悪女は"正解"を咀嚼する   作:ギャン吠えチワワ

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2話 戦争が始まる

 異世界に来て、既に数週間が経とうとしていた。俺はルカ副団長から色々なことを教わりつつ、国内情勢について軽く学びながらの日々を過ごしていた。それはニートしていた身としては辛くもあったが、同時に楽しい日々でもあった。少しでも自分が前に進んでいるという実感できることが嬉しいのだ。

 

「そろそろ慣れてきたと思うし、本格的に仕事してもらおうと思うんだよね」

「はい。わかりました」

 

 この国の騎士団は俗に言う軍隊である。そんな騎士団も2つの派閥に分かれている。民のために真面目に仕事をしようとするルカ副団長の派閥、権威を振りかざすクヤーク団長の派閥だ。彼女はクヤーク団長の下であり、逆らうことは出来ない。しかし実際は政治的にはバチバチだ。それこそ従っているのは表面上だけで、密かに失脚を狙っているのが彼女。

 当然ながら騎士団内部でもクヤーク団長を快く思っていない層は多く、ルカ副団長に手を貸して失脚の手助けをしている層もいる。それがルカ副団長の派閥である。そして俺も当然ながらルカ派である。

 

「アプラ村付近で盗賊が最近出没してるみたいだからさ。調査してきてほしいんだよね。もちろん捕縛でいいよ。さすがに殺しは荷が重いでしょ?」

 

 しかし当然ながら政治にばかりかまけてはいられない。俺達の目的はクヤーク団長を失脚させ、騎士団を機能させることにある。

 それなのに仕事をそっちのけで政治をするのは本末転倒だ。そんなのでは人はついてこない。だからこそこういう仕事も地道に積み重ねていかなければならないのだ。

 

「本来は私が行きたいところなんだけど……最近はヤミ国の動きが不穏だから私は動けないんだよね。なにせクヤーク団長は使い物にならないし」

「他の人は動かせないのですか?」

「そろそろカオリ君にも実務にあたってもらおうかなぁって思ってね。これなら簡単すぎず、難しすぎないでしょ」

「初任務が単独任務ですか」

「カオリ君ならいけるいける。頑張れー」

 

 俺は騎士団に入り、今まで訓練の日々だった。そんな俺にも遂に仕事が与えられた。しかしいきなり新人一人に仕事を任せるなどブラックもいいところだ。普通ならば上官の補佐をさせたりするものだろう。だが文句を言えば俺の身が危ない。もちろんこんな無茶を押し付けるルカ副団長に悪態の1つもつきたくなる。しかし従うしかない。俺の立場が拒否することを許さないだろう。

 

「……わかりました」

 

 ただ不思議と緊張はしていなかったし、不安もあまり感じていなかった。俺にあるのは焦りだった。

 このグループ国はヤミ国と戦争中だ。既にグループ国は王都近辺を除く大半の土地を奪われた。つまり次のヤミ国の侵攻を止められなければ敗北が確定する。

 今の状況でヤミ国が仕掛けてこないのは気まぐれに過ぎない。この数週間で色々と学んだが、ヤミ国が仕掛けない理由がないのだ。だからこそ猶予はない。もしクヤーク団長を失脚させられずに戦争になれば勝ち目はない。そんな一刻の猶予も許さない中での仕事。こんなことをやってる場合ではないだろうという焦りの感情だけが強くなる。

 

「どうしたの?」

「戦争が迫ってるのに、こんな悠長なことしてていいんですか?」

「あんまりよくないけど、やらないわけにはいかないからね。意外と詰んでるよね」

「ですが……」

「それにこんな無茶をカオリ君にさせてるのは育てる意味合いもあるんだよ。普通に新人育成させてたら間に合わないからね」

 

 ルカが軽く笑いながら言う。ヤミ国はボウショク教という宗教を国全体で信仰する大規模な宗教国家であり、他の国々を全て異端だとして焼き払っている。

 事実としてヤミ国は数年で既に人間領にあるグループ国を除く7()()()を全て落としている。もしこのグループ国が落とされればヤミ国は人間領統一を実現してしまうような状況だ。その現状を省みると恐らく話し合いの余地はない。それこそ降伏でもしない限りは戦争を止められない。

 

「この戦争。どっちが先にしかけたんですかね?」

「先に手を出したのはヤミ国だけど、煽ったのはグループ国って感じだね」

「煽った?」

「国内でヤミ国のボウショク教が流行って、王族はその影響力を考慮して禁止したんだよ。そしたらヤミ国の逆鱗(げきりん)に触れちゃったわけ」

「……そういうことですか」

「まぁ終わった話だし考えても仕方ないよ。とりあえず今はお仕事に集中だよ」

 

 俺はルカ副団長の部屋を後にして外行きの準備をする。どこにでもある木刀を背負い、革の鎧を着て馬に乗って現場を目指した。

 

 

「騎士団の者です。ここらで盗賊が出たと聞きつけ、調査に参りました」

 

 アプラ村。そこはあまりに質素な村だった。畑の作物は今にも枯れそうであり、昼間だというのに子供の笑い声すら響いていない。それこそ村に活気がなく、既に死んでいるという表現がしっくりくるほどだ。

 このような現実を理解していたつもりだった。だが実際に(よど)んだ空気の村を見て、憤りを覚える。戦争を知らないという現実を突きつけられるようだった。

 

「ああ。あんたが……」

「お話。聞かせてもらえますか?」

 

 村人達は全員がやせ細っている。それだけでこの国の現状を察するには余りあるものだった。王都から早馬(はやうま)で半日程度の距離の村が貧困というのは明らかな異常事態だ。しかし、その異常事態が起こってしまっているのが現実。今のグループ国はそれほどまでに追い詰められている。それこそ既にチェックメイトの一歩手前。もうここまで追い詰められてしまっては間違いなく逆転など出来ない。それを知識ではなく体験で理解する。

 

「別にいいよ。どうせこの国は終わるんだろ」

「そんなこと……」

「なぁなんでこの国はヤミ国にさっさと降伏しないんだい?」

「……」

「降伏した国の人たちはとても良い生活をしてると聞いてるよ」

 

 騎士団への当たりは強い。国民には現在のグループ国に反発を抱いてる人が多い。それどころか裕福なヤミ国と比較し、声にこそ出さないもののこんな生活が続くくらいならばヤミ国に国を明け渡した方がマシと考える人も少なくない。

 ヤミ国は過激であり、グループ国にとって脅威なのは事実。しかし同時にヤミ国の支配を望む国民の方が過半数を占めている。それこそいつクーデターが起きてもおかしくないほどに国民に不信感と不満が溜まっている。

 

「すみません」

「あんたに言っても仕方のないことだっていうのはわかってる。だけど私達も限界なんだよ」

 

 俺もこの人たちと気持ちは同じだ。この国は大嫌いだ。今すぐにでも武器を持ち、内乱を起こして王城に攻撃を仕掛けたい。しかしそれは出来ない。そんなことをしてもルカ副団長は喜ばない。だから俺は武器を取れない。

 

「俺はこの国に勇者として召喚されました」

「……なんだい?」

「この国に呼ばれるまでは日本という国で戦いも知らずに暮らしていました」

「それがいったい……」

「いきなり右も左も分からない場所に拉致されて、戦えと言われた。それが俺です」

 

 おばさんは押し黙る。俺は数週間前にいずれ現れるであろう魔王を倒せという名目で勇者として召喚された異世界人だ。呼ばれた勇者は俺含めて5人。1人は勇者の肩書きを貰い、王様のお抱えとなった。他の3人はどうなったのか不明。俺はルカ副団長の気まぐれで拾われ、騎士団に配属された。ただそれだけで戦う覚悟もなければ、忠誠心も持ち合わせていない。それどころか誇りすら欠けている。そんな俺は村人達には無理やり戦わされてるように見えるだろう。そんな俺の声だからこそ彼らは多少なりとも耳を傾けてくる。

 

「こっちに来てもらえるかい」

「はい」

 

 案内されたのは少し大きめの家だった。そこは鼻を突くような酸っぱい匂いが充満しており、乱雑に敷かれた藁の上に包帯が巻かれた中年の男達が寝かされていた。これは俺が想像した以上に最悪な状況だ。

 

「村のために盗賊と戦ってくれた若い男達さ」

 

 横たわる中年の額に軽く触れると、熱があった。恐らく傷口から雑菌が入ったせいで発熱したのだろう。俺はすぐに換気するよう指示を出し、携帯している応急処置セットを使って手当てしておく。この状況では盗賊なんていうのは可愛いもんだ。この場合は感染症の方が怖い。あとでルカ副団長に報告して、判断を仰いだ方が良いだろう。

 

「村を襲った盗賊は5人。なんとか退けたけど……」

「俺に任せてください」

「あんた……武器は?」

「この木刀だけで充分です」

「冗談だろ?」

「大丈夫です。俺は騎士ですから」

 

 きちんとした剣だと殺してしまう。だから俺は木刀を握っている。ルカ副団長は調査した上で俺だけで対応出来そうならば捕縛と俺に言ったはずだ。それはこの程度では俺は死なないとお墨付きをもらってるということだ。

 もしも俺が死ぬような危険があるなら彼女が木刀での出陣など認めない。少なくともそう考えるくらいには俺はルカ副団長を信用している。だから過剰に緊張することはない。それに稽古での同僚の兵士との模擬試合でも今のところは負けなしだ。俺なら勝てるはずだ。

 

 俺は盗賊が来るまで村に滞在する。盗賊は確実に仕掛けてくるだろう。今回の襲撃は村人達の抵抗で失敗に終わっている。盗賊達の目的が略奪ならば、まだ目的を成し遂げていない。そんな状態で退くとは思えなかった。

 

「敵襲! 敵襲!」

 

 深夜。村人の声が響いた。俺は木刀を手に持ち、駆け足で外に出る。周囲は月が軽く照らすだけであり、満足に盗賊の顔すら見えないほどに暗い。だけど大きな問題はない。

 

「止まれ。投降するなら手荒な真似はしない」

「なんだてめぇ?」

「俺は騎士団所属のカオリだ」

「騎士様が1人でよぉ! なにが出来るっていうんだよぉ!」

 

 現れた盗賊は聞いていた通り5人くらいだった。少なくとも俺の見える範囲には5人だ。俺は伏兵の可能性を考慮しつつも、静かに木刀を構える。

 

「木刀とか舐めとんのかぁ!」

「スキル。身体能力強化」

 

 盗賊の1人が踏み込む。それと同時に()()()()()()のスキルを発動させる。

 スキルがあれば火を起こしたり、動物と話したりと普通の人間が出来ないことが出来るようになる。当然ながらスキルは全員があるわけではない。運の良い極僅(ごくわず)かな人間だけが与えられる神様からの祝福(ギフト)だ。幸いにも俺達勇者には召喚された際にスキルが1つずつ与えられた。

 

 俺に与えられたのは身体能力強化。効果は文字通り単純なものだ。自分の身体能力を強化するだけの平凡なスキル。

 そのスキルを発動させる。それと同時に全身に軽く電気が流されたような痺れが走った後に俺の身体能力は跳ね上がる。

 

 剣を振りかざし、胴ががら空きになった盗賊の腹に木刀を叩き込む。身体能力のおかげで盗賊の動きが止まってみえる。力強い一撃は痛みで盗賊の意識を奪い、それに怯んだ隙に残ったやつらにも全て木刀を叩き込む。

 

「おっと」

 

 残りを制圧すると同時に俺の横を矢が(かす)った。やはり伏兵がいたか。弓矢は考慮していたが警戒はしていなかった。もっと言うならば警戒する必要もなかった。

 こんな夜間で弓など相当な天才でもなければ当たらないし、そんな天才ならば盗賊なんてしていないことを知っている。だから恐れるに値しない。俺は矢の方角から位置を特定し、先ほどと同じように木刀を叩きつけて無力化させた。

 

「これで終わりだな」

 

 そうして俺は初任務を終えた。

 

 

 仕事を終えると同時に王都に戻る。そして王都に戻ると同時にルカ副団長に提出する報告書を明け方までに書き上げ、そのまま提出した。

 ここまで一睡もしていないが、まぁ軍なんてこんなものだろうと最初から諦めているため思うところはない。

 

「うーん。感染症のことは揉み消した方が良いかもね」

「やっぱりそうなりますか」

 

 ルカ副団長は俺が書き上げた報告書を見て、ぽつりと言葉を漏らす。

 その言葉に驚きはない。今の国に感染症の対応をする余裕がないことは分かっている。もし事実そのままに報告すればどうなるか。

 恐らく感染症対策として村人と共に村を焼くだろう。少なくとも俺ならばそうする。もっとも感染症かどうかも定かではないし、人に移るものかどうかも分からない。しかし調べる時間も予算もない。だから燃やすのだ。

 それを理解してるからこそルカ副団長は揉み消すという道を選んだ。

 

「ほんとに賢いねぇ。それだけで私の意図が分かるんだ」

「俺の話はいいでしょう」

「でもなんで正直に報告したの? そういう想像が出来るなら見なかったことにしてもよかったのに」

「俺は末端です。そういう決定はルカ副団長がすべきことでしょう」

「ふーん。私が焼き討ちを選んだら従うの?」

「ノーコメントでお願いします。どう答えても角が立つじゃないですか」

「……本当に賢いね」

 

 もちろん思うところはある。だがこういう状況になってしまった以上は仕方ない選択だとも割り切れる。世の中なんていうのは綺麗事だけじゃ回らないのだ。特に現代社会ほど文明が発展していないこの世界ならなおのこと。この程度のことで騒いで問題を起こしていたら命などいくらあっても足りない。

 

「俺の仕事はルカ副団長の力になること。今の俺は貴方の駒ですから私情は持ち込みません」

「それは扱いやすくていいや。期待してるね」

 

 これには打算もあった。今の俺はルカ副団長に生かされてるという状況。もし彼女の不興を買えば行き場を失う。だからこそ彼女が信用出来る駒でなければならない。彼女の気まぐれで保証されてる立場だからこそ、()びなければならないのだ。

 

「それで初任務はどうだった?」

「想像していたより重かったですね」

「あんまり難しい仕事じゃなかったと思うけどね」

 

 仕事の内容が重いわけじゃない。

 今回捕縛した奴らが盗賊をしていた理由は兵役から逃れるためというありふれたものだった。兵役から逃げるために夜逃げしたのは良いが食うものに困って盗賊に落ちるというよくある話。そういう現実を見せられることが重かった。

 

「ルカ副団長はどうしてこの国のために戦うんですか?」

 

 俺はルカ副団長に疑問を投げかける。この国をクソだと思ってる。それこそルカ副団長ほど戦える人ならば逃げ出せばいいのにと思うほどに。しかしルカ副団長はここにいる。クヤーク団長に好き勝手に体を弄ばれようとも国のために戦っている。それが本気で理解できない。そこだけが腑に落ちていないところだ。

 

「それが仕事だからだよ。与えられた仕事を途中で投げたら怒られちゃうし」

 

 しかし満足のいく答えは返ってこない。俺は未だに彼女の真意が分からない。だがそこだけははっきりしてほしい。恐らくそこは俺が戦う時にノイズとなってしまうから。

 

「死んだらそれまでじゃないですか」

 

 彼女がどこまで本気かわからない。ただ俺は我慢ならないのだ。こんな国のために戦う。この国に来てからは少しは政治状況が分かるようになった。もしヤミ国と事を構えれば確実に勝てない。それほどまでの戦力差だ。

 

「最近は近くに異端審問会が来てると聞きます」

 

 これは村で小耳に挟んだ話だった。異端審問会はヤミ国の誇る精鋭揃いの武力集団。個人で大軍すら制圧するとされている。その中でも最上位の一席など一晩どころか5分あれば国を落とす人外と語られている。そんなのが近くにいる。俺たちは確実に死ぬ。それは火を見るよりも明らかだ。

 

「俺はルカ副団長に死んでほしくないんです……」

「大丈夫。私は死なないよ」

「勝てるわけないじゃないですか……ヤミ国に」

 

 ルカ副団長がどんなに強い人だとしても個人で国を落とすような化け物集団に勝てるとは思えない。そんな俺の話を聞いて、彼女はボソッと言葉を漏らす。

 

「来週辺りにヤミ国が仕掛けてくる。これ軍事機密ね」

「……は?」

 

 今までのふざけたノリではなく、表情は真剣そのもの。それは来週には死ぬと言っているように俺には聞こえた。

 

「ルカ副団長」

「なに?」

「一緒に逃げましょう」

 

 彼女を理不尽な目に遭わせたくない。だから騎士団に入った。俺はこの国に忠誠はない。俺の戦う理由は彼女に報いるためだ。彼女と俺だけならば逃げられるかもしれない。少なくともなにもせずに殺されるよりは百倍マシだ。

 

「やだ」

 

 しかしルカ副団長は首を縦には振らない。俺は彼女の覚悟が鈍りそうな言葉を選んで問いかける。

 

「なんで騎士団に入ったんですか?」

「悪い奴を倒したいからだよ」

「ならヤミ国は悪いやつだと思いますか?」

 

 意地悪な質問。自分でも嫌なやつだと思う。ただ彼女の決意を砕くにはこの聞き方しかない。だが彼女の答えは思いも寄らぬものだった。

 

「うーん。ヤミ国だから悪い奴って考え方はしたことないかな」

「え?」

「あの国に生まれたから悪い奴なんてことは絶対にないし、逆も然りだよ」

「まぁそうですけど……」

 

 綺麗事だ。戦争になればそんなことは言ってられない。良い人が自分の命を守るために必死にこちらを殺そうとしてくることもある。そうなったら自衛のためにその良い人を殺さなければならない。そんなのに人が耐えられるわけがない。だからあいつは悪い奴だから殺すと言い訳をして逃げる。自分の心を守るためにそうせざるを得ない。それなのに……

 

「でもカオリ君が想像する事態にはならないから安心していいよ」

「ヤミ国が仕掛けてくるんですよね?」

「うん」

「つまり戦争ですよね?」

「違うよ」

 

 ルカ副団長の軽い一言。現状が理解出来ていない上での発言なのか。それともこの上ない楽天家だから言えることなのか。はたまたどちらでもないのか。その答えはすぐに明らかとなった。

 

「一方的な虐殺だよ。勝負になるわけないじゃん」

 

 彼女の回答はわけがわからない。ヤミ国と戦争になる。でも自分は死なない。それでも逃げる気はない。しかし戦争にすらならずに一方的な虐殺が展開される。もはや矛盾もいいところ。言ってることがぐちゃぐちゃだ。

 

「そんなに戦力差があるのにどうして降伏しないんですか?」

「国王様がバカだからでしょ」

「な!?」

 

 ストレート過ぎる物言いに度肝を抜かれた。もしこれを俺以外の人が聞いていたら不敬罪で即刻あの世行きだ。もっともルカ副団長を殺せる人がいればの話ではあるが。

 

「あー今のオフレコね」

「……本気で言ってます?」

「うん。本気だよ」

 

 ただ沈黙が流れる。空気が重い。俺はルカ副団長のことがわからない。この国王をバカだと言い、戦争には負けると言う。そんな彼女がどうしてこの国のために戦うのか。俺には本気で理解出来なかった。

 

「カオリ君はいつも通りに働いて食べて寝ての生活をしてていいよ。しばらくそんな生活を繰り返したら全て終わってるからさ」

「俺……」

「大丈夫。カオリ君はなにがあっても死なないから。私も男の子1人守るくらいの余裕はあるし」

 

 ルカ副団長の意図が読めない。それこそまるで自暴自棄にでもなってるのではないかと。そんな不安を覚えるくらいだった。

 それからの生活は怖いくらい普段通りだった。ルカ副団長に割り振られる仕事をこなして、剣を振って体を鍛えて、腹一杯になるまで食べて寝る。あまりに変哲もない日々で未だにヤミ国との戦争間近だということに実感が湧かない。もしかしたらルカ副団長の言ったことはただの出鱈目(でたらめ)だったんじゃないか。

 

 ――そう思い始めた頃。なんの前触れもなくあっさりと戦争は始まった。

 

 戦争開始の合図は王都の上空に浮かび、全てを影で覆い尽くすほどに巨大な氷の山だった。

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