デタラメトロノーム~超越者達の異世界改革記~ 作:ギャン吠えチワワ
ルカと軽い調整を終える。今頃はジークがモモと交戦してる頃だろう。はやく行かなければ手遅れになりかねない。
「ありがとね。これで幼女の身体との感覚のズレも少しだけ修正できた」
この短期間でルカの動きや癖を最低限は叩き込んだ。これならば最低限は合わせられる。完璧な連携とまではいかないだろうが、お見合いのような事態は避けられるはずだ。
「カオリ。もう思考を切り替えてください」
「……ああ」
「今回の主役はカオリではなくルカです。恐らく魔王モモはカオリに積極的な攻撃は仕掛けてこない」
癪に障る現実だが受け入れるしかない。俺が戦場に立てるのはモモの気まぐれ。モモがその気ならば俺は既に死んでいる。今の俺では土俵にすら立てていない。
「だからこそ魔王モモではなく、ルカの動きを追いなさい。その上でルカを経験値としなさい。この戦いの中で進化し、食らいつきなさい」
ここでの主役はルカに譲ろう。しかしルカに少しでも隙があるならば。俺はルカを喰らう。まずはモモではなくルカを喰らう。それを意識しろ。自分にそう言い聞かせていく。
「カオリ。サポートは任せたからね」
「ああ」
俺達は武器を構える。最低限の打ち合わせも終えた。作戦も頭に叩き込んだ。あとは実践あるのみだ。そんな中でカミーラが口を開いた。
「少しいいかな?」
「カミーラ。どうしたの?」
「2人で戦うのが前提みたいだけど……メイが加わって治癒をかけ続けるという選択肢はないのかい?」
「それはやめといた方が良いかも」
カミーラの言葉に真っ先に反論したのはルカだ。たしかにメイの治癒を借りるという戦術は強い。その有用性は俺がゲイジュとの交戦で証明している。しかし今回においては治癒は重荷になる。
「治癒は死人を蘇らせるようなものじゃない。それが持ち込まれたら殺すしか勝ち筋がなくなるわけだし……こんな遊びじゃなくて本気の殺し合いになっちゃう」
「なるほど」
口では過激なことを言っているが。今のモモは殺さないように気を遣ってくれている。あくまでモモの善意で死人が出ていないだけ。もしもモモが本気ならばルカは既に死んでいるだろう。治癒を持ち込むということはその善意を踏み躙るということだ。
「殺さないと終わらないとなると……」
「容赦なく殺しを選ぶと思う。治癒すら間に合わないような即死に切り替えるんじゃないかな」
だから今回の戦いでメイの治癒は使えない。その一手はモモのリミッターを壊す一手になりかねない。それが俺達が治癒を戦術に組み込まない理由だ。
「まぁカオリなら殺されることもないだろうし、メイの治癒を借りてもいいかもね」
「……考えておく」
ただルカが戦闘不能となった際は俺とメイの組み合わせになるだろう。今回の動機が俺な以上は、俺を殺して終わらせるというのは本末転倒。俺だけがノーリスクでメイの治癒を行使出来る。だからこそメイを背負いながら常に治癒をかけてもらうような戦い方も視野に入ってくる。
しかし、それは最後の手段だ。
「カミーラはどうする?」
「とりあえず見学とさせてもらうよ。カオリと動きが合わせられる気がしないからね」
「うん。妥当だね」
「ただカオリが戦えなくなるようなことがあれば……その時は乱入させてもらうさ」
「了解。それじゃあいこっか?」
◆ ◆ ◆
ジークの活躍もあって四天王を戦闘不能に持ち込めた。モモのスキルを炎で固定することが出来た。ここまでの戦果としては充分過ぎるもの。
「全知で俯瞰しなきゃその程度?」
ルカが俺の陰で動きを隠し、有利を獲得していく。だけどモモは動じない。ルカの動きが追えないということに焦る素振りすら見せない。しかし戦闘は先ほどと打って変わってルカの方が優勢に進んでいる。このままいけば勝つのはルカだろう。
ルカが俺の後ろから飛び出し、一歩だけ踏み出す。しかし即座に退く。モモを誘うようなフェイントを混ぜた動き。モモはその誘いに乗らずにスルー。その後に振られた一撃を避け、返しの攻撃を叩き込む。
「桜ヶ崎流剣術。壱の型"桜餅"」
白い花弁が舞った一撃。ルカはそれを暴食のハルバードで受け止め。そのまま力で押し返そうとする。それを先に読んだモモが剣を引く。もしも鍔迫り合いになれば幼女の筋力でルカの重さを受け止められない。モモは瞬時にその展開を想定し、自分が不利になる状況を避けたのだ。
どちらも一進一退の攻防。両者共に一度でも読みを外せば致命傷。そんな綱渡りのような戦い。
観察に集中することで今まで見えてこなかったものが見えてくる。ルカの駆け引き、モモの読み。そういったものが今ならば理解できる。無駄に見える動きが全て無駄になっていない。学習と割り切るだけでこうも見える景色が変わるものなのかと感心する。
モモの視線が右に揺れる。その隙をルカは意図的にスルーする。恐らく今のは誘いだったのだろう。それを隙だと思わせ、カウンターを決めるはずだった。誘うために敢えて隙を見せた。ルカはそれを見抜いたからこそ踏み込まない。
ルカが指を曲げる。モモに煌を打ち込む隙を狙う。ただのデコピンですら打つ余裕がない。過去の俺ならばそう見えていただろう。しかし今は違う。モモの立ち回りがあまりに上手い。ルカが指を彈くような動作を取れないように戦闘を運んでいる。
少しでも煌を打つ素振りを見せようものならば。一気に攻撃を仕掛けられる間合いを常に維持している。煌を打つ間は本当に僅かな時間だが、片腕が隙となる。煌はどこまでいこうが指弾きであり、デコピンなのだ。それである以上はモモに向ける必要がある。その向けるまでの間は当然ながら片腕が使えない。
その煌を仕掛ける僅かな時間に攻撃を仕掛けようと狙っている。だからこそルカも迂闊に煌を打つことが出来ない。モモがそれを許さない。しかし裏を返せばモモにとっても煌は避けたい一手ということ。ここまで警戒してることがそれを物語ってる。
「ルカ!」
俺は横に回り込み、ルカに視線を向けていれば死角になるようなポジショニングを奪う。一瞬でもモモの気を逸らせばルカが拾える。俺の役割はルカに煌を打たせることだ。
「しまっ……」
俺からの攻撃を警戒したモモがバックステップで後ろへと下がる。俺とルカの両名が視界に入る位置取り。死角を作らないポジショニングを心掛けた動き。俺達の予想通りの動き。モモは冒険はしない。堅実に積み上げていくような戦い方をする。だから動きを読むことが出来た。その僅かな隙を見逃さない。ルカはその隙に上へと飛ぶ。
「煌!」
ルカの一撃が城に叩き込まれた。煌は山すらも砕く一撃。その一撃は直撃すれば致命傷となるものだ。
放たれた方向は斜め下。城への被害を最低限にしつつ、モモを外に弾き飛ばす一撃。俺達は瓦礫と共に落下しながら、誰も巻き込まれないことを静かに祈る。
「……さてと」
土煙が舞う。近くに立っている人影はルカを除いていない。
地面に着地を決めると同時に周囲を見渡す。これで勝負はついたと思いたい。しかし相手はモモ。こんな簡単に決着がつくだろうか。
「まだ」
「?」
「まだ戦いは終わってない。気を緩めないで」
ルカの表情に笑みはない。警戒を一切緩めていない。近くは瓦礫の山。しかも高さも相当なものだ。この高さから落ちて無傷とは思えない。
「カオリ!」
反射で反応して受け身を取る。その瞬間に空から斬撃が襲った。風の刃が瓦礫を撫でる度に、瓦礫は粉微塵に粉砕されていく。そんな幾万もの風の刃をロストベリーで全て受け流していく。
「はぁ……この程度で私に勝てると思った?」
上を見るとモモがいた。モモは足から炎を噴射させ、見事に浮遊している。
不思議と驚きはない。なぜかモモならば対応してくると確信してる自分がいた。まだ勝負は終わらない。ここまでは準備運動のようなものだ。
「続けよっか?」
再び戦闘が再開される。モモは炎を消し、降り立つと同時に見事な5連撃をルカに叩き込んだ。モモの剣は先ほどよりも勢いを増している。ルカは攻撃を受けることに手一杯。不意を突かれたこともあり、完全に押されている。
「ル……」
「お兄ちゃんは邪魔」
「っ!」
俺の方に視線だけ向けると火球を浮遊させ、俺へとぶつける。その火球が俺の肌を焼き焦がす。致命傷とならないが重い一撃。炎のスキルの厄介さを身に沁みて理解させられる。この炎を攻略しなければモモに近づくことすらままならない。
ルカがモモの顔を目掛けて、蹴りを放つ。その蹴りをモモは読んでいたように避ける。ルカが一瞬だけ無防備になった。蹴りという大きな一手が隙を生み出した。俺でも分かる悪手だ。ルカは勝負を急ぎすぎた。
「お粗末」
モモの剣がルカを斬り裂いた。ルカの腹から赤が零れていく。地面に赤が広がっていく。その一撃を受けてルカが笑った。
違う。悪手をわざと打ったのだ。ルカは戦いに慣れている。何度も死闘を繰り広げている。だからこそ怪物の倒し方を知っている。相手が一番油断する瞬間を知っている。自分の技を通す方法を知っている。
「煌!」
わざと攻撃を受けた。攻撃を受けることでモモが避けれない状況を作り出した。一番無防備になるのは攻撃の直後。一撃を確実に喰らわせるために誘導した一手だった。これは経験値が物を言うような見事な一手だった。不意打ちの一撃をモモは――
「それも含めてお粗末って言ったの」
「――え?」
読み合いを制したのはモモだった。モモは足裏から炎を噴射させ、そのまま上空へと逃げていく。上へと逃げることで煌を避けきった。モモは攻撃を誘われたことまで分かっていた。裏の裏の裏をかいていた。ルカの狙いを読んだ上で踊ったのだ。
「がっ……」
「私のスキル。頭から抜け落ちてたのかな? ただの剣士だと思っちゃった?」
ルカが膝をつく。それに対してモモは無傷。モモは上空から俺達を見下ろしている。ただ無言で俺達に視線を向ける。
戦いの次元が違う。見てるものが違う。手札の数が違う。全てにおいて理不尽。まさしく魔王の名を冠するに相応しい存在。それがモモなのだ。
――俺達はモモを舐めていた。
「博打を打って負け。期待外れだったよ。戦乙女」
「モモ……」
「もう勝負を決したと思うけどさ。まだやるよね」
ルカがやられた。あまりに一瞬の出来事で現実を受け止めきれない。頭が真っ白になっていく。俺はなにをしたらいい。あの理不尽を前にして俺はなにが出来るのだ。考えろ。考えろ。考えろ。
「ま……まだ俺が負けていない」
声を捻り出す。自分を奮い立たせるように。
俺は全てにおいてモモに負けている。せめて心だけは負けてはいけない。心だけは折れてはいけない。心さえ残っていれば勝機は必ずあるはずだ。
「そう。ここで負けたら――諦めてね」
まさしく絶体絶命の状況。追い打ちをかけるように、上空に大きな火球が作られる。まるで太陽が降りてきたと思わざるを得ないほどに大きな火球。
「
そのスケールに思わず息を呑む。その火球が落とされようものならば……全てが終わる。完全なるチェックメイトだ。この火球に対抗する術を俺は持ち合わせていない。これは攻撃の一手ではない。心を折るための一手だ。
「ここで勝負になってるのは私が殺さないように気を遣ってるから。本気なら全員死んでるんだからね」
だけど諦めたくない。ここで退きたくない。俺の夢を終わりにしたくない。負けを認めたくない。英雄という道を諦めたくない。俺はモモを倒したい。憧れを超えたいのだ。
「もう勝負は決したの。お兄ちゃんは負けたんだよ」
その瞬間だった。青の閃光が走り、巨大な火球を一刀両断した。その剣筋により火球は崩れだす。その一撃で絶望が反転する。まだ終わってない。戦ってるのは俺だけじゃない。
「ごめん。遅くなった」
「……カミーラ!」
この絶望的な状況の中で勇者が戦場へと降り立つ。カミーラの存在が……勇者の存在が俺達に希望を見せる。この絶望的な状況の中でカミーラは光となる。たかがモモの一手を防いだだけ。それでも大きな一手だった
「俺もまだ終わってねぇぞ!」
その瞬間に誰かが飛びかかり、モモの体勢を崩す。その人物は背中からは竜のような翼を生やし、全身が真っ黒な硬そうな鱗に覆われた怪人。それこそ言うならば竜と人を掛け合わせたような存在。
「……身体侵食なんて面倒なことしてくれるじゃん。ジーク」
「あれがジークだと!?」
頭の中の疑問を拭う。やられたはずのジークが戻ってきた理由も怪人の理屈も分からない。今は考える必要なんてない。ただ戦力が増えたことだけ認識していればいい。
「僕も出し惜しみはしない。先祖返り」
ジークの周囲に青い蝶が舞い、目が赤く光る。
この場で全員が奥の手を切った。全員がここでモモを仕留めるつもりだ。それなのに俺だけはどこか打算で動いていた。ルカがもっとモモを削ったタイミングで動こう。モモの手札が全て割れたタイミングで動こう。そんな打算が切り札の使用を躊躇させていた。
「……身体侵食」
桜色の稲妻を走らせ、身体を稲妻へと変貌させていく。ここが最終局面だ。全てを出し切ろう。この3人で本気で勝ちに行く!
「自由雷帝!」
モモが俺の方に視線を向ける。初めてモモが俺に警戒の素振りを見せる。その瞬間に俺はロストベリーから手を離す。武器を捨てるという理解不能な行動。モモですら意味を理解するのにコンマ数秒は要する。その僅かな時間が欲しかった。
「迅雷撃墜!」
俺の身体がモモを貫く。その一撃はモモの肉を焼き、痛みで眉を
初めて手応えがあった。俺達の攻撃はモモに通用する。俺達はモモに勝てる!
「来い! ロストベリー・サテライト!」
そのままロストベリーを呼びつける。ロストベリーは俺の行動に呼応するように動き出す。誰の力を借りることなく、浮遊して真っ直ぐに俺の元を目指す。
回収されたロストベリーには機能の1つとして遠隔操作が追加された。それによって俺の指輪を通じ、その脳波で触らずにコントロールすることが可能になるのだ。
「雷撃四閃!」
進化した俺の技をモモに叩きつける。しかしモモには届かない。モモは俺の一撃の軌道を剣で変え、そのまま受け流す。
「空中だから踏み込みが出来てない。そのせいで重さがないね」
だけど俺だけじゃない。俺の攻撃が通じなくても次に繋がっていく。カミーラは既にモモの背後を取っている。完全に死角だ。その一撃は――
「青龍の天!!」
「さすがに遅すぎるんじゃないかな?」
しかし攻撃が続くことはなかった。まるで来るのが分かっていたかのように剣でカミーラの攻撃を受け流していく。この連撃ですらモモには届かなかった。まるで希望を静かに摘むような一手だった。
「そっちも見えてる」
「――ッ!」
「
俺達の攻撃の合間を突くようにジークが攻撃を仕掛ける。それすらもモモには届かない。モモはジークを
「ジークばかりに気を取られてると負けちゃうよ。お兄ちゃん」
もう1匹の蛇が俺を飲み込む。しかし今の俺の身体は稲妻そのものだ。炎で焼けることはない。そのまま蛇の腹をすり抜け、モモへと距離を詰めていく。このカウンターならばモモに届く。俺を生物だと認識した。その隙を――
「……ねぇお兄ちゃん。私は模倣した全知で全て見たんだよ」
腹に激痛が走った。モモの手に握られていたのは玩具のナイフだった。果物すら斬れなさそうなゴム製のナイフ。そのナイフを突き刺すと同時に俺に身体を寄せ、耳元で囁く。
「電気はゴムで攻略できる。そんなのは私達の世界の常識じゃん。対策されてないと思った?」
血を吐き出す。その血がモモの頬を赤色で汚す。モモは俺が
「このくらいならすぐに再生するでしょ。もう一度頑張ってね」
そのまま俺は地面へと落とされる。ジークとカミーラは蛇の相手で手一杯。彼らの剣は何度も蛇を切り裂くが、その度に蛇は再生していく。あの蛇は炎なのだ。その炎を消さない限り動き続ける。剣士である彼らでは相性は最悪だ。
「安心していいよ。何度でも付き合ってあげるから」
俺は空から見下ろすモモを睨みつけることしか出来なかった。俺達が3人がかりでもモモの余裕は崩せない。先ほど見えた希望が消えていく。絶望が全てを塗り潰していく。
「それじゃあ、まずはジークから調理してあげるね」
その言葉と同時に世界が裂かれた。モモの一振りは天地を裂いた。まるで神話で語られるような攻撃だった。神が放つ一撃。世界を終わらせる終焉の一撃。
モモが本気で……殺意を込めて放った一撃がジークに襲いかかる。
「全員さ――魔王を舐め過ぎ」
モモの言葉が胸の奥に眠っていた油断を冷たい刃のように貫く。
思えば俺たちは皆、現実の牙から目を逸らしていた。どこかで甘い夢の続きを信じていた。魔王は倒せるという
モモの言葉は夢を終わらせる宣告だった。
俺達の持つ技も戦術も――全てが魔王に届くことがなかった。