デタラメトロノーム~超越者達の異世界改革記~ 作:ギャン吠えチワワ
俺達が最初に向かったのはリアルの元だった。この事件の一番の証拠はリアルの全知だ。それ故に全知の詳細について知りたかった。全知の仕様を知らなければ、勝負の土俵にすら立てないだろう。
「なんですか……この頭が痛くなるような部屋は?」
リアルの部屋に入ると彼女の歌う声と聞き覚えのあるアニソンが大音量で流れていた。俺達はその光景に一瞬だけ硬直してしまった。
部屋の壁は防音材を兼ねた黒と赤のパネル。部屋の中央には低いテーブルと黒いソファ。壁際にはモニターが置かれており、歌い終わると同時に42点という点数表記がなされていく。彼女の部屋は言い逃れようのないくらいカラオケルームだった。
「……かなり上手かったのに点数低いな。随分とシビアなんだな」
「ルイス様の歌を100点と基準に設定していますから」
「そりゃ低くなるに決まってるだろ!?」
ルイス姉は歌だけは相当な下手である。音程とリズムが取れるだけでそれ以外がてんで駄目。それこそ声に抑揚もなければ感情が乗ることもない。そんなルイス姉を100点にしてしまえば、上手く歌えば歌うほど点数は低くなるだろう。
「せ、折角ですし一曲歌っていきますか?」
そう言うとリアルがマイクを俺に差し向ける。本音を言うと俺は目の前の状況に困惑を隠しきれない。ここがアガルタならば話は分かる。しかしここは魔王城だ。ボウリング場の話を聞いた時から思っていたが、魔王城にどうして現代設備があるというのだ。
「……こっちの世界の曲は知らねぇよ」
「だ、大丈夫ですよ……ルイス様の世界の曲しか入れてませんから」
「なんで知ってるんだよ?」
「全知で知りました」
あまりの情報量になんの話をしにきたのか忘れそうになる。このリアルという女は本当に何者なのだ。もしかしてルイス様と同種のような存在なのか?
「それにしても……よくこんな設備を作れましたね」
「意外と簡単でしたよ」
「そもそも貴方は魔王モモの奴隷だと聞いていたのですが……」
「はい。だからこっそりやりました」
リアルがソファの上に雑に投げられていたタブレットを手にとって操作していく。その瞬間に聞き覚えのある曲が流れ出す。
「歌わねぇからな!?」
「うぅ……残念です」
そう言うとリアルはしょんぼりした様子で曲を止める。しかし人が死んだ直後だと言うのによく歌う気になれるものだ。こいつの倫理に期待していたわけではないが、ここまでとは予想すらしていなかった。
「そ、それで私の全知について聞きにきたのですよね?」
「ああ。話が早くて助かる」
「まぁ聞かれたことには答えますので……適当に質問してください」
「聞かれてないことには答えないってことか?」
「は、はい……なにが必要か私には判断できませんから」
しかしなんでも聞いていいと言われると困るな。どこから話を聞くべきか。
「まず犯人は透明人間と言いましたが、どのように見えたのですか?」
「どのようにですか……そうだ。メイ第二王女様はルイス様の世界の知識はありますか?」
「ええ。多少は……」
「それでしたら話が早い。今回は防犯カメラのような形式で見張り塔でベックが殺される現場を見させていただきました」
俺は少しだけ引っかかりを覚えた。その引っかかりを確かめようと挙手をする。それにリアルが反応して、俺の質問を待つ。
「今回はってどういうことだ?」
「全知は端的に言えば痕跡を見るスキルです。それこそ今回のように監視カメラの録画データを見るような形で確認することもあれば、蓄音機に保存された録音データを再生したり、歴史書を読むように文章で情報を得たりと色々と選べるんですよ」
「便利ですね……」
「例えばベックの死因。それを調べる場合はベックの死体の状態を知りたいので文章データにしたりしますね。もし密会の様子を聞きたいならば音声といった形で選ばせていただきます」
「……ベックの死因は全知で調べたのですか?」
「もちろんです」
「結果はどうでした?」
「背後から縄で首を絞められたことによる窒息死。ようするに
あまりに殺人事件というケースにおいて強力なスキル過ぎると話を聞いて思った。なにせ司法解剖と現場検証……挙句の果てに監視記録まで全て個人で完結させてしまうことが出来るのだ。もしもリアルが刑事になれば全ての未解決事件が解決してしまうだろう。もっとも彼女の場合は刑事ではなくテロリストだから最悪なのだが……
「全知のスキルは人の心まで読めたりするのですか?」
「無理です。全知で分かるのは痕跡です。外側にアウトプットされていないものを見ることは出来ません」
「……なるほど」
「ただ何時何分に泣いたとか叫んだみたいな行動でしたら全てわかります。そこから推論を立てれば大体のことはわかりますけどね」
「もはやズルですね」
「ちなみに非公式の会談の内容や軍事秘密とかもわかりますよ。音声や書類で痕跡が残りますから」
「本当にずるですね!! そのスキル!!」
ただし万能ではない。なにせ今回のベック殺人事件ではリアルの全知で透明人間と出ているのだ。リアルの全知でも誰が殺したかどうか分からないのだ。全知といえどなんでも知れるわけではない。
「……なぜ透明人間だとメイが犯人になる?」
「悪魔はスキルの外側にいる存在だからです。そのためメイ第二王女様に限らず、アリスといった存在の痕跡は追えません。彼らの行動は全知でも見れませんし、聞くこともできません」
「それで透明人間か」
「はい。もっとも雨とかで透明人間の姿が浮き出るのと同じ要領で悪魔も見えますので……なにかいるということだけは見えちゃうんですよね」
「つまり別の悪魔がいれば……」
「そこのメイ第二王女様の無罪が証明できますね。しかし生憎ながら……この場にはメイ第二王女様以外に悪魔はいませんでした」
話を聞けば聞くほどリアルの全知が崩せなくなる。彼女のスキルが証拠としてあまりに強すぎる。このスキルは捜査という面において無法だ。もはや最強に近いものだ。
「リアル。失礼なことを1つ聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「貴方。今回の事件の証言で嘘を吐いていませんか?」
「まさか。あの場で嘘を吐いたとしてもルイス様や魔王モモがすぐに看破してしまうでしょう。あそこで嘘は吐けませんよ」
リアルの言う通りだ。そして彼女の発言で俺自身も気づく。この場では偽証は不可能に近い。なにせ嘘を看破する存在が3人もいる。それがメイとルイス姉とモモだ。もしルイス姉が犯人で嘘に乗ったとしてもモモを誤魔化さなければならない。
仮に犯人がルイス姉ではなかったら嘘に乗らないため、ルイス姉以外も攻略しなければならなくなる。
「そ、そ、それと……他に使い方でしたら人の居場所もわかりますのでソナーのようにも使えますかね」
「え?」
「10秒間隔でどこに誰がいるか情報を得るんですよ。そうすることで自分の周囲には誰が何人いるのか分かる。伏兵や尾行も簡単にわかりますよ」
「もしかして特定個人の居場所も……」
「も、も、もちろん分かりますよ」
全知は危険だ。直感的にそう告げている。そのスキルは汎用性が異常に高すぎる。直接的に戦闘で攻撃力を持つようなスキルではない。ただし戦争になれば話は別だ。このスキル1つで勝敗が決すると言っても過言ではない。
「……中庭という場で死体を吊るす。それに目撃者がいないことが腑に落ちませんでした」
「そ、そうですね」
「貴方の全知ならば可能なのではないですか?」
「はい……可能です……」
「ありがとうございます」
しかしリアルは嘘を吐いていない。証言においては嘘を吐いていない。つまり犯行には加担していないはずなのだが……
「貴方。事件に1枚噛んでますね」
「いいえ」
「嘘。ですね」
「そ、そんな! 嘘なんてつくわけないじゃないですか!」
俺は耳を疑った。今までの前提が崩れていく。リアルが事件に関与している。しかしリアルは証言に嘘を吐いていない。それは明らかに矛盾で……
「透明人間に首を縄で絞められて殺されたのは事実」
「はい」
「貴方は透明人間が誰か知らない」
「はい」
「殺した犯人は……」
「知りません」
そこでメイの目の色が変わる。俺には分からなかったが、メイには分かるらしい。今のは嘘だと。リアルが嘘を吐いたと。
「貴方に嘘は通用しないでしょう。だから本当のことを言います。知らないと」
「白々しい」
それは見え透いた挑発だった。嘘だと見抜かれることを前提とした嘘。リアルは自分が関与していると自白している。しかし第三者が見ても明らかな自白とはならない。あくまで嘘が分かる人だけに向けられた自白。それ故にどうすることもできない。
「あ、あの……そ、そろそろ私も疲れましたので帰っていただけますか?」
「……」
「あと1つだけ……」
「も、もう話すことはありません」
それだけ言うとリアルはタブレットで曲を入れ、音楽を流しだした。その音楽に乗ってリアルの歌声が響いていく。俺達はこれ以上の情報収集を断念し、リアルの元を去らざるを得なかった。
◆ ◆ ◆
リアルの元を後にした俺達は今後のことを考えていた。全知という証拠を覆す。そのことに心が折れそうになる。それほどまでに全知は無敵だ。
「なぁメイ」
「どうしたのですか?」
「リアルの全知って女湯とかも覗けると思うか?」
「あの説明を聞いた限りだと出来ると思いますよ。あれは千里眼のような使い方もできるスキルだと思いますので」
「たしかに」
メイとくだらない話をして気を紛らわせていく。正直言って今のような冗談でも言わないと正気を保てなくなる。ただ現実逃避をしていても仕方ない。もう俺達には時間がないのだから。
「リアルが嘘を吐いてる。それをどう証明したものか……」
「なぁ。どこで嘘を吐いたんだ?」
メイは嘘を見抜けるのだろうが、俺は違う。リアルの嘘を見抜けない。もしもメイがいなければ嘘を吐かれたことにも気づけなかっただろう。俺はメイの反応でリアルの嘘に気づいたに過ぎない。
「まず事件に一枚噛んでいないは嘘でした」
「他には?」
「知らないというのも嘘ですね。彼女は事件の詳細を知っています」
「裁判でリアルに尋問をするのはどうだ。ルイス姉とモモも嘘なら分かるだろ」
「……私にはリアルがなんの対策もしていないとは思えない。それに私は嘘を見抜けるだけです。黙秘されたら終わりです」
リアルさえ崩せば前提が崩れる。そこが攻略の糸口なのは間違いない。しかし時間をかけたところでリアルを崩せるのか。これはそういう話だ。
「なによりモモとルイスがリアルについた場合は完全に詰んでしまう。ここでリアルを攻略するというのは困難を極めると思います」
「モモとルイス姉を言いくるめるっていうのは……さすがに無理だな」
「私もそう思います。なにせ今回は時間がなさすぎる」
かなり絶体絶命の状況だ。なにせ明確に悪意を持ってメイを犯人に仕立て上げようとしている現実が露見した。きっと事故や自殺に話を持っていこうとしても、リアルに潰されるだろう。なんとかしてリアルを攻略しなければならないのだ。
「カオリ。リアルはテロリストですよね?」
「ああ」
「ドラニクスの一件。彼女が黒幕ということでよろしいですか?」
「そうだ。しかし今は無関係だろ」
俺の声にメイからの返事はなかった。メイは硬直して、なにかを考え込んでるようだった。俺はそんなメイを見て少しだけ不安になる。
しかしすぐに
「それならば彼女の陣営に死者蘇生のスキルを持った人がいるのではないですか?」
「……!」
そうだ。なぜ気づかなかった。これは普通の事件ではない。スキルを絡めることが出来るのだ。俺はどこかで常識で考えてしまっていた。だからこんな簡単なことも見落としたのだ。
「ベックを蘇らせて全て供述させればいい。それで解決ではありませんか?」