魔法科高校の飛び級生   作:湯っ娘

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第十話

 九校戦まであと一週間を切り、あやめたちは練習やCADの調整に追われていた。

「あやめちゃん、ダブルチェックお願いできるかな。」

「はい、わかりました。」

 あやめは吉祥寺からデータを受け取ると、漏れがないか確認していく。今日のあやめは吉祥寺のアシスタントとして栞のアイス・ピラーズ・ブレイク用のCADの調整を手伝っていた。吉祥寺とあやめが調整をしている横では対戦形式でアイス・ピラーズ・ブレイクの練習が行われており、順番待ちの選手たちは仲良く談笑している。

「十七夜さんは衣装、何を着る予定なの?」

 話題はアイス・ピラーズ・ブレイクで着るユニフォームについてだった。

 アイス・ピラーズ・ブレイクは遠隔魔法のみで戦う競技のため、ユニフォームの指定がなく、公序良俗に反していない限り、どんな衣装でも構わないとされている。とりわけ女子の選手には派手な衣装で登場する選手が多く、九校戦のファッションショーとも呼ばれていた。

「私は、リーブル・エペーの衣装を着る予定です。気に入っている衣装なので。」

「へえ、素敵ね!」

 キャッキャと盛り上がっている選手たちをよそにあやめは黙々とデータのチェックを済ませると吉祥寺に返した。

「問題ありませんでした。これで一旦は決定ですね。」

「ありがとう。こっちもあやめちゃんの分の確認終わったよ。」

 調整を終え休憩を入れようとすると、将輝がタイミング良く二人に飲み物を持ってきてくれた。

「お疲れ様、二人とも。」

「ありがとうございます。」

「ありがとう、将輝。」

 二人がそれぞれお礼を言ってから一服していると、先ほどまで談笑していた女子選手があやめに目を向けた。

「そういえば、三矢さんはどんな衣装で出場するの?」

「え?えっと、制服か体操着で出ようかと......。」

 女子選手は華美な装いが多いというだけでドレスコードが定められているわけではない。衣装にこれといったこだわりもないため、あやめは衣装を用意する気はなかった。

「ええ?!ダメダメ!そんなんじゃ、他校のインパクトに負けちゃうよ!」

 別にファッションで競うわけでもない上に、男子選手に華美な装いをしている者は早々いない。衣装なんて競技には必要ないだろうとあやめは苦笑いした。

「そうでしょうか......。」

 あやめが控えめに首を傾げると、女子選手たちは揃ってため息をついた。

「ダメよダメ!三矢さん、絶対ちゃんとした衣装の方がいいって!」

「折角なんだから華やかにしなきゃ!」

「でも......一条さんも特に衣装を用意しているわけではないのでしょう?」

 あやめは隣に立っている将輝へ助けを求めるように視線を向けた。

「あぁ、俺も制服で出る予定だ。」

「男子選手は大体そのようですし、別に用意しなくても......。」

「それは男子だからでしょ!」

 ぴしゃりと返され、あやめは言葉に詰まる。

「女子のアイス・ピラーズ・ブレイクは見せ場でもあるの。」

「そうそう!カワイイ服着なきゃ損損!」

 困り果てるあやめの横で、黙って聞いていた吉祥寺が咳払いを一つした。

「......まぁ、その、インパクトも大事だし。衣装があると、気分も上がるんじゃないかな。」

 珍しく歯切れが悪く、適当な理由付けをする吉祥寺に女子選手がにやりと片頬をあげる。

「ほらほら!吉祥寺くんも可愛い三矢さんが見たいって言ってるし!」

「なっ......!?」

 図星をつかれて吉祥寺の顔が一瞬で赤くなる。

「そ、そういう話じゃなくて......!」

 吉祥寺はすぐに言い返そうとしたが、うまく言葉が続かない。視線だけがちらりとあやめに向くが、すぐに逸らされた。

 あやめはその様子に気づきながらも何も触れず、これは困ったと言わんばかりに頬に手を当てた。

「でしたら、義妹に何か借りられないか聞いてみます。」

 あやめはちょっとした茶会用のワンピースなどは持っているがこれといって上等な衣装は持ち合わせていない。この競技のためにわざわざ衣装を用意するのも手間だろう。義妹の詩奈に何か借りられないか聞くしかない。

 あやめがやや諦めたように告げた、その時。

「その必要はないわ。」

 澄んだ声が響いた。空気が、ぴんと張る。

 待ったをかけたのは愛梨だった。

「一色さん......。」

 あやめの声がわずかに硬くなる。

 愛梨はゆっくりと歩み寄ると、あやめの前で止まった。

「衣装は私が手配してあげる。」

「え......?」

「ナンバーズの人間が制服や体操着で出るなんて、ありえないわ。」

 相変わらずの言い草ではあるが、以前ほど刺々しくはない。どういう心境の変化か、あやめは困惑した顔で愛梨と見つめ合う。

「......そこまでしていただくわけには。」

「勘違いしないで......これはナンバーズの名誉のためよ。」

 愛梨はあやめの遠慮をスパッと切り捨て、一拍置いてから続けた。

「......それに、あなたが本気で勝つつもりなら、環境は整えておくべきでしょう。」

 あやめは息を呑んだ。愛梨に叱責された日の言葉が脳裏をよぎる。あれはやはり責めるためだけの言葉ではなかったのかもしれない。

 しばしの沈黙の後、あやめは静かに頭を下げた。

「......ありがとうございます。」

 あやめの感謝の言葉に愛梨の目がわずかに揺れる。あの一件でモヤモヤしていたのはあやめだけでなく、愛梨も同じだったのかもしれない。

「まだ礼を言われる段階じゃないわ。」

 ツンと昔のアニメのキャラクターのような挙動でそっぽを向いた愛梨だったが、その表情はどこか嬉しそうで、あやめの口元にも微笑が浮かんでいた。

 会話はまだぎこちない。けれど、両者の間に以前のような冷たい壁はもう無かった。

 吉祥寺が小さく安堵の息を吐き、一条がわずかに口元を緩める。

 九校戦まで、あとわずか。

 競技だけでなく、それぞれの距離もまた、少しずつ変わり始めていた。

 

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