デタラメトロノーム~超越者達の異世界改革記~ 作:ギャン吠えチワワ
全員がメイに呆れた視線を向けた。この場でルイス姉を指摘するということはそういうことだ。なにせモモは家族、ルカは友達、リアルは崇拝とこの場における発言力の高い者がほぼ全員ルイス姉に好意的な感情を持っている。ルイス姉に喧嘩を売るという行為は全員を敵に回す行為なのだ。
「なんでうちが犯人なんや? 動機があらへんと思うけど」
ルイス姉は不快感を隠そうともせず、呆れ混じりの目でメイを捉える。
そこに慌てる素振りは見せなかった。
「転移のスキルが欲しかった。それで理由としては充分でしょう」
「うちがそのためだけに人を殺すと思うんか?」
「はい。思います」
その指摘で"あー"という声と共にルイス姉を知る全員が頷く。その光景は少しだけ珍妙なものだった。正直言って俺もルイス姉ならば目的のためならば躊躇いなく殺すと考えている。奇しくも全員がその認識だった。全員が理由があればルイス姉ならば殺すと見ている。それに限ってはルイス姉の普段の行いが悪いとしか言いようがない。身から出た錆というやつだ。
「まぁ……ありえなくはないよね」
「た、たしかに……ルイス様でしたら……そういう理由なら殺しますね」
「ちょっ!? なんでそんな展開になっとるん!?」
「……今までの言動を振り返ったほうがよろしいかと」
「まぁええわ。ただリアルの全知はどう説明するん?」
僅かだがルイス姉が犯人であるという可能性が浮上した。もちろん俺もメイもルイス姉が犯人とは思っていない。この指摘はメイ以外でも殺人が可能であるということを証明するためのもの。これは俺達が本命のジークへと繋げるための布石だ。
ここでの本命はジークだ。彼が真犯人という保証はない。しかしまずはメイの疑いを晴らさなければ真犯人を見つける土俵にすら立てない。ここでルイス姉を落とすのが目的ではない。この程度の材料ではルイス姉は落としきれない。メイも俺もそれは分かっている。
「リアルは貴方に心酔しております。もし全知で貴方の姿を捉えたのでしたら……嘘を吐いてもおかしくありませんよね?」
「それは……」
「もしかしたら最初からリアルと共犯だったのではありませんか? だって転移は人を殺してまで奪う価値のあるほど魅力的ですものね」
「うちは殺しとらん」
この場において一番厄介なのがリアルの存在。リアルに全知で違うと言われたら終わりだ。だからこそ最初にリアルの発言の信頼度を落とした。ルイス姉を庇うためならば嘘を吐いてもおかしくない。そういう立場へと押し込んだ。ここまでは計画通りに事が進んでいる。大丈夫だ。全て順調だ。
しかし直前に俺はモモとベックの話を聞いた。俺の中で真犯人を明らかにしたいという気持ちも強く生まれている。もちろん方針は大きく変えるつもりはない。メイの戦い方を支持しつつ、俺なりの方法で真実を明らかにする。犯人に繋がる手がかりを見つけだしてみせる。
「それに犯人はあくまで透明人間。ルイスの科学でしたら透明人間になれる薬くらい作れるでしょう」
「……なるほど。そう言われたら反論の余地もあらへんな」
「ただ、あくまでうちにも犯行が可能なだけでメイが犯人じゃあらへん証拠にはならへん」
「そうです。しかしこれで私以外にも犯行が可能であるとハッキリしましたね。透明人間には私以外の人物でもなることが可能である。これは消去法で私を犯人にするのはおかしいことの証明です!」
その言葉に全員が息を呑んだ。こればかりはメイが非常に上手い。話の誘導が完璧に機能している。俺達のプランが見事に刺さってる。俺だけならばここまでのことは出来なかっただろう。
「もちろん私もルイスが真犯人であると本気で考えてるわけではありません。しかし今の一連のやり取りで分かったはずです。これは誰が犯人になってもおかしくない。少し口が上手ければ、そのようにもっていくことが出来てしまうのです」
メイが共感を求めるように力強く力説する。その言葉によって裁判の雰囲気が大きく変わっていく。メイを犯人とするには早計じゃないかという空気が形成されていく。
「……せやね」
「そして一度疑われれば疑惑を晴らすのは困難を極めます。あの聖女ルイスですら自身の潔白を即座に証明できなかった。今回の殺人事件はそのような事件なのです」
これでようやく土俵に立てた。しかし土俵に立てただけだ。ここからが本番だ。まだ全部が白紙になっただけ。なにも進展はしていない。犯人に繋がる手がかりをなにも見つけていない。
「……ただ1つええか?」
「どうぞ」
「この事件。リアルの証言に信憑性がないのが問題なんやろ?」
「はい」
「そんならモモに全知を模倣させて、犯人を明らかにしてもらったらええんちゃうか?」
今度は全員の視線がモモに集まる。モモが動けば解決と言わんばかりの視線。
俺達もモモに全知を使わせることは考えていた。だが展開として非常に良くない。もしもここでモモがヤミ国と戦争をしたいがために、"メイが犯人"と言われたら詰みだ。もちろんモモの涙を見た後ではそのような真似をするとは思いたくない。
しかしモモの性格を考えれば否定は出来ない。今のモモに議論の行く末を任せるのは危険極まりない。その展開だけは許せない。
「……リアル。手を出して」
「は、はい……」
モモの手には針が握られている。模倣は攻撃した相手のスキルを模倣するというもの。針で軽く突くだけでも攻撃として認定される。それ故に身内からスキルを借りる際には負担とならないように針を使っているのだ。
「ちょっと待ってくれ」
俺は手をあげて制止をかける。なにか考えろ。ここでモモに全知を使わせない一手を考えろ。使われた時点で詰みだ。
モモならばこの場はメイを犯人にしてヤミ国に戦争を仕掛ける。それと同時に裏で犯人は殺す。そんな両方を取る選択肢を選べてしまう。モモはそういう人物だ。
「……モモの証言ならば信用できるものなのか?」
「どういう意味や?」
「俺には今のモモはヤミ国と戦争をしたいように思える。その大義名分を得るためにリアルの嘘に乗る可能性がないとどうして言える?」
傷心のモモを追い詰めるような発言に心が大きく痛む。しかしメイを詰ませないためには避けて通れない道だ。この場においてモモはメイの敵だ。
今回の説得は共感を得られるはずだ。俺達も自分達に不都合があるから全知を使わせたくないわけではない。俺達は偽証してるわけではない。俺達の懸念を素直に伝えるだけだ。だからこそ説得力はあるはずだ。
「俺にはモモの証言が信用できるとは思えない。誰も信用出来ない以上は今回の裁判は全知抜きで行うべきだ」
「……ど、ど、どうでしょうか。全知を真偽に持ち込まないというのは正しいと思いますけど、それはモモ様が全知を使うかどうかとは別問題では?」
それに反論したのはリアルだ。俺は内心で舌打ちする。ここで全知を使われたら終わりだ。いらないことを言うな。
「どういう意味だ?」
「全知で真相を知った上で、ヤミ国と戦争をしたいならばメイ第二王女様が犯人と言うも良しという話です。それを信用するかどうかは皆様次第なのですから。私達がモモ様の発言を信用しなければ解決……では?」
「それは駄目だ。発言力が強くなりすぎる」
いくら全知を前提としないものという立場を取ったとしても、完全には無視することはできない。モモが嘘を吐いてる可能性を考慮したとしても……全知が背景にあるという武器がモモに渡れば簡単に言いくるめられてしまう。
どうしてリアルにはそれが分からないのか。モモに全知を持たせるのがダメだと分かってくれ。
「……そりゃそうですよね。今回の事件の犯人はメイ第二王女様。それを隠すために有利な方向に持っていくのは当然ですよね」
「俺にはリアルがモモに全知を使わせることに固執してるように思えるけどな。モモならばメイを嵌める。そう読んでるから使わせたいんだろ?」
「モモ様が全知を使わない。そこに合理的な理由はあるのですか?」
「だから言っただろ! ヤミ国と戦争をしたいモモだったらそれを利用してメイを嵌めかねないと!」
「どうでしょうか。私にはそうは思えません。モモ様は極めて公正な方だと思います。そこに関しては嘘を吐かないと断言していい」
話が平行線だ。リアルの狙いが見えない。リアルはなにを狙っているというのだ。少なくとも今の問答でハッキリした。リアルはモモに全知を使わせて、なにかしようと企てている。だから中々引き下がらない。
苛立ちが募っていく。どうすればいい。どうすればリアルを突破できるというのだ。
「……とりあえず裁判を続けなよ。私は全知を使わないからさ」
「モモ様!?」
「お兄ちゃんの言うことにも一理あるし判決が下りた後に全知を使って私が真偽を確認する。それでいいでしょ?」
「は、はい……」
「この場は全知を抜きで真相を明らかにしなよ。私が答え合わせするから」
その言葉に安堵した。少なくとも今のモモには裁判を利用し、メイを嵌めるつもりはない。もしもその気ならばモモは確実にリアルの話に乗ってきていた。モモはあくまで事件の真実を確かめようとしている。
「全く関係ないのですが1つ
「うん。いいよ」
「魔王モモのスキルは強化模倣。攻撃した相手のスキルを強化した状態で行使するものだと聞いています」
メイがぽつりと言葉を漏らす。これは時間稼ぎだ。ここから先はノープランだ。ジークを嵌めるという方向で定まっているが、裁判がどう転ぶかわからないため練ることができなかった。それ故にここからはアドリブ。
「それがなに?」
「全知を模倣した場合はどうなるのですか?」
「……軽いシミュレーションが可能になる。例えば人が落ちた時に何秒後に地面に衝突するのかとか目の前の数式の答えとかが分かるようになるだけ」
「なるほど」
「あくまで物理シミュレーションと高性能な電卓が付属されるだけ。それこそ発射前のロケットが打ち上げに成功するか分かる程度でしかないよ」
つまるところ強化幅は計算の省略。誰が計算しても同じ結果になるものだけを省略して答えを即座に導き出せる。全知ならば質量や表面積、空気抵抗といった情報も見れるからこそ延長線上で分かるということなのだろう。
「ちょい待てや。それ本気で言っとるん?」
「ルイス。どうしましたか?」
「それが出来るんやったら全ての不確実性を排除できる。世の中の動かしてみないと分からないが全て消えるわけやろ? 光軸のズレや熱変形や振動……そういったものが分かるんやったら研磨も調整の時間もなくなる。人類科学の課題やったものが全て……」
「お姉ちゃん。そういう話は後でしようか。この場でする話じゃないから」
俺にはルイス姉がなにに驚愕してるのか分からなかった。正直言ってモモの全知の強化は強いと思うが、ルイス姉がドン引きするほどの価値を見出だせなかった。ただの演算能力にそこまでの価値があるのだろうか。そんな大騒ぎするほど強力なのだろうか。
しかし今は関係ない。そんなどうでもいいことを考えてる時間はないのだ。
「まぁ誰がどう思うが関係ない。判決に関わらず、私は全知で見た真犯人を殺すだけだから」
その言葉で安堵が消えた。俺達にとって一番嫌な展開になった。つまりここで真犯人を見つけたとしても、モモが全知を使ってメイが犯人だったから殺すということが成立するということだ。そんなちゃぶ台返しが行われたら、裁判が意味をなさない。
全知はブラックボックスだ。それこそ真犯人とメイが共犯だったと嘘を吐いて終わらせるという展開すら可能になる。
「……まるで独裁ですね」
「うん。私は魔王だからね」
「少しは民主主義を見習うべきでしょう」
「知らない。私が正しいと言えば正しい。どんなに白いものも私が黒といえば黒だよ」
俺達はこの裁判をモモに利用されることを恐れていた。しかしモモはそんな真似をしない。そういう小細工をせずに潰してくる。それが出来る存在なのだ。
この場でモモは警戒するだけ無駄だった。この裁判はメイの無罪を証明する場ではなかった。俺達の味方を増やす場だった。最初からモモは敵だったのだ。
「カオリ。全部崩れましたね」
「ああ。わかってる」
メイが小声で俺に話しかける。ここまで立てた計画は全部おじゃんだ。ここからは事件なんて二の次。どのように敵を増やすことなく、モモの信頼を削ぐべきかという話になる。そして恐らく全員がモモに異を唱え、相手になったとしてもモモはものともしないだろう。それほどまでに強いのがモモなのだ。
「それで話を戻すけど――誰が犯人って結論を出すのかな?」
「……あれほどリアルの処遇の時は裁判を通せって言ったのに、それを言うんだ」
その空気の中でルカが口を開いた。ルカは俺達が思った上で飲み込んだことに容赦なく踏み込んだ。
「お気持ちで裁くことを許さない。誰もが納得する理屈を用意できないなら譲らない。それを言った貴方が公正を捨てるんだ。もう茶番だね」
ルカの一言で一触即発の空気へと変わる。これはチャンスだ。ここで一気にモモの信頼を削ぐことが出来る。俺は即座にメイへと視線を向ける。メイは意図を汲んで迷わず追い打ちをかける。
「リアルとの揉め事に関して私は知りませんが――そのような発言をしたならば魔王として説明責任があると思います。貴方が望んだ玉座ではないとしても、そこに座るならば責任を持ちなさい」
「……それなら貴方は犯人を見て見ぬフリしろって言うわけ?」
「え」
「もしも違う人が犯人だとしても、その犯人を無罪放免にしろってこと?」
「それが貴方の説いた理屈でしょう。貴方が自分に課したものです」
「めんど」
モモが針を取り出し、リアルへと投げ飛ばす。
ルカが止めようとするがメイがそれを制止する。その針はリアルの腕を掠った。その瞬間に黄金色の剣が――エクスカリバーが落ちる。
「今です! 取ってください!」
その瞬間にリアルの声が響いた。
初めてモモが苦虫を噛み潰したような顔になる。リアルの声に真っ先に反応したのがジークとフリートだった。2人が飛びかかるが、モモは鮮やかに全て捌いていく。
その行動で一瞬の隙が生まれた。それこそ一文字読めるかどうかという僅かな隙だった。その隙をルカが見逃さない。滑り込んだルカの手にはエクスカリバーが握られている。ルカは躊躇うことなくエクスカリバーをカミーラへと投げ飛ばす。
カミーラはルカから飛ばされたエクスカリバーを受け取る。コンマ1秒にも満たない攻防だった。その攻防を制したのはカミーラだった。彼が剣を掲げる。彼の手に握られたエクスカリバーが強烈に光りだす。
「スキル……究極剣術」
激しい音が鳴る。その音は衝撃となって何者も近づかせない。それと同時にエクスカリバーの光は更に強くなっていく。その光はやがて質量を持つ熱へと変わっていく。
「
――光が全てを飲み込んだ。