰めるという手も打てた。まさしく本能で自分に必要なものを理解してるからこそ出来た行動。自分に必要なものを見極める能力は確かにあるのだ。なにせ俺達がリアルを裁けないのはモモという後ろ盾があるから。
モモが背後にいないリアルなど倒せば終わる敵だった。
「たしかにそうだけどさ。私はまだ腑に落ちない。リアルがそこまで賢いとは思えないんだけど」
「そうだね……私はどうしてお兄ちゃんを魔王として認めないんだと思う?」
「実績が足りないからか?」
「違うよ。今のお兄ちゃんには希望が足りないから魔王には出来ないよ」
俺は少し引っかかりを覚えた。魔王なのに希望が必要とはどういうことだろうか。むしろ魔王と言えば必要なのは絶望と恐怖ではないだろうか。
「この国の民はどうして私を魔王として崇めてると思う?」
「それは強いからだろ」
「なんで強いと支持するわけ……」
「従わないと怖いからか……?」
「それもあるけどさ。まぁそれだけじゃ長くは続かないよ。英雄に憧れた誰かに首を跳ねられて終わると思わない?」
ようやくモモの言いたいことが理解できた。魔王だから希望が必要というわけではない。人の上に立つのに希望が必要という話なのだ。思えばルカもルイス姉もある種の希望がある。2人がいればどうにかなるという希望が。
「強すぎる暴力は時として不安も打ち消す。この人ならばどうにかしてくれる。
だからモモは魔王を務められている。モモは良くも悪くも希望を見せられる。政治にも強く、武力にも優れたモモだからこそどうにかしてくれるという安心感を無意識で抱いてしまう。
「人の上に立つってことは希望を示す義務がある。親になるなら、子に未来の希望を示さなければならない。社長になるなら部下に希望を見せ、王様になるなら国民に希望を見せる。私はそう思うよ」
「なるほどね」
「その責任を果たせる? 今のお兄ちゃんに大衆は希望を抱けるかな?」
「正直言ってイメージができないな」
「だからお兄ちゃんを魔王に出来ない。お兄ちゃんを魔王にするには知名度も足りないし、実績も足りてないの。少なくとも私がお兄ちゃんなら大丈夫と思えるくらいにならないと魔王の座は譲れない」
その点で言えばルイス姉は完璧だ。任せておけばどうにかなるという安心感を抱いてしまう。極端な話をするならば負けるイメージがつかない。それ故にルイス姉にさえついていけばどうにかなると思わせてしまうのだ。
「その観点で話すならリアルは賢かったよ。自分が聖女になるためには世界を一度絶望におとさなければならない。かなり過激な意見だけど理には適ってるし、一番現実的だった。まぁやってることは自作自演だから、茶番だけどね」
発言力を持つ人は全員が希望を抱かせる力があった。例えばルカはヤミ国の武力として人間領を統一した。戦争という不安を武力で全て払い除けた英雄だ。そしてメイは急激な統一に不安を覚える大衆に宗教という解答で希望を与えた。抑圧や支配といった絶望を拭ったのがメイだ。
ルイス姉はエルフに新しい時代を見せ、未来への希望を抱かせた。モモは魔王として君臨することで現状を打破するのではないかという期待にも近い希望を抱かせた。俺の近くにいるのはそういう存在なのだ。
しかし世界に既に絶望はない。だから俺は希望にはなれない。大衆に希望を抱かせることができない。彼らはモモやルイス姉で満足してしまっているのだから。彼女等がいる限り人類は絶望に落ちない。それほどまでに強い光なのだ。
今の現状に不満を抱かなければ希望を見せることなど不可能だ。
リアルだけはそれを理解していたのだ。だから世界を絶望に落とそうとした。それが勝ちに必要だったから。それが出来るからこそモモはリアルという存在を高く評価している。
「今の時代で希望を見せるのは大変だよね。なにせ分かりやすい絶望は全て吹き飛んじゃったからね」
「まだ魔王ウシカゲが残ってる」
「あれの単独討伐を成し遂げたら確かに希望になれるね。だけど私やルカを差し置いてお兄ちゃんにそれが可能なのかな?」
モモは容赦なく俺に現実を突き刺す。反論の余地など存在しない。それこそ希望になるためにはリアルのように自作自演するという解答しか見つからなくなってくる。
「……大衆の希望になれなくてもいい。ただ1人の希望になればいい」
ぽつりと言葉を漏らす。モモの言うことは正しい。どこまでも正しい言葉だ。だけど俺が何度も考えたことだ。俺はメイの英雄になりたい。そのために必要なことをずっと考えた。その問題を俺は既に乗り越えている。
「俺はメイが絶望した時に希望となれる存在でいたい。そのために魔王という座が必要だ。だからよこせ」
「……なるほどね」
ここまでの話で1つ出た結論がある。それは希望の燃料も同じく希望になりうるという点だ。この人がいなくなったらどうなるのかという漠然とした絶望。それを拭うことも希望として機能するものだ。それこそリアルがモモにそうあることを期待されているように。
その支配者を折れないように支えてる。その姿は多くの人にとって希望となるはずだ。
「そう言うならお兄ちゃんはメイの希望であることを証明しなよ。そしたら考えてあげる」
それだけ言うとモモはお皿の上のカットフルーツを平らげ、俺達の元を後にした。
* * *
久々にお兄ちゃんと話した。心底不愉快だった。吐き気すら覚えた。
私の大好きなお兄ちゃんからメイという他の女の名前が出てくる。その度に虫唾が走っていく。全てをぶち壊したくなる。それを笑顔で誤魔化していく。なにがメイだけの希望だ。どうしてそんな女がお兄ちゃんの特別になったというのだ。
「……やっぱり戦争かな」
私は笑顔の下でメイの殺害を決める。前々からメイの殺害という案は頭の片隅に置いてあった。今回の話でそれが決定的となった。メイという存在が憎くて仕方ない。彼女を殺すのが今の私の最優先事項だ。
しかし私がメイを殺したとなればお兄ちゃんに心底嫌われるだろう。だからお兄ちゃんの知らないところで殺す。お兄ちゃんに悟られないように殺す。
これは聖戦だ。あの悪魔からお兄ちゃんを取り返す聖戦だ。
頭の中で策を巡らせる。どうしたらヤミ国を滅ぼせるか。どう立ち回れば確実にメイの首を跳ねられるか。
「いま助けてあげるから待っててね。お兄ちゃん」
ここから先は私が動こう。私は重い腰を上げる。お姉ちゃんに魔王の座を譲るのは少しだけ後回しにしよう。今はまだ魔王でいなければならない。
最後に愛するお兄ちゃんのために……私のために魔王の力を惜しみなく振るおう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
これで4章は完結となります。そして5章ですが、着手はしているのですが半分ほどしか書き上がっていないため、少しの休載させていただきます!恐らく1ヶ月くらいになると思います。書き上がり次第、今までと同じような感じで3日に1度くらいの更新になると思いますが、よろしくお願いします!
また感想や評価、お気に入り等々お待ちしております!