ルカが死んだ。その事実で空気が重い。この勇者パーティーで一番強いのは誰一人として疑うことなくルカだった。そしてルカが死んだことでメイが壊れた。メイはルカの遺言を伝えると氷漬けになった死体にひたすら治癒のスキルをかける人形となった。そんな彼女に僕たちの声は届かなかった。
心に空いた穴が塞がらない。だけど歩みを止める理由にはならない。ここで僕が折れたらルカのこれまでが無駄になる。もう後には退けない。
こんなこと思うべきじゃないのは分かってる。だけど僕は君がいない勝利より君と死ぬ敗北の方が良かった。一人っきりのハッピーエンドになるくらいなら二人で歩むバッドエンドが良かった。僕が魔王と戦うのは君に青空の下を歩いてほしかったから。君にもう一度満天の星空を見せたかったから。だけどその夢はもう叶わない。
でも僕はまだ戦う。君の活躍を無駄にしないために。
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魔王軍の攻撃が激しくなってきた。僕とララは吸血鬼で体が丈夫だけどエルフが持ちそうにない。だけどもう戻ることもできない。戦うしか道はない。もう四天王は倒した。あと少しなんだ。
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収納袋が魔王軍に奪われた。水と食料が完全に尽きたことになる。それなのにまだ魔王城すら見えない。こんな時にルカがいたらどんなに心強いか。聡明なメイがいたらこんなことにならなかったのか。僕が勇者なんかで情けない。生き残ったのが僕じゃなくてルカかメイだったら良かった。どうして神様は僕なんかを生かした。なんの取り柄もない僕なんかを……
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エルフの腕が落ちた。メイから有事の際以外には絶対に使うなと言われていた超回復薬を調合して使う。エルフの発狂する声が聞こえる。その悲鳴で今日は眠れない。お願いします。誰かこの地獄を終わらせてください。
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魔族の村を襲った。友好的な魔族だったのか敵対的な魔族だったのか分からない。そ んなの考える余裕なんてなかった。魔族の村から食料と水を略奪した。なにが勇者だ。ただの犯罪者だ。だけど生きていくためには仕方ない。これが人類のために……ルカのためになると信じて……
助けて。ルカ。
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村から略奪した食料が尽きた。適当な魔物を倒して肉を食べた。頭が痛い。気持ち悪い。
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エルフの薬の量が増えていく。だんだんと彼が正気じゃなくなってくるのが分かる。僕はどこで道を間違えたのだろうか。こんな苦しい思いまでして魔王を倒す意味なんてあるのだろうか。聖剣は僕を選んだが、本当は人違いだったんじゃないか。僕なんかよりもルカの方が勇者として相応しかった。僕には勇者の資格なんてない。
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エルフの提案である祭壇に向かうことになった。魔王城とは少し逆方向にある祭壇だけど、彼が激しく懇願したので断りきれなかった。本当はこんなことしてる余裕なんてないのに……
そもそも彼は本当にやる気があるのだろうか。
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気持ち悪い。また毒性のある肉にあたった。いつまでこんな生活が続くのか。そもそもルカがいないのに僕が生きる意味などあるのか。もう楽になってしまいたい。この剣で首を掻っ切れば……
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初めて魔族の肉を食べた。まずかった。
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喉が乾いた。
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頭が痛い。
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はやく楽になりたい。
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祭壇に到達した。祭壇には天然の温泉があって体にこびり付いた血と脂を流す事が出来た。それに綺麗な水と新鮮な野菜もある。久々に心が安らいだ。もうずっとここにいたい。
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エルフが死んだ。いや死んだというのは正しくない。エルフは剣となった。なんでも彼は救世主だったらしい。救世主はその生命と引き換えに聖剣を完成させる役割の担い手。彼のおかげで聖剣カリバーンは本物の聖剣となった。
死に際に語ったエクスというエルフの本当の名前が頭にこびり付いている。そしてできることなら生きて勝ちたかったと語った彼の言葉も。
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聖剣カリバーンはララのアイデアで彼の名前を取って聖剣エクスカリバーに改名された。聖剣エクスカリバーの切れ味は鋭く、今まで以上に戦いが楽になった。
ルカにメイにエクス。みんなの犠牲を無駄には出来ない。ここで魔王を討つ。
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魔王城に到達した。緊張よりもやっと終わるという安堵の方が強い。
もし魔王を倒したら世界はどうなるのだろうか……でも僕には関係ない。
僕は魔王を殺したら死ぬ。もう生きるのに疲れた。
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勇者カミーラの書記を読み終えた。魔王との戦闘は呆気なく終わった。私は初めから魔王に勝つ気はなかった。あんな化け物に勝てるわけがない。
私の狙いは魔王を未来に飛ばすことだった。私のスキルで魔王を遥か未来に飛ばし、束の間の平和を手にする。それしかないと思った。だから不意打ちで魔王に触れて飛ばした。カミーラは剣を抜く暇もなく勝負がついたのだ。
当然ながらカミーラは私のしたことに激怒した。それは未来に負債を押し付けただけで根本的にはなんの解決にもならないと。
「……私は正義の味方じゃない」
別に世界のためとかどうでもいい。私が生きてる間が平和ならいい。そのはずだった。でもなんで自死を選んでるんだろうか。
カミーラは魔王を討つから未来に送ってくれと懇願した。だからカミーラも未来に行った。大体魔王が現れる1年前の未来に彼は到達するだろう。
それより魔王が消えたことで空は青く澄んでいて、今まで見たどんなものよりも綺麗だった。もう終わったことよりもその話を私はしたい。
「最後に良いもの見れた……な」
なんか生きるのに疲れちゃった。
日光が私の体を焼き焦がす。痛い。苦しい。でも温かい。
なんで自殺なんてしたのか分からない。だけど死んでもいいからカミーラの見たがった青空というものをこの目に焼き付けたかった。私は青い空に向かって手を掲げて、呟く。
「絶対に勝ってね。カミーラ」
* * *
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未来に来た。僕が目覚めたのはエルフ領というところだった。最初はエクスのことだと思ったけど彼とは関係ないらしい。なんでもエルフという新たな種族が誕生し、国を築いてるようだった。彼らと飲む酒と料理が美味しい。
そしてなにより僕の見たかった青空がそこにはあった。
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彼らから魔王の話を聞いた。僕は不思議だった。なんで魔王がいるのに彼らはこんなにも笑っていられるのだろうか。どうして空が青いのだろうか。
だけど同時に彼らは魔王を恐れているようだった。それならば僕のやることは決まっている。もう魔王にはなにも奪わせない。魔王が動き出す前に僕が魔王を倒し、真の意味で平和な世界にするんだ。
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魔族領の環境はかなり変わっていた。全体的に魔物の質が落ちているし、なにより一面が氷の大地となっていた。荒野ばかりだった土地とは思えない変わりようだった。
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魔王城まではあっさり到達し、魔王と戦うことになった。だけど魔王は僕の知る魔王ではなかった。まだ子どもであり、あのような悪意で構成された化け物ではなかった。あの魔王とは明らかに別人と言わざるを得なかった。
だけど魔王はとてつもなく強かった。僕は純粋な剣技だけで完封された。彼女の剣はあまりに美しく、剣を握るものならば尊敬の念を抱かずにはいられぬほどのものだった。
その魔王は僕のこれまでについて尋ねた。僕は何一つ隠すことなく全て語った、僕の話を聞いて魔王は少しだけ悲しそうな顔をして労いの言葉をかけてくれた。
やはり魔王モモはあの魔王とは完全に別物だ。
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魔王モモから四天王へとスカウトされた。正直仕事もなければ行く当てもない身としては有り難かったので快く受け入れた。そして僕は四天王ハートと名乗るようになった。
またここにいる魔族達は魔王によって改造された人たちの子孫であり、少し気性は荒いが悪い人たちではなかった。全体的に平和な生活で心が落ち着く。こんな日々がいつまでも続けば良いのに。
ああ。ルカとこんな世界で過ごしたかったな。
ルカ……会いたいよ……
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