『私が花びんで聖女の頭をかち割った』〜デッドエンド確定の悪役令嬢は、宿敵聖女の死体と旅する〜 作:劇団おこめ座
王都と街の中間地点くらいまで来た。
遠くに10人くらいの、つぎはぎだらけで、泥だらけで汚く、ろくに手入れもされない鎧を着込んだ男たちが道を塞いでいた。
道の脇の森の中には弓を引く気配もあった。
「いいところの貴族の馬車のくせに、護衛をケチったのか?」
男たちがゲラゲラと品がなく笑う。
馬車を止めたアンダーソンは
「リズベット様、少々時間をください。道に石ころがあって馬車の走行ができません」
と伝えて、片手に剣を持って野盗に駆け出した。
「リズベット様、聖女様をお貸ししていただけませんか?」
エリーの人形使いのスキルは、戦闘にも使える。
「未婚の生娘だから、傷はつけないでね」
私の声を聞いて、エリーは魔力を聖女の死体に通す。
エリーは細かく、そして素早く指を動かすと、聖女は飛び上がるように立ち上がり、馬車の扉を開ける。
飛んできた矢を払い、森の中へ白い影が滑り込んだ。
「せ、聖女様!?」
森の中でそんな声が上がる。
やはり、聖女アンジェリーナは有名だ。
「聖女様からエロい匂いが! へぶし!」
言い終える前に、拳が顔面にめり込む。
ナイス聖女パンチ。
弓を持った野盗が恍惚した顔のまま倒れていた。
そのエロい匂いは、アンダーソンとエリーの私物、2種類のガチホモエロ本の付録『官能的な香りのするしおり』の混じり合った匂いだろう。
しっかり、聖女の死体は燻されたようだ。
きっと、私も同じ匂いがするんだろうなと思うと、少し悲しくなった。
次々と、アンダーソンは野盗を切りつけ、叩きつけ、無力化していく。そこに、無表情な聖女が踊るように舞いながら拳や足を振るう。斬撃と、打撃と、骨の折れる音。
あらかた片付けた後、私は生きている野盗を縛って地面に転がした。
とりあえず一息ついた、と思うと、人影が近づいてきた。そこで私は顔を上げた。
聖女アンジェリーナ……の死体である。
両腕の肘関節が反対方向に曲がり、肩関節も外れて、壊れたマリオネットみたいな感じに立っていた。
「ごめんなさい……ちょっと強く殴りすぎちゃったみたいで……」
エリーは申し訳なさそうに私に謝るけれどさ、私じゃなくて聖女に謝りなよ、マジで!
こんな感じの体で生き返されたら、痛みで発狂しかねないよ。
「それなら大丈夫です。私が治しましょう」
アンダーソンが近づき、聖女の肘を掴んだ。
あれ、アンダーソンは回復魔法使えたかな?
ごきりと音が響く。
「はまりました。次は反対側の肘ですね」
それ、絶対痛いやつじゃん!
アンジェリーナ、あんた、今死んでいて正解だよ!
私は遠い目をしながら、アンダーソンの力技で
聖女を直したアンダーソンは不意に声を上げた。
「そういえば、この者たちの処遇(しょぐう)はどうしますか?」
縛られた野盗たちが一斉にこちらを見る。
困ったなぁ……。
命乞いされながら殺して捨て置く? 後味が悪い。
連れて行って街の衛兵に引き渡す? 報労金で旅費は潤うけど、すごく面倒。
首を切り取って持っていく? 報労金はもらえるけれど……馬車の中は聖女の死体だけでお腹いっぱい胸いっぱいだよ。
私は考えた末に、部下に選択する責任を投げ捨てることにした。
「アンダーソン、この者たちを好きにしてよろしくってよ」
アンダーソンが選択した後の責任は私が取る。私は選べなかったのだから。
すると、アンダーソンは眉間にシワを寄せた。流石にアンダーソンも嫌がるか……。
「リズベット様……」
「なにかしら?」
「いくら私が男好きとはいえ、なんでもかんでもつまみ食いはいたしません」
野盗たちが一斉に青ざめた。
「私にだって、選ぶ権利があります」
「選ぶな」
そういう性的搾取の選択をそそのかす指示をしたのではない。
「強いて言うならば、あの子とそっちの子はしっかりと体を洗えば……」
視線のあった野盗は、ヒィっ、と震え上がった。
「だから、選ぶな」
私は即答し、チラリとエリーの方を見る。
両手を真っ赤にした頬に当てて腰をくねらしていた。
お前らの頭ん中、揃いも揃って、脳みそよりもピンク色だな!
私は深くため息を吐いた。
「あなたたちはこれから街の衛兵に引き渡します」
野盗の面々は私の方に向く。
「わかっているとは思うが、何か良からぬことを考えたなら、このホモ騎士がお前らのケツを容赦なく掘るからな」
絶対にやらかさない、そう心の声が聞こえるほど青ざめた野盗たちが、首を縦に何度も振った。
そんなこんなな出来事がありながら、もう間もなく、最果て修道院へ辿り着く。
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