悪女は"正解"を咀嚼する   作:ギャン吠えチワワ

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Ep9-絶望との邂逅

 

 魔王は遥か北にある城に住んでいる。居所も割れている。それでもなお魔王が誰にも討たれていないのはそれほどまでに強いからだ。国の軍ですら魔王城に辿り着くことすら叶わず、壊滅させられる。

 だけど私なら突破できる。今の私は無敵だ。肉体1つでどこにだって飛んで行ける。今なら世界の端から端まで行くのすら容易い。それほどまでに強くなった。

 

「邪魔! 死ね!」

 

 行く手を阻む魔族は全て殺す。道中で見かけた魔族の村も全て潰す。私が魔族を根絶やしにする。もう誰もお前らには殺させない。殺させてなるものか。

 

「ど、どうか命だけは……」

「助けるわけないじゃん☆」

 

 7つ。それはこの3時間で潰した魔族の集落の数だ。上から魔族の集落を見かける度に、指を弾いて跡形もなく消し飛ばした。私は未だに擦り傷すらついていない。この調子なら魔王の元までいける。魔王の頭を叩き潰せると思った。

 

「ああ……ぁ……ぁぁ」

 

 少し休んでいると人間を模した白い人形の群れが私に向かってくる。数にして数千程度だろうか。新型の魔物の類と見てもいいだろう。ようやく魔王も私の存在を認知したか。

 

「ふーん」

 

 怖くもなんともない。この程度で止まるならばここまで来ていない。こんな雑魚をいくら揃えたところで意味はない。魔王も随分と舐めてくれたものだ。

 

「この程度で私をどうにかできると思ってるんだ」

 

 指を弾いて、全て吹き飛ばす。いつかの雲を払う時に使った"煌"も今じゃ指一本で出来る。指で弾いた衝撃波で辺り一帯を一掃するだけという単純な技。強者が相手ならば通用しないだろうが、雑魚にはこれで事足りる。

 

「……煌」

 

 ひたすらに駆けていく。振り返ることなく魔王城を目指していく。敵は全て倒す。目につくものは全て壊す。それを繰り返していく。だけど身体がついていかない。

 無茶な使い方に身体が悲鳴を上げた。その悲鳴に耳を貸して地面に降り立つ。これから私は魔王を殺さなければならない。この状態じゃ満足に戦えない。そういう判断が出来る程度の理性は残っていた。10分だけ休む。そう言い聞かせて腰を下ろす。

 

 降りたところは床が赤く染まった地だった。血で染まってるわけでもなければ、土が赤いわけでもない。一面に彼岸花が咲き乱れているのだ。なんとなく取った休憩。そこで見えた絶景に少しだけ見惚れる。

 

「……リーチェと一緒に見たかったな」

 

 無意識で言葉が漏れた。もしもリーチェがこの光景を見たらどんな反応をしただろうか。目を輝かせてくれただろうか。笑ってくれただろうか。そんなことばかり考えてしまう。

 

 これ以上考えるのはやめる。どんなに考えてもリーチェは帰ってこない。私にはまだやらなきゃならないことがある。もうあんな悲劇を起こさないためにはやく魔王を殺す。私が殺さなくちゃいけない。こんなところで感慨に浸ってなどいられない。

 

「――え」

 

 休憩を終え、この場を後にしようとした時だった。全身が硬直するような圧を感じる。反射的に振り返るとそこには黒いマントを羽織った1人の少年がいた。幼さを感じる顔立ちに手入れされていない眉毛。小柄な体格をした猫背の少年。異性としての魅力が恐ろしいほどにない。それなのに覇気だけは凄まじい。

 

「あ、あの……ぉ……」

 

 その男が私に声をかけてくる。この男の存在はあまりに場違いだった。この空間から明らかに浮いている。なにかに怯えるわけでもなければ、達観しているわけでもない。それでいて目的があるようにも思えない。

 なんなんだこいつは。見たところ種族は人間。つまり人類側であり、魔王の敵のはずだ。ただおかしいのだ。こんな前線に普通の人間がいるはずがない。それに先ほどから鳥肌が止まらない。理性はモブだと告げてるのに本能が危険信号を発している。

 

「はっきり喋れよ。聞こえないんだけど☆」

「き、君……可愛い……ですね」

 

 ボソボソと喋るせいで聞きづらい。それに目線も合わない。人との会話の仕方を知らないのか。なんかむかついてきたな。このままだと手が出そうだ。だけど彼はなにもしていない。悪人というわけでもない。なんの罪も犯していない人間を不愉快という理由だけで手を出すのは流石の私も抵抗を覚える。

 

「用がないなら私はもういくね」

 

 こんなに付き合ってられない。放っておいて、さっさと次に行こう。そう思った矢先だった。今までに感じたことのないような悪寒とピリつくような殺気が肌を撫でた。先ほどの覇気とは桁が違う。明確な殺すという意思。

 

 気づけば防衛本能でミョルニルを握り、そいつの頭を砕こうとしていた。文字通り考えるより先に体が動いた。美しい彼岸花を散らし、烈火の如く距離を詰めていく。

 

「なんなんだよ!僕が声をかけてあげたのにそういうのはダメだろ!」

 

 しかしミョルニルは届かなかった。躱されたわけでもなければ、受けられたわけではない。物理的になにかに阻まれた。まるで見えない壁で囲まれてるようだ。今までに感じたことのない手応え。それで覚えたのは困惑を通り越した驚き。目の前の事象が理解できない。

 

「嘘でしょ!?」

 

 攻撃力には自信はある。当たればアリスのような不死でもなければ確実に致命傷を与えられる。どんなに強固な壁だろうがヒビくらいは確実に入る。こんなにも手応えがないなんてことはありえない。

 こいつはなにかがおかしい。魔王が作り出した新しい兵器なのかもしれない。ただ1つ断言出来ること言えば、こいつは弱くないということだけ。もう敵か味方かなんて考えるな。そんなこと考えたら手遅れに……

 

「僕は魔王なんだぞ! 魔王である僕が声をかけてあげてるんだぞ!」

「……は?」

 

 その言葉で頭が真っ白になった。

 

 こいつはなにを言ってるんだ。こんなのが魔王なんてことありえるのか。私の想像していた魔王のイメージとあまりにかけ離れている。もちろん魔王が善人と思ったことはない。しかし魔族を束ね、世界を支配するほどの存在だ。カリスマ性と狡猾さを持ち合わせているだろうとは考えていた。だけど目の前のこいつからはそんなものは一切感じない。こんな中身のないような子供が魔王なんてことがありえるのか。

 気づけば全身から力が抜けて、呆然と立ち尽くしていた。私は真偽を確かめようと必死に声を絞り出す。

 

「……冗談でも言っていいことと悪いことがあるよ」

「お前も僕が魔王だと信じないのか! ちょっと顔が良いからと調子に乗りやがって!」

「あ、あんたみたいなのが魔王なわけないでしょ……」

 

 強さだけならば魔王。だけど現実が受け止められない。こんな非モテを拗らせたようなやつに私は大切な家族と人生を奪われたのか。こんなのがたくさんの人を不幸のどん底に落とした。こんなやつがリーチェを……

 

「うるさい! もういい! お前なんか犯してやる!」

 

 そんな動揺が命取りだった。

 

「っっっっっっつ!」

 

 私の右腕が落ちた。彼岸花の絨毯に私の右腕が転がる。落ちた右腕の切断面から血溜まりができていく。なにをされたかすらわからなかった。すぐに被害から状況を推理する。私は攻撃された。だけど思考する余裕などあるわけがない。魔王と名乗ったあいつは消えた。私は首を動かして、魔王を探す。しかし既に時遅し。

 

「ど……」

 

 魔王は既に私の背後。振り返ろうとするが間に合わない。魔王の方が私より動きが速い。

 

「地を舐めろよ。淫売女」

 

 背中が蹴られ、倒される。先ほどの男が私の頭を掴み、強引に頭を地面に叩きつける。仰向けになった私を犯さんとばかりに魔王が馬乗りになってくる。私の上には先ほどの男が舌なめずりしながら下世話な笑みを浮かべている。今まで感じたことのないような不快感を覚えた。私はそんな下衆をひたすら睨んだ。

 

 吐き気を催すほどの邪悪。私ですら手も足すら出せない戦闘力。もう疑う余地すらない。こいつは本物の魔王だ。魔王はカリスマ性もなければ強い存在感を感じさせるわけでもない。生物として怖いわけでもなければ、立派な動機を持っているわけでもない。ただの粋がった子どもが強大な力を持っただけの存在。それが魔王なのだ。

 

 私の殺したかった奴が……殺さなきゃいけないやつが目の前にいる。怯えるな。絶対にここで殺せ。それが私の生まれてきた意味だ!

 

「……魔王!!」

 

 力任せに彼の顔を残された左手で叩こうとする。しかし手は届かない。左手の肘から下が落とされ、右腕と同じように彼岸花に飲み込まれる。恐怖も痛みもない。心は燃えたぎるように熱いが頭は驚くほど冷静だ。あと私が出血で死ぬまで3分前後だろうか。手はないから武器は握れない。しかし蹴りで頭を砕く程度はできる。まだ殺せる。両腕がないからといって殺さない理由にはならない。

 

「無駄なんだよ。僕は最強なんだ。人の優しさを無碍にした罰が当たったんだよ」

 

 もし足が捥がれたら噛み付いてやる。顎が削られたら睨み殺す。命が奪われたならば呪い殺してやる。こいつはなんとしても殺す。全てを捧げてでも殺してやる。私の家族を返せ。お兄ちゃんを返せ。リーチェを返せ。全て返せ。

 

「お前だけは許さない!」

「ていうか両腕捥がれたんだから少しは泣けよ。はやく泣けよ」

 

 顔が叩かれる。痛みなんて感じない。それほどまでにハイになってる。今の私にあるのは身を焦がすような憤怒だけだ。そんな憤怒で痛覚も全て焼き切れた。なんとしても殺す。こいつだけはここで殺す。絶対に殺してやる。

 

「殺してやる!」

 

 それは唐突だった。

 桜色の稲妻が私の視界を駆け抜ける。まるで私の叫びに呼応するかのようだった。その稲妻と同時に突風が舞い、一帯の彼岸花を吹き飛ばす。その強烈な一撃は魔王の肉体を粉砕した。

 私の攻撃ではない。第三者からの攻撃。誰が何のためになんて考えない。このチャンスを逃すな。

 

「なんなんだよ!」

 

 しかし致命傷には届かない。魔王の体は既に再生し、原型に戻り始めている。あの異様なまでに硬いバリアに再生能力。もはや不死身。しかし勝てないわけではない。攻撃する暇すら与えずに、再生が尽きるまで叩けばいい。こいつは殺せる。

 

「あああああああああ!」

 

 幸運の女神が私に微笑んだ。今度は白い花弁が舞い、魔王の腹がバツ印型に切り裂かれた。あまりに鮮やかで無駄のない攻撃。こんなに美しい剣技は見たことがない。しかし今ので確信した。これは別の時空からの攻撃。どこか別の場所で誰かが魔王と戦ってる。その攻撃が目の前にいる魔王までとどいている。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い!」

 

 その隙を見逃さない。こんなチャンスはもう二度と来ない。魔王の顔面を力一杯蹴り飛ばす。初めて当たった攻撃は白い星を散らした。その蹴りは今までにないほど高い威力で魔王を遠くまで蹴り飛ばす。しかし致命傷には程遠い。まだ生きてる。追撃が必要だ。お前だけはここで確実に殺す。このまま頭蓋骨を踏み砕いて、確実に地獄に送ってやる!

 

「気狂いが!」

「あんただけはここで殺す!」

 

 距離を詰め、肘から下しかない左腕で魔王の顔面を殴り飛ばす。それと同時に魔王のカウンターで左肩から下も落ちる。もう腕は使えない。だけどまだ武器はある。左腕の欠損に怯むことなく、魔王と距離を詰めて喉に歯を突き立て、首の肉を喰い千切る。魔王の血が私の喉を通る。不味い血だ。しかし魔王を追い詰めているという事実が心地良い。でもダメだ。まだ足りない。こんなんじゃ殺せない。

 

「僕は魔王なんだぞ!」

「知ってる。だから死ね!」

 

 既に魔王の傷が塞がっている。魔王が私を睨んでる。しかし止まるという選択肢はない。せめて殺せずとももう一発殴ってやる。少しでも後遺症になる怪我を負わせろ。次に繋げろ。私の体がどうなろうとも!

 

「なんなんだよ! 僕がなにをしたって言うんだよ!」

 

 魔王の怒りに呼応するかのように雷が降り注いだ。その雷が私の肉体を貫く。体が焼けるように熱い。今すぐにでも意識を手放して楽になりたい。だけどそんなことは許されない。そんなことをすれば私の今までが無駄になる! 消し炭になろうとも殺してやる!

 

「なんで僕がこんな痛い思いしなきゃならないんだよ! おかしいだろ! 理不尽だろ!」

 

 あ……だめだ。私はここで死ぬ。なにもできないで死ぬ。

 

 不思議とそんな未来が感覚的にわかった。私は次の魔王の攻撃を避けられない。その攻撃は私には致命傷だ。

 

 生まれて初めて神様に祈る。それが私に残された最後の手段だった。魔王が殺せるならなんだっていい。プライドも全て捨てられる。みっともない勝利の仕方でも構わない。なんだっていい。だからどうか神様お願いします。なんでもします。私の全てを捧げます。だからもう一度だけ私に微笑んでください。私にチャンスをください。なにも成し遂げずに死にましたなんて嫌だ。

 

「くっそ……手こずらせやがって」

 

 畜生。私が弱いからこの外道すら殺せない。もっと私が強かったら……

 ああ。力が欲しい。こいつを殺すだけの力が……

 

「よくここまで持ち堪えましたね」

 

 魔王が私にトドメを刺す直前だった。一人の青年が音もなく現れた。赤い髪と赤い目が印象的な男性。そんな彼が私に声をかける。その男性は上半身に鎧を纏い、腰には剣が添えられている。まるでどこかの騎士様だった。

 

 その彼の一言は魔王の動きを静止した。彼は魔王を軽く睨む。私に手を出したら殺すと言わんばかりに。その騎士様を見て魔王は呆れたように言葉を吐き捨てる。

 

「自分はなんもできねぇくせに男に守られて全て解決とは随分と良いご身分だこと。本当に女って性別だけでイージーモード。俺も女に生まれたら……」

 

 聞くに値しない言葉。彼は何者なのだろうか。だけど私の味方だということはわかる。もうだめだ。血を失いすぎた。私はここで死ぬ。せめて彼になにか残し……

 

「大丈夫ですか?」

 

 彼の手が私の体に優しく触れた。その瞬間に失われた血も手足も元通りとなる。私はこの感覚を知っている。どんな怪我も病すらも瞬時に治す能力。私が幼少期に何度もお世話になった力。ああ。この人はもしかして……

 

「おいおい……だれかと思ったら蝿の悪魔かよ。お前みたいな化け物がなんの用だよ」

「少し彼女を助けにきただけです。大切な人ですから」

 

 青年の手が大蛸の触手に変わり、魔王を払い飛ばそうとした。しかし触手は魔王に触れる前に、不可視の斬撃で全てが落とされている。だけど彼はそうなることがわかっていたかのように焦りすら見せない。まるで全てが想定内と言いたげに。

 

「やめろよ。蠅が僕に勝てるわけ……」

「勝てませんが、負けもしませんよ?」

 

 次の瞬間に触手は粉微塵に爆散した。血と肉が吹き飛ぶが、散った先からすぐに灰となって消えていく。それから間もなく彼の上半身も粉微塵に吹き飛んだ。魔王が息を荒げて勝利の叫び声をあげる。

 

 だけど知っている。恐らく彼はその程度じゃ死なない。

 

「互いに有効打なし。仰る通り私は貴方には勝てませんが、私を殺せない貴方もそれは同じ」

 

 瞬く間に肉体が再生している。恐らく彼は妖精さんだ。私を育ててくれた妖精さん。私の修行を治癒の力で助けてくれた妖精さん。そして唐突にどこかに消えた妖精さん。そんな彼が目の前にいる。このピンチに来てくれたのだ。

 

「……は?」

「あなたの攻撃は私に届かない。だってあなたのそれは命の危険ですらないから痛みも感じませんから」

 

 妖精さんは強いわけじゃない。むしろ弱い部類だろう。戦闘においては素人そのもの。動きがそう告げている。ただ恐らく彼は不死身。その一点だけで魔王に対しての確かな脅威となってる。

 

「しかし今は私の方が有利ですね」

「はぁ?」

「私の刃は届かずともルカさんの刃ならば貴方に届くのではないですか?」

「なにを言って……」

「私は何度でも彼女を再生させて戦わせる。ルカさんはなにをしようが貴方を殺すまで絶対に止まらない。何を捨ててでも成し遂げると決めた人間は強いですよ?」

 

 魔王はつまらなそうな表情を見せる。それから魔王は私達に背中を向ける。まるで飽きたと言わんばかりに。

 

「やめだ」

「おや。逃げるのですか?」

「こんなクソゲーやってられるか」

「それは残念。やっと私がノってきたというのに」

 

 魔王は去っていく。私はすぐにミョルニルを拾い、魔王の頭を潰そうと距離を詰めようとした。だけど私の体が動かなかった。妖精さんの出した触手が私の動きを阻害した。

 

「やめときなさい。犬死にしますよ」

 

 私の体に触手が辞めろと言わんばかりにまとわりついてくる。動こうと思えば引きちぎって動けるが、そこまでする気にはなれなかった。恩人を傷つけるのに抵抗を覚えた。

 

「なんで……もう少しで!」

「もう少しで? 一度しっかりと現実を受け止めたほうが良いのでは?」

「……でも!」

「ラッキーで隙が出来た。その際にすぐに回復されるような攻撃しか出来ず、チャンスすら活かせなかったのがもう少しだと言うのですか?」

 

 吐き捨てられたのは正論だった。しかし憤怒が消えないのだ。ここでなにも出来ないくらいなら死ねと私の中で私が叫び続けている。妖精さんはそんな私に突き刺すかのような一言を吐き捨てる。

 

「想いだけで勝てる相手ならば魔王はとっくに死んでいます。想いだけでなにかを変えられるほど甘くはない」

 

 それから私は魔王を追うことはしなかった。妖精さんの言葉は私から戦意を奪うには充分過ぎるものだった。

 私と魔王との戦いは終わった。一方的に弄ばれ、運だけで生き延びた。本来ならば私は死んでいた。たまたま魔王が謎の攻撃を受け、隙が生まれた。たまたま妖精さんが現れて私を助けてくれた。本当に偶然の積み重ねだけで生き残ったに過ぎない。運命様の気まぐれで生かされたに過ぎない。

 

「……助けてくれて、ありがとう」

「ええ」

 

 それから夜になっていた。夜になるまで私はなにも考えられなかった。妖精さんが私の身体が冷えないようにと火を起こしてくれる。言い方こそきついが私のことを気にかけてくれているのが痛いほどわかった。

 

「……妖精さん。貴方は今までなにしてたの?」

「おや。私の正体に気づいていましたか」

「そりゃ分かるよ……何年一緒にいたと思ってるの」

 

 急に消えたと思ったら、急に現れた。私には妖精さんの考えてることがわからない。妖精さんがなにをしたいのかも分からない。

 

「ずっと貴方の傍にいましたよ。ちょっとワケありで肉体が消えていただけです」

「え?」

「巨人族の国に帰省したことも、雲をぶち抜いて空を見たこと……そしてリーチェのことも全部見ていました」

 

 私は少しだけ安堵していた。てっきり妖精さんは私に愛想を尽かしたのかと思っていた。妖精さんに距離を置かれたわけじゃなかったのが少しだけ嬉しかった。

 

「……もっと早く姿を見せてくれたら良かったのに」

「それについては本当にすみません。私の方でもイレギュラーが起きていましたから」

「なにかあったの?」

「そうですね。少しだけ歩きながら話しましょうか」

 

 妖精さんが立ち上がる。しかし歩きながらってどういう意味なのだろうか。

 

「ルカに教えたいことがありますので」

「それって……」

「魔王の起源です」

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