「どうしてルカが……」
「たしかにモモについて勝たせるのが一番合理的だよね。その方が魔王ウシカゲのことを考えるなら最短。でも私はヤミ国の公爵。国を売るわけにもいかないし、ヤミ国の国益のために立ち回るのが役目だからね」
ルカの言う事は正論だ。しかしルカの言葉らしくない。ルカが主体的に国のために動くという印象がない。もちろん言われた仕事はするが、言われなければ動かない。そんな印象をルカに抱いていた。
「それでそっち……リアルの使える手札は?」
「わ、私達は基本的に4名で活動していました……まず総大将の私ですね」
「他は?」
「武力担当のジークと支援担当のフリート……それと今は亡きアリスです」
アリスを抜きにすれば3名。あれほどのテロを行った存在。てっきりもっと大きな組織だと考えていた。しかし蓋を開けてみれば少数精鋭。それはそれで怖いものもあるが……
「ジークって強いの?」
「よ、よ、幼女の貴方よりは強いと思いますよ」
「どうだろうね。
「大丈夫です。ジークはあの竜殺しのジークですから」
その言葉に少しだけ違和感を覚える。俺はこれでも異世界に来て英雄譚は多く読んできた。彼女の語った竜殺しは勇者カミーラと肩を並べるほどの大英雄だ。だが竜殺しの名前はジークではない。
「それはジークフリートだろ」
「そ、そうだ……まずジークフリートについてお伝えしますね」
ジークフリート。それは竜殺しの英雄だ。7匹の色竜が世界を支配する竜の時代に色竜を全て討ち取り、人類の生存圏を獲得した竜殺しのジークフリート。彼がいなければ今も竜に支配され、人の時代にならなかったとされている。それほどの偉業を成し遂げた存在なのだ。
「まずジークは兄弟でした。兄のジークと弟のフリート。2人を合わせてジークフリートです」
「つまりフリートもジークと同じくらい強いってこと?」
「あ、それはないです。フリートさんは戦闘はからっしきですから」
「でもそれならジークフリートじゃなくて、英雄ジークとして伝わるだろ。どうしてジークフリートとなった」
「うーん……兄弟と言っても双子ですからね。基本的にはジークが弟の名を語り継がんとばかりにジークフリートと自称していたのが大きいです」
「なるほど」
「そもそもフリートはなにしてたわけ? 兄の戦いを黙ってみていたわけ?」
「はい。黙って見ていました」
英雄譚で語られなかった真実が明かされていく。しかしリアルの話が本当ならば彼女の元にはジークがいるということになる。あの大英雄ジークが彼女の思想に共感し、手を貸しているということだ。
「そんな英雄がどうして今の時代にいるわけ? もう過去の時代の人で死んでるでしょ」
「ジークさんは英霊召喚もとい死者蘇生で呼びつけました。フリートさんのスキルです」
リアル達は死者蘇生で八将を蘇らせていた。俺が相手したゲイジュも裏で手引きしていたのは彼女だったと聞いている。リアルの陣営は死者蘇生という強力なスキルを保持している。しかし詳細についてなにも知らない。
「ねぇ。死者蘇生について詳細を聞きたいんだけど」
「死者蘇生と貴方達が呼んでるそれは"英霊召喚"というスキルで歴史に大きな爪痕を残した英雄を呼び出すことができます。もちろん命令に従わせたりするのは不可能ですけど……それ以外にデメリットのない便利なスキルですよ」
「八将が英霊? 冗談でしょ?」
「あれはいっぱい恨みを買っていますからねぇ……まぁ爪痕は残りますよ」
つまるところ偉人であれば誰でも呼べる。しかし呼び出した英霊は従う義務があるわけではない。それ故に思想の違う英霊を呼び出せばこちらに危害を加えられかねない。想像以上に使い手を選ぶスキルという印象を受けた。
「質問いいか?」
「はい」
「なぜ八将を使った?」
「アリスの希望ですね。それに八将は行動原理が読みやすいので……適当に圧をかけるのに使いやすい手駒でしたよ。なにより死んでも心が痛まないほどの外道揃いでしたしね」
そういうことか。八将は悪意の塊だ。それ故に呼び出したら放置するだけで勝手に暴れてくれる。まさしく捨て駒として都合が良かった。それだけの話なのだ。なにせ壊したい街で呼べば勝手に壊してくれる。信頼関係の構築もいらないのだから。
俺は少しだけ頭を悩ませる。この戦力でどうすればモモを崩せるのだろうか。手札は俺が想像していた以上に揃っている。そこにルカも加えれば出来ることは相当多い。英霊召喚のスキルならば頭数も増やせるわけだ。しかし頭数を増やしたところで……
「さて。少し脱線しましたけど私達の勝利条件をお伝えしますね」
「お願い」
「まず必須となるのは聖剣エクスカリバーの奪取です。今はモモが持っていますが、それを奪い返してルカの幼女化を解除すれば全て終わりです。ルカが正面から魔王モモを倒せばいいのですから」
「ルカ。勝てるか?」
「確約は出来ないけど……幼女の枷が外れたら不可能ではないね」
「そのため私達の戦いはモモから聖剣エクスカリバーを取り戻す戦いとなります」
なにをすべきか明確になっていく。だがモモも当然ながらルカの幼女化が解除されれば詰みということは理解しているはずだ。問題はモモの目をどう掻い潜って、聖剣エクスカリバーを取り返すかということ。俺達はリアルと協力して、モモからなんとしても奪い返さなければならない。
「それで作戦の詳細は後日お話しますね。私もまだ練れていませんので……」
「そうだね」
「も、もし……作戦が決まり次第連絡しますね。そ、それでは……良い夢を……」
そうしてリアルはその場を後にしていく。
話した感触としては悪人という感じはしなかった。むしろ性格は献身的であり、気弱で優しいという印象を受けた。それ故に不気味だ。その性格であれほどのことをして、なおかつ心を痛めていないのだから。
「ルカ。リアルにつくってどういう風の吹き回しだ?」
俺はリアルがいなくなった事を確認して、ルカに真意を問い詰める。なにせルカの行動はあまりに不自然だ。少なくともなんかしらの思惑があるはずなのだ。
「別に深い意味はないよ。ただモモがバックから消えればリアルを潰せるでしょ」
「……!」
「私は彼女を絶対に許さない。八将を呼び出した罪を
たしかにそうだ。
今のリアルの安全が保証されてるのはモモがいるからだ。つまるところモモがいなくなればリアルを守る盾がなくなる。ヤミ国のルールでリアルを裁けるようになるのだ。リアルを倒すならば一番合理的な手だ。
「……気味が悪いな」
「なにか文句あるわけ?」
「違う。リアルだってモモがいなくなれば自分の立場が悪くなるのは理解してるはずだ」
今のモモはリアルにとっての盾だ。それにも関わらずモモを潰そうとする。あまりに不可解だ。それ故にリアルの意図が見えてこない。本当にモモを潰すことが最終目標なのだろうか。もっと別の狙いがあり、俺達を自分の手のひらで踊らせているだけではないか。そんなことを疑ってしまう。
「そうだね。でもモモがいなければリアルは潰せるのも事実だよね」
「ああ」
「それなら私はリアルを利用してモモを倒しにいく。そこにどんな思惑があろうと関係ない。向こうがなにを考えていてもモモさえいなければどうとでもなる。モモを倒すためならリアルも使うから」
想像以上に陰謀が渦巻いている。モモとメイが仲良く手を取り合って同盟を組んで終わりという単純な話になる未来が見えない。それこそ全員が主導権を取ろうと隙をうかがっている。誰が味方であり、誰が敵かも分からない。そんな中で自分の立ち位置を獲得し、自分の望む結果を手繰り寄せなければならない。今までは暴力が評価された。しかしここでは暴力が評価されるわけではない。それ以外の要素が大きな割合を占める。
……この環境でモモを攻略すれば俺は大きく変われる。俺のなりたい自分に更に近づける。どうすれば俺が存在を残せるか模索しろ。どう動けば俺の勝ちで終われるか思考を回せ。
「そうだ。これからルイスのところに行くけどカオリも来る?」
「なんか用事あるのか?」
「用事というかルイスには報告しておこうかなと思ってね」
そういえば今回の件でルイス姉はどういう立場を取るのだろうか。魔王を押し付けられそうになってることを考えると心情としてはモモの排除寄りではあるだろうが……俺達家族に手を出すとも思えない。
少なくともルイス姉の立場は気になることだ。そんな興味から俺達はルイス姉の部屋へと足を運んだ。
「ねぇルイス。少し話さない?」
「まぁ……ええよ」
ルイス姉の部屋に行くと既に寝間着に着替えており、眠そうな目で俺達を出迎えた。そしてルイス姉は俺達をもてなさんと言わんばかりにココアを出していく。
「それでリアルと同盟組むん?」
「そうだよ。ていうか言わなくても分かるんだね」
「わざわざうちのところ来るなんてそれ以外の理由が思いつかへんしな」
ルイス姉は既に状況をお見通し済みだった。まるで予定調和と言わんばかりの態度。そんな態度を少し懐疑的に思いながらも出されたココアを口に運んでいく。
「そのことについてルイスはどう思うの?」
「まぁええんちゃう。うちは今回に限っては中立を貫かせてもらうつもりやし、どちらにも肩入れする気もあらへんから勝手にしとき」
「やっぱりそういう立ち位置なのか」
「ただモモに一生もんの後遺症を負わせたり、殺したりするのは論外やで。それするんやったらうちは完全にモモ側につくで」
「わかってる」
今回は完全に無干渉。つまりルイス姉の援護は期待出来ない。この局面は俺達の力だけで乗り越えなければならないのだ。
「ただし。それはモモも同じや。もしモモがカオリにそういう危害を加えるんやったら、そん時は手を貸したるよ」
「このままだと魔王にされちゃうよ?」
「心配せんでええよ。これはうちの問題やし、うちが勝手に解決しとくから好きにしとき」
もしかしたら魔王になりたくないという理由で協力してくれることも考えたが……やはりそれだけではモモと対立する理由にはならない。それとこれとは完全に別問題という認識のようだ。
「なぁルイス姉」
「なんや?」
1つだけルイス姉に聞きたいことがあった。アリスをけしかけたテロリストにして、ルイス姉の狂信者である存在。それをルイス姉がどう捉えているのか。そこについて知りたいと思った。
「リアルについてはどう思ってる?」
「基本的にはモモと同じやで。リアルを糾弾するんやったら、うちらのしたことにも向き合わへんと筋が通らへんやろ。せやからリアルをどうこうする気はあらへん」
「でもリアルの動機にはルイス姉が関わってる。なにか思ってもいいだろ」
「有用なら活用させてもらうつもりやし、そうやないなら無視。それだけやね」
「……ドライだな」
「好意や信仰とかどうでもええんよ。誰がうちになにを思ってようが騒ぐほどのことやないやろ」
それだけ言うとルイス姉は席を立った。まるでこれ以上の話はするつもりがないとでもいいたげに。
「そろそろお開きとしようか。もう聞きたいことは聞いたやろ」
「そうだな」
今回の件でルイス姉の助けは期待できない。この世界に来てからルイス姉の助け無しで問題の解決にあたるのは初めてかもしれない。それに少しだけ不安を覚える。俺達は心のどこかでルイス姉を拠り所にしていたのだと実感させられた。
「まぁでも1つくらいやったらヒントあげてもええな」
「ヒント?」
「もしモモ以外のこと考えとったら終わるで? 少なくともリアルに気を取られてる余裕はあらへんと思うで」
俺はルカと顔を見合わせる。俺達は今までリアルの話ばかりをしていた。しかしルイス姉はそんな余裕がある状況じゃないと言う。もう既に盤面が動いてるのではないか。既に後手に回らされているのではないか。そんな不安を駆り立てられる一言だった。
* * *
カオリ達を追い出して1人になる。飲み終えたココアを収納魔法で片付けていく。
この場でうちはカオリに1つだけ隠し事をしている。たしかにうちは今回に限って言うならば、モモにもカオリにも手を貸す気はない。しかし誰にもつかないとは一言も言っていない。うちはどちらにも肩入れしない中立と言っただけで、関与しないとは一言も言っていない。
「入ってよろしいですか?」
ココアを片付けてると再び扉を叩く音がした。うちは作業を中断して、そのまま扉を開ける。扉を開けるとそこにはリアルがいた。リアルはうちを見てにっこりと微笑む。
「今日の報告に参りました。ルイス様」
「タイミング良かったで。さっきまでカオリとルカがおったところや」
「知っています。全知で動向は掴んでますから」
リアルはうちの部屋に足を踏み入れる。彼女が部屋に入ると同時にほのかに甘い匂いがした。花や果実のような甘さではなく、柔らかさのある甘い匂いだ。しかしどこか清涼感もあり、スパイシーさも感じさせる。まるでなにかを燻製したかのような匂いであり、うち好みの匂いだ。
「香水。つけとるん?」
「つけてませんよ。体臭かと思いますけど……臭いましたか?」
「うち好みの匂いや」
「きゃっ!」
それだけ言うとリアルはソファーに身を投げて、悶絶していく。まさしく自由奔放で能天気。そんな光景に少しだけ微笑ましさすら覚える。
実は数日前。うちは少しだけリアルと話をした。うち自身としてもリアルには少しだけ興味があった。なにせワンダーの一件でうちはリアルに生かされた。つまるところリアルはうちを負かした。言い訳のしようもないほどの完敗だった。それがリアルに興味を持つきっかけとなった。なにせ人に負けたのは生まれて初めてだったのだから。
「それでなんの報告に来たん?」
「そ、そうでした! とりあえずカオリは引き入れに成功したことの報告です。しかしルカが付いてきたのは嬉しい誤算でしたね。おかげさまで仕事が1つ減りましたから」
「そっか」
しかしリアルは謎の多い人物だ。そもそもどうしてうちに執着するのか。その根幹にあるものはなにか。うちは観察眼には自信がある方ではあるが、未だにリアルの事はよく掴めていない。
「ルイス様。例のものは用意出来ましたか?」
「もちろん。出来とるよ」
「ありがとうございます。それとお手数おかけしてすみません」
「気にせんでええよ。うちを好きに使え言うたやろ?」
うちはリアルを観察する。背丈は大体174cmくらいであり、女性にしては長身。スタイルはかなり良い部類だろう。顔立ちは非常に可愛らしく、慈愛すら感じさせる。もし近くに男がいたら恋に落ちるまで時間はかからないだろう。
「ルイス様。どうしました?」
そんなリアルという存在は悪意とは縁遠いように思えた。それこそテロを起こした黒幕とは思えない。なにせルカから聞いていた話と大きく印象が違うのだ。
リアルは思想犯の狂信者。勝手にそのような人物像をイメージしていた。しかし実際はうちのイメージとは大きくかけ離れていた。全体的に自分に自信がなさげであり、常になにかに怯えている可愛らしい女の子。とても黒幕が務まるような器ではない。
だからこそリアルが恐ろしく見える。彼女は悪意を持っていない。悪事をしているという感覚がない。それ故に必要な要素が欠けている。あくまで日常の延長として行っている。本来ならば務まらないような大役を本人のスペックによるゴリ押しだけで可能にしてしまった。それが出来てしまったのがリアルなのだと理解した。
「リアル。どうして聖女になりたいん?」
「ルイス様を解放したいからです! 聖女というのはルイス様にとって重荷でしょう! 聖女という肩書きは、ルイス様を縛っています。皆がルイス様に勝手な幻想を押し付けて、勝手に救いを求めて、勝手に綺麗なものだと思い込む。そんな窮屈な場所から私は、ルイス様を降ろしたいのです!」
リアルは興奮気味に自分の思想を話す。普段のおどおどしさが消え、ハキハキと喋る。彼女が自信がないのはあくまで自分のことだけ。それ以外のことには自信があるからこそおどおどしさが消える。彼女はそういう人なのだろう。
「……うち抜きにして聖女なりたいと思うん?」
リアルの言うことは怖いくらいに的中していた。うちが聖女という肩書きに不満を抱いてる部分が、一切の誤読がなく見事なまでに言語化されている。そのことに少しだけ怖さを覚える。少なくとも狂信や勝手な解釈で暴走しているわけではない。ここまで的確にうちの在り方を見抜いている時点で、誰よりも信頼出来る相手ではある。
「そんなわけないじゃないですか。私は聖女なんて微塵も興味ないですし――どうでもいいですから」
即答。その瞳には嘘も偽りもなかった。むしろ聖女になることを
「……そもそも
彼女の口から出たのは強い否定の言葉。自然と漏れ出る賤民という非常に強い差別用語。リアルは恐らくうち以外の全てを見下している。自分だけが特別で他は違うと悪意なく思っているのだ。そんな人物が他者……リアルの言葉を借りるならば賤民の評価など気にするわけがない。だからこそ聖女に魅力を覚えていない。
「で、でも聖女という肩書には惹かれてますよ! だってルイス様と同じになれますから!!」
「……そもそもうちのためにどうしてここまでするんや?」
素朴な疑問を口に出す。正直言ってうちにそこまで入れ込む理由がわからない。そこまで他者から愛されるような人ではないという自覚はある。利用しようという下心こそあれど、献身を捧げられる道理などないはずだ。うちがそこまで魅力的なわけがない。
「好きだからですけど……他に理由が必要でしたか?」
ありえないと思った。うちなんかを好きになることなんてありえない。しかしここまで嘘が一切ない。全部本心から語っている。彼女の顔を見ているとそれが痛いほど分かってしまう。彼女はうちへの好意と憧れだけで動いている。それだけでテロを行えたのだ。
「で、で、でも……ルイス様から見返りを求めるような真似はしませんので安心してください!! 私は好きに動いてるだけですから!!」
「……そっか」
痛いほど聞いた言葉。痛いほど捧げられた信仰。うちは彼女と初めて話した時にもったいないと思った。
ここまで人に尽くせる。尽くす気があるというのに出力されるのが今回のようなことではもったいない。たしかに聖女から引きずり降ろすというのは願ったり叶ったりだ。しかし急ぎでやるようなことでもない。それ故にリアルの行為はなくても困らない不要な献身の域を出ない。この熱を聖女になる提案で消化させるのは時間もリソースも全てがもったいない。その熱量が聖女から降ろす程度の仕事に注がれるのがもったいない。
うちはリアルを当初から不要な献身と評価している。しかしここで言う不要とは必要ないという拒絶ではない。別にするなと言ってるわけでもない。ただ純粋にもったいないという気持ちから出た語彙だ。それこそスポーツで1番になりたいのに、勉強ばかりしてるような……そんな感覚をリアルに抱いていた。うちに貢献したいというのならばもっと別の道があるだろうと思っていた。
実際にリアルと話して、その想いは強くなった。だからうちはリアルを使うことにした。
「安心してください。ルイス様のお言葉は全て覚えていますから」
だからうちはリアルに
しかしリアルの危険性は無視出来ないものだ。少し目を離せば犠牲ばかりが増えていく。無意味に死体を積むことになりかねない。裏を返せば目を離さなければ充分に期待できる。手綱さえしっかり握っておけば、確実にうちに益をもたらす。もしかしたらうちの想像を超える成果をもたらしてくれるかもしれない。
「100点ではなく1億点を目指す。100点は当たり前。そうですよね?」
「せや」
まず最初にリアルには聖女としての哲学を叩き込んだ。
リアルは能力が高い。その能力を活かしきれていないのだ。その枷となるのが謙虚さ。一言で言うならばリアルはもっと欲張りになっていいのだ。
リアルは100点で満足する節がある。そのために常に全力投球。100点を取るために手段を選ばない。たしかに合理的で正しい行為だ。しかし聖女という理不尽に届かない。
聖女とは理不尽なのだ。100点の問題に1億点とか叩きだすような存在が聖女に届きうるのだ。100点を取るのに全力投球してるようでは足りない。100点は取って当たり前。そうでなければ聖女にはなりえない。その思想を叩き込んだ。
「全部取りに行ってええよ。なにも我慢せえへんで、妥協も一切なくやるんよ。それが出来へんようなら聖女にはなれへん。まずは突拍子もない理想論を描くんよ」
「はい。わかっています」
しかしいきなり1億点を取れというのも酷な話。それこそ高い目標だけ掲げさせて終わりというのは教育として良いとは言えない。だからこそリアルにはうちを手駒として使わせることにした。うちという駒を使い倒し、全て思い通りにさせる。まずは1億点の盤面とそれに必要なものを叩き込む。
だからこそうちがリアルを使うのではなく、リアルがうちを使わなければならない。関係性で言えばリアルの方が上でなければならない。
なによりリアルの能力がもっとも高いのは計画立案と実行力。リアルの場合は自分で考えて動かせた方が活きる。うちの駒として動かすのは彼女の無駄遣いだ。そんなのはリアルにやらせる必要がない。リアルには人を使う能力を伸ばさせたい。正しい計画の立て方と成功体験を与えたいのだ。
だからこそリアルに主導権を握らせる。なにか起こればうちが最後に
「あんたの理想。うちに見せてみ? うちをハッピーエンドまで導いてみ?」
「もちろんです。ドンと構えておいてください」
うちは彼女の思い描くゴールが見てみたい。うちを負かすほどの存在ならば失敗することはない。うちを負かすというのはそういうことだ。つまりうちが一番満足いく結果に導いてくれるはずなのだ。
なによりうちが想像したものはうちの域を超えることはない。どんなに頑張っても想像を超えるものは出ない。しかしリアルは違う。だからこそうちが想像出来ないようなハッピーエンドを見せてくれるのではないかと期待してしまう。リアルという存在は投資する価値があるのだ。
だからうちはリアルに委ねることにした。リアルと共犯になる道を選んだのだ。