デタラメトロノーム~超越者達の異世界改革記~ 作:ギャン吠えチワワ
死人は蘇らないという常識に囚われていた。そのせいで簡単な解決策にすら気づけなかった。死者を蘇らせられるならば全てが茶番だ。
そのことに気づいた俺達はフリートの元を尋ねた。しかし彼から返ってきた返答は予想だにしないものだった。
「悪いが応じるつもりはない。英霊召喚は外道以外に使うつもりはない」
「それはどういう意味でしょう?」
「……英霊召喚。そんな死者を蘇らせるような力を無代償で振るえると思うか?」
当然ながら俺達も全くの代償がないとは考えていない。しかし彼が大きな代償を背負ってるとも思えない。もしも代償が重いならば八将をあんなにポンポンと呼び出さないはずだ。それ故に俺達は呼ぶのに大きなコストはないと踏んでいた。
俺達が強い視線を向けるとフリートは観念したかのようにスキルの詳細について説明を始めた。
「1人呼び出せば、その分だけ俺への負担が増える」
「それはどんな代償ですか?」
「寿命だ。1人を1秒現界させれば、俺の寿命は1秒削れる。3人ならば3秒だ」
「……随分と重いですね」
「たった1秒だろ。どこが重いんだ?」
思わず言葉が漏れた。それこそ1時間程度だけ呼んで戦力として利用したりするくらいならば大きな支障はないはずだ。寿命が1時間削れたとしても、それで得られる戦果としては安いものだ。
「まず1人を呼び出し、10年生かせば寿命は10年削れます。自分も普通に生きるわけですから計20年です。もし現在20歳で寿命が60歳ならば40歳で死ぬのですよ?」
「それは分かるけど……返せばいいんだろ?」
「はい。しかしどのように返すのでしょうか?」
メイの言葉でスキルの重さを理解した。たしかにこれは重いスキルだ。自分の都合で呼び出して自分の都合で手に掛ける。それが出来ないならば自分の寿命が削れていく。これは召喚された側にも再び生を与えてしまうものなのだ。
このスキルは役目を終えたから死ねと言うようなもの。なんて残酷なスキルなのだろうか。
「察しが良くて助かる。だからこそ呼び出すのは殺しても心が痛まない外道だと決めている。あれは殺しても心が痛まないから。捨て駒として酷使出来る」
「なるほど……それでしたら八将を使うのも筋が通る」
八将は外道揃いだ。だからこそ彼らを殺すのに抵抗がない。自分達の心が痛まないように外道を選んで呼び出していた。そういうことなのだ。
「しかし難儀なスキルですね。それに返すのが殺すという行為を伴う以上は強すぎる英雄を呼ぶと返せなくなるのでしょう?」
「その通りだ」
話を聞き、想像以上に制約が厳しいスキルだと感じる。死者を蘇らせる夢のような力だが簡単に使わせることも出来ない。それをやるにはあまりに重すぎる。少なくとも少し証言が欲しいから蘇らせようなんてノリで使えるものではない。
「ベックを呼び出す。証言させた後に用済みだから死ね。それが出来るのならば呼び出せばいいと思うが、俺は御免だ。そして蘇らせた後にお前たちが殺すとも思えぬ」
その理由は生き返らせない理由としては充分過ぎるものだった。
メイも口を挟まない辺り、その説明に嘘はないのだろう。俺達の頼みの綱は早くも潰れることとなってしまった。
「……貴方。このスキルの使い方を間違えましたね」
「どういう意味だ」
「なんでもありません。ただの独り言です」
スキルが使えないと分かった俺達はフリートの元を後にする。なんとかして死者蘇生を使わせたい気持ちはあるが、今の話を聞いた後だと使わせる気にもなれない。同様にモモに模倣させて使わせたいとも思えない。これは当てにしていい力ではない。
「メイ。スキルの使い方を間違えたってどういうことだ?」
俺はメイに問いかける。メイが最後に呟いた言葉の意味がわからなかった。メイはどんな使い方を想定したというのだろうか。少なくとも別の使い方を見つけていたように思えたが……
「そうですね……恐らくこれは死者を利用するというよりは会いたい人にもう一度会うためのスキルかと思います。もっとも相手が英霊という制約はありますけどね」
「すまない。もう少し細かく説明してくれ」
「……このスキル。寿命さえ払えば返さなくていいんですよ。自分の寿命をやるから、もう一度だけ一緒に生きてくれと言う使い方も出来るロマンチックなものです」
「あ……」
たしかにメイの言うような解釈も出来る。最初から自分の寿命を支払うことを前提として、相手の時間を買い戻すことが出来る。そう考えるとこの上なく魅力的に感じる。むしろデメリットが軽いようにすら思えてくる。
「もっとも外道を呼び出して戦わせたり、敵国の兵を蘇らせて情報を抜くという使い方も良いでしょう。しかしそんなことを繰り返していれば人を道具としか思えなくなる。そうなった者の末路など想像するに容易いです」
「それで使い方を間違えたと言ったのか」
「ええ」
もう既に時刻にして昼頃を過ぎている。裁判が迫っているのに真犯人どころか方針も定まっていない。その事実に少しだけ焦りを覚えていく。
「……もう時間がないぞ」
「わかっています」
英霊召喚のスキルも使えない。事件の手がかりは無いに等しい。事故や自殺に見せかけるにしても、そう思わせるような根拠もない。なにか打つ手は……
「これから私はジークから話を聞こうと思います」
「どうしてジークなんだ?」
「彼ならば嵌められると思いませんか? 彼に嫌疑がかかればリアルが動き、ボロを出すかもしれません」
「なるほど」
「だから知りたいんです。獲物のこと」
理屈としては分からないものではない。だがジークなら嵌められる。最悪は犯人へと仕立て上げることも不可能ではない。今の状況の中で考えられる中で一番勝率の高い手だ。
「よし。ジークのところに行くか」
そこに迷いはなかった。ジークがいる場所は地下のボウリング場だった。もちろん建築したのはリアルであり、俺達もお世話になっている場所だ。俺達のような客人や四天王のような役職持ちだけに解放されている憩いの場である。
リアルは短期間で与えられた私室をカラオケルームにした上で地下にボウリング場までも作り上げた。もちろん常識的に考えたら不可能だ。それこそルイス姉……聖女ルイスでもなければ不可能だろう。しかし裏を返せば聖女のようなデタラメな存在ならば可能。
リアルという存在はルイス姉と同じ類の生き物だから出来てしまった。そういうことなのだろう。つまり俺達はリアルはルイス姉と同じスペックの相手だと見積もらなければならない。
「それで俺になんの用だ?」
「魔王モモの側近であるベックが殺された。その話を聞きたい」
「俺は関係ねぇだろ」
ジークは青い髪をした大柄な男だ。
俺と同じくらいの背丈で、西洋風の顔立ちをした男。その男はボウリング玉を転がす。それと同時にピンを1本だけ残して吹き飛んでいく。それを見て彼は汚い言葉で悪態をついた。
「ベックとはそれなりに付き合いもあったのでしょう。なんとも思わないのですか?」
「弱いやつが悪いだろ。殺されるくらい弱いのが悪い」
「裏を返せばベックを殺せるくらい強い存在だったとも捉えられますね」
「それなら犯人はルカ・エリアスだろ。あれは幼女になっても怪物だ」
嫌な感じの男だ。全体的に
「もしくは聖女ルイス。あれも殺せるな」
「その話。リアルに聞かせても?」
「――殺すぞ?」
その言葉で空気がピリつく。彼の放つ殺気は刺々しく、威圧感のあるものだった。放つ殺気で当人の強さが分かるというが……その観点で言うならば相当な上位だ。少なくともアリスの殺気よりも怖く感じる。さすがの竜殺しと言うべきだろう。
「そもそも俺は関係ねぇだろ。快楽殺人鬼でもないし、ベックに恨みがあるわけでもねぇしな。帰りな」
「しかし……」
「帰れ。殺すぞ」
結局のところジークとの会話で大した情報を得ることはできなかった。完全な無駄足だった。せめてもう少し話が聞けると思っていた。まさかここまで門前払いされるとは思ってもいなかった。
「くそっ。時間を無駄にした」
「……カオリ。ここから先は別行動としませんか?」
ただメイはなにか掴んだのか満足したように地下を後にする。その道中でメイは唐突に俺にある提案をした。
「どうして?」
「少し糸口が掴めましたので……計画を練ろうかと。それにリアルのことや魔王ウシカゲの情報も整理したいですから」
「それは後でもいいだろう」
「相手は魔王モモ。彼女はどこから攻めてくるか分かりませんので、少しでも備えておきたいのです」
「そうだな……分かった」
分かれる間際、メイが俺の耳元で囁く。その作戦は俺の想像を遥か上をいくもの。まさしく逆転の一手だった。
「誰にも口外しないでくださいね。リアルの全知で知られますから」
「ああ」
リアルの全知は悪魔を認識出来ない。だからこそメイの声は拾えない。これはリアルを欺くための一手だった。
◆ ◆ ◆
残された僅かな時間で俺が向かったのはモモのところだった。
ベックと関係が深かったのはモモだ。この事件はモモを抜きにして語ることは出来ない。なによりモモならば事件の真相を掴めてる気がした。
「……ごめん。お兄ちゃん。少し後にして」
俺が見たモモはどこか弱々しかった。目元には泣き腫らした跡があった。俺はそんなモモを見て少しだけ驚いた。モモがここまで
そんなモモの横に俺は腰掛ける。モモを見て俺は兄として寄り添いたいと思った。傍にいなければならないと感じた。
「……モモにとってベックってどんな人だった?」
「私の恩人だった」
「恩人?」
「私ね。彼のために魔王になったの」
モモがポツリと言葉を漏らしていく。その言葉に過剰に反応することなく静かに聞いていく。モモとベックの物語に耳を傾ける。
「私の異世界転移は事故だったんだ」
「そうか」
「……誰もいない雪原の中に飛ばされた。吹雪の中で必死に人を探して歩いたの」
思えば異世界に来てからのモモを知らない。魔王になるまでのモモを知らない。モモがこの地位に至るまでの苦労を知らない。
「そんな中で助けてくれたのがベックだった」
「……大切な人だったんだな」
「違うよ……ベックはどうしようもない馬鹿で……間抜けだよ」
モモの目から涙が溢れてくる。モモは涙を隠すように俺の胸元に顔を埋める。そんなモモの背中を俺は優しく撫でる。
「ベックは大切なんかじゃない……全然なんとも思ってない……もん」
俺にも分かる嘘だった。モモの掠れた声が嘘だと言っている。本当に大切じゃないならばここまで泣くことはない。
「私……約束したの。魔族が差別されない世界にするって」
「そっか」
「そのために魔王になったの。だけど守れなかった。彼にその世界を見せられなかった。あともう少しだったのに!」
モモが俺の胸を叩く。俺はそれを静かに受け入れる。泣きじゃくるモモを見て自分のことのように痛くなる。
ようやく全てに合点がいった。モモが魔王になった理由が腑に落ちた。モモが魔王になったのは恩返しだった。命の恩人となったベックのためだけに魔王になった。それ以上でもそれ以下でもなかった。
「……それなら絶対に犯人を見つけて仇を取らないとな」
その言葉にモモはなにも返さない。
今回の事件はメイを無罪にするためのものだと思っていた。しかしモモを見て変わった。俺はモモを泣かせたやつを許さない。そいつを裁くためにも絶対に事件の真相を明らかにする。
ギンコンギンコンと鐘の音が鳴り響く。
裁判の開始を告げる鐘だ。その音と同時にモモが涙を拭って立ち上がる。
「モモ。行くぞ」
「……うん」
そうして俺達は2人で裁判所へと向かった。裁判所となるのはモモが魔王としての職務を行う玉座の間。そこでメイの裁判が――ベックを殺した真犯人を炙り出す戦いが始まる。
「……なんとしてでもメイ・アルカードだけは殺す」
「メイは犯人じゃない。俺がそれを証明する。この裁判で俺が真犯人を見つける」
モモの物騒な言葉に真っ向から返す。
足を踏み入れた玉座の間には既に俺達以外の全員が揃っていた。メイ、ルイス姉、ルカ、カミーラ、リアルといった俺達と馴染み深い人達。そして四天王であるフレイムや俺達が聞き取り調査したジークとフリート。影響力を持つ者や役職に就いてる者は全員が呼ばれていた。恐らく彼らも容疑者候補なのだろう。
「まったく俺は無関係だと言っているだろ」
「それを言うなら私も無関係だけどね」
モモは静かにメイの横を通り過ぎ――魔王として玉座へと腰掛ける。まるで自分が裁判官とでも言わんばかりに。
「これより魔王モモの名において裁判を開廷する。被告人はヤミ国第二王女メイ・アルカード」
その言葉でメイが前に出る。俺は全員の顔を見る。この場で犯人を明らかにしなければならない。
「被告人には私の――魔王モモの側近であるベックを殺した疑いがかけられている。異議がある場合は申しなさい」
その言葉に怯むことなくメイは前に出る。全員の視線がメイへと集まっていく。その中でメイは俺と打ち合わせ通りに――全てを壊す爆弾を打ち込んだ。
「この事件の犯人は私ではありません。犯人はルイス・ラスティア……貴方ではありませんか?」