デタラメトロノーム~超越者達の異世界改革記~   作:ギャン吠えチワワ

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98話 足切りライン

 俺はジークに続いてモモを追おうとする。ここでモモを逃がすのはまずいと直感的に思った。モモは頭が良い。そのモモに考える時間を与えてしまう。そうなれば取り返しのつかないことになるのは明白だ。

 

「やめなさい。今のカオリじゃ勝てません」

 

 しかしメイが俺の袖を引っ張って強引に止める。俺は腕を振って強引にメイの手を振り解く。

 

「でも放っておくわけにはいかないだろ!」

 

 勝ち目がないのは百も承知。それは挑まない理由にはならない。その不可能を乗り越えてこその英雄。負けるから挑まないというのは英雄としての行動ではない。策があって追わないならば良い。しかし負けるから追わないというのは間違っている。

 

「そうは言っていません。むしろカオリに負けてもらうのは私にも困ります」

「なら!」

「だからしっかりと観察しなさい。その上で魔王モモへの勝ち筋を見出しなさい! 少なくとも無策で挑んでいいような相手じゃありません!」

 

 その言葉に下唇を噛む。なにか言い返したいが……メイの意見の方が正しい。今の俺が挑んだところで秒殺。なんの役にも立てやしない。戦力にもなれないのが現実だ。追わないのも正しくないが……無駄死にはもっと正しくない。

 

「カオリ。少しいい?」

 

 ルカが俺に声をかける。あれほど一方的にやられたルカだが目が死んでいない。しかしジークに続く気配もない。怖いくらい冷静で勝ち筋を探してるように思えた。

 

「ジークが負けたら私とカオリで攻める。だから少しだけ私のウォーミングアップに付き合って」

「……ああ」

「いきなりぶっつけ本番だと互いに足を引っ張り合うだけだからね。このウォーミングアップで細かなところを調整してこっか?」

 

 俺はロストベリーを握り、ルカへと静かに向ける。今は焦る時ではない。ジークが稼ぐであろう時間を有効活用すべきだ。自分を説得するように頭の中で理屈を捏ねていく。今はルカとメイに従え。2人を信じろ

 

「3分だけ我慢して。3分で合わせて」

「わかった」

 

 息を整える。まずは思考を整理しろ。このウォーミングアップで少しでも上達しろ。そんな思いでルカの一撃を受けた。

 

* * *

 

『さぁ勝ちにいきましょう! ここからが反撃ですよ! 私達の英雄譚を始めましょう! ルカがいるんですから勝ち確です! いぇーい!』

 

 頭の中でリアルの声が反復する。きっとリアルが残っていれば、こんな脳天気なことを言うのだろう。そんなことを考えて少しだけ口元が緩んだ。

 

「……貴方のスキルって英雄だっけ?」

 

 オレのスキル"英雄"は世界が脅威と認定する存在を相手にした時に自分の全てを引き上げるというもの。身体能力、集中力、生命力、精神力、反応速度、認識能力。そういった全ての力が100倍以上に跳ね上がるもの。

 世界が目の前の存在を脅威だと叫んでいる。魔王を今すぐ倒せと訴えている。それに呼応するようにオレのスキルがオレの全てを引き出した。

 

「貴方程度の存在がどうやって色竜を倒したのか謎だったけど……ようやく腑に落ちたよ。このスキルの力ってわけだね」

「全知で知ってただろぉ?」

「知識として知ってただけだよ。ここまで強力とは思ってなかったもん」

 

 このスキルが発動したのは今回で8回目。過去の7回は全て色竜を相手にした時だけだ。つまり色竜以外の存在に発動することはなかった。目の前の魔王は色竜と同格の敵だということだ。

 

「これは模倣しても意味がないよね。本当に嫌なスキル」

 

 魔王は涼しい顔でオレの剣を避けていく。前にオレ達を相手にした時はスキルが発動しなかった。恐らく本気を出していなかったからだ。世界に敵意を向けていなかったからだ。しかし今の魔王は違う。本気で世界に害をなすつもりなのだ。

 

「もう。なにがそんなに貴方を駆り立てるわけ?」

「オレのリアルに手を出した!死ね!」

 

 オレはモモのことを恨んでいる。モモはあろうことかリアルのことを蹴り飛ばしたのだ。挙句の果てに奴隷としたのだ。許せるはずがない。いつか殺してやろうと思っていた。オレは隙あらば魔王の首を跳ねるつもりだった。

 

「……はぁ。あのくらいで手打ちにしたことを喜びなよ。本来ならリアルのしたことは極刑だからね」

「知るか! 死ね! 魔王!」

「はいはい」

 

 モモの足が急に止まる。それと同時に反射で防御姿勢を取る。

 その瞬間にモモの斬撃がオレの腕を斬った。辛うじて骨で受け止めるが、相当重い一撃。こちらの思考を読んだような一撃。あまりのテクニックの高さに驚愕するが、そのくらいの傷は誤差でしかない。魔王はオレを舐めすぎだ。

 

「身体強度も100倍だ」

「うわ。デタラメ!」

「それで治癒力も100倍!」

 

 傷は即座に塞がる。色竜っていうのはどいつもこいつも化物だった。このくらい出来てようやくスタートライン。そんな別次元の生物だった。たかが一撃でダメージになるようじゃ勝負にならないのが色竜。

 あの時の感覚が蘇る。理不尽を相手にするなど慣れたもの。歴史を遡ろうがオレほど理不尽を乗り越えた者もいないだろう。理不尽殺しはオレの専売特許なのだ。

 

「今のオレは――戦乙女を超えるぜ?」

「そうかもね。でもスキルが面倒なだけで怖くはないかな」

 

 曲がり角から目の前には大豚のような男が飛び出してくる。魔王モモに仕える四天王の1人。体躯(たいく)は3mを超えるほど大きいが雑魚。そもそも四天王なんていうのは名ばかりの雑魚の寄せ集めだ。

 

 ヤミ国の捕虜となるほどに弱いクローバー、エルフの十二座の三の座程度にしかなれなかったフレイムことダイヤ。唯一強いと認めることが出来る勇者カミーラことハート。この目の前の男はスペード。彼は……印象に残らないくらい弱い。

 

「四天王は弱いと――思ってるでしょ?」

 

 その声を聞いた瞬間に全身の力が抜けた。魔王の指には針が握られていた。オレは見落としていた。四天王は弱いのは事実だ。しかし魔王ほどの強者が四天王の実力を見抜けないはずがない。彼らは弱くても四天王なのだ。

 

「私が逃げたと思ってる?」

「……お前」

「逃げたんじゃなくて換装しようと思ったのだ」

 

 四天王は戦力ではない。四天王とは換装システムなのだ。魔王モモの存在があって初めて成立するもの。最初から四天王は戦闘に期待などされていない。その四天王という名前すら本来の目的を隠すカモフラージュだった。ただ魔王モモにとって便利なスキルを集めたのだけが四天王。

 

「私の数を増やせる分身、遠距離攻撃の手段を与えてくれる炎」

 

 どれも目の前の存在……魔王モモが持てば恐ろしくなる。特に分身など考えただけでゾッとする。ただでさえ戦闘力が桁違いの存在が複数人に増える。そんなの冗談にも限度がある。

 

「そしてスペードのスキルは"無力化”。このスキルを強化して使用すると――私の声を聞いてから10秒もの間はスキルを使えなくなるの」

 

 全身から一気に力が抜けていく。魔王がスペードを後ろに下げてオレへと近づいてくる。スキルなど最初からなかったかのように手応えがなくなる。

 

「これは搦め手対策にはもってこい。英雄のスキルを消された貴方じゃ私の相手にならない」

 

 剣による一振りがオレの胸を大きく斬り裂いた。スキルを無くしたオレには受け身を取ることすら許されなかった。大きな一撃に膝をつかされる。この魔王を相手にして10秒はあまりに重すぎる。なんとかしなければ……

 

「さてと。これでチェックかな」

 

 間髪入れずに顔を力強く叩く。キーンという痛みが走る。その光景にモモは呆れた表情を見せた。彼女はスキルの詳細を話しすぎた。それは対策してくださいと言っているようなもの。子ども故の思慮の浅さだ。

 

 耳から血が垂れていく。世界から音が消えていく。発動条件が音だというのならば鼓膜を砕けばいい。この程度の攻略は容易い。魔王モモは静かに待っていた。まるで勝ち誇ったようにオレのスキルが戻るのを待っていた。

 

 少しだけ違和感があった。しかしオレにも都合が良い展開だ。

 オレの身体能力が戻る。その瞬間に飛び出そうとするが声がした。

 

「ばか」

 

 魔王の声がした。その剣はオレの肩を切った。頭に疑問符ばかりが浮かんでいく。意味が分からなかった。たしかにオレは鼓膜を破いた。それなのにどうして音が聞こえる。オレはしっかりと対策したはずだ。

 

「……それって自然治癒力も100倍になるんでしょ。スキルが使えると同時に鼓膜も回復するに決まってるじゃん。スキルが使えるなら鼓膜も再生するでしょ」

「あ、そうじゃん」

 

 なんとオレは馬鹿なことをしたのか! 奇策のつもりだったが奇策にすらなっていない間抜けな一手だ。そりゃ魔王も呆れるに決まっている。

 

  声を聞いてしまったためスキルが消えていく。オレとしたことが愚かだった。スキルを前提に作戦を組んだオレが馬鹿だったのだ。これではスキルに踊らされているようなもの。そんなスキルが本体のような戦い方で魔王を倒せるわけがなかった。

 

「ねぇ。これ以上の交戦はしないっていうなら見逃すけど……どうする?」

「……」

「スキル無しじゃ勝負にすらならないのは分かるでしょ。竜殺しの英雄さん」

 

 唐突に桃色がオレの横目を掠めた。少し遅れて凄まじい衝撃波が襲い、音が遅れてやってくる。

 

「時間稼ぎ。ありがとね!」

 

 魔王の身体が後ろに転がり、そのまま桃色の線が魔王へと追撃を仕掛ける。しかし魔王は即座に反応し、追撃を剣で受ける。

 桃色の線の実態をようやく目で捉えられた。彼女は戦乙女ルカ……この世界における最強の存在だった。

 

「いったいなぁ」

 

 その言葉と共に戦乙女の動きが一気に鈍化する。魔王は即座に剣を彼女の首へと目掛けて、振るっていく。しかし戦乙女は見事にハルバードで受け切り、そのまま攻撃を捌ききる。

 

「やっぱり身体能力強化を消しても実力は健在か。本当に面倒くさいね」

「当たり前じゃん。スキル消したくらいでどうになると思わないでくれるかな?」

「戦乙女! 声を聞いてから10秒だ! 10秒スキルが使えなくなるぞ!」

「ふーん。全知の方が面倒だったかも」

 

 魔王と戦乙女が睨み合いになる。魔王モモは10秒を正確に数えている。10秒経つ前に必ず喋る。オレに英雄のスキルを使わせないために。

 

「全知で片目だけ常に俯瞰(ふかん)させて全体を見てたんでしょ? そうじゃないとさっきの動きは説明がつかないもん」

「へぇ。脳筋だと思ってたけど意外と賢いじゃん」

 

 間合いを探りながらの雑談。挑発も交えながら一瞬の気の緩みを探っている。オレはその光景を見ていることしか出来ない。迂闊に仕掛けようものならば喰われかねない。それほどまでに高度な駆け引きが行われている。

 

「でも身体能力強化がないと天撃や煌といった一撃必殺の技は使えないんでしょ?」

「大丈夫。貴方の肉は硬くないから、掠らせれば致命傷でしょ」

 

 戦乙女が右に回る度に魔王は左へと回る。互いに隙を疑い続ける。2人とも強いからこそ次の一手までの時間が長い。あまりにも長い時間が過ぎていく。

 

「貴方の肉体は幼女。体力は長く持たないんじゃないかな?」

「大丈夫。疲れない動き方を私は知ってるから」

「長期戦になれば私が優位。このまま互いに決定打を欠いた戦いを続けてもいいよ」

「どうだろうね。体力はルカの方が優位だろうけど……集中力は私に分があるんじゃないかな?」

 

 この戦いの起点はオレだ。オレの存在があるからこそモモを無効化のスキルで固定出来ている。オレがいるからこそ魔王は戦乙女に優位なスキルを持つことが出来ない。しかし嫌な予感がする。魔王は本当に隙を探してるだけか?

 

「モモ様!」

「ナイスタイミング。ダイヤ」

 

 魔王が飛ぶ斬撃を放った。それと同時に戦乙女も魔王の首を目掛けて斬撃を飛ばすが、簡単に避けられてしまう。

 魔王の放った斬撃がダイヤへと当たる。あまりに軽い一撃だった。それこそ薄皮を少し削る程度の飛ぶ斬撃。その斬撃が飛ぶと同時にオレの英雄のスキルが戻ってくる。

 

 戦乙女が飛び出す。そんな彼女の前に火球が5発ほど高速で叩き込まれた。戦乙女が僅かに後退る。しかし戦乙女へと気を取られた。その隙をオレは見逃さない。即座に距離を詰め、魔王の首目掛けて剣を振るう。

 

「ばっ……!」

 

 しかし剣が届くことはなかった。剣が届く前に戦乙女がオレの身体と衝突した。その衝突によって身体のバランスが大きく崩れる。それを見た魔王の口元が緩む。周囲に白い花弁が舞った。そこは完全に魔王の射程だった。

 

「桜ヶ崎流剣術。参の型"桜波"」

 

 見事な一文字斬りだった。視界に捉えると同時に後ろへ跳ねる。まるで剣先が伸びるようだった。右の視界が消える。反射で顔を傾けたが、わずかに遅かった。左目を庇うのが精一杯だった。

 

「邪魔!」

 

 戦乙女の怒鳴り声が響く。怒鳴り声はオレへと向けられたもの。そんな彼女は右手首を斬られていた。なにが起きたか否応でも理解した。オレと戦乙女が同じ場所に踏み込んだ。オレが攻撃を仕掛けようとした場所に戦乙女が突進したのだ。

 オレと戦乙女はワンダーで軽く手合わせした程度。オレは戦乙女の哲学や癖を知らない。戦乙女もオレの事を知らない。だからこそ互いに合わせられない。そこを魔王が突いた。意図的に隙を見せ。オレ達の行動を優先した。全ては魔王の思い描いた図面通り。ここまで計算して盤面を組み立てていた。

 

「……戦乙女」

「うん。私がスペードを落とす」

 

 ここで同時に戦っても総力が落ちる。魔王が相手ではプラスではなくマイナスにしか働かない。戦乙女も即座にオレと同じ結論に至る。彼女もあまりに場馴れしている。だからこそオレと同じ結論に至る。戦乙女は魔王から目を離すことなく、オレの背後へと隠れる。

 

 改めてオレは剣を構える。スキル英雄では失ったものは戻らない。あくまで自然治癒で回復できる程度の傷が治るだけ。手足の欠損や視力の喪失など時間経過で治らないものは治らない。

 

 魔王のスキルは炎で上書きされた。英雄のスキルが消されることはない。しかし魔王の攻略の糸口が見えない。あれは竜とは違い、知性が高い。竜と同等の存在が戦略を組んで動いてくる。その事実をしかと受け止める。それならば――

 

「背中。任せたよっ!」

 

 戦乙女が動き出す。彼女は即座に踏み込み、そのままスペードと距離を詰める。魔王は当然ながら戦乙女の動きを読んでいる。しかし戦乙女は魔王を気にも留めなかった。まるで存在しないものかのように扱う。 

 それはあまりに命取りだ。自殺行為としか言いようのないもの。もし魔王が本気ならば確実に殺されている。

 

 魔王の剣が戦乙女へと伸びる。その剣をオレが防ぐ。戦乙女はオレに全てを委ねた。オレが魔王の一撃を防ぐことまで読んでいた。

 

「し――」

「煌!」

 

 戦乙女の指弾きがスペードへと直撃した。たかが指弾き。そんなデコピンはこの世界において最上位の攻撃力を誇る。色竜のブレスすら弾き、山すら吹き飛ばし、天候すら変えうる一撃。その一撃が城を揺らし、スペードの肉体を遥か彼方へと吹き飛ばした。

 

「次!」

 

 魔王の表情が初めて曇る。戦乙女は自分の役割を的確に把握している。自分がなにをすれば有利に事が運ぶか理解できているのだ。一瞬で四天王のスキル換装システムを見抜いた。四天王を仕留める数秒の時間稼ぎをオレに委ねた。

 

 そんな戦乙女が次に目指すは当然ながら四天王ダイヤこと三の座フレイム。フレイムは即座に剣を抜こうとするが。戦乙女の前では無意味。彼女は剣を抜くことすら許さず、手の甲で叩いて一撃でノックアウト。そのまま頭を掴んで魔王の間合い外まで投げ飛ばす。

 

 一瞬にも満たない戦闘。この戦闘には明確な足切りラインが存在している。そこに満たないものは1つの動作すら許されない。それほどまでにこの戦闘は高レベルなものだ。四天王はその足切りラインを超えることも出来なかった。

 

「伍の型"桜翼"」

 

 ――その一撃がオレの腕を落とした。

 

 気を抜いたわけでもない。純粋に一切の反応が追いつけなかった。見えなかったとかいう次元の話ではない。そもそも見てから動いたのでは遅い次元の戦いだ。この戦いにおいて見えなかったという表現は正しくない。

 

 オレは見切っていた。今の一撃は本来ならば左肩から入り、そのまま右腰骨まで届く一撃だった。まともに受ければ良くて戦闘不能。最悪は死に至る一撃。それを反射で左腕だけに留めた。その選択肢しか許されなかっ――

 

「捌の型"桜殺し"」

 

 剣がオレの肺を貫いた。口から血が零れていく。英雄のスキルを持ってしても魔王には届かなかった。オレは足切りラインで落とされた。オレはこの世界の戦闘に混ざるにはレベルが足りない。そんな現実が叩きつけられるようだった。

 

「いくら自然治癒が上がったとしても、内臓の欠損は無理だと思うよ。あくまで自然治癒でしょ?」

 

 理不尽。理不尽。理不尽。理不尽。

 そんな言葉が頭の中を埋め尽くす。これは人が相手して良い存在ではない。こんな理不尽に勝てるわけがない。自然災害に人が挑むようなもの――否、そんな表現すら生温い。

 

「リアルの友達だからさ。なるべく傷つけないであげたかったけど――ごめんね」

 

 魔王がオレを足蹴にする。その言葉で気づく。彼女は逃げ出す必要などなかった。スキルを取りに行く必要などなかった。あの場でオレ達全員を相手にしても勝てたのだ。わざわざスキルを取った理由はオレを無傷で退かせるため。それ以上の意味などなかった。オレは完全に舐められていた。敵とすら見られていなかった。

 

「まだ……だ……」

 

 辛うじて息ができる。殺し損ねたわけでもない。殺す必要すらないから見逃された。この殺し合いで殺さないという選択肢を選べてしまう。オレは悔しさで歯軋りする。今すぐにでも舐めるなと殴り飛ばしたい。しかし立とうにも全身から力が抜けていく。意識が遠のいていく。

 

「……やっぱりジークじゃ貴方の相手は無理だよね」

「もっと激昂すれば良いのに。人が死にかけてるんだよ?」

「ごめんね。私はそこら辺ドライだから」

 

 戦乙女は驚く素振りすら見せない。まるで予定調和。そうなることが分かっていたような口ぶり。彼女ですらオレを見ていなかった。オレを戦力としてカウントしていなかった。この2人はどこまで規格外なのだ。どれほど高い次元での戦闘を行っているのだ。

 

「私を恨まないでね。何度も彼には退ける機会は与えたし、それでも戦うことを選んだのは彼。これは彼の選択なんだよ」

「はいはい」

 

 あの魔王と戦闘という概念を成立させている戦乙女はおかしい。あの魔王と渡り合えている時点で彼女も大概だ。ここはそういう存在しか立ち入ることが許されない。オレはそっち側にはいけなかった。オレは英雄にはなれなかった

 

「さて、私はこれから貴方を殺すけど、それでも恨まないでね」

「私も恨まれたくないならさ。そっちが降りなよ。魔王モモ」

 

 そこからの戦闘は先ほどとは明らかに圧が別次元だった。認知すら出来ないほどの高速戦闘。そんな光景を見てオレは静かに悔しさを募らせていく。

 

「雷撃一閃!」

 

 上の天井が崩れ、稲妻のような一撃が落ちた。しかし魔王は気にも留めない。まるで来ると分かっていたかのように半歩下がり、稲妻を避けていく

 

「私がお兄ちゃんのことに気づかないと思った?」

「モモ! ここからは俺達が相手だ!」

「そっか。でもお兄ちゃんはレベルが足りないよ」

 

 倒れるオレを置き去りにして、戦闘が激化していく。

 オレなどいなかったように。

 

 ああ。許せない。許してなるものか。このまま終われるか……まだなにも始まっていない。

 

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