あれから数日が経っていた。なんの事件も起こらない平和な日々が過ぎていく。テロリストのリアルがいるというのに平和。その奇妙な感覚に俺は少しだけ居心地の悪さを覚えていた。
リアルのした行為は許せるはずがない。しかしモモが庇っている以上は手出しすることが出来ない。俺の独断で手を出すという行為に正当性はない。それをやってしまえば俺もリアルと同じになってしまう。
「ふぁ〜」
湯船に浸かりながら今後のことを考えていた。リアルの事に思うこともあるが一旦置いておくべきだろう。それよりもモモに魔王になると宣言した。俺が魔王に相応しいと認めさせなければならない。だけどそのためにはどうしたらいいか分からない。
なにかしなければならないという漠然とした気持ちだけが俺の中に残っていく。そんな気持ちが焦りとなりつつある。
「お兄ちゃーーーん!」
その時だった。唐突に風呂の扉が派手に開き、幼女が――モモが全裸で湯船に飛び込んでくる。それと同時にパシャーンと大きな水飛沫が飛んだ。突然の事態に思わず呆気に取られ、開いた口が塞がらない。
「どしたの?」
モモはなに1つとして隠す素振りも見せない。桜色の乳首も小さな割れ目も全て隠すことなくさらけ出していた。文字通りのすっぽんぽんだ。その肉体が純粋無垢な幼女だという事実を再確認させる。まるで先日の問答が嘘のように。
「こうしてお兄ちゃんと一緒にお風呂に入るの久しぶりー!」
モモは俺の全身に体重を委ねてくる。小さなお尻が俺の太ももの上に乗る。長い白髪が揺れる度に狭い浴室に甘いフルーティーな匂いが広がっていく。モモの起伏の少ない未成熟な身体は色気というものを一切感じさせない。当然ながら興奮のような感情などあるわけがない。それなのに不思議と悪いことをしているような気分になる。超えてはいけない一線を超えてしまったような感覚が強く残る。
「お兄ちゃん。大好き!」
モモが小さな手で俺の身体をペタペタと触る。モモが動く度に俺の身体に感触が伝わる。全体的にぷにぷにとした柔らかい身体。全体的に弱々しい身体。それこそ少し力を加えれば簡単に折れてしまいそうな細腕。力強さを欠片も感じさせない太もも。明らかに戦うために設計された肉体じゃない。
ふと、いけないことを考えてしまう。
今の無防備なモモならば俺でも勝てるのではないかと。俺は好奇心からそれを確かめようとモモに手を伸ばす。モモの手首を掴んで引き寄せる。そのまま頭を叩けば――そんなことを考えて身体を動かす。明確な敵意を持って、無言でモモに攻撃を仕掛ける。
「駄目だよ。お兄ちゃん」
しかし俺が伸ばした手をモモは優しく軌道を変え、そのまま俺の手に頬ずりする。完全に不意を突いたはずの一撃は呆気なく防がれた。そしてモモは甘い顔をして言う。
「それじゃあ遅くて私に届かないよ」
「……本当に強いんだな」
「もちろん。伊達に魔王はやってないからね」
モモは全て見透かしたように言う。相手は全裸の幼女。武器も武装もなく、一番隙だらけな状態。ここまで接触しているにも関わらず勝てるビジョンというものが一切見えてこない。この幼女という身体のハンデを抱えてなお最強。それがモモという生物なのだ。
「お兄ちゃんじゃ私に絶対に勝てないよ」
まるでコケにされてる気分だった。自分の実力差を見せつけにきた。お前はこんな無防備な自分すらどうすることも出来ないと突き立てられているようだった。
一挙一動の全てに敵意というものがない。普遍的な幼女の仕草であり、小動物的な可愛らしさを感じさせる。だからこそモモは怖い。どこからどう見ても幼女なのに発言も行動も全てが
「私はお兄ちゃんのためならなんだってするよ。お兄ちゃんにならなにをされても不愉快じゃない」
モモのスベスベした手が俺の
「お兄ちゃんは私をどうしたいの?」
「モモ。それは……」
「お兄ちゃんはもっと自分の欲望のままに動いていいんだよ。私が全て受け入れてあげる。望むなら世界の半分どころか全部あげるよ」
その瞬間に再び扉が開いた。その音に対してモモがビクッと身体を震わせる。顔をあげるとそこにはルイス姉がいた。ルイス姉は俺達2人を見た後に呆れた表情をしながら言う。
「あんたら。兄妹でなにしとるん?」
「え、えっと……これは……その……」
「ちょっと表出とき。2人ともお説教や」
◆ ◆ ◆
それからモモはルイス姉に大目玉を食らっていた。モモは当然ながら、俺もルイス姉に相当キツく怒られた。
「もーあんなに目くじら立てなくても良いと思わない? 悪いことしようとしたわけじゃないんだしさ」
「……普通に問題だろ」
「そうかな?」
ルイス姉の説教から解放された俺は新しくなったロストベリーの手入れをしていく。アリス戦で壊されたロストベリー。それはアガルタでルイス姉に改修され、進化を遂げた。しかし一度も戦闘するような機会には恵まれず、試せていない。今では完全に宝の持ち腐れだ。
もちろん戦う機会なんてない方が良い。ロストベリーを抜く相手なんていうのは相当な手練れであり、死人が出るような案件だ。そんな場面は来ない方が良い。しかし同時にロストベリーを活躍させてあげたいと思うのも本音だ。
「これがお兄ちゃんの武器なの?」
「ああ」
「いいなー! 格好良い!」
そしてモモはあれからも俺の回りをついて回っている。本当に四六時中ずっと俺の傍から離れることがない。ただルイス姉が強く注意したのもあって、もう変なことはしてこないだろう。
「……これからどうするつもりだ?」
「とりあえずベックに親書を持たせて行かせたし、その返事次第だよ」
ベック。彼はモモの側近をしている魔族だ。そんな彼のスキルは転移であり、1日に1度だけ自分含めて1人だけ指定した座標に送り飛ばせるというシンプルなもの。そしてモモがヤミ国に現れたのもベックの転移のスキルを模倣したからである。ただモモの場合はスキルも強化されており、1日に3回まで伸びている。そのためモモがその気なら俺とルイス姉とモモの3名で今すぐヤミ国に向かうことも可能だ。
「まぁルカやお兄ちゃんを行かせても良かったんだけどさ。もしかしたらメイ第二王女様本人がベックの転移を使ってくれるかなと思ってね。だから本人を行かせたの」
「なるほどね」
「しかしヤミ国はルカとルイスを出張らせて、なにを考えてるんだろうね。もし私が単身で乗り込んだらどうするつもりなんだ?」
「さぁな。ただメイが考えなしとも思えない」
「そっかそっか。メイさんのこと信用してるんだ……少し妬いちゃうな」
「ところで親書の返事はなんて書いたんだ?」
「エルフ領のどっかで会って話そう。もし急ぎで話したいならベックの転移で直接来ても良いよってことかな」
そうなると下手すれば明日にでもメイがこちらにやってきて首脳会談になってもおかしくないわけだ。恐らく俺は蚊帳の外で終わってしまうだろう。モモとメイ……そこにルイス姉が加わった3名で方針が決まっていく。そして3人の中で完結して事が終わる。俺の出る幕すらなく終わりだ。
「まぁ直接は来ないと思うよ。敵地のど真ん中で外交なんて正気の沙汰じゃないもん」
「なぁモモ」
「ん?」
「俺が望むならなんでもくれるって言ったな」
「そうだね」
「……それならどうして俺を魔王にしない」
「長続きしないし、誰もついてこないから。肩書きだけの魔王がほしいわけじゃないんでしょ? それは私があげようと思ってあげられるわけじゃないよ」
俺にはモモがなにを考えているのか分からなくなる時がある。年相応で全力で俺に甘えてくる可愛い妹。しかし平気で親を殺し、魔王として国を統治し、圧倒的な武力すら持ち合わせている。俺なんか必要がないくらいに個として完成された存在。それなのに俺を強く求めてくる。俺が必要だと言わんばかりに。どうしてモモが俺にそこまで尽くすのか理解できない。だからこそ怖い。
「なんでルイス姉じゃなくて……俺なんだ。俺に執着するんだ?」
モモは同じくらいの感情を俺ではなくルイス姉にぶつけてもいいはずだ。俺なんかよりも強くて、俺よりもモモのことを理解していて……モモを人として扱うルイス姉の方に惹かれる方が自然だ。俺にはどうしてモモがあそこまで執着するか分からない。
「……お姉ちゃんは強いから私がなにかする必要もないんだよ。私なんか必要としないで勝手にどこにでもいけちゃう」
「でも俺はモモになにもできない。なにもしてやれない。どうして俺なんかを気にかける?」
「うーん。なんだろうね……私には想像できないんだよね。お兄ちゃんのいない世界が」
「え?」
その発言に鈍器で叩かれたかのような衝撃を受けた。モモは俺にとって英雄だった。全部1人で解決してしまうような英雄。大切な妹であると同時に俺にとっての光だった。たしかにモモは得体がしれないし、誰よりも怖いと思ってる。それと同時に可愛いとも思っているし、モモのようになりたいとも思っている。俺はモモに憧れている。
「お兄ちゃんは私が生まれた時からずっと傍にいた。だからお兄ちゃんがいない世界を私は知らないし、そんな世界を怖いと思う。楽しめる自信もないんだよ」
そんなモモが俺に依存に近い感情を見せる。そのことが俺にとって衝撃だった。なにせモモは人間らしい感情とは無縁の生物だと思っていたのだから。
「あ、あの……少しよろしいですか?」
そんな時に扉を叩く音がした。モモは心の底から嫌そうな表情をして、扉を開ける。その先には白い修道服に身を包んだ女――リアルがいた。
「ねぇ。今はすごく良いところなんだけどさ。なんの用かな?」
「あ、あの……カオリ様を少しお借りしたいのですが……よろしいですか?」
「……私のお兄ちゃんを取ろうなんてなに考えてるのかな?」
「い、い、いえ……そ、そ、そ、そういう意味じゃなくて……少し相談したいことがありまして……」
「私じゃなくてお兄ちゃんに相談?」
「ひゃ……ひゃい……」
リアルが俺に話がある。それに少しだけ疑念を覚える。しかし同時に少しだけ話してみたいと思った。俺はリアルと直接話したことがない。彼女の価値観を知らない。彼女の存在を知らない。だからこそ興味があった。彼女のことについて。
「モモ。俺もリアルと少し話がしたい」
◆ ◆ ◆
俺はリアルと2人で部屋を後にする。リアルに対しては正直どの面を下げてという感情が強い。アリスをけしかけて大勢殺した。ルカも幼女にしたし、そのために生贄として街を1つ使い潰した。そんな外道がどうして何事もなかったかのように面を見せられるのか。
「リアル。お前って間接的とは言え人を殺してなんとも思わないのか?」
俺は挑発するようにリアルに問いかける。そこで返ってきたのは俺が予想だにしない返答だった。
「も、も、もちろん思いますよ。それこそ殺す度に心がウッと痛くなります」
「その割には罪悪感とかなさそうです」
「そ、そういうのはないですしね。だ、だ、だって下等生物のことなんて考えても仕方ないじゃない……ですか」
「下等生物?」
「そ、そ、その……なんですかね……私と一緒にしないでほしいんですよ。だって私が有象無象と同じなわけないじゃないですか」
俺はリアルの言葉に唖然とする。彼女の言ってる意味が分からなかった。まるで人類は全部自分より下と言っているようだった。彼女はおどおどした喋り方からは想像もつかないくらい傲慢であり、図太い性格だ。そんな唖然としてる俺を無視して、リアルは俺の質問に答えるように言葉を続けていく。
「カオリさんも……お猿さんやチンパンジーを殺したら抵抗を覚えません?」
「人が猿だと言いたいのか?」
「あ、いえ! 違います! す、す、すみません……言葉の綾です。もし想像しづらかったら子犬や子猫にでも入れ替えてください」
「それは……まぁ……なくはないよな。やっぱり可哀想だし……抵抗はあるだろ。普通」
「でも罪悪感はないですよね? 目的があれば仕方ないと割り切れますよね?」
まさかそういうことなのか。リアルにとっては人は子犬や子猫と変わらないのだ。なるべく殺したくないのも事実。殺すと心が痛むのも事実だ。しかし一生引きずるようなものでもない。リアルにとっては子犬を殺すのと人を殺すので受ける心の痛みは変わらない。リアルの言う人を殺して吐いたっていうのは、あくまで俺達が子犬を殺して吐くようなものでしかない。それとまったく同じもの。
人と自分を同じとして見ていない。ナチュラルに自分の方が上だと思っているのだ。
「私って昔から生き物殺すの苦手なんです……今もお魚さんを〆る度に心が痛みますし……うぅ……なるべく殺さないで済むなら、そうしたいですよ」
「そう言いながら人は殺したんだな」
「そりゃ必要なことですから割り切りますよ……まぁあんまりやりたくはありませんけど……やるしかありませんから」
「お前。イかれてるだろ」
「だって仕方ないじゃないですか。私と有象無象じゃ設計規格からして別物ですから。同じじゃないんですから」
「……本当に人を人として見ていないんだな」
「うーん……ただどうでもいい存在のことをうじうじ引きずっても仕方ないですよ。人生は有限ですし……それに時間を割くのも違うと思いません?」
これは善悪の基準が人と違いすぎる。感情は人並みにあるが価値観が根本的に違うからこそ噛み合わない。彼女は心の底から自分と人は別の生物だと思っているのだ。選民思想があるわけでもなければ見下してるわけでもない。ただ純粋にそういうものとして認識している。
リアルはあれほどのことをしておいて悪意というものがない。だからこそ恐ろしい。
「それで俺になんのようだ?」
「そ、そ、そ、その……」
「ん?」
「わ、わ、わ、私と……カオリさんでモモ様を潰しません?」
静寂が流れた。あまりに唐突な発言に一瞬だけ音が消えた。俺はさっきの会話以上にリアルがなにを言ってるのか分からなかった。こいつは俺がモモの兄である俺が手を貸すと本気で思っているのだろうか?
「カオリは魔王モモを討ち取った英雄として存在感を残し、私は私をぞんざいに扱った彼女に痛い目を見せられる。利害は一致してると思いませんか?」
本来ならばありえないと突っぱねるべきなのだろう。こんなテロリストの提案になど乗れるわけがない。
しかし今のままでいいのかというかと思ってしまう。このままいけば俺は何者にもなれない。俺もなにか動かなければ……メイに認められるような英雄になることは叶わない。俺の中の焦りが判断を鈍らせていく。
「モモを殺すつもりか?」
「ま、ま、まさか! ただ少し痛い目をみてもらうだけですよ」
モモを殺さない。それならば一考の余地はあるかもしれない。モモが嫌いなわけではない。しかしモモを潰す……すなわち挑戦し、そこで勝利を収めれば俺は英雄に近づく。モモに一歩近づくのだ。たしかにリアルの言う通り利害は一致している。俺にとって悪い話ではない。
「……勝てる策はあるのか?」
少なくとも乗るかどうかは内容次第だ。まずリアルのような外道と手を組むなど相当条件が良くないと話にならない。なにせリアルは背中を預ける相手として純粋に信用が出来ない。それに裏でコソコソ暗躍してモモを潰したとして、それがメイの英雄として相応しい姿とも思えない。
しかし自分だけではモモには絶対に勝てないのも事実だ。少なくとも正攻法で挑んでどうにかなる相手でもない。それに俺の目指すべき英雄の姿――モモならば勝ちに手段を選ばない。自分の選んだ選択を王道にしてしまうだろう。俺が求められるのは間違った選択を正解にしてしまう力なのではないか。そんなことを最近は思うようになってきた。それ故にリアルの提案には一考の価値はある。
しかしリアルといえどモモの出鱈目っぷりを知らないわけではないはずだ。正直言ってリアルがどこに勝てる根拠を見出したのか分からない。モモは少しの小細工で落とせる相手ではない。だからこそ本当に可能性を感じさせる策があるならば……乗るのはやぶさかではない。
「しょ、勝算はあ、あります……」
「なんだ?」
「カオリ様とモモ様の遺伝子は同じ。勝てない道理がない」
「随分と俺を高く買ってるんだな」
「ルイス様と同じ遺伝子ですから。なにもしないで終わるわけがないじゃないですか」
「……」
「貴方はルイス様……いいえ、桜ヶ崎の血を引いている。このままなにも成し遂げないでフェードアウトするなんて私が許しません。その恵まれた身体で戦果を挙げないというのはルイス様への侮辱です。認められるわけがない」
彼女の目に熱が宿る。ルイス姉の話をする時だけはおどおどした言葉遣いが消え、怖いくらいにハッキリと言うようになる。彼女は意思が弱そうに見えるがルイス姉のことに関してだけは強い。
「モモを潰した後はどうする。なにかビジョンがあるのか?」
「そうですね……当面はヤミ国に委ねようと思います。ルイス様もそういう計画でしたし、恐らくヤミ国に勝っていただいた方がルイス様にとって都合が良いですから」
「ヤミ国とモモが仲良く手を繋いで平和的な解決になったら……」
「それは絶対にないです。断言します」
根拠が示されたわけではない。それなのに不思議とリアルが言うと説得力が持ってしまう。彼女には自分の言葉に強さを持たせる力がある。だからアリスやジークといった存在もリアルに従っていたのだろう。
「カオリ。貴方はこのままでいいのですか?」
「……どういう意味だ?」
「ルイス様は世界を変え、ルカは最強の抑止力として君臨し、魔王モモは次代の王に今も近づいている」
リアルのしたことは許してはならないことだ。しかし彼女の言葉は本物だ。彼女の目がそれを物語っている。彼女は本気でルイス姉に挑もうとしてるのだ。自分の憧れを越えようとしているのだ。
彼女の在り方は間違っている。その感覚は本当に俺がリアルに抱いた感情なのか。世間で言う正解に縛られて出した答えではないのか? 俺はまた間違った道を歩もうとしているのではないか?
「私は聖女ルイスを引きずり落とす。カオリはモモを超える英雄にならなくていいのですか? 私は前に進みますが、カオリは停滞していいのですか?」
リアルが俺を煽る。断じて否だ。俺はモモを超え、対等な兄になりたい。そのために全てを投げ出す覚悟がある。倫理も道徳もいらない。それは俺を幸せにしないと実感したはずだ。
「これからの時代は聖女ルイスでもなければ魔王モモでもない。私達の物です」
リアルが問う。このままでいいのかと。
このまま埋もれて終わるなんて納得がいくわけない。だけど心の奥底で諦めていた。あいつらには敵わないと。超えたいと思いつつも、本気で超えられると思っていなかった。しかしリアルは違う。本気で超えるつもりなのだ。
リアルを見ていると不思議と勇気が湧いてくる。まるで物語の主役になったような熱が湧いてくる。彼女にはそうするだけの力がある。人を心酔させるカリスマ性があるのだ。
「次は私達です」
「……俺になにをさせるつもりだ?」
「私はカオリになにも求めません。主体は貴方に委ねます」
「それは手を組んだと言えるのか?」
「もちろん出来る範囲で手を貸しますし……可能な範囲で手は貸してもらいますが、強制はしません。基本的に私達はやりたいようにやるだけ。それが私達の関係です」
悪い話ではない。俺がリアルを利用するようにリアルも俺を利用する。出来る範囲で互いに協力し合う。そんな同盟関係だ。
「好きにやりましょう。縛られる関係なんて互いに窮屈じゃありません?」
その条件なら悪くない。リアルの提案を受けよう。そう思った矢先だった。
可愛らしい子供の声がした。
「2人とも面白い話してるじゃん」
顔を上げるとそこにはルカがいた。俺は言い訳を考える。リアルのしたことを考えればルカが受け入れるとは思えない。ルカにとってリアルは許せない存在のはずだ。
「ルカ。それは……その……」
「面白いじゃん。私も一枚噛ませてよ」
しかし出てきた言葉は意外なものだった。その言葉に俺もリアルも目をパチクリさせてしまう。
「ほへ?」
「私も打倒魔王モモに乗ってあげるって言ってるの」
俺とリアルはルカの発言に2人揃って間抜けな声を漏らした。俺達はルカの言う言葉が信じられなかった。