悪女は"正解"を咀嚼する   作:ギャン吠えチワワ

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Ep??-おしまい

 

「……ベルゼ……ブブ」

「今はメイで通しています」

 

 戦いは終わったことを確認すると同時に私は姿を見せる。この場で息があるのは四天王ロキだけだった。

 ルカは彼の手で氷漬けにされた。完全な敗北だろう。私が未熟なせいで彼女を助けられない。私の治癒じゃ腐敗の呪いはどうにもならない。

 

「貴方の腐敗も随分と進んでいますね」

「……そうだな」

 

 ロキの命も残り数分。しかし彼を殺したのは魔王の呪い。ルカの技ではない。そんなこと認められない。それならルカのここまでの旅はいったいなんだったのだ。命も人生も未来も賭しても殺せなかったなどあまりに残酷。この世界が嫌いになりそうだ。せめて最後にルカは兄を超えて終わってほしかった。

 

「1つだけ疑問があります」

「なんだ?」

「巨人族の国はどうして滅びたのですか?」

「内緒だ。墓場まで持っていくと決めた」

「そうですか」

 

 結局のところ真相は分からずじまいか。ルカが暴走して全国民を彼女の手で殺したのかもしれない。それとも彼《ロキ》が悪意を持って滅ぼしたのかもしれない。はたまたなんかしらの方法で魔王が私の結界を抜けて干渉したのかもしれない。

 どの推論も想像の域は出ない。もう確かめる術はない。真相は闇の中だ。

 

 ――だけどそれで良かったのかもしれない。

 

「……ルカはなんだったのでしょうか?」

「俺の自慢の妹だ」

「知っています。だけど私が聞きたいのはそういうことじゃない」

 

 旅をしていて違和感はあった。あまりに()()()()が強すぎた。あの強さになんのカラクリもないとは到底思えない。彼女だけは人が到達出来る域を遥かに逸脱している。それこそルカだけで世界の均衡が崩れるくらいに出鱈目だ。

 

「あいつは魔王を倒すために遺伝子操作で産まれた希望の子だ……」

「……は?」

 

 ――その真実に思わず言葉を失った。

 

 そんなこと私は知らないし、聞いたこともない。しかしそれではルカは魔王と戦うことが生まれた時から定められてるようなものではないか。ルカは魔王と戦う以外の人生など存在しないと言っているに等しい。そんなことは到底許せることではない。

 

 私は無意識でロキを力強く睨んでいた。どうしてお前達はルカをそこまで弄ぶことが出来る。ルカがなにをしたと言うのだ。答えろ。クソ運命。

 

「巨人族の耐久力と身体能力を人間サイズに圧縮することで巨人族すら凌駕する最強の個人を作り上げる。そういう思想で作られたのがルカ。それが巨人の姫プロジェクトだ」

「なんてことを!」

「……そうだよな。普通はキレるよな」

「はい」

「悪いことをした。だから巨人族は滅んだ」

 

 彼の言うことは真理だ。そんな運命を強いるようなクソ種族は滅んで当然だ。因果応報としか言いようがない。

 

「……貴方もルカが魔王を討つことを望んだのですか?」

「そんなことはないと……言えたら良かったんだが半々だ。ルカに幸せになってほしいという想いもあったし、巨人族の意思を消したくないという想いもあった。だから半々だ」

「そうですか」

「まぁ結局俺は死にきれず魔王に人体改造されて意志も奪われた兵器みてぇなもんになりさがったけどな」

 

 こうして意識を取り戻して話してるのは神様がくれた奇跡なのだろう。そうとでも考えなければ説明がつかないし、そのくらいはあってもいいはずだ。本来ならば彼とは話すことすら叶わなかった。

 

「……ルカにはこの事は話すなよ。俺は悪い奴のままルカに討たれて死んだってことでいい」

「もう死にました」

「いいや! 死んじゃいねぇ! 死んでないはずだ! 死んでいいわけがない! あいつは巨人族の最高傑作! このくらいで死ぬものか!」

 

 ロキが怒鳴る。その威圧感に少しだけ冷や汗をかいた。不死の私ですら死の恐怖を覚えるほどの彼の怒りは怖いものがあった。

 

「俺が凍らせた……腐敗を止めるために。冷凍保存だ」

「……そんなこと」

「だけど腐敗の呪いは消えねぇ。だからお前が治すんだ! お前ならできる……それでルカに……」

 

 そうして彼は息絶えた。最後の言葉も満足に残せずに。私は彼の死体を見て思う。彼の頭を割って、脳みそを啜ればきっと真実を知れるだろう。彼の真意も分かるだろう。だけど不思議とそんなことする気にはなれなかった。

 ルカの大切なものを踏みにじりたくなかった。ここでお兄さんの遺体まで好き勝手にされましたではあまりにルカが報われない。

 

「勝手に死なないでくださいよ。まだまだ聞きたいこともありましたし……なにより貴方はルカと話すべきでした」

 

 それにしても最後までルカのことばかりだった。彼は本当にルカを愛していたのだろう。ルカはなんのために復讐鬼になったのか。あまりに誰も救われない。自分を愛してくれた人を憎んで人生を捨てたなんてあんまりだ。ここで終わりになんかさせない。

 

「ルカ。貴方は私が絶対に死なせない」

 

 それから私はカミーラにルカの遺言を伝え、勇者パーティーを離脱した。

 勇者パーティーを抜けた後は氷漬けとなったルカを人目のつかない洞窟に運んだ。そこに結界術を張り、誰も入れなくした上でひたすらルカに治癒をかけ続けた。

 何年も何十年も何百年もずっと続けた。治癒の力は使えば使うほど上がっていった。

 

 そして遂にルカにかけられた腐敗の呪いを完全に消すことが出来た。だけどルカは目を覚まさなかった。ロキの氷はまだ彼女を包んでいた。愛の氷は数百年先の未来でも溶けなかった。

 

「早く起きてくださいね。ルカ」

 

 私はルカに声をかける。貴方は幸せにならなければならない。その義務がある。私はバッドエンドなんて大嫌いだ。ここで終わることを私は許さない。

 

 ルカの治療を終えた私は外に出た。

 外に出て驚いたのは空が青かったことだった。魔王が現れてからはずっと分厚い灰色の雲が世界を覆い、人々から空を奪っていた。だけど今はそれがない。その光景を見て、思わず言葉が漏れる。

 

「……カミーラは倒したのですね」

 

 空が青いのは魔王がいない証だ。きっと世界は平和になったのだ。カミーラはルカとの約束通りあの魔王を倒したのだ。そのことが心の底から嬉しかった。

 

「え……?」

 

 だけど世界は平和にはなっていなかった。青空を大量の竜が飛んでいた。そして人の気配など殆どなかった。魔王が死んでも人類が世界を制することはなかった。世界は竜が支配する竜の時代となっていたのだ。

 

 そこからのことはあまり覚えていない。ただ気づいたらジークフリートという英雄が現れ、竜の時代を終わらせて人の時代を作っていた。そしてヤミという青年に誘われてヤミ国を建国したりボウショク様と崇められる神様になったり、政治の勉強をしたりしていたらあっという間に時間が経った。

 そして気づけばどこからともなくエルフ族という新種族が現れ、そのエルフ族が人類最大勢力となった。本当に色々なことがあった。ありすぎてあまり覚えていないのだ。

 

 それから聖女ルイスというエルフが名を世界に轟かせだした頃にルカの氷が溶けだした。戦争がない平和な世界とはいえない。だけどあの頃よりもずっとマシな世界となっていた。

 

「わ、たし……生きて……」

「ルカ!! ようやく目が覚めたのですね!!」

 

 私は目に涙を浮かべる。抱きつきたくなる衝動をぐっと堪える。ずっとずっとルカに会いたかった。また貴方と言葉を交わしたかった。

 

「……無事に生きていて安心しました!!」

 

 私は貴方を今度こそ幸せにしてみせる。貴方の人生を無駄なんて絶対に言わせない。生まれてきてよかったと言わせてみせる。言わせてやる。彼女の顔を見て、そんな決心を立てる。

 

「ねぇメイ。世界はどうなったの?」

「見てみますか?」

 

 数千年も眠っていたので筋肉も相当衰えてるだろう。だけどルカには見てほしい。青空の広がる世界を。カミーラが彼女に残した世界を。

 私は彼女に気を遣いながら、外へと連れ出した。そして歩きながら軽く現状について話す。もう彼女も察している。いまさら隠すようなものでもない。

 

「魔王はカミーラに討たれ、世界は平和……とは言い難いですがマシになりました」

「そっか……カミーラは?」

「もういません」

 

 ルカが黙る。もうここにはルカのことを知ってるのは私しかいない。ルカの好きだった人もルカを愛してくれた人もいない。でも大丈夫だ。私がいる。そのためにいっぱい勉強した。もうルカを孤独なんかにさせない。誰にもルカからなにも奪わせない。

 

「……あれからどのくらい経ったの?」

「数千年ですね」

「そっか……数千年か」

 

 そして私はルカに青空を見せた。だけどルカは笑わなかった。ただぼんやりと青色の空を見ているだけだった。その光景に私は酷くショックを受けた。

 

 ルカはすぐに普段通りに歩けるようになって、あの時みたいに空を駆け回れるようになった。そして世界を見て回ると言って旅に出た。私はルカには旅の末に普通に良い人を見つけて人並みの幸せを掴んでほしいと思った。

 

 私はルカが誰かに虐げられないためにヤミ国の第二王女になった。国家権力で彼女を守ろうと思った。

 

 だけど世界は優しくない。ルカに対して世界は常に厳しい。一年半が経った頃にルカが滞在していた村が焼かれた。その村はルカが旅の末に見つけた安住の地だった。村人とも仲良くなり、旅を終えてここで暮らそうかと思ってると私にぼやいていた。

 

 ――そんな村が焼かれたのだ。

 

 焼けたのはルカが私を訪ねて王都に来ていた時だった。焼いたのはレッド帝国という大国。その国との関係は前々から険悪だった。

 

 ……なぜあの村なのか。お願いですからルカから、これ以上はなにも奪わないでください。

 

 当然ながらルカは再び戦いに身を投じた。結果として村に侵略してきたレッド帝国の兵士213名の軍をたったの2秒で制圧し、死体の山を築き上げた。

 

 あまりに規格外。ルカは魔王がいた時代ですら抜き出た戦闘力だった。そんな彼女を前にしてしまえば、この時代の生き物など相手にすらならない。それこそ虫同然なのだろう。

 

 だけどそんなことはどうでもいい。私はルカを戦争に巻き込んでしまった。また彼女の手を汚させてしまった。もうそんなことは絶対にさせたくなかったのに……

 

「それで気が済みましたか?」

「はい」

 

 私はルカに言葉をかける。なにが気が済んだだ。済むわけないだろ。だけど私はなんて声を掛けたらいいか分からない。今にして思えば最悪のコミュニケーションだ。

 

「妖精さん……いや、メイ・アルカードさん」

「なんですか?」

「貴方の言うとおりに動けば世界は本当に平和になるんですか?」

 

 やめて。前に私が酒の席で話したことをここで掘り返すな。もうルカは戦わないでいい。だからそんな覚悟を決めた目をしないでください。

 

「いいえ。全てが私の手で完全に管理され、大規模な戦争や内乱が起きづらくなるだけです。誰も死なない世界にも憎しみが存在しない世界にもならない」

 

 私はそんな大層な存在じゃない。私の作る世界はルカの理想じゃない。だから私の手を取るな。もう自由になって……

 

「しかし貴方の幸せだけは保証します。少なくともルカの見える世界だけは平和になるように努めましょう」

 

 私に言えるのはそのくらいだ。だから安心して自由になってほしい。貴方がどんな選択をしようが私が貴方の視界に入る世界は全て平和にするから……

 

「そのために私が必要なの?」

「はい。そのためにはルカには数十万の死体を積んでもらうことになりますし……」

 

 嫌だろう。もう戦いたくないだろう。だから手を取るな。もう関わるな。普通の生活を……

 

「うん。いいよ。あなたの道に私の力が必要なら自由に使いなよ。言われたことはなんでもするよ。国どころか世界を相手にしてもいい。どうせ私が勝つし」

 

 ああ。もう手遅れなのか。そうだ。今まで殺しだけで生きてきた人だ。もはや戦場が彼女の家なのだろう。ならば私の役目はルカを戦場に返すこと。ルカを兵器として運用することなのだろう。だって彼女の幸せがそこにしかないと言うのなら……

 

「でも1つお願い」

「なんなりと」

「もし私に大切な人が出来たらさ。その人が幸せだなと思える世界にして」

「……はい」

 

 そんなお願いしないでください。それはお願いされてするようなことじゃない。当たり前として存在するものなのですから。

 

 でも私は諦めない。絶対にルカを幸せにする。普通の女の子として当たり前の幸せを掴ませる。戦場にしか居場所がないというのなら全て滅ぼして戦場を消してやる。どこを探しても戦いがない世界にする。そのためにルカの力を借りることになるだろう。

 ルカに殺しとは無縁の普通の女の子としての暮らしをさせるためにルカに戦わせて人殺しをさせます。なんて馬鹿馬鹿しいことを私はしようとしてるのだろうか。だけどそれをルカが望むなら……

 

「貴方は戦争を……いえ、魔王のように人を虐殺する覚悟はありますか?」

「それで大切な人が泣かない世界になるというなら私は魔王にだってなれるよ」

 

 私は戦争を無くすためにルカを道具として使う。

 

 どうして戦争を無くしたい?

 

 それはルカにはもう戦争とか争いのない時代で過ごしてほしいから。でもそんな時代を作るためにはルカの力が必要。明らかな矛盾だ。

 

 だけど確実にルカを戦争から解放出来る。今のルカは解放できなくとも、数十年後の未来でルカは戦争のない平和な世界で戦いとは無縁の生活を送れる。

 

「メイ。貴方なら私を誰よりも上手く使いこなして世界を平和にするって信じてる。だから私を遠慮なく使って?」

「……わかりました」

 

 これでルカの話はおしまいだ。

 誰も幸せにならず、死と悪意が蔓延する世界の話はこれ以上は語らない。もう終わった話だ。




これで3章はおしまいです!
おまけと幕間を挟んだ後に、カオリへの話と戻らせていただきたいと思います!!
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