悪女は"正解"を咀嚼する   作:ギャン吠えチワワ

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55話 政治家

 

 俺は捕まえた食い逃げ犯の身柄を引き渡すために中央教会へと戻った。そしたら妹のモモがいたのだ。モモも驚きを隠すこともなく、俺の顔をまじまじと眺める。突然の展開に理解が追いつかない。

 

「モモがどうしてここに……」

 

 この世界にモモが来ているという可能性は考慮されていた。しかし実際に再会すると驚きの感想しか出てこない。ただ目の前の光景に目を疑う。俺は夢でも見ているのではないかと思ってしまう。

 

「もしかして彼女は審問官様の妹君ですか!?」

「あ、ああ……」

「カオリ審問官の妹君ということは……それって聖女様の……」

「少し席を外してくれ。それと絶対にこのことは他言するな」

「は、はい!」

 

 俺は人払いをしてモモを異端審問官の職務室に招き入れる。なにはともあれ話を聞く必要がある。モモがどうしてここにいるのか。今までどこでなにをしていたのか。そういったことを聞かなければならない。

 

「いやぁ偶然の再会だね。まさかこんな形で会えると思わなかったよ」

 

 モモはあっけらかんと言う。まるで俺がこの世界にいると分かっていたかのように。涙を流すこともなければ抱きつくようなこともしない。偶然外でばったり会ったかのようなノリだった。

 

「モモもこの世界に……来てたんだな」

「そうだよ。ていうかクローバーから聞いてるでしょ。私が魔王だって」

 

 魔王。その言葉がモモから出たことで嘘でもなければ同姓同名の別人でもないと突きつけられる。

 モモは俺が自分のことを認知している前提に話を進めていく。目の前にいる存在はたしかにモモだった。顔はもちろんのこと喋り方や性格もモモそのものだった。俺の知っているモモと違うことと言えば髪の色くらいなもの。

 

「とりあえずモモが無事で良かった」

「当たり前じゃん。お兄ちゃんを悲しませるような真似はしないよ」

 

 モモがクスクスと笑う。この再会に弱音を一切漏らさない。こういう場面でも弱みすら見せない。怖かったとか会いたかったといった言葉すら吐かない。それどころか帰りたいと言った言葉すら吐かない。

 

「モモ。怖くなかった?」

「まぁ急にこんなことになってびっくりはしたけど……大した相手もいないし怖くなかったよ。退屈はしてたし、不満は一晩じゃ語り尽くせないくらいにあるけどね」

 

 少しだけ間が出来る。俺はモモにかける言葉が見つからない。もしもモモが怯えたり、安堵の表情を見せるならば対応は簡単だった。しかしモモは異世界という場での再会を旅先で偶然出会った程度の反応で済ませた。だからこそ俺はモモにどんな表情をすればいいのか分からない。

 モモにとっては異世界転移という事態ですら日常のアクシデントの延長に過ぎなかった。そのことを物語っているようだった。

 

「……本当に魔王になったのか?」

「うん。まぁ成り行きで深い意味もなければ、政治的な意図もないから気にしなくていいよ」

 

 モモは自身が魔王であることを否定しない。しかし魔王という肩書きに執着してる様子も見せなかった。恐らくモモは周りが自分をどう扱おうが興味がない。そういった様子だった。それは紛うことなく俺の知ってるモモの仕草だった。

 

「ていうか異端審問官就職おめでとー。今日はそれを言いにきたのもあったし、食べ終わったらお兄ちゃん探すつもりだったんだよ?」

 

 口ぶりから察するに既にモモは俺が異世界にいることも知っていたし、ヤミ国に滞在してるのも知っているかのようだった。モモは能力が高いし、そうなっていても不思議ではない。むしろモモらしいとすら思えてくる。

 

「まぁ私の方もお兄ちゃんのこと知ったのは2週間くらい前だったんだよね。それで聖女ルイスはお姉ちゃんで合ってる?」

「あ、ああ……」

「やっぱりそうなんだ! まぁお姉ちゃんじゃないと経済4割掌握なんて無茶苦茶出来ないよねー。お姉ちゃん以外で出来る人がいたらびっくらぽんだよ」

 

 モモは無邪気に笑いながら話している。モモは日本で過ごしていた頃からそうだった。基本的にはあどけなさが残る妹だ。それこそ俺の膝の上に座って映画を見たりと暇さえあれば甘えてくるような可愛らしい妹。だけど彼女の言葉はいつも鋭く、本質を突いてくる。まるで全てを見透かしてくる。

 

「ちなみに私はしばらく観光したら帰るよ。お兄ちゃんも魔族領に来る?」

 

 モモは俺の言いたいことを察したかのように話題を切り替え、俺の欲しかった答えをくれる。日本で過ごした懐かしい日々が蘇る。またあの時みたいに家族3人で暮らしたい。でも俺は魔族領には行けない。既にヤミ国に大切な人達がいる。異端審問会のみんなやメイになにも言わずに魔族領に行くなんてことは出来ない。だからこそモモの提案は受け入れられない。

 

「…………悪い。いけない」

「そっか」

「なぁモモ」

「どうしたの?」

「魔王なんかやめてヤミ国で俺達と暮らさないか?」

 

 だけど俺はモモと一緒にいたい。俺が魔族領に行けずとも逆は可能だ。幸いにもルイス姉は公爵になったし、メイだって話せば分かるはずだ。モモがヤミ国で暮らすことに支障はない。俺はモモが二つ返事で答えてくれることを期待する。

 だけどモモは俺の提案を受け入れなかった。

 

「うーん。悪くない話だけど、そこは少し考えさせて」

「どうして!」

「私だってさ。お兄ちゃんとお姉ちゃんと暮らしたいんだよ。だけど色々とあるじゃん?」

「色々?」

「それこそヤミ国としても魔王がこっちに来て暮らしますなんて言って、”はい。そうですか”ってわけにはいかないでしょ」

 

 モモの言うことは正論だった。しかし同時にルイス姉とメイならば、モモが魔王だという背景を考慮した上でどうにかしてくれると期待してしまう。だからこそ魔王であることなんて些細な問題だと思ってしまう。

 しかしモモはそんな幻想を打ち砕くように言う。

 

「それをやるなら、先にヤミ国の方とも話を通して、色々と手続きしてからだよ。でもそんなの魔族領はどうするのかとか次期魔王はどうするのかって話で政治が凄く絡むし、この場ですぐにどうするか決められない」

「それは……」

「少なくともさ。事前通告も無しでいきなり帰化しますなんていうのはヤミ国にも大迷惑だよ。無駄に敵を作っちゃう」

 

 俺なんかよりもモモの方が現実を見ている。自分の感情だけでなく、周囲のことにも気を配った上で行動している。その動きはまさしく政治家のそれだった。モモはあまりに政治家として完成していた。

 

「べつに今ここで決めなきゃいけないわけでもないしさ。一度持ち帰って考えさせてよ」

「それって……!」

「全部面倒事が片付いたらさ。またあの時みたいに一緒に過ごそうね。お兄ちゃん」

 

 モモの動きは満点解答の正解だった。しかし俺は納得が出来ない。その通りだの一言で引き下がりたくない。俺はもうモモと離れたくない。モモと一緒にいたいのだ。

 

「……ヤミ国では魔族と同盟の案も出てる。それこそ春頃にはクローバーに親書を持たせてエルフ領に行かせる計画もある。つまりヤミ国としても話し合いの意思はあるんだ」

「そっか。ここでヤミ国と首脳会談しろって言いたいんだ」

「ああ」

 

 それならば悪い話ではないはずだ。ここで話し合って納得させる。それならば大きな迷惑をかけることにもならない。むしろ魔族領に行く手間が省けて願ったり叶ったりだ。それが俺の出した答えだった。でもモモはそれも受け入れない。

 

「答えはノー」

「どうして!?」

「ここで話すってことはさ。もしも違う意見が出ればルカ一席や魔女マリーといった手練との戦闘に発展する可能性もあるじゃん。それは魔王というより一国の王としての振る舞いとしてあまりに相応しくないし、危険すぎる」

 

 またもや正論が返ってくる。もしモモが同盟組みませんなんて言えば、メイはモモを殺しにかかる可能性は否定できない。なにせ相手は魔王。同盟を組まないことが確定したならば、殺せる機会があるなら殺すのは一番合理的だ。だけど……

 

「メイはそんなこと多分しないし、なによりルイス姉が許さないはずだ」

「そういう問題じゃなくて、そういう状況で決めるという行為が問題なの。少なくとも政治の話はヤミ国王都なんかホームで出来るものじゃない。エルフ領みたいなどちらの領土にも属さない場所じゃないと無理。だからここでメイ第二王女様に会うつもりもなければ、首脳会談をする気もない。今回はこっそりと帰るよ」

「そっか……」

「ここで親書くらい書いてもいいんだけど、正直私が書いた本物だと証明する術もなければ、私が本当に魔王であることを証明する術もない。だから絶対に偽物かどうかとかでゴタつくよ。幸いにもヤミ国も親書をこっちに送るつもりみたいだし、それに返事させてもらう形で対応させてもらうね」

 

 全体的に消極的な印象を受ける。しかし背景を考えると当然と言えば当然だ。このまま魔族を放置してヤミ国で暮らしますってやる手もあるだろう。だけど、それをやれば万が一モモが魔王だと露見した時にヤミ国内での火種になりかねない。そうなればいくら聖女ルイスの後ろ盾でもどう転ぶか分からない。かといってこの場の会談も決裂したらその場で暗殺されて終わる危険もある。具体的な解決法を提示しないのはモモが慎重だからだ。モモでも難しい状況で次の一手を決めかねてる。だからこそ一度持ち帰って検討なのだろう。

 

「私だってアクション起こしたいけど今は待つのがベターだよ。ヤミ国としても勝手に動かれるより、指示通りに動いてくれた方が助かるでしょ?」

「あ、ああ……」

「基本的に私のゴールは家族3人で暮らすこと。そこはお兄ちゃんと同じだよ。だからヤミ国の意向に従うべきだと思うんだよ。でもヤミ国の意向は首脳会談をしなきゃ分からない。それならヤミ国が使者を送ってくれるの待つ方が互いに合理的なんだよ」

 

 それだけ言うと話したいことは全て話したと言わんばかりにモモが席を立つ。俺は少しだけ名残惜しさを覚える。俺はモモを引き留めようと無理に言葉を引き出す。

 

「もう行くのか?」

 

 ただの一言。今すぐにでもやっぱり一緒にいると言ってほしい。ここに残ると言ってほしい。それが叶わないと分かっていても望んでしまう。

 

「うん。名残惜しいけど、そろそろ人が来る頃だろうしね」

「え?」

「さっきから小蝿がずっと聞き耳立ててるもん。恐らくヤミ国の誰かのなんかしらのスキルだろうね。間違いなくいま私がここにいるのは既に知られてるし、話だって耳に入ってるはず。この話は正直お兄ちゃんに話してた部分もあるけど、小蝿で聞き耳立ててる奴らに向けてってところもあったんだよね」

 

 その計算深さと視野の広さに思わず息を飲んだ。モモのことばかりになってる俺に対して、常に周囲を見ているモモ。そのことに少しだけ胸がざわついた。どうしてモモはこうなのだ。なんでモモはこうも冷静でいられるのだ。俺達は家族だ。久々の再会だ。俺もモモも生きてる保証もなかった。それなのにどうして涙の1つも見せない。甘えることもしない。なんでそんな模範解答のような動きが出来てしまうのだ。どうして動揺の1つも見せてくれないんだ。

 

 俺はモモに言われるまで聞き耳を立てられていることにすら気付けなかった。もしも俺がモモと同じ立場なら同じことは絶対に出来ない。それほどまでにモモのしてることは高度なこと。聞かれてることを把握していることを最後まで悟らせることなく、自分の伝えたいことを全て言葉に混ぜて会話。それは恐らくモモでなければ不可能だ。それが出来てしまうモモに苛立ちを覚える。

 

「まぁ今回訪ねたのはお兄ちゃんとお姉ちゃんの顔を見に来ただけだし、深い意味はないよ。なにせ男の子でカオリって名前なら誰だって疑うよね。もちろん別人だったらそのまま帰るつもりだったよ」

「そうか……」

「あと別件としてそっちで捕虜になってるクローバーの救出って意図もあったんだけど……まぁ今の感じだと放っておいてもいいかな。手荒な真似はされてないみたいだし、変に事を荒げて揉めたくないしね」

 

 そうしてモモはその場を後にしようとした。しかし扉を出る直前になにかを思い出したかのように足を止める。そして俺ではなく、小蝿に向かって別れの言葉を囁いた。

 

 「それじゃあヤミ国の人達。魔王としての意向はいま語ったのが全てだからよろしくね。あとここまで来た交通手段は秘密だよ」

 

 その一言で俺が無意識で違和感を抱いていたことに気づいた。ここまで誰にも悟られずに入れていること。遥か北にある魔族領からの交通手段。全てが不可解だった。

 だけど今はそんなことどうでもいい。

 

「……せめて我儘の1つくらい言ってほしかった」

「なんで我儘なんて言うの? 望めば全て手に入るのに」

 

 そうしてモモはこの場を後にした。全てが自己完結してしまってるモモに俺の言葉が届くことはなかった。しばらくしてメイの指示でルカがやってくる。しかし痕跡の1つも残ってなかった。既にモモは消えていた。

 

 ◆ ◆ ◆

 

「それで聖女ルイスはどちらに?」

「少しだけ魔王モモを探すと言っていました」

「そうですか」

 

 あれから俺達はメイに呼ばれて聞き取り調査を受けていた。内容は当然ながらモモのことだ。俺達の妹が降臨祭に来たというだけならば問題はない。だが魔王が降臨祭に来ていたとなれば話は大きく変わってくるのだ。

 

「ところでメイ。ボウショク様が降臨している間は昏睡状態になるって聞いたんだけど……」

「嘘です。その方が都合が良いので、そういう設定にしているだけです」

「なるほど」

「それよりも――あれが本当に魔王なのですか?」

「ああ」

 

 メイは既にモモの事を把握している。恐らく小蝿経由で話を聞いていたのもメイなのだろう。直接モモの言葉を聞いたからこそモモの厄介さを理解してしまったのだ。

 

「あの化け物を相手に外交すると思うと今から胃が痛くなります」

「そんなにやばいの?」

 

 メイの隣にいるルカが首を傾げる。しかしルカがどうしてこの場にいるのか。ルカの任務はボウショク様の護衛のはずだ。こんなところで油を売っていていいのだろうか。大問題にならないのだろうか。

 

「恐らく政治において私より上手でしょう……少なくとも対応を間違えれば国が落ちかねない」

「そりゃまぁ大変だ」

「相手の手はわからないのに、こちらの手は見透かされてる。本当に嫌になる相手ですよ」

「ふーん」

 

 ルカは話半分にメイの言葉を聞き流す。恐らく政治が上手いかどうかというのはルカにとって興味がない部分なのだ。

 

「……私は大きなミスをしていました。魔王の肩書きよりも聖女の血縁者ということに重きを置くべきだった。今にして思えば聖女の妹君なのですから、このくらいの政治はやってきて当然と認識しておくべきだった」

 

 ルイス姉の妹である以上は相応に政治も出来る。それなのに魔王という言葉のインパクトに負けて、そこの視点が抜け落ちていたのだ。もちろん頭の片隅にはあったのだろうが、それ止まりでしかなかった。だからこそ対応が後手に回った。

 

「それにしても魔王モモはなにを考えてるんだろうね?」

「皆目見当もつきませんね。目的がわからないからこそ怖い」

 

 目的がわかるならば、そこから逆算して動きを読むことも出来る。しかし目的がわからないならば、それが不可能。つまりどう動いてくるのか一切読めない。対策も打つことが許されないのだ。

 

 だからモモも自身の目的を最後まで明かさなかった。

 

「そういえば開会式で一瞬だけ怖い視線を感じたんだよ」

 

 ルカが思い出したかのように呟く。そういえば開会式でルカがいつになく怖い顔をしていた。普段のルカから想像がつかないほどに警戒の籠もった真剣な顔。俺はそれに違和感を覚えていたが、その話を聞いて腑に落ちた。

 

「怖い視線ですか?」

「うん。それこそ強者特有の油断したら死ぬと思わせかねないくらいの冷たい視線」

「……本当ですか?」

「もしあの視線が魔王モモのものだとしたら腑に落ちるけど……その場合は私の勝ちが約束できなくなるね。それほど強いよ。彼女」

 

 あの警戒はモモという強者がいたからだった。モモがいるから油断が出来ず、常に張り詰めていた。あの場でルカだけが誰よりも早くモモの存在に気づいていた。

 

 そんな話をしていると扉が開いて、ルイス姉が入ってくる。息を切らした様子もなければ慌てた素振りもない。優雅に部屋に入り、そのまま椅子に腰掛ける。

 

「ほんまにモモが来たん?」

「はい」

 

 自分の収納のスキルで紅茶を出して、口に運ぶ。ルイス姉は昔から動揺すると飲み物を飲む癖がある。ここで紅茶を飲むという選択をした辺り、冷静を装ってるだけで気が気じゃないのだろう。

 

「メイはモモにどんな印象を受けたん?」

「そうですね……一言で言うとメアリー・スーですかね」

「……あんた意味分かって言っとる?」

「はい。作者が自己投影して、気持ち良くなるために生まれたとしか思えないほどに完璧なキャラクター全般を指す言葉ですよね?」

「合っとるのがムカつくわ」

 

 たしかに言い得て妙だ。ルイス姉も大概なんでもありだが、モモも同じくらいなんでもありだ。しかしモモはなんでもありの性質が違う。ルイス姉は万能という意味でのなんでもありなのに対し、モモの場合はご都合主義という印象を抱くなんでもありなのだ。

 

 多くの事象がモモにとって都合の良いように運ぶ。それこそ言うならばモモには計算で運命を全て手繰り寄せているような不気味さがある。それ故に完璧に見えるし、誰よりもメアリー・スーという言葉が似合ってしまう。メアリー・スーという仮面を被るのが誰よりも上手いのがモモなのだ。

 

「ただその印象なら本物のモモやろうね」

「……貴方も私と同じ評価ではありませんか」

「そんでもっと詳しい話。聞かせてみ?」

 

◆ ◆ ◆

 

 あれから2人は長々と話をしていた。今回のことを聞きたいルイス姉とモモのことを知りたいメイ。その会話は白熱し、俺達が解放されたのは夕暮れ時だった。俺はメイに用意してもらった客室のベッドに身を投げる。なんだかんだ城の客室を使うことは多いため、もはや実家のような安心感を覚える。

 

「疲れたぁ……」

 

 ルイス公爵の弟という立場でも魔王と接触した以上、自由は許されなかった。俺の内通行為や外患誘致(がいかんゆうち)を警戒してるわけではないだろう。だが国としてなんの対応もしませんというわけにもいかない。だから俺はこうして城の客室に押し込まれたわけだ。

 

 そしてルイス姉は俺とは対照的に身柄は解放されて自由である。理由は単純明快で公爵だから。公爵とはそういうものだ。国は公爵を敵に回したくないため、このような状況ですら拘束されないのだ。それが公爵本人と公爵の身内の差だ。

 

 それから俺はモモの事を考えながら、そのまま眠りについて。さすがに色々とありすぎて疲労が溜まっていたのだった。

 

「きゃあああああああああああああ!!」

 

 ――そして翌朝。俺はルカの悲鳴で目を覚ますことになった。

 

 俺は大慌てでルカの部屋に向かう。ルカが悲鳴をあげるという行為。それに俺は気が気じゃなかった。ルカは死体を見たくらいで悲鳴をあげるような人でもない。当然ながら誰かに襲われるような存在でもない。そんなルカが悲鳴をあげるなど相当な事件が起きない限りありえない。

 

「ルカ! どうした!!」

 

 俺はノックもすることなく扉を開けて叫んだ。

 部屋に入ると同時に、俺の目は点になった。部屋の中には俺の知ってるルカはいなかった。そこには明らかにブカブカな服を着た幼女がいた。長い桃色の髪に青い瞳をした可愛らしい幼女。メイやモモのような毒を感じさせない真っ当に可愛い幼女だった。正真正銘、本物の幼女がそこにいたのだ。

 その幼女は俺に不安そうな表情を見せ、今にも泣きそうな声で俺に言葉を向ける。

 

「私。子どもになっちゃった……」

「……まさかルカなのか?」

 

 幼女がコクリと頷く。俺の脳は目の前の光景を受け入れられなかった。この光景の意味が理解出来なかった。

 

 なにせルカの幼児化という現実はあまりに突拍子のないものだった。

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