僕にとって世界は退屈だった。それこそ生きていたくないと思えるほどに。
虐められていたとかそういうわけじゃない。
やりたいことも見つからず、彼女どころか友達もいない。ただ学校と家を行き来して推しのVtuberの配信を見るだけの生活。なにもない空っぽな人生だった。
ただ画面越しにいる推しを見ている時だけは少しだけ心が晴れた。まるで友達が出来たみたいだった。
しかし配信が終わると同時に魔法は解けてしまう。友達すらいない現実に引き戻される。そんな現実を見て漠然と思うのだ。僕は無価値で誰も必要としていない。いっそのこと死んでしまった方が楽だろうと。価値がない自分を自分が肯定出来なかった。
異世界に召喚されたのはそんな時だった。僕は召喚された時に少しだけワクワクしていた。退屈な日常が変わる気がした。この世界なら僕を満たしてくれるのではないかと期待していた。この時の僕は地球に置いてきた家族のことも考えず、まるで物語の主人公になったみたいで興奮していた。
それから僕は風のスキルがあるとわかり、持て
初めて僕の価値が肯定された。自分が特別だと思えた。この国は僕を勇者と呼んだ。その言葉で心が躍る。僕は初めて価値を実感した。
――だけど価値はまやかしだった。
「え?」
「魔族の手先であるヤミ国が攻撃を仕掛けてきました。勇者様。どうか撃退なさってください」
「え……でも戦いなんてしたこと……」
ヤミ国との戦争が始まった。
その時に僕は理解した。僕に価値があるわけじゃない。勇者としての戦力に価値がある。誰も僕のことなんか見ていなかった。彼らは僕に戦うことを求めている。そのことに気づいて手足が震えだす。剣なんて握ったこともない。本気の殺意を向けられたこともない。自分が誰かと戦うところなんて想像がつかない。怖い。嫌だ。逃げたい。助けて。
空には山のような氷が浮いている。あれが落ちれば確実に国が滅ぶのは
そんなのわからない。誰か教えて。誰か助けて。死にたくない。死にたくない。
「やっほー。勇者様」
そんな時に陽気な声が聞こえた。振り返るとそこにはルカ副団長がいた。この国の騎士団の副団長。背は見上げるほどに高く、彼女の存在が心強い。彼女さえいれば不思議とどうにかなるような気すらしてくる。
「ルカ副団長! 状況は……」
「うんうん。言わなくても分かってるって」
だけど希望は崩れる。彼女が指で空気を弾く。それだけで近くにいた兵士2人が
「あ……あぁ……」
恐怖で尻もちをつく。状況がなにもわからない。おかしい。だってルカ副団長は味方なはず。それなのに仲間を倒した。意味が分からない。なにより彼女の目が怖い。笑顔のまま人に危害を加えられる彼女が怖い。
「勇者っていうから警戒してたんだけどさ。戦場に立つ前からビビるとかカオリ君どころか村娘以下じゃん」
「え……?」
「まだわからないんだ。私は敵だよ?」
「嘘だ……」
ルカの目が一気に冷めていく。彼女の目から僕への興味が消え、失望に変わっていく。今までのような笑顔がない。怖いくらいの無表情。そして冷めた声が僕に向けられる。
「……てめぇみたいなのが勇者名乗るなよ」
その声は怒りだった。わけがわからなかった。次の瞬間には内臓が全てひっくり返りそうになる衝撃を受けていた。その衝撃のあとに今までに体験したことのないような重い痛みが脳に刻まれる。
痛みに耐えきれず視界が暗転していく。ルカが僕を見下ろすように見ている。それが僕の覚えている最後の光景だった。
◆
それから僕はヤミ国に連れられ、軽く尋問を受けた。そして尋問が終わると今度は衣食住が保証された教会へと案内された。そこで僕はカオリと出会った。
僕はその時までカオリのことを深く知らなかった。一緒に召喚された顔の良い男。そんな認識しか持てなかった。だけど彼は違った。彼は僕の顔を見るなり、笑顔で僕の名前を呼んで手を振った。カオリは僕のことを知っていたし、覚えていたのだ。
僕は彼の名前すら覚えていなかったのに。
そんな彼は顔を合わせる度に僕に話しかけてくれる。笑顔で今日あったことや趣味の話をしてくれる。彼と話してると苦しくて仕方ない。彼を見てると自分が惨めになる。自分のことばかりで他人のことなんか気にしたこともない。他人に興味を持ったこともない。そんな現実が突きつけられる。
僕はカオリに逃げるように後にした。ヤミ国王都で僕を雇ってくれるようなところはなかった。だから王都から離れ、戸籍が無くとも出来る冒険者こと狩人になった。そういう生活をしてみたいと思っていた。そう自分に言い聞かせて。
狩人になってからは必死だった。薬草摘みや簡単な獣駆除の依頼を受けて日銭を稼いで暮らす。宿なんて借りる余裕もないから教会に頭を下げて、物置部屋を借りてそこで眠る。本当に必死に頑張った。
そして狩人として活動してる中で再びカオリと再会した。彼は僕と会うなり飲食店に行こうと誘う。それに対してお金がないと言うと奢るとまで言う。彼の存在は僕にはあまりに眩しくて、目を逸らしたくなる。
飯屋で彼の話を聞かされる。僕とは比べ物にならないくらいキラキラした話。彼の周りには僕と違って常に人がいる。そこに妬みはなかった。当然だと思った。彼は僕と違って人に興味が持てる人間だ。僕と彼は生きる世界も持って生まれたものも違うのだ。ああ。僕もカオリみたいになりたかったかなぁ……
それからカオリに狂野菜の狩りに誘われる。そこでも才能の差を見せつけられた。カオリは僕なんかよりも遥かに強い。僕が気づく前に狂野菜を倒していく。彼の動きは目で追うのがやっとだった。僕は我慢ができなくなった。
「な、なんだよ……それ……」
「ん? どうした?」
「僕は勇者だぞ!なんで引き立て役のお前の方が強いんだよ!」
言ってはいけない言葉を吐いてしまう。
最初は僕のほうが上だった。僕はカオリと違って勇者としてグループ国に呼ばれた。それなのに今ではカオリの方が強い。勇者として扱われた僕よりも、なにも与えられなかったカオリの方が強い。
――そんなの納得出来るわけがない。
「フウガは強くなるための努力したか?」
「それは……」
虫唾が走る。努力してないお前が悪い。まるでそう言われてるみたいだった。そんなことは自分でも理解している。きっとカオリは誰よりも努力したのだろう。
だから努力しなかった僕よりも強い。当然の理屈だ。文句をつける方がみっともない。
でも同時に思ってしまう。カオリには努力する才能があった。僕にはなかった。それだけの話なのではないか。僕にも努力する才能があればカオリと同じ世界にいけたはずだ。
カオリが気に食わない。お前には僕の気持ちが分からない。努力する才能があるお前には努力できないやつの気持ちなんか分かるわけがない。
「もしも努力してたらフウガは俺より強くなったと思うか?」
「どういう意味?」
「努力したら今の俺のように動けるようになる姿が思い描けるかどうかって話だ」
だけどカオリの出した答えは違った。彼は努力を否定した。
僕が努力していないことを見抜いている。その上で僕を否定しない。努力しないのが悪いとは言わない。そこから僕に寄り添うような優しい言葉をかけてくれる。
世の中は努力じゃなくて才能が全てだ。だから頑張らなくていい。それに生きてるだけで立派だ。僕にとって優しすぎる言葉をかけてくれる。
「結果はお前の代わりに俺が出してやる。そのために俺がここにいる」
その言葉で確信する。きっと僕の内心を全部ぶちまけても彼は受け入れてくれるだろう。それだけの度量が彼にはある。
ああ。やっぱり彼のことは受け入れられない。僕と違ってコミュ力もあって、人に愛されて、それに加えて戦闘力もある。彼はどこを取っても完璧だ。彼と話してると自分の愚かさを突きつけられてるようだった。彼がいると自分の悪いところから目を逸らせない。それが苦しい。
「カオリはいいよな……」
「どうした?」
「君にはわかんないよ。僕の気持ちなんて」
「あのなぁ……」
「1人にしてくれ。もう話したくない」
僕はカオリを突き放した。カオリが悪いわけじゃない。もしもカオリが努力してないお前が悪いと言ってくれたら少しは楽だった。そしたら僕はカオリを憎むことが出来た。少しでもカオリが僕に悪意を持ってくれたらならば、僕は悪意で答えられた。
しかしカオリはその逃げすらも許さない。カオリは僕から見たら完璧過ぎる。きっと誰かに劣等感を覚えたこともない。カオリは僕と違う世界の存在だ。
教室の隅で伏せてるような陰キャじゃなくて、クラスの中心にいて誰からも頼られる存在。そんな彼に僕の気持ちなんかが分かるはずない。僕の気持ちをわかろうと寄り添える彼じゃ僕のことはわからない。彼といると苦しい。逃げ場がないから苦しいのだ。
それから僕はカオリと別れた。カオリと別れた僕は街を歩きながら思う。
僕は最低だ。救いようのないクズだ。
カオリは僕に手を差し伸べてくれた。僕を助けてくれた。それなのに一方的に拒絶した。
「……今度謝らないと」
僕は救いようのない人間だ。でも施しを受けといて八つ当たりするような救いようのない人間にまでは落ちたくない。
……もしも謝罪から逃げたら僕はなにも変われない。
戦闘においては僕はなにも出来ない。この世界の強者達に通用することがないのは嫌というほど理解した。ルカのような規格外に並べると思えない。カオリみたいな強さも得られるとは思えない。
弱くてもいいとカオリは言ってくれた。それは真理なのだろう。弱くても生きてる人はたくさんいる。でも弱いからとなにもしないのは嫌だ。せめてカオリの友達として胸を張って隣にいられるものが欲しい。自分を認められる自分になりたい。
自分の価値を見出したい。
「よぉ。勇者さんでよろしくて?」
だけどそんな望みは叶わなかった。僕は拉致されたのだから。
◆
知らない誰かが戦っていた。その音で目を覚ます。あれから何日が経っただろうか。起きる度に気絶させられていたから時間感覚が完全に麻痺している。会話に耳を傾ける。親子の会話だった。親に認めてほしい子どもに対して、子どもの今までの頑張りを否定する親。そんな感じを受けた。
「……お父さんは……私の才能にしか興味はなかったの……ですか?」
「当たり前だろ」
その会話で僕は怒りを覚えた。勇気を振り絞って拘束を解く。僕が弱いことは理解している。だけど許せなかった。理屈を無視して反射で体が動いていた。
「それはないだろ!」
風のスキルで男を軽く吹き飛ばそうとした。そんなのが通用しないのは百も承知で……
『やっちゃえ。フウガ』
頭の中で女の声が響く。その声がすると同時に風のスキルは今までとは比べ物にならない威力へと跳ね上がる。まるで僕の怒りに呼応するかのようだった。強化された風のスキルは男の体勢を崩し、馬乗りにされていた女の子を助けた。
「なんだてめぇ?」
男は不愉快そうな表情を浮かべる。恐怖で足が竦む。でも僕は彼を許せそうにない。勝てないと分かってる。それでも僕は彼を否定したい。きっとカオリならそうする。カオリならどんな相手でも自分の正義を貫く。僕はカオリと対等な友人になりたい。だから退けない。弱いからこそ折れてはいけない。
「僕はこの人とあなたの関係なんて知らない」
彼女と彼の関係なんて知らない。僕に口を挟む権利なんてないのは百も承知だ。それでも言わなければならない。彼女の代わりに僕が彼に怒りをぶつけなければならない。
「でもこの人の気持ちは分かる!」
僕はこの世界に来て風のスキルしか見てもらえない。勇者になったのも風のスキルがあったからに過ぎない。ほとんどの人が僕を見てくれない。僕は大したことない人間なのだから当然だ。そこに文句をつけるつもりはない。
だけど凄く苦しい。僕なんかいらないと世界に言われてる気がして、落ち込むし、なにもしたくなくなる。誰かに見てほしいし、誰かに認めてほしいという気持ちは痛いほど分かる。
「だったらなんだよ?」
「父親に自分じゃなくて才能しか見てもらえない。そんなのあんまりだろ!」
でも1人だけ僕を見てくれた人がいた。カオリだけが僕を見てくれた。だからこそカオリと目が合わせられない。カオリといると苦しくなる。だけど同時にその嬉しさも知っている。だからこそカオリに近づこうという思いで頑張れる。
もしもカオリに才能以外に興味がないと言われたらゾッとする。だからそれに準ずる行為をしたこいつを僕は許さないし、許してはならない。
「雑魚がうっせぇな」
彼と敵対するのは怖い。だけど彼の振りかざす言動も価値観も全てが認められない。だから退けない。ここは退いてはいけない時だ。ここで退いたら元の自分に逆戻りだ。僕はここで戦わなければならない!
弱い上に正しさも貫けないならば、それこそ無価値だ!
「
普段通りの風の刃で攻撃を仕掛ける。当然ながら通用しない。実力に差がありすぎる。勝ち目などあるわけもない。そんなことはわかってる。だけどそれは戦わない理由にはならない。
カオリなら同じ状況でもきっと退かない。だから僕も退かない。僕はここで彼を否定する!
* * *
勇者フウガ。私が気にも留めていなかった存在。私の任務の名目は彼の奪還。だけど私は彼のことなど完全に忘れていた。お父さんのことばかりに囚われていた。
そんな彼が私のために叫ぶ。彼の足は震えている。それでも彼は声を荒げた。震える自分の体を誤魔化し、お父さんを力強く睨みつける。
私には理解できない。どうして私なんかのためにそんな無茶をする? 絶対に勝てない相手なのにどうして立ち向かえる?彼のことがなにもわからない。
「親に才能がねぇからいらねぇって捨てられるやつの気持ち。考えたことあんのかよ?」
「なんでそんなん考えねぇといけねぇ?」
「人として当然のことだろ!」
風の刃がお父さんを襲う。しかしお父さんは動じることなく全て捌いていく。あまりに練度が足りていない。彼の風はお父さんにとってそよ風。鍛え上げられた肉体には擦り傷1つ付けられない。
私の斬撃にすら劣るそれでなにか出来るわけがない。強いスキルだけで倒せるような相手じゃない。それだけでどうにかなるならばここまで大物になっていない。気持ちだけで実力差が埋まるのは物語の中だけの話。彼がお父さんに勝つことは絶対にない。
「弱ぇくせに一丁前に叫びやがってよ」
彼が1万回挑んでもお父さんに勝てない。フウガ自身もそれは理解しているはずだ。しかし退こうとはしなかった。
彼は私を庇うようにただ力強く、お父さんを睨んでいる。彼1人じゃ戦況はなにも変わらない。もし私が加わったとしても同じだ。ここで私は殺され、フウガはスキルを殺され、スキルを奪われる。
そもそも私も彼もお父さんの肌に傷すら付けられない。だから私達がお父さんに勝つなんてことはありえない。それは確定された未来。お父さん……いや、アレックスの相手は私には荷が重かった。
あぁ……もし依頼を受けたのがルカ一席ならとっくに解決してるんだろうな。
アレックスくらい簡単に倒して、フウガを助けてるんだろうな。
もしも次があるならルカになりたい。ルカ一席みたいに自分の力で未来を切り開ける存在になりたい。
弱くてごめんなさい。ルカ一席みたいになれなくてごめんなさい。
「あぁ……」
生まれて初めて祈る。私はどうなってもいいから彼だけは助けてください。私のような人のために勇気を振り絞り、私を初めて肯定してくれた彼だけはどうか助けてください。そのためならなんだってします。だからどうか……
「よく吠えたね。少年」
その瞬間だった。まるで私の祈りが通じたかのように一人の乱入者が現れた。
「アレックスと勇者フウガに異端審問会五席アリシア。有名人ばかりだ」
「なんだてめぇ……」
彼は静かに手に持っていた
「てめぇ……十二座か?」
「残念ながら違うよ。政治は苦手だから十二座にはなれなかったのさ」
「……どうしてここにいやがる」
「ただの仕事だよ」
男は静かにそう言った。その言葉に違和感があった。もし仕事だとしてもここにいるのはおかしい。なにせ彼はエルフなのだ。
ここはヤミ国有数の立ち入り禁止区域。少なくともエルフが訪れていい場所ではないし、こんなにも強いエルフがヤミ国内にいるのは看破出来ないほどの大問題。それに仕事だとしたら、彼は誰に雇われてる?
「貴方……何者ですか?」
私は彼に問いかける。これは異端審問官として無視できない。彼の存在を許してはならない。彼は作ったような笑みを浮かべて私に言う。
「僕はエメラルドだよ」
それは聞いたことのない名前だった。これほどの猛者でありながら名前を誰も知らない。あまりに気味が悪い。ここまで飛び抜けて強いならば普通は名前くらいは知れているはず。偽名かなにかでも使ってるのか? もしそうだとしたら……
「そこの勇者フウガの身柄を引き取りに来た。あまり手荒な真似はしたくないから、譲ってくれると助かる」
「これは俺のスキルだ。舐めたこと言って……」
「仕方ないじゃないか。お嬢が勇者様をご所望なんだから」
その刹那、アレックスの頬から血が流れた。彼が彼の攻撃はあまりに速く、誰一人として視覚で捉えられなかった。アレックスですら流れる血で攻撃されたことに遅れて気づく。
エメラルドと名乗った男は一歩も動くことなく、誰も視認できないほどの速さで飛ぶ斬撃を繰り出した。その飛ぶ斬撃は私が全力で刃を振るっても傷も付けられなかったアレックスの肌に傷を付けた。
4秒。それは私が概算した全滅するまでの時間だ。彼がその気になれば私達は4秒で皆殺しにされる。あくまで私達は彼の気まぐれで生かされているに過ぎない。
「それと雑魚は一丁前に権利を主張しない方が良いと思う。早死にするだけだからね」
私が手も足も出ないアレックスを雑魚と吐き捨てるほどの実力。その男はそのままフウガの首根っこを掴み。担ぎ上げる。
彼は私たちには目もくれず、この場を立ち去ろうとした。
なにもしないで見てるのが正しい。もし彼の機嫌を損ねれば確実に殺される。頭では理解しているつもりだった。それでも彼の存在は異端審問官の立場として無視出来ない。彼の身元を明らかにしなければならない。
「待ちなさい」
「なにか?」
「お前……何者だ」
「さっきエメラルドと名乗った。僕だって異端審問会に喧嘩を売りたいわけじゃないし、あんまりイラつかせないでほしい」
「名前ではない! 立場を聞いてる!」
「はぁ……ただの聖女の専属執事だよ」
聖女。それが指す人物は一人。聖女ルイス以外にいない。
あの化け物の専属の執事。その肩書きは不思議と腑に落ちた。それならばこれほどの強さも納得である。あの聖女ならば全てが規格外。彼のような存在を抱え、密かにヤミ国に引き入れていてもおかしくない。それが可能だからこそ聖女ルイスは恐ろしいのだ。
あの聖女は世界で最も怖い存在なのだから。
「それじゃあ君たちも好きにしなよ。僕は弱い人には興味ないからさ」
それだけ言い残すと彼は私とアレックスを残して、その場を後にした。
アレックスは舌打ちをして森の奥部へと足を進める。もはや私には興味がないようだった。私はただ茫然とその場に立ち尽くすしかなかった。