デタラメトロノーム~超越者達の異世界改革記~ 作:ギャン吠えチワワ
「唐突ですが貴方の育った国。日本は素晴らしい国ですね」
その発言は本当に唐突だった。俺はメイの真意が分からなかった。メイがなにを伝えたいのか理解できなかった。どうしてこの場で日本という単語が出てくるのか意味が分からない。メイの空気を読まない発言にルイス姉以外の全員が困惑した。
「は?」
モモは日本を評価していない。それこそ昔に裁判が公正に機能してないクソみたいな国だと語り、属性によって決められるクソみたいな国だと力説していた。メイの発言はそんなモモの神経を逆撫でするには充分過ぎるものだ。メイはモモの地雷を踏み抜いたのだ。
しかしメイは観察眼に優れた人物だ。意図的に地雷を踏みにいったのだ。この場で唐突に日本の話をした。それは恐らくモモの地雷を踏みたかったからなのだ。そうでなければあまりに説明がつかない。
「日本では人が飢え死ぬことがないそうですね。病気にかかろうが病院に行けば治療を受けることが出来ると聞いています」
「なんの話がしたいわけ?」
「そんな当たり前を当たり前にする。それはとても困難なことであり、それが出来ているというだけで称賛に値すると思いませんか?」
「……どこが良い国なわけ。生まれた属性で人生の難易度が変わる。受け取れる幸福が変わる。それを良しとするわけ?」
モモが苛立ちながらメイに反論する。メイは慌てることもなく冷静に言葉で返していく。モモを追い詰めんとばかりに。
その光景を見ていてヒヤヒヤする。ようやく落ち着いたモモが再び暴走するのではないか。そんな緊張感が場を支配していく。
「そこだけを見て、全てが悪いと否定するのは間違っている。1つが駄目だから全てが駄目なんてことはありえません」
「――っ!」
「どんな意見を述べようが口封じに殺されることもない。異端だと排斥されることもない。私達のような異端審問を行わずに秩序と平和を維持できる。その凄さが分からないほど貴方も愚かではないでしょう」
まるで意趣返し。。異端審問を悪だと言ったモモ。それにも関わらず異端審問をしない日本を評価しないのはいかがなものか。異端審問を悪と置いてしまったからこそ日本を評価しなければ筋が通らない。メイは遠回しにそう言っているようだった。
「1つの汚点だけで全体を見た気になった。だからこそ貴方も1つの汚点しかみられなかった。それは当然の帰結でしょう?」
ただの正論でモモを上から押さえつける。たしかにメイの理屈は正しいだろう。自分が1つの汚点で評価したのだから、1つの汚点で評価されるのは因果応報。その理屈は正しいものだろう。しかし正しいだけだ。
メイはモモのこれまで見てきた世界を否定する。その言葉を受けてモモは力強くメイを睨みつける。メイの言動は正論だからこそ返す言葉がない。感情でしか反論の出来ない言葉。だからこそモモは睨むことしかできなかった。
「……改めて未来の話をしましょうか。貴方はどう変わりますか? 今のままで評価されるだなんて思わないでくださいね」
「うるさいうるさいうるさい!」
「きちんと納得のいく論理で返してくださいよ。お子様」
* * *
異世界に来た時。そこは吹雪が吹き荒れる雪原だった。
最初に感じたのは寒さだった。寝間着の状態でいきなり飛ばされた。薄着で耐えられるような寒さではなかった。
偶然、近くには大勢の野盗がいた。野盗は私を見るなり襲い掛かってきた。私は反射的に手刀でその1人の首を斬って殺した。温かい返り血が寒さを和らげていく。そのまま奪った剣で全員を皆殺しにした。
その野盗は人間とは大きく違う容姿だった。蝙蝠のような羽や狼のような爪に蛇の目。多種多様な姿をしていた。そんな彼らを見て、私はここが異世界なのだと察した。
「よっわ……」
言葉が漏れた。初めての
私は寒さから逃れるべく身ぐるみを剥いだ。彼らの服を着て雪原を歩いていく。雪原に終わりはなかった。いくら歩いても人里が見えることはない。心に影が落ちていく。どうして私がこんな目に遭わないといけないのか。私はなにか悪いことをしたのだろうか。なんで。なんで。なんで。
そんな私を保護してくれたのがベックだった。
ベックは差別撤廃の夢を語った。なんの目的もなかった私はそれを受け入れた。それを当面の目的とした。目的がないと私自身が生きる意味を失いそうだったから。
その目的を成し遂げるまでに楽しいことがなにか1つくらいあるはず。だから我慢しよう。私は興味のない夢を生きる理由にした。
魔王になるまでに全て斬った。邪魔をする者、気に食わない者……そういった障壁を有無を言わせることなく斬った。殺さないギリギリを攻めて斬った。生かすことで恐怖を植え付けた。その恐怖は伝播して私は魔王となった。群衆の恐怖が私を魔王にした。
いつからか正しさに拘るようになった。その拘りは鎖になった。正しく在らねばならないという呪いになった。自分が自分を査定していく。私は魔王だ。魔族を支える魔王だ。誰よりも正しくなければならない。正しくなければ足元が掬われる。間違ってはいけない。
まだ頑張ろう。まだ続けられる。もう少し頑張れば良いこともあるはずだ。もうちょっとだけ頑張ろう。せめて魔族の差別根絶までは頑張ろう。死ぬのはいつでも出来る。全て終わってから首を吊っても遅くない。そこまで頑張ってなにもなければ全て終わりにしよう。途中で投げ出すのは正しくない。正しくないことはしてはいけない。
私の積み上げてきた正しさがメイによって崩される。メイの言葉はどれも正しい言葉だ。正しい理屈で私を否定する。私が間違っていたと判を押す。だからこそ受け入れられない。
認めることが正しい。それなのに認められない。私は『うるさい』という子どもの言葉でしか返せない。論理が組み立てられない。
彼女の言葉が私の心を抉る。私の心を見透かした上で私が一番直視したくない部分を的確に抉ってくる。
「なら! 教えてよ! どうすれば良かったのか!」
感情のまま言葉が漏れる。
もうみんな死ねばいい。私の思い通りにならない世界なんて滅べばいい。こんな間違った世界なんて終わっちゃえばいい! そんな強い感情があふれ出す。
そんな自分が嫌だ。正しくない自分が嫌だ。間違ってる自分が嫌だ。
「嫌ならば嫌と言ってしまえば良かった。気に食わないならば気に食わないで良いでしょう」
「そんな身勝手なこと出来るわけない!」
「身勝手でいいでしょう。そこにいる聖女ルイスもリアルも相当身勝手ですし……魔族も勝手に貴方を魔王として期待する。身勝手で正しくない存在だと思いますよ」
それは言い訳だ。正しくない人がいるから自分も正しくない道を選んでいい理由にはならない。そんなのは絶対に間違ってる。
「世間の論理にわざわざ付き合ってあげる義務もないでしょう。責任を果たす理由もない。重いならば全て捨ててしまえばいい」
「だけど……!」
「正しさ。それは他人を納得させるためには必要なものです。しかし貴方は他者に依存しなければならないほど弱いのですか?」
メイの言葉に私は立ち尽くすことしか出来なかった。正しさの意味。そんなことは考えたことがなかった。私はただ盲目的に正しくなければならないと思った。その意味も考えたことがなかった。
「たしかに人は正しくあるべきです。正しい人には多くの人が集まり、大きな力となります。間違った道を歩む人に人はついてきません」
間違った人は必ず孤立する。1人の力には限界がある。だからこそ人は正しくなければならない。自分のエゴだけで全てを決めてしまうような存在に未来はない。待っているのは破滅だけで……
「しかしモモ……貴方は人の力を借りるほど弱い存在ではないでしょう。なにを怖がってるのですか?」
「え?」
「大勢が集まろうが天才には敵わない。貴方や聖女ルイスの足元にも及ばない。貴方には正しさに付き合うメリットがない。貴方は1人で世界を変えられてしまう人物です」
「だけど……」
「貴方はきっと独善で生きても破滅しないでしょう。有象無象が束になったとしても貴方には敵いませんから」
それは間違った理屈だ。絶対に正しくない。悪魔の囁きだ。だけど論理的におかしくない。論理で考えれば正しいことだ。
頭が混乱する。なにが正しいのか分からなくなる。自分の正しさが崩れていく。正しさという神が解体されていく。
「私は先ほど貴方に論理的な説明を求めました」
私はそれになにも返せなかった。ただ癇癪のように喚くことしか出来なかった。
「しかし貴方は"うるさい"で終わらせた。それは在り方として正しいと思います。1人でなんでも出来てしまうのだから他人のご機嫌取りなどする理由がなかった。正しい理屈なんていうものは不要ですよ」
しかし目の前の存在は間違った私を肯定した。論理で間違っていないと言い切ったのだ。
「桜ヶ崎モモ。貴方のような生物が人の論理に付き合うのは正しくありません。貴方のような怪物が人の生き方をしようとしたのが間違いだったのですよ」
その言葉で全てが腑に落ちた。全てに納得した。
私は正しくなかった。正しくなかったから苦しかったんだ。
「……それと私達はまだ貴方の口から聞くべき言葉を聞いていません」
一瞬だけメイの言葉の意図が分からなかった。私はその言葉に首を傾げる。
「助けてと言いなさい」
「え?」
「貴方は子どもです。周りを頼っていいのです。私達がどうにかします」
言葉に縋る。今まで押し殺してきた感情をぶつける。まるで神様に救いを求めるように手を伸ばしていく。
「助けて……未来が今よりも良くなるって……楽しくなるって希望を見せて!」
「もちろんです。任せてください」
* * *
メイとモモの会話は無事に決着した。モモからは憑き物が取れたようだった。俺達の戦いは無事に決着したのだ。
「モモ。そういえば未来の話をしていませんでしたね」
「未来の話ってなにをするわけ……」
「これからどうするつもりなのか。そういうことを聞きたいと思います」
「なるほどね。とりあえず私は魔王は降りて大人しく罪人として幽閉されるつもりだよ」
モモは罪を犯した。これほどのことをしたのだからお咎め無しというわけにはいかない。どんな理由があろうが罪は罪。理屈では納得してるが感情として……もう少し違う決着があるのではないかと思ってしまう。
「ねぇお姉ちゃん。フルダイブ型VRってどんな感じ? 私ってどういう処遇になるわけ?」
「基本的には好きにして構わへんよ。ログアウト機能の制限はするつもりやけど、それ以外はなんもせえへん。ファンタジー系のMMORPGでもレーシングゲーム、スローライフ系でも好きな世界で過ごしてくれてええよ」
前言撤回。現実のことを気にせず仮想現実で好き勝手に生きる。それはもはや罰ではなくバカンスである。これでは罰の形を被っていて罰にならない。もっとも処罰感情があるわけでもないし、なんの問題もないのかもしれないが。
「なにか事件が起きても干渉が出来ないこと以外は現実と大差ないって認識でええよ」
「なるほど。政治が荒れても私は口出しすら出来ないってことね」
なにか起きようが見ていることしか出来ない。それがモモに課せられた罰なのだろう。もっとも俺自身はモモに恨みがあるわけでもないし、憎悪を抱いてるわけではない。好きにしてくれという感じだ。
「それで魔王の引継ぎはどうします?」
「私はやらないからね。そこまでやる義理もないし」
「正しくないでしょう。それは」
「なんで私が人の決めた正しさに縛られないといけないわけ? それに付き合う理由もなくない?」
先ほどのモモからは考えられないくらい身勝手な発言だった。その発言にメイは少しだけ頬を緩める。まるでその言葉を期待していたと言わんばかりに。
「私は怪物だよ。怪物がそういうことを気にするのは怪物として間違ってると思わない?」
今のモモからはメイへの敵意が消えていた。かなり苛烈で厳しい言葉だったが、結果を見れば大きな問題とはならなかった。むしろモモにとって救いとなっていた。恐らくメイでなければモモを助けられなかっただろう。
「しかしモモが抜けた魔族は大変だな」
「因果応報やろ。8歳の子供に全て押し付けるという正しくないことをしたんやから、罰が当たるのは当然や」
そこに関しては俺もルイス姉と同意見。そもそもモモは魔王として振る舞う義務もなければ理由もなかった。あくまで善意で手を貸していただけだ。その善意を辞めたから文句が出るとしたら筋違いもいいところだろう。
「ところでルイス。モモの監禁って必要なの?」
「当たり前やろ。今の状態を考えるなら一度政治の場から離れさせたい。モモが自由やと誰かがモモに頼るし、モモはそれを断れへん」
「さすがに断るよ。私をなんだと思ってるわけ?」
「絶対に引き受けるで。断る理由がないものを突っ跳ねられるほど
そこはたしかに一理あるだろう。それこそモモにとって大体のことは近くの飲み物を取ってあげる程度の労力で問題が解決出来てしまう。頼られて手を貸さないというのは意地悪で飲み物を取ってあげないというのと同じくらいの話なのだ。
もちろん数人の問題を解決するくらいならばいい。しかし一度手を貸してしまえば再びモモを頼るようになる。モモも1人に手を貸して別の人を理由もなく断るという行為に抵抗を覚える。だからこそ手を貸してしまう。その結果として今と同じようなことになりかねないのだ。
少なくともメンタルが回復するまでは隔離すべきというのは納得のいく話だ。
「これで問題も一段落ですね」
一時はどうなると思ったが蓋を開けてみれば見事なまでのハッピーエンド。誰も死ぬことはなく、メイとモモの関係も改善された。その上でモモの抱えていた問題も解決された。
この事件がなければモモの問題が表面化することなく、もっと最悪なタイミングで暴発していたかもしれない。この上ない理想的な幕引き。地雷が大事になる前に処理できたと思えば良い事件だ。なにせ死人も出ていないわけだし、後に残るようなことにもならなかったのだから。
「あ、でも1つだけ私の立場は表明しておくね」
「なんですか?」
そんな良い空気の中でモモが思い出したかのように言った。
「私はメイに関係なくヤミ国を支持しないから」
俺は少しだけ驚く。今のモモは既に魔王から退位することが決まっている身。今のモモがなにを思おうが政治に影響を及ぼすことはない。これは意味のない発言だ。
しかし問題が全て解決した現在でもヤミ国を支持しない。正しさに固執しなくなったモモでも出す結論が変わらない。それは少しだけ意外だった。
「それはどうしてですか?」
「異端審問という形で理不尽を強いる在り方は認められない。最初から全てを取りにいかない姿勢が気に入らない。お兄ちゃんとは関係なくヤミ国は支持しないよ」
「異端審問抜きでも秩序を維持できる。それは理想論だと思いますよ。理想だけで国家は成り立ちません」
「そんなのわかってるよ。だけど私は最初から現実に折れるような国は認めたくない。困難から目を背け、理想から逃げる国を認めない。最後まで理想に少しでも近づこうと足掻いてほしいの」
ヤミ国の異端審問は国家秩序のためにある。ボウショク教はその異質さ故に排斥される立場だった。だからこそ自衛のために異端審問が生まれた。自分達の主張を通し、誰かに染められないために生まれたのがヤミ国の異端審問。
ここは異世界だ。地球とは文化も価値観も違う。異端審問という犠牲を使わずとも法で縛ればいい……というような話ではない。宗教は法を超える。どんなに強い法でも神の名の下にという大義名分で簡単に破られる。だからこそ異端審問が生まれた。自分達の神が間違っているという意識を植え付けるための異端審問だ。
国を維持するためには他教徒の神の権威を落とすのが必要不可欠だった。それこそ異端審問抜きで……他の宗教と共存するなど理想論なのだ。
「まぁもっとも今の私はただの民間人。意味のない戯言だし、真に受けなくてもいいよ」
メイはそんなモモに溜息をつく。モモの意見に思うことはあるのだろうが、所詮は戯言。わざわざ説得する必要もない。そのような態度だった。モモもそれを分かってるからこそ言ったのだろう。魔王としての言葉ではなく自分の意見として言ったのだ。そこに評価も改善も求めていないだろう。
「モモ。貴方に私の理想を話しましょう」
「?」
そんなモモにメイは話を聞かせる。それは俺も初めて聞くメイの本音。メイの目指す世界の話だった。
「私は神のいない世界を望みます」
「……は?」
「貴方が非難する異端審問。それは神を否定するための儀式に過ぎません。お前達の縋る神は誰も助けない。神はなにもしない。神を信仰することが悪である。それらを根付かせるものが異端審問。私は何千もの屍を積もうが神を否定する。神を殺す」
「……正気? なんのためにそれを望むわけ?」
「神が嫌いだから」
「……」
「顔どころか存在すら曖昧なものが勝手にあれが正しいとかあれが悪いとか定義する。そんなの不愉快ではありませんか? 私はそれが当然のようにまかり通ることが許せない」
その壮大な夢に思わず息を呑んだ。メイはモモの意見を理想論と言った。しかしメイの意見はそれ以上に荒唐無稽だ。全ての神を殺す。あまりに派手で夢物語。心の何処かで出来るわけがないと思ってしまうほどの規模の話だった。
「……興味として聞くけど否定した先になにがあるわけ?」
「人が自分の正義を貫ける時代です。私は正義を神のものではなく、人のものとしたいのです」
「貴方も大概理想論者じゃん」
「理想を持たないというのは目的地もなく荒野を彷徨うようなもの。理想は必要ですから」
「そうだね」
「しかし私は貴方とは違う。目的地に辿り着くだけでいい。そこまでの道中を完璧にしようとは思わない。だからこそ犠牲を少なくして神を殺すという道は選びませんし、そこに魅力を覚えることもない。貴方のような理想論に乗ることはありません」
それがメイの異端審問への答えだった。メイは異端審問の無い世界を理想と思っていない。だからこそ被害を少なくしようという発想がない。そこに忌避感というものが存在していないのだ。
「……ただね。理想論だから不可能というのは違うよ。誰も殺さないで神殺しを行う。そんな夢物語は本当に出来るんだよ」
「戯言ですか?」
「お姉ちゃんの国――アガルタをその目で見てきなよ。理想論は現実に出来るんだよ」
それは見え透いた挑発で大きな置き土産だった。それが出来ないのはメイの能力不足という挑発とルイス姉を舐めてはいけないという警告。そんな含みを感じさせる言葉だった。
「さてと。私は疲れたしさ。仕事はもうここまで」
「そうですか」
「正直言ってお姉ちゃんとヤミ国の戦争に巻き込まれるのは御免だしね。これから起こる戦争は私抜きでやってね」
その言葉に耳を疑う。モモはルイス姉と……聖女ルイスとヤミ国が戦争になると言った。まるで確定した事実のように語った。俺はルイス姉の方を見るが、ルイス姉ですらなにを言ってるのか分からないという顔をしていた。
「……貴方。なにが見えているのですか?」
「内緒。でもメイはお姉ちゃんの描く世界を……アガルタの在り方を絶対に認められない。だから戦争は避けられないと思うよ」
「……」
「せいぜい頑張ってね。メイ
そこでメイとモモの話は終わった。魔王との戦いは完全に決着した。
魔王城に着くと同時にモモは私室へと戻っていった。まるで私はもう関係ないと言わんばかりに。広間に残された俺達の中で重い空気が流れる。
「……これでモモは魔王から退位」
「ああ。魔族のトップがいないってことだね」
もちろんモモが魔王を辞めたことに文句があるわけでもない。しかし政治的には目を背けられない部分なのだ。
「俺が魔王になればいいだけだろ。それで穴埋めだ」
これで俺が魔王にならない理由がなくなった。俺は一国の王となった。その事実に少しだけ緊張を覚える。だけどようやくここまで来れた。
ただの勇者のオマケから始まった異世界転移。ヤミ国の異端審問官になり、魔王の座まで登り詰めた。これで俺もようやくルイス姉やメイと対等になれた。
そんな中でルカがゆっくりと手を挙げて、静かに口を開く。
俺はその言葉に耳を疑った。その言葉は俺にとって信じられないものだった。
「ごめん。魔王なんだけどカオリじゃなくて私がなってもいいかな?」
「――は?」