悪女は"正解"を咀嚼する   作:ギャン吠えチワワ

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42話 顛末と対応

 

 アレックスの件から数日が経った頃。俺はメイから城に呼び出されていた。あの場で俺達は十二座と四天王を捕虜とすることが出来た。つまりルイス姉暗殺の証拠が手元にあるのだ。それ故にヤミ国は魔族及びエルフへの対応を決めなければならない。

 

「なんでいるんだよ」

「呼ばれたからや」

 

 部屋に入ると一足先にルイス姉がいる。俺は彼女の顔を見て舌打ちする。あれからルイス姉とは喧嘩のような状態になり、顔も合わせていない。それこそ俺が宿を借りて別居してるような状態だ。

 

「まだ怒っとるん?」

「当たり前だろ」

「なんでもええけど」

 

 それからすぐにメイも部屋に入ってきた。そしてメイが入るなり扉に鍵をかけていく。どうやら今回の会議のメンバーはこれで全員らしい。てっきり大臣や他の貴族も顔を出すと思っていたから意外だ。

 

「あら。お二人とも喧嘩でもしてるのですか?」

「せや。遅めの反抗期に入ったみたいなんよ。可愛いやろ?」

「まぁどうでもいいですけどね」

 

 メイはルイス姉の冗談をスルーして椅子に腰掛ける。

 

「さてと。今回は少し情報の共有をしたいと思いまして、お二方をお呼びしました」

「情報?」

「そこのルイスはご存知かと思いますが非常に大事な情報――貴方方の妹君であられるモモ・サクラガザキの話です」

 

 反射的に立ち上がる。俺はメイの言葉に耳を疑ってしまう。モモはずっとこの世界に来ていないと考えていた。だからこそメイの口からモモの名前が出るなんてありえない。

 

「ルイス姉は……」

「うちは知っとるよ」

「なんで言わなかった」

「それも含めて説明があるから少し待ちや」

 

 モモが来ている。そうなれば俺の行動方針は一気に変わってくる。そもそもモモは無事なのか。今はどこにいて、なにをしてるのだろうか。一刻も早くモモに会いたい。モモの無事を確認したい。

 

「結論から先にいいましょう。先日エルフに対して宣戦布告を行った新たなる魔王――その正体がモモ・サクラガザキである可能性は非常に高い」

「は?」

「聖女ルイスによって捕虜とされたクローバー。彼の口からモモの名が出ました」

「その上で容姿と年齢も完全に一致したんや。もっとも状況証拠だけで確定とまでは言えへんけど……まぁ十中八九モモと見てええやろ」

 

 モモが魔王。その事実に目眩がしてくる。魔王といえば人類の敵だ。つまりモモは人類の敵。そうなれば当然ながら俺達はモモを倒さなければならない。でもモモは大切な妹で……

 

「それでこの度は一刻も早く家族であるお二人にお伝えすべく、こうして招集をかけさせていただきました」

「これでも報告は急いだ方やで。うちも知ったのは10時間くらい前や」

「……そうか」

 

 俺はどうすればいいのだ。正解が分からない。そもそもモモはどうして魔王なんかになっているのだ。わけがわからない。まだ情報の咀嚼が出来ていない。頭の中がこんがらがっているのだ。

 

「そしてヤミ国は魔王モモに対してどのような対応を取るべきか。それを決めるべく家族であるお二人から意見を頂戴するために、お声がけさせていただきました」

「……まず本当にモモが魔王ならうちは魔王側につくとは言っとくで」

「わかりました」

「魔王と敵対するってことは聖女であるうちも相手にするってことになるのは忘れへんでな――モモに危害を加える気なら一切の容赦はせえへんよ?」

「肝に銘じておきます」

 

 ルイス姉は迷いがない。モモを手に掛けるくらいならば迷わず世界を敵に回す。躊躇いもなく、その選択肢を選べてしまう。そしてメイは俺の方に視線を向ける。まるで貴方の意見はどうなのですかと言わんばかりに。

 

「俺はモモの動機次第だ……もう少し見極めてから判断したい。魔王になるってことは相応の理由があったはずだ。それを聞いてから選びたい」

「わかりました」

 

 なにも分からない。モモのことは信じたいと思っている。でも魔王という肩書きがあまりに気掛かりだ。モモの意図が読めない。モモがなにを考えてるのか分からなくて怖い。

 

「魔王モモ。その人物像についてお伺いしたいのですがよろしいですか?」

「ええよ」

「まず彼女を一言で言うとどうですか?」

「怪物」

 

 俺とルイス姉がハモった。モモは可愛い妹ではあるが、それと同時に紛うことない怪物だ。それはルイス姉から見てもそうなのだ。あれはなんでも知っているし、なんでも出来てしまう。総合力で言うならばルイス姉の方が上だろうが、それは生きた歳月による経験の差があるからに過ぎない。あと3年もすれば全てにおいてルイス姉すら凌駕するだろう。

 

「戦闘力はどうですか?」

「勝てると思わへん方がええ。昔はうちが勝てたけど、今やったら絶対に負けるで」

「精神侵犯使ってもか?」

「無理や。あれはこの世界に来る前から天啓を使うような子やで。次元が違うねん」

 

 そういえばモモが素振りでよく白い花弁を散らしていた。あの時は気にも留めなかったが、知識のある今だから分かる。あれは間違いなく天啓だ。モモは日常的に天啓を無意識で使っていた。やはり怪物という評価は正しいだろう。

 

「ルカとモモでしたらどちらが勝つでしょうか?」

「恐らくルカやろうな……ただそれは武器の差や」

「武器の差?」

「モモは強すぎて、自分の技量に耐えられる武器があらへん。その差でルカが勝つと思うで」

 

 それはつまり武器というハンデがなければモモが勝つと言っているようなものだ。そういう理不尽の体現こそがモモ。そして俺も共感できる部分がある。だからこそモモを残してきたことが不安だったのだ。冗談抜きでモモは1人になると何をしでかすか分からない。

 

「まぁうちの可愛い妹であることには変わらへんけどな」

「ルイス姉はモモが魔王してることについてどう思う?」

「少しは驚いとるけど、不思議はないで。あれは性格的に魔王くらいやるで」

「だよなぁ……」

 

 なんとなくだが情報も飲み込めてきた。その上で冷静に考えてみればモモは魔王になるかならないか以前に在り方が魔王だった。どうしようもない悪人とか巨悪の権化という意味ではない。ただ純粋に我が強い。ルールや倫理に縛られることなく、自分が正しいと思った道を貫く。そして敵には一切の容赦がない。周りの目など気にせず、力で全て解決してしまう様は魔王といわれてもおかしくない。

 

「対話は成り立ちますか?」

「うちと似たような感じや。多少の配慮はしてくれるやろうけど、妥協というものがあらへん」

「なるほど。知性はあるが歩み寄ってくれるわけではないという感じですか」

「その認識でええよ」

 

 メイは少し考え込む。もしも魔王が本当にモモならばある意味では天職とも言える。モモは頭も良いし、ある程度の政治も可能だろう。

 モモが魔王だと聞いた時こそ慌てふためいたが、落ち着いた今となっては魔王という立場にいるならばなんの不安もない。モモならば外野がなにか仕掛けたとしても簡単に攻略するだろう。

 

 むしろ気にしなければならないのはヤミ国の方だ。俺はモモのことよりも、モモを相手にしてこの国をどう守るか考えなければならない。それほどまでにモモは怪物なのだ。

 

「……魔族とは同盟の方向で前向きに検討しようと思うのですがどうでしょう?」

「一番良い落とし所やろうね。モモにも利点がある同盟なら乗ってくると思うで」

「そうなると会談は必要だな。それに同盟ということならエルフ攻略の軍事同盟が一番丸くなるか?」

 

 対談を仕掛けるにしてもなんかしらの理由が欲しい。魔王への挨拶という理由もいいが、挨拶のために出向いたという事実が残るとヤミ国の立場が下になりかねない。また逆にモモをヤミ国へ招いても同様に、魔王を下に扱ったとなりかねない。だからこそ対等な立場での会談にするための理由が必要なのだ。その理由に使うのに一番無難なのがエルフへの対応となる。

 

「どのみち私達もエルフの対応を考えなければなりませんしね。聖女ルイスの帰化という形で宣戦布告をしてしまいましたし――なにより十二座の一人を捕虜にしています」

「せやね」

「幸いにも今回は密入国ですし、こちらで暗殺の事実をもみ消してもいい。しかし聖女暗殺の証拠として晒し上げるのも一興です」

「それをやったら本格的に戦争やな」

 

 ふと疑問が湧いてくる。そういえばなぜメイは戦争を仕掛けないのだろうか。聖女がいないエルフなど攻めない理由がない。今までエルフに戦争を仕掛けなかったのはルイス姉がいたからだ。しかしルイス姉はヤミ国に帰化している。

 

「そもそもメイは戦争に勝つことに焦点を当ててるのか?」

「おや。どうしてそう思うのですか?」

「正直言って今のエルフは怖くないと思う。それこそルカを送り込んで、一晩で王都を壊滅させれば勝ちだ。それをやらない理由がわからない」

 

 とっくにとうにチェックメイトなのだ。チェックメイトでありながら、駒を動かさない。まるで相手を虐めて嬲り殺してるような悪趣味さを感じさせる。だからこそメイの真意が読めない。

 

「理由は2つあります」

「2つ?」

「1つは戦後処理が面倒だから。たしかにルカで王都を落とせば戦争には勝てます。しかし多くのエルフがヤミ国に恨みを抱き、ゲリラ戦に発展して泥沼化するでしょうね。それが嫌なのです」

「……なるほど。それじゃあ2つ目は?」

「エルフ領を緩衝地帯(かんしょうちたい)とし、魔族の動き方を見たかった。ここでエルフを落とすのは利点よりも不都合の方が多いですからね」

 

 いつでも取れるからこそ急ぎで取る必要がない。メイは既にエルフを敵として見ていないのだ。だからこそルカを動かさない。ルカを動かした瞬間に勝ちが確定してしまうから。

 

「エルフを負かすだけなら最初から簡単です。問題はどう負かすかなのですよ。例えばですけど魔族を利用して勝てば、こちらにヘイトが向くことなく収められます。そのためエルフに関しては既に勝ち負けのフェーズは抜け、今は勝ち方をゆっくりと選ぶ時です」

「戦争って難しいんだな……」

「しかしこれは少し前までの話。今はエルフを無視しようかと思っています」

「え?」

「こちらから一切の干渉をせず、放置を決め込む。勝ち方以前に勝ちという概念を無くすのです」

 

 メイの解答で疑問は晴れたと思っていた。しかし無視という解答を聞いてますます分からなくなってくる。どうしてこの流れで無視という選択肢が出てくるのだろうか。

 

「無視。すなわちエルフの対応を私達ではなく、魔族に委ねる。もし魔族が平和を望むなら一切の関与はしませんが……制圧を望むならば表立って軍事協力してもいい。それこそ魔族と人間で国際社会を構築し、魔族差別を非難し、エルフ達に悪者としての自覚を植え付けるという手もあるでしょう」

「つまりうちらが主導せえへんで魔族に主導させて、その支援をするってことでええんか?」

「はい」

 

 なるほど。たしかにそれも悪くはない選択肢だ。だが当然ながら1つの課題がある。魔族領はエルフ領を挟んだ北方にある。つまり”どうやって魔王と首脳会談を開くのか”が課題となるのだ。ルカを魔族領に送るという手もあるが、一歩間違えれば宣戦布告と思われかねない。そうなれば当然ながら会談どころではなくなる。

 

「そうなると誰に親書を送らせるつもりなん?」

「今回捕らえたクローバーを使おうかと。魔族でしたら向こうも信頼するでしょうし、なにより捕虜返還も同時に出来ますしね」

「……彼が親書改竄《かいざん》をする可能性に目を瞑れば合理的やね」

「たしかに懸念もありますが、他に適任がいません。エルフ領への密入国となりますと、竜の山脈を越えるのは必須。なるべくこちらから損失を出すような真似は避けたい」

「だからこそ失っても痛手がないクローバーを使うというわけやね」

「そういうことです」

 

 なんとなくだがメイのスタンスが分かってきた。魔族の交渉は前向きに検討するが、こちらに被害が出るような賭けはしない。だからこそ親書改竄というリスクを背負ってでもクローバーを使うことを選んだ。もし道中でクローバーならばエルフ領を渡れずに息絶えようが、ヤミ国には痛手にならないから。

 

「メイ。親書なんだが俺とルイス姉で渡すって選択肢はないのか?」

「カオリ達がよろしいのでしたら、それでも構いませんよ。しかし聖女ルイスは暗殺までされかけてますし、エルフ領を渡るとなると相応の危険があることはお忘れなく」

「そこは気にせんでええよ。エルフ領だったら味方も多いし、なんとでもなるで」

「分かりました。それではその方向性で調整させていただきますね」

 

 そうして今後の動きが決まった。またヤミ国としても今の時期は忙しく、本格的に動くのは早くとも1ヶ月は先になるとも言われた。また魔族との同盟の方向に動くことから四天王クローバーは捕虜ではなく、食客として扱われることが確定した。

 

「それではこの辺りでお開きとしましょうか」

「せや。せっかくカオリもメイもいるんやし、改めて1つ言っておきたいんやけどええか?」

「どうぞ」

「こないだ話したうちと異端審問官の総力戦。もし負けたらカオリには異端審問官を辞めてもらうことにしたからよろしく頼むで」

「……は?」

 

 メイが俺の方に睨むような視線を向ける。こればかりは決めたことだ。俺も取り消すつもりはない。

 

「大丈夫だよ。負けねぇから」

「……負けたら承知しませんよ」

 

 そうして俺は総力戦に備えていく。

 

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