ゲイジュとの戦いが終わって3日が経った。街は復興活動で活気づいており、お通夜のような沈んだ空気はない。そんな中で俺は街の復興に手を貸しつつ、そこで知り合ったエルフの学者と酒を飲んでいた。
「だから魔法っていうのは精霊を使って引き起こす現象。なにせ魔力を含んだ生物なんていうのは存在しないのだから、精霊の力を借りなければ不可能」
彼は魔法政治学を専攻しており、魔法への造詣が深い。そもそも俺は魔法に疎いし、ヤミ国では魔法に対する文献もなければ研究も進んでいないため非常に興味深いものだった。
「それほど不安定であるため魔法は確実性も再現性も欠けてる。だから魔法を前提に社会設計を組まないし、魔法を戦術に組み込むことはありえない」
「しかし魔石なら話は変わるだろ」
魔石は魔力を含んだ石であり、そこに術式を刻むことで精霊を介さない安定した魔法の発動を可能にする。もっとも術式の研究が進んでおらず、引き起こせる現象も程度が知れている。それこそ魔力というエネルギーをどう変換したらどんな現象が起こるか手探りの状態。中身や理屈がわからないけど動くからいいで使われてるのが現実だ。現在運用されてる術式も太古の文献に残っていたものを流用してるに過ぎない。
「……そもそも魔石は高すぎてコスパが悪い。大体のことは魔石なぞ頼らずとも起こせる」
「たしかに」
「火を起こしたいならばライターの方が安上がり。明かりが必要ならば懐中電灯でも買えばいい」
「だから魔石も流行らないということか」
魔石は安くない。それこそ宝石並に値が張る上に含まれる魔力を使いきれば、ただの石ころに変貌する。その魔石問題があるからこそ鉄箒は量産化にまで至ることはなかった。現に俺が使用してる鉄箒もフル稼働で3日ほどしか持たない。
「しかし科学で出来ないことをさせるならば価値はあるだろ。水を無から出したり、透明にしたりとか……」
「たしかに魔石による魔術は魔法に比べればまだ可能性があるのは認めよう。しかしコストの観点から特定の場……それこそ犯罪の証拠隠滅とかに使うならばともかく日常生活に浸透させるのは不可能だな」
「たしかに」
グラスに注がれた酒を飲み干す。話を聞けば聞くほど魔法という言葉をあまり聞かない理由が理解出来る。この理屈ならば戦いに組み込むならば魔法ではなくスキルになる。スキルの方が再現性もコストも優れている。だからこそスキルという言葉は盛んに聞くのに対し、魔法という言葉は滅多に使われない。
「いやぁ面白い話が聞けたよ。ありがとう」
「礼を言うのはこちらの方じゃ。そなたの語る魔法論は一考の余地があるものじゃった」
あれから俺は貪欲に知識を求めていた。それこそシシャード子爵に頼み、竜の生態書を借りたりもした。今のままではルカやルイス姉には遠く及ばない。だからこそ自分の可能性を伸ばすものが欲しい。それになによりゲイジュにトドメを刺した際に発生した桜色の稲妻。あの現象について知りたい。あの技術を身につければ、確実に大きく飛躍することが出来る。不思議とそんな確信があった。
エルフの学者と別れて、旅館への帰り道で1人考える。今の話で魔法と桜色の稲妻は関係ないというのがはっきりした。近くで使ってる人もいないし、魔法の魔の字も聞かない時点で薄々そのような気はしていた。
もし魔法が強力ならば話は聞くはずだし、使ってる人に会うはずだ。そうじゃないというのは魔法が弱いことの証明だ。だけど俺は魔法に期待もしていた。なにせ魔法はファンタジーのお約束だ。もしかしたらという夢を見てしまう。だが話を聞けば聞くほど衰退すべくして衰退したという感想しか出てこなかった。
そもそも魔法が本当に強いならばルイス姉が使ってるはずだ。誰も思いつかないアイデアで魔法を使って成り上がりなんて幻想は抱いていない。
俺が思いつく程度のアイデアならばとっくのとうにルイス姉が思いつき、取り入れている。それが出来るからこその公爵だ。
そんなルイス姉ですら使ってるのはせいぜい鉄箒に組み込んだ魔石による浮遊程度。恐らく反重力とか磁気浮遊を組み込むよりコスパが良かったとかそんな理由だろう。ルイス姉が手を出さない時点でそこに価値がないのは明白だ。
ルイス姉が見捨てたゴミ山の中から、俺だけがダイヤを見つけるなんてことは絶対にありえない。あれはダイヤを見逃すなんてことはしない。もしあるとすればなんらかの理由でルイス姉では運用する術がなかったダイヤの原石だけだ。
例えば俺は素手で岩を砕ける。しかし生身のルイス姉は恐らく不可能だろう。だが同時にルイス姉は拳で岩を砕く必要がない。岩を砕きたいならば爆弾でも用意すればいい。そのくらい出来るだろう。ただ破壊という結果は同じでも過程が違う。
ルイス姉は俺よりもコストをかけずに岩を砕けないのは紛れもなく事実であり、紛うことなく俺が勝っている部分。そういうルイス姉が出来ないことを積み上げていく。そうすればルイス姉にも届きうるはずだ。そういったものを魔法に期待していた。
なにかを超えるならば、相手が持っていなくて、自分しか持っていないものを考える。その自分だけの武器になにを組み合わせれば超えられるか模索する。今はその組み合わせる武器を探さなければならない。その組み合わせる武器こそが俺にとってのダイヤの原石となる。誰でも扱えるようなものではなく、特定の個人の身体能力や才能に依存するようなものが欲しいのだ。それが恐らくゲイジュ戦で出した桜色の稲妻。今の課題はあれを再現性を持って使うこと。
「ふむ……魔法も違ったか」
「ああ。これでまた振り出しだ」
俺は再びシシャード子爵の元を訪ね、彼と少しだけ雑談をする。何気に彼は読書家であり、博識だ。それ故に彼に聞くのが一番手っ取り早い。だからこそ彼に桜色の稲妻について尋ねた。そして彼の助言で魔法について調べてみたが、無駄骨に終わった。
「そうなると期待は薄いが呪術か……」
「呪術と魔法は別物なのか?」
呪術の概念自体は知っている。しかしこの世界で名前を聞いたのは初めてだった。恐らく呪術もなんかしらの課題を抱えたマイナーなものなのだろう。だが他に手掛かりがない以上は呪術について調べるしかない。こうなれば思い当たる節があるものを手当たり次第に調べる。答えを見つけるにはそれしかないのだろう。
そんな時に扉が開く。それとほぼ同時に針みたいに細く刺す子どもの声が静かに耳を突き抜けた。とても可愛らしく、一切の濁りを含まない純粋な子どもの声。空気に触れた瞬間、ふんわりと溶けていく甘い響きのする声。
「呪術。一般的には負の感情を使った呪いのようなものでメカニズムは不透明。魔法とは別の体系にあるものとされています」
その声は暗闇の核心を正確に射抜いていく。声だけならば子どもらしく可愛らしいのだが、内容はどこまでも冷たい。それ故に彼女の声は子どもでありながら針で突き刺すような感覚を覚えるのだ。
「これはメイ第二王女様。この私になにか御用でございましょうか?」
「いいえ。用があったのはカオリの方です――きっとここにいると思いましたので」
メイは扉に入るなり、シシャード子爵の話を補足するように話を始めていく。いったいどこから聞いていたのやら。そもそも扉は相当分厚いはずだ。それなのに内容を的確に把握しているのが怖い。
「呪術など調べるだけ時間の無駄です。あれは負の感情を起因としたものですから、カオリには似合わない」
「似合わないって……」
「言い方を変えますね。呪術を使うなら奴隷を虐め、負の感情を集めるのが一番効率的。金に物を言わせるのが呪術だから貴方のスタイルに合わないという話です」
返ってきたのは正論だった。もし例の稲妻が呪術だとしても、それは資金力を持ち合わせたルイス姉の下位互換にしかならない。ルイス姉を超える武器にはなりえないのだ。
「それに桜色の稲妻は天啓と呼ばれる現象。呪術とは無関係です」
「天啓?」
シシャード子爵が椅子を出し、メイは無言でそこに腰掛ける。俺はメイに天啓の答えを求めるように視線で訴える。しかしメイは答える気がないのか関係のない話を始めた。
「そもそもカオリは方向性を間違えています。いきなり2人を超えるというのが無謀もいいところ」
「それでも俺は2人を超えたい。そのためにはその天啓が!」
「ステップ・バイ・ステップ。いきなりゴールを目指すのではなく、一歩ずつ着実に超えていくべきかと。まずは中間ゴールを設定しなさい」
いきなりルカやルイス姉を超えるなんていうのは無謀だ。だから目標にすべきは2人じゃない。俺以上であり、2人に及ばないもの。それを超えることを目標にし、力を着実につけろ。メイは俺に言い聞かせるようにそう言った。
まるで俺の焦りにブレーキをかけるようだった。メイの言うことは間違いなく正しい。だけど今のままでいいのかという不安が俺を駆り立てる。俺はゲイジュを倒した。メイが治癒し、時間稼ぎをしてくれた。ルイス姉の持たせてくれた鉄箒がなければ決定打に欠けていた。
――本来ならば俺はゲイジュに負けていた。
だからこそ今のままでは駄目なのだ。なにか新しい武器が必要なのだ。
「……それではカオリ。私から少し宿題を出しましょうか」
「宿題?」
「楽して得た力と生まれながらにして持った力の違い。前者は脅威とならないのに対し、どうして後者は脅威になるのか。それについて自分なりの答えを出してみてください」
唐突にメイが俺に問題を出した。まるで解いた先に俺の求める答えがあると言わんばかりに。
「それって違うものなのか?」
「はい。明確に違うものですよ」
俺は少しだけ頭を悩ませる。いまいち問題の意図が見えてこない。楽して得た力といえばスキルや重火器といった科学による力が思い浮かぶ。それに対して生まれながらの力は才能や種族差だ。前者はなんていうか漠然と怖くないイメージがある。たしかに厄介ではあるが、絶望は感じない。だが後者は違う。どうしよもないのではないかという絶望がある。その差はなんなのか。
出力による差なのだろうか。もし仮に重火器が核になったり、スキルが全知全能になったら怖いだろうか。
それでもきっとルカやルイス姉に比べたら怖くないだろう。
「あれだな……前者は理屈が分かるけど後者は理屈が分からないから怖い」
「ふむ」
「それこそ怪異は種が割れたら怖くないのと同じようなイメージだ」
「……0点です」
「なんで!?」
「それは知識だけの空っぽな解答。カオリの体験が入ってない解答だからです。それを痛感する強烈なエピソードが欠陥してる限り熱を感じないので認めません」
「な!?」
「だってその解答じゃカオリの成長にならないんですもの。宿題の意味がない」
たしかに言いたいことは分かる。体験のない言葉は薄い。"努力は報われないという"言葉も、血反吐を吐いた上で努力が実らなかった人間が言ってるのとなにもしてないニートが言うのじゃ重みと意味が違う。前者は教訓で後者は言い訳だ。そして今の俺の言葉はその意味すらない。ニート以下である。
先ほど吐いた言葉に考察を音読しただけ。その言葉に意味を持たせなければならないのだ。才能は種がないから怖い。その言葉になにか意味を込めろとメイは言ってるのだ。
「楽して得た力は理屈が分かるけど才能は理屈が分からない。方向性は間違っていませんし、反論の余地は一切ありません。もしカオリの言葉に中身が伴ったら合格としましょうか」
「中身か」
「この宿題は今すぐに答えは出ないでしょう。なにせゲイジュみたいな楽して得た力を向けられたことがあったとしても、才能にかまけて努力しないで得た生まれながらの力を本気で向けられ、その理不尽に恐怖したことがないのですから」
才能を前にして戦うには才能を定義する必要がある。しかし才能の定義なんて人それぞれだからはっきりとした答えがあるわけではない。恐らくメイは解答の中身なんてどうでもいいのだろう。大事なのは俺が胸を張って正解だと言えること。
これは変な理屈をこね回せという課題じゃない。自分の中で才能とそれ以外をしっかりと体験で定義し、その概念を誰になんと言われようが崩れないものとして確立しろというもの。それが出来ないならばスタート地点に立つことは叶わない。なにせ自分の目指す
「もしこの宿題を終えた時は例の稲妻こと天啓について解説してあげましょうか」
俺は少しだけ真剣に考える。メイは理論に中身を詰めろと簡単に言うが、それは難しい。中身を詰めるには体験が必要だ。
それに必要なのは才能という理不尽と本気で向き合うこと。本来ならば戦闘とかによって構築するのが望ましい。だが戦闘するというのは悪いやつがいるということ。すなわち被害者が出ているということ。なにか起これと望む気にもなれないし、自分のことだけを考えて戦いに首を突っ込むのも不謹慎で乗り気になれない。
理不尽を見たいから戦争に行きますなんていうのは現場の人をあまりに馬鹿にしている。そこまで自分優先の恥知らずにはなりたくない。それこそ死の恐怖を知らないからこそ言える言葉。そんな軽い人間にはなりたくない。これはプライドの問題だ。
「焦ることもありませんよ。この宿題に期限は設けませんし、異端審問官になった以上は否応でも修羅場を体験することになりますから」
「そうは言うが……」
「今は難しいこと考えずに遊んでればいいんですよ。成長だけが人生の全てじゃないんですし、あれは焦れば身につくようなものでもありませんから」
そうして俺はメイからの宿題を貰い、ドラニクスでの観光旅行を終えたのだった。
* * *
「何用だ。売国奴風情が」
「売国はしとらんよ。うちはエルフに属してるわけでもあらへんし、勝手にあんたらがうちに依存しただけやろ」
うちはライ将軍陛下の元を訪れていた。今回の帰化だってそっちの方が都合が良かったからしただけでエルフを苦しめようという悪意があったわけじゃない。しかしこのままだと少し生まれる不幸が多そうなので、億劫だけど少しだけ動くことにした。さすがに数百人程度ならまだしも、さすがに数万人規模で無関係の大衆が国家間の争いに巻き込まれて不幸な目に遭うことは思うところがある。
「もう物流も抑えたし、うちの関係者は北東に退避済み。このままやとエルフが冬を越せへんのは明白やと思うで」
「そうだな」
これは嫌がらせというよりは防御の一手だ。帰化したら完全にうちらはエルフの敵。その行動で身内に被害が出るのは少し避けたかった。だから帰化前に商会長達へ通告し、各々の判断で安全を確保してもらった。さすがにそのくらいの手は打たせてもらう。それに一応は拠点として都市ロザリオまでの道は開かれてるし、そこに難民として向かえば受け入れる手筈にするように指示を出した。完全に見殺しにするというわけでもない。
「私はこのままここにいた方が良いのかな? ヤミ国の人だけど話を聞いちゃって平気?」
「気にせんでええよ。ライ君も聞かれてまずいことは話さへんやろ」
うちは今回の訪問にあたってヤミ国から
当然ながらルカの入国はヤミ国とエルフの間で締結されたルカ条約が禁止されている。しかしルカ条約の実効性はうちによって担保されていたから効力があったに過ぎない。もしルカがエルフ領に足を踏み入れたことをうちが確認次第、それは宣戦布告とみなして経済制裁すること。それがルカ条約を守られていた背景にある。うちがヤミ国に帰化した以上はルカ条約を守る意味がない。もはや飾りでしかない。
だからこそ目の前で条約違反をされようが、そこにケチをつける真似はしない。正しくは出来ないのだ。
この状況でヤミ国に戦争を仕掛ける余裕はエルフにはない。
「話を戻すで。うちが手を引いた関係で起こる物流麻痺。その影響によって発生する餓死者は概算で10万人弱。さすがにうちも鬼畜やないし、それだけは少し思うところがあるねん」
「なにをする気だ」
「せやから今回は冬超え出来るくらいの保存食を届けにきただけや。うちの計算なら餓死者は例年通りで済むくらいの量や」
大体数百トン近くの保存食。いざという時のために収納のスキルで保存していたもの。今回はそれを渡すためだけにわざわざエルフ領まで足を運んだ。これだけあれば飢え死ぬことは早々ないだろう。それこそ多すぎるくらいだ。相当な下手をしても全員に食料は行き渡る。
「それは単純な善意か?」
「せや。ただあんたの支持率稼ぎにならへんように、うちからの提供ってことにはさせてもらうで」
この動きに政治的な思惑はない。そもそも最初から支持というものに魅力を感じていない。支持は集めて損はないが、大きな得があるものでもないと思っている。支持を集めたら出来ることは増えるが、それは別の手段でも出来ること。それに本気で支持が欲しいならとっくのとうにプロパガンダを仕掛けている。
だが今回の動きはうちの思惑と関係なく、政治に響くだろう。うちの帰化になにも出来なかった将軍陛下と、慈悲をくれたうちでは後者の方が好印象になってしまう。下手すればうちを怒らせた将軍陛下が悪いという風潮になりかねない。というより間違いなくそうなる。
「もう既に手回しは終えとるから、そこを誤魔化そうとは考えへんでな。時間の無駄やし、そんなことしとる余裕もあらへんやろ」
それではなぜうちの提供ということにするのか。それは単純に気に食わないから。なにもしてないくせに自分の手柄として扱う国家の立ち回りを想像したら腹が立った。それ以上の理由なんてない。
本当に政治なんて心底どうでもいい。そもそもこの程度で支持を奪われるくらい雑なプレイングをしてるからこうなるのだ。うちの行動より自分の落ち度を反省すべきだろう。これはうちが帰化したくらいで餓死者を出す国家の落ち度だ。
「……それでなぜ余の元に顔を出した?」
「正直村や町を巡って食料を届けるのダルいから、配給は国の方でやってほしいねん。まぁようするに食料だけ置いてくとから後は任せたっていうだけの話やから難しく考えへんでええよ」
ライ将軍陛下は少しだけ頭が回る。だからこそ気づいてる。国家を通さずに自分で配る方が合理的だと。しかし自分で配るのは面倒だ。わざわざ街や村に行って、しょーもない村長や町長に食料を持ってきたことを説明し、配給するように伝える。
それから聞くのも面倒な感謝の言葉を受け取る。あまりに億劫が過ぎる。もし自分の商会があるのならば国家を通さず商会を通じてやっただろう。しかし商会は全て退避させて動かせない。だからこうして国を直接訪ねた。
「……情けに感謝する」
「せや。ついでに1つ聞きたいんやけど魔王がここに来たりしてへん?」
ついでに少しだけ情報収集を行う。その言葉で将軍陛下の表情が動く。それだけで情報として充分だった。魔王は彼の元を訪ねている。まだ魔王に関しては情報が少なく、分からないことだらけである。
ただエルフを訪ねた上で、生かしている。それではっきりした。魔王は政治を理解している。少なくとも暴力を振りかざすだけの怪物ではないのだ。今のはそれを見極めるための投げかけだった。うちはまだ魔王を測りかねている。
「うちの暗殺計画とか持ちかけられたん?」
また表情が動く。口を開かせなくても大体の情報は分かる。ポーカーフェイスがどんなに上手かろうが、必ず変化が起きる。だから答えなんて聞かなくても考えてることは大体分かる。今回はどうやら本当に魔王はうちの暗殺を持ちかけたらしい。その事実はうちを暗殺する利点を理解しているということを意味してる。恐らくヤミ国が力を持ちすぎてパワーバランスを崩すことが分かっているのだろう。
だが本気ならばもっと大々的に軍事同盟にするはずだ。それこそ影で暗殺なんてぬるい真似はしない。そうなると考えられる可能性は単純にそこまで気付けない馬鹿なのか、それとも少し試しているだけなのか。はたまた別の狙いか。それこそ自分を快く思わない魔族を暗殺に向けさせ、うちに排除させるみたいな政治的な意図。なんにしろ可能性は色々と考えられるが、魔王の人格が分からない以上は確証とはなりえない。
「まぁええわ。今度来ることあったら土産に刺客の首持ってくから楽しみにしとき」
そうしてうちはエルフ領を後にしてヤミ国に帰国した。