悪女は"正解"を咀嚼する   作:ギャン吠えチワワ

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Ep17-四天王

 

 時刻は日も昇らない夜中。恐らく私が寝ていた時間は数分程度。これでこの地獄。本当に自分の不甲斐なさが嫌になる。いくら魔王の攻撃を受けていたとはいえ、周りに迷惑をかけてしまったのは面目ない。だから今から挽回する。

 

「こんなときまでずっと寝てるなんてありえないだろ!! ほんとふざ……」

「ごめん!!」

 

 頭を切り替える。今は魔王の話はしない。この場ですることじゃない。現在進行形で戦闘中ならば話してる余裕なんてない。私は視線を動かして状況を理解する。目の前には牛の頭をして、翼の生えた二足歩行のトカゲ。その背後に黒い外套を羽織った老人と露出度の高すぎる痴女。

 そして遥か遠くにお兄ちゃん……だけど私の知ってるお兄ちゃんとは明らかに違う。

 

「カミーラ!! 状況は!?」

「戦闘開始から3分。一方的な……」

 

 話してる最中にカミーラの腕が飛ぶ。あの老人の遠距離攻撃。見たところ、血を操る能力といったところか。なんていう速度だろうか。だけど私を庇わなければカミーラでも充分に渡り合える。それよりも怖いのは痴女。あれだけ頭一つ飛び抜けてる。そう思えるほどに立ち振る舞いに隙がない。

 

「防戦一方です。相手は四天王全員。私の治癒でなんとか死人は出ていない状況ですが……」

 

 カミーラに纏わりついた触手がすぐさま彼の傷を再生させていく。メイのスキルだ。もし彼女がいなければとっくのとうに全滅していたというわけか。

 

「煌!!」

 

 指を弾き、トカゲの下半身を粉砕する。そうして生まれた隙に頭を回して戦略を練る。頭数が同じならば全員タイマンで……いや、エルフとララは確実に負ける。それは愚策だ。もっと効率的な手がある。

 

「エルフ。ララ。メイの三人であの龍を倒して!!」

「仕切るなよ!! さっきまで寝ていたくせに!!」

 

 エルフの言葉を無視する。そんなことに耳を傾ける余裕はない。彼らが相手するのは私が今の煌で弱らせたやつでいい。そうなれば残り2人。

 

「カミーラは老人をお願い!! 貴方なら勝てるでしょ!!」

「ルカ。それじゃあ残り2人は……」

「私がどうにかする。みんな生きて会おう!!」

「ま……」

 

 私はみんなに背を向け、1人で特攻する。この中なら私が一番強い。私が動かないとみんな死ぬ。もうこれしか手はないのだ。

 

* *  *

 

 我は牛龍ミノコムノ。牛と龍をかけ合わせたキメラであり、魔王様の最高傑作。そして我らは魔王様の指示の元に勇者パーティーに襲撃をかけていた。

 先程まで我々が優勢だった。それがたった一撃で戦況が変わった。彼女の指から放たれた衝撃波で我の体は下半身が消失した。

 

 あの桃色の髪の女を思い出す。それだけで震えが止まらなくなる。もしまたあの攻撃が来たら確実に死ぬ。その死の恐怖が明確に我に迫っていた。嫌だ。嫌だ。死にたくない。逃げたい。

 

「あんなん聞いてないんだけど!! 完全に化け物じゃない!!」

「まさか勇者よりも戦乙女があそこまで強いとはな」

 

 我だって弱くはない。現に先程まで4人で相手して優勢に事を運んでいた。それこそ一方的な蹂躙だった。四天王一人で片がつく程度の相手でしかなかった。全員が取るに足りない相手。その認識があの戦乙女によって全て覆った。戦況が有利から不利に変わったのだ。

 

「固定砲台!! 冷却砲はまだか!!」

「ウゴゴゴゴゴゴゴゴ」

 

 我ら四天王のメンバーは吸血王ドラキュラに淫売鬼アグリロータ。そして固定砲台ロキ。これからあの女が迫ってくる。こちらも早急に立て直さなければ……

 

「こんにちは。それじゃあ逝ってね☆」

 

 気づけば戦乙女が目の前に現れた。次の瞬間に我の右目に激しい痛みが走った。視覚が機能しなくなる。あの女は我の目を挨拶代わりに砕いたのだ。

 あまりの痛みに思わず咆哮をあげる。怖い。怖い。嫌だ。死にたくない。

 

 なにが勇者パーティーだ!! 戦力の8割……いや、9割がこの女ではないか! 他のやつらなど全てオマケではないか!!

 

「ミノコムノ。お前ははやく退け。殺さ……」

「逃さない☆ 貴方は弱いから最初に殺してあげるね☆」

 

 戦乙女の持つ戦斧が我に振り下ろされる。脳に激しい痛みが走る。腕を伸ばそうとするが、感覚がない。そこに我の腕はなかった。あの女は我が知覚するよりも早く戦斧を振るい、腕を落としたのだ。あまりに一方的な攻撃。なんなのだ。なぜ我がこんな目に遭っているのだ!こんなはずじゃない! 我は四天王なのだ!

 

「おっととと☆」

 

 影の槍が戦乙女を襲う。しかし彼女は涼しい顔して難なく回避。そして我から興味を失ったように影の使用者であるアグリロータの元に飛んでいく。アグリロータは戦乙女を引き離さんと戦線から離れていく。

 

「貴様の相手は吾輩だな」

 

 音もなく接近し、振り下ろされた勇者の剣をドラキュラが受け止める。2人の戦いが始まった。そうなれば必然的に我の相手は残り3人。不気味な子供に吸血鬼と弱い剣士。あの女に比べたら遥かにマシだ。そもそもあの女が強いだけだ。他は烏合の衆。この状態でもこいつらが相手ならば負けることなどない。

 

「ブレス。来ますよ」

「獄炎息」

 

 渾身のブレスで周囲を焼き払う。ブレスで吸血鬼と剣士を焼き焦がす。しかし子供だけが焼けない。先程からなんなのだ。そもそも攻撃が当たらない勇者はさておき、問題はあの子供だ。あの子供がすぐに他のやつらの傷を再生させていく。それがなければ既に数十回は殺せているというのに。

 

「そんなに猛烈に睨まずとも見えていますよ。今回は特別にこの私が相手をしてあげましょう」

「おま……えら……なん……」

 

 その瞬間だった。我の身体から力が抜けていく。今まで感じたことない寒さが我に襲いかかってくる。ああ。嫌だ。死にたくない。まだこんなところで終わりたくない。我はまだ……

 

「……自滅? まだなにもしてないよね?」

「ルカの攻撃によるダメージでしょうね。もう虫の息でしたから」

「でもルカは倒してって言ったよな?」

「恐らく殺したことすら無自覚なのかと」

 

* * *

 

 ルカは1人で特攻した。正直不安で一杯だ。恐らくルカが相手したサキュバスがこの3名の中で一番強い。ただ僕にこんなこと考えてる余裕なんかない。

 

「久しいな。カミーラよ」

「……魔王に堕ちたのは本当だったんだな! ドラキュラ陛下!」

 

 吸血王ドラキュラ。僕の故郷の元王様。そして母さんであり、師であった人を殺した外道。実はルカには恥ずかしくて細かく話していないけど、僕とルカの境遇は似ている。僕も魔王に与した者に故郷を滅ぼされ、大切な人を奪われた身。だから彼女の復讐心には共感できた。

 

「どうして母さんを殺した!!」

「鬱陶しかったからだ」

「そうか」

 

 僕は吸血鬼に拾われ、吸血鬼として育てられた。成人する頃には育ての母さんから血を貰い、人から半吸血鬼に身を落とした。吸血鬼ほどの再生能力もなければ吸血衝動もなく、日光で死ぬこともない半人前。しかし人間よりは身体能力も高ければ寿命も長い。

 

「吾輩への復讐のために剣を握ったのか?」

「違う!」

 

 僕の国はこいつに滅ぼされた。こいつは僕の国の王様だった。王が自分の民を売り、魔王に与したのだ。そして吸血鬼は数を減らし、今ではおとぎ話のような扱いになっている。

 

「お前への復讐心がないと言えば嘘になる。だけど復讐に囚われることを母さんは望まない」

「ほう?」

「僕が剣を握るのは平和な世界にするためだ。それが母さんの望みだからだ!!」

 

 魔王を倒して母さんの望んだ"子供が死なない世界"にする。それが僕が聖剣を抜いた切っ掛けだった。そして今はルカと青い空の下で生きるために魔王を倒す。こんなやつのために僕の人生を使ってやるものか。お前が付け入る隙間など僕の心にはない。

 

「ドラキュラ陛下……いや、人類の敵の吸血鬼。貴様は僕がここで討つ!!」

「戦乙女にも劣る雑魚が粋がるなよ」

 

 血の槍が降り注ぐ。上位吸血鬼の能力の一つである血液操作と血液硬化。しかも奴の血は毒であり、掠るだけで全身麻痺だ。対策としては掠った時点で斬られた部位を落として、全身への巡りを防ぐ。欠損ならばメイが回復できる。だからこそ今まで凌げていた。しかしミノコムノに注意を削がれてる現在ではメイの回復も期待でき……

 

「……メイ。助かる」

 

 女性の髪が頬を撫でた。メイの髪だ。ここまで一本を伸ばして僕に渡してくれた。この髪の毛が命綱。この髪を伝って治癒をかけてくれるはずだ。

 

「星波舞!!」

 

 血の槍を剣で全て砕き、そのまま距離を詰める。メイのおかげで多少の被弾ならば気にせずに突っ込める。そのおかげで動きやすい。勝負はここで決める!!

 

「星返し!」

 

 落とされた血の刃を剣技で弾く。もう少しだ。もう少しで剣が届く。

 

「この程度の剣技で吾輩に届くとでも?」

 

 剣先が指で止められた。ピクリとも動かない。勝ちの目が消えていく。目の前で血の刃が形成されていく。だめだ。このまま殺され……

 

「させませんっ!」

「メイ!」

 

 僕の身体が弾かれた。僕の身体の代わりにメイが切り刻まれる。メイの肉が散らばる。僕のせいだ。僕が弱いせいでメイが死ん……

 

「はぁ危ない危ない」

「……え?」

 

 メイの肉体が再生していく。それこそ何事もなかったかのように。その光景に僕以上に驚いたのはドラキュラだった。ドラキュラはメイの再生を見て狼狽える。

 

「まさか……貴様……」

「どうしました?」

「ベルゼブブか!」

「ああ。そういえば昔はそんな名前で呼ばれてましたね」

「なぜ上級悪魔がこのような場にいる!」

「決まってるでしょう。ルカの力になりたいからです」

 

 なんの話をしてるか分からない。でもいい。僕の役目は目の前のこいつを倒すこと。そのことだけに集中しろ。

 

「メイ。ミノコムノは……」

「既に倒しました。だから加勢に来ました」

 

 聖剣カリバーンを構える。今のままの僕じゃ勝てない。だから今までの僕を超えろ。そのために必要なことを考えろ。不要なものは全て削ぎ落とせ。

 

「青天!」

 

 ルカのようなフィジカルはない。かといって臨機応変に対応する頭もない。僕はただ剣を振ることしかできない。自分の剣技で相手を上回って倒すことしかできない。だから剣技で勝てない相手には勝つことができない。もうそれじゃあ駄目だ。剣技にプラスアルファの要素を加えろ!

 

「カミーラ! 僕を使え!」

「エルフ!」

 

 彼の乱入でドラキュラの気が削がれる。しかしエルフの存在を差し引いても、実力差は埋まらない。それほどまでに彼は強い。

 

「ああああああああああ!!」

 

 血の刃がエルフの腹を裂く。内臓がこぼれ落ちる。しかしメイのフォローが速い。彼の傷を瞬く間に治し、戦線に復帰させる。その一連の動きにドラキュラの舌打ちが聞こえる。

 

「雑魚のくせに粋がるな」

「……っ!」

 

 足が落とされる。その痛みで転げ回りそうになるが歯を食いしばって耐える。ルカならばこの程度は気にも留めない。こんなところで止まっていればルカの隣に立てない。

 

「止まらないで!」

 

 メイの能力で足が再生する。痛みも瞬く間に引いていく。そのまま距離を詰めていく。僕は止まれない。ルカが戦っている。ここで負けたら合わせる顔がない!

 

「青鳥!」

 

 そのまま距離を詰め、ドラキュラに剣を振るうが容易く対応される。反応速度があまりに速すぎる。僕程度の動きでは見てから対応で間に合ってしまう。あまりに歯痒い。今の僕じゃドラキュラに届かない。

 

「ベルゼブブのおまけが図に乗るな」

「あら?」

 

 メイに血の槍が飛び、彼女の全身を穴だらけにする。しかしメイは不気味な笑みを浮かべ、すぐさま身体を再生させる。ドラキュラの攻撃がメイには一切のダメージになっていない。

 

 この盤面はメイによって作られてる。メイがいるからこそ辛うじて勝負になっている。ここでの主役はメイだ。ドラキュラは既にメイしか眼中にない。

 

「貴様が無敵というならば動けなくするまで」

 

 杭がメイを貫き、地面に固定する。しかし同時にメイの姿は灰となり、難なく固定から逃れ、そのまま普段の幼女の姿に戻る。メイだけはあまりに次元が違う。戦闘力こそないものの不死性と治癒能力という札があまりにとんでもない。四天王ですら名を覚え、殺せない存在。それが彼女なのだ。

 

「もうネタ切れですか?」

「くそっ……ならば!」

 

 ドラキュラの視線がこちらに向く。諦めるな。どんなに届かない壁だとしても折れていい理由にはならない。今もルカは戦ってる。四天王の一人くらい倒さなきゃ合わせる顔がない!

 

「貴様の攻撃手段は皆無! ならば蘇生よりも早く、そこの雑魚二人を即死させてやろうぞ!」

「そうですか」

「治癒はあくまで治癒。蘇生というわけではなかろ?」

「お前の相手はメイじゃなくて、僕だ!」

 

 血の針が降り注ぐ。剣技で全て捌いていく。僕は何度も攻撃を掻い潜り、敵の懐に飛び込む姿を見てきた。それは脳裏に強く焼き付いている。

 

「先ほどとは動きが……!」

「青龍一閃!」

 

 ドラキュラの腕を切り落とす。目の前の敵のことも剣技も考えるな。ひたすらルカの動きをなぞれ。常にルカならどう動くか考え、その動きをトレースしろ。ルカなら次は敵の攻撃を見越して左にステップを踏む。

 

「血槍!」

 

 ルカのことはずっと見てきた。それ故にルカの思考なら完璧にトレース出来る。僕なんかよりもルカの方が遥かに強い。だから僕はルカを模倣する。

 彼の攻撃が見えたわけではない。ただ彼女がするであろう動きをしたら避けられた。今の攻撃で胴体はがら空きだ。確実に一撃を叩き込む。ルカならこういう時はどうする?

 

「夜堕とし!」

 

 彼女の技を放つ。その技は彼の胸を切り裂いた。しかし浅い。ルカならもっと早くて、確実に倒していた。だけどルカならすぐに頭を切り替える。既に武器は使った。再び剣戟じゃ対応される。こういう時にルカならば絶対にこうする!

 

「猿蹴り」

 

 攻撃と同時に構え直す。今の空手は次に繋げるための繋ぎ。本命は次の一撃だ。ここで確実にドラキュラを仕留める。これが僕の全てだ!

 

「天……」

 

 技を放つ前に気付いてしまう。だめだ。この振りじゃ遅い。これじゃあ当てられない。ドラキュラに届く前に彼の攻撃のほうが先に僕に届く。くそっ。今から技を止めて受け身に……

 

「おい! カミーラばかりに気を取られてるんじゃねぇぞ!」

 

 エルフの声が響いた。その声にドラキュラが釣られて、ほんの僅かに気が逸れた。本来ならば隙にすらならない僅かな時間。だけど今はそれで十分だ。その一瞬が欲しかった。今の僕ならそれを拾える。

 

「いけ!! カミーラ!!」

「天撃!!」

 

 ルカの大技の一つである()()。技自体は純粋な素振りだが、彼女の技術とフィジカルが必殺技に昇華させた。威力は一割にも及ばないだろう。だけど今はそれで十分。なにせルカの一割だ。ドラキュラならば屠れる!

 

「あ……」

「年季が違うのだよ」

 

 しかし天撃は当たることがなかった。ドラキュラは霧になり、攻撃を避けた。そして瞬く間に実体を構成し、僕の背後に回る。たった一手。それで負けを確信するには十分だった。経験の差が違う。ここまで全て読まれていた。攻撃が誘われた。あの隙は意図的に作られたもの。最初からこうする予定だった……

 

「ごめんなさい。カミーラが押し負けることは計算通りです」

「しまっ……」

 

 負けたと思った瞬間だった。戦況が瞬く間に変わる。

 どこからともなくララが乱入し、彼女の左手がドラキュラに触れる。彼女の存在に気付いたドラキュラの顔が絶望に染まり、それで固定される。彼女のスキル”時間操作”。触れた相手の時間を止めることが可能。彼女の手のひらが詰みをもたらす必殺の一手。まさか!

 

「カミーラもエルフも囮。全てララさんを貴方に警戒させないための餌でしかなかった。貴方はそのことに気付かず、ララさんのことを忘れ、完全にカミーラと私に気を取られた。その時点でチェックメイトだったのですよ」

 

 メイが勝ち誇ったように笑う。メイだけが最初からこの盤面を読んでいた。最初からトドメにララを使う。そのためにはなにが必要か逆算し、戦局を誘導していた。

 

「あなたの言葉をそっくり返しましょう。年季が違うのですよ」

「メイ……」

「さっさと倒してルカの助太刀に行きますよ。もっとも私達が着く頃には終わってるでしょうが」

「ああ」

 

 僕はドラキュラが動き出す前に彼の首を聖剣カリバーンで跳ねた。あと残る四天王は2人。ルカが1人で抑えてる。一刻も早く彼女の負担を減らしたい。そんな一心で駆けていった。

 

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