魔法科高校の飛び級生   作:湯っ娘

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第十三話

 九校戦一日目、あやめと栞と吉祥寺と将輝は本戦スピード・シューティングの観戦に来ていた。━━愛梨と沓子の二人はというと、沓子はバトル・ボードに出場する予定のため、そちらを観戦しに行き、愛梨はその付き添いである。━━

 スピード・シューティングで最も注目されていると言えるであろう選手、七草真由美の試合には予選であるにも関わらず、多くの観客が詰めかけていた。

 とんでもない熱気にあやめは辟易としつつも、その気持ちが分からないでもないため苦笑した。

 真由美の卓越した狙撃技術は一見どころか百見、いや千見の価値があるものだった。

 トップバッターである緊張をものともせず、見事パーフェクトを叩き出して見せた真由美は客席から贈られる拍手に笑顔で応えている。

 あやめも新人戦が始まれば、多少の応援や賞賛受ける機会はあるとは思うが、試合が終わってようやく気が抜けるようになった状態で真由美と同じように愛想よく返せはしないだろう、悲しいことに。

 あやめが試合とは関係ないところで人知れず自信を喪失していると、横に座る吉祥寺は感嘆のため息をついていた。

「流石は十師族だね。パーフェクトとは恐れ入るよ。」

「全くだわ。良い勉強になった。」

 栞も吉祥寺と同様真由美の実力に感嘆の声を漏らした。

 二人も新人戦ではスピード・シューティングに出場する。真由美の超人的な試合を見て自信を喪失しないといいがとあやめは心配していたが、全く余計なお世話だったようだ。しかし、将輝も同じような気持ちだったのか、ホッとしたような顔をしていた。

 男子の方のスピード・シューティングを観に行く吉祥寺と将輝と一旦別れて、あやめと栞はバトル・ボードの試合を観戦している愛梨と沓子と合流した。

 目当ては本戦、女子バトル・ボードの最注目選手である渡辺摩利の試合だ。彼女は真由美の親友で、あやめも一度だけ挨拶させてもらったことがある。女子高の王子様然とした凛々しい女性だったとあやめは記憶していた。

 摩利に対するあやめの認識はあっていたようで摩利の試合には女子の観客が大勢押し寄せていた。

 真由美もそうだったが、第一高校には熱心なファンが多くついているようだ。そのせいか摩利の対戦相手たちは若干萎縮気味に見える。

 あやめとしては新人戦でもこのようなアウェイな空間に放り込まれるのは勘弁願いたい所だった。

 そんなあやめの考えを察してか、愛梨が励ますようにあやめの背中を軽く叩いた。

「そんなに、心配することはないわ。新人戦でそんなコアなファンがついている選手なんて中々いないもの。」

「......そうですね。ありがとうございます。」

 普段の愛梨ならば叱咤を飛ばしていたのだろうが、この空気を見てしまうと、不安が湧くのも理解できるのだろう。

 あやめは珍しい愛梨の励ましに目を瞬かせてから微笑んだ。

「でも、三矢さんならむしろ今回の九校戦でファンがつきそうね。」

 栞のどこか他人事じみた言葉にあやめは思わず顔をしかめた。

「......それはちょっと。」

 三矢家に養子入りしてからというもの、あやめは何かと注目を集めることが多い。

 同情、興味、あるいは単なる好奇心。そういった視線には慣れているつもりだが、好きかと言われれば答えは決まっている。

 そんな会話をしていると、試合開始の空砲が鳴った。

 開始した途端、自爆戦術か、いきなり後方の水面を爆破した第四高校が混乱を作り出していた。

 そんな中、華麗なスタートダッシュを決めた摩利が独走状態になっている。

「速い......!」

 思わず栞が声を上げた。

 水上を滑るボードはほとんど跳ねることもなく、滑らかに軌道を変える。

 無駄のない操作。正確な魔法制御。

 その動きは、まるで水の上を自由自在に舞っているようだった。

「流石じゃのう。」

 沓子は感心したように小さく呟いた。

 単純な魔法技能だけではない。臨機応変な判断力。

 十文字や真由美と並んで第一高校のトップに立つのも納得の腕前だった。

 九校戦はまだ始まったばかりだが、ここまでの試合を見るだけでも、第一高校の層の厚さは嫌というほど伝わってくる。

 誇張なしに九校の中で第一高校は最強だろう。

 早くも優勝の道は無さそうだと悟ったあやめの視線の先で、摩利の魔法が大波を作り出し、試合は一気に決着へと向かっていた。

 

---

 

━九校戦二日目

 あやめはまだ寝ている愛梨を横目に支度を済ませて朝の鍛錬に向かった。

 外は昨日までの喧騒が嘘のような静けさで、遠くに会場のスタッフたちが今日の準備をしている声が微かに聞こえている。

 朝の競技場はまだ観客もおらず、あやめは一人、気持ちの良い朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで、ランニングを始めた。三日後に控える新人戦に向けて鍛錬を怠るわけにはいかない。

 一定のペースで走り続けるあやめの視界の端に人影が映る。

 あやめと同じように朝のランニングをしているのだろう。柔らかな栗色の髪を二つ結びにした女子生徒は後ろを走るあやめに気づいた様子もなく集中した様子で走っている。軽やかな足取りで、呼吸の乱れもほとんど見えない。基礎体力は相当あるのだろう。

 どこかで見かけたような後ろ姿にあやめは首を傾げたが、誰だったかまでは思い至らなかった。恐らく懇親会に居たどこかの生徒だろう。九校戦には多くの学校の生徒が集まっている。顔を覚えきれなくても不思議ではない。

 あやめが走るコースを変えようと足を止めると、前を走る女子生徒があやめに気がついたのか振り返った。

「あ、おはようございます!」

「......おはようございます。」

 笑顔で挨拶されたあやめはその元気の良さに気圧されつつ、挨拶を返した。女子生徒はあやめの不審な様子を特に気にせずランニングを再開し、走って行った。

 あやめは小さく息を吐くと、再び鍛錬に意識を戻し、走り出した。

 規則正しい呼吸に意識を集中しながら、一定のリズムで足を運ぶ。余計なことを考えないようにするのも彼女の鍛錬の一つだった。

 

---

 

 午前、あやめは愛梨たちと共に本戦クラウド・ボールの試合を見に来ていた。

 観客席は昨日と同じく多くの人で埋まっている。それもそうだろう、女子クラウド・ボールの試合には、昨日スピード・シューティングで優勝を収めたばかりの七草真由美が出場する。クラウド・ボールでも彼女が優勝すると専らの噂だ。

 フィールドの周囲には第一高校の応援団の姿も多く、試合開始前から盛り上がっていた。

 試合が始まると、真由美は観客たちの期待通り、次々とボールを打ち返し、反撃の隙を与えないまま得点を重ねていった。

 圧倒的な力量の差にあやめは相手選手に同情しつつ、CADを構えてただ立っているだけの真由美を見つめた。

 打ち返されるボールに四苦八苦している相手選手に比べて真由美は涼しげだ。ここまで魔法力の差があると、二セット目まで持たないだろう。

 試合終了の合図が鳴り、相手選手はコートにへたり込んだ。

 スコアボードには0の文字。結局相手選手は真由美から一点も取ることができず、真由美の圧勝となった。

「......。」

 一方的すぎる試合にあやめの隣で観戦していた愛梨は言葉を失っている。普段ならば多少のことでは動じない彼女が珍しく完全に沈黙していた。

 周囲の観客もあまりの試合展開に感嘆の声を漏らしている。

「二セット目は無さそうですね。」

 相手選手がベンチに座り込んでしまっているのを目にしてあやめは呟いた。

「そのようね。」

 ようやく愛梨も平静を取り戻して頷いた。だが、その視線はまだ得点板に釘付けのままだった。

 あやめは無人のコートを見つめながら、ゆっくり息をついた。

(来年はクラウド・ボールの方に出場するかもしれないし、良いお手本を見たと思おう。)

 ふとそんな考えが浮かび、以前よりも前向きなことを考えている自分にあやめは驚きつつ、少し嬉しくなった。

 

---

 

 クラウド・ボールの決勝を見届けたあやめたちはランチを済ませて、アイス・ピラーズ・ブレイクの観戦に向かった。上級生たちの厚意により、栞とあやめはスタッフ席にお邪魔させていただき、三日後に控える新人戦に向けて勉強させてもらうこととなった。

 スタッフ用のモニタールームに案内されたあやめは物珍しげに部屋の中を見回した。ルーム内には選手の体調をモニターできる機械が置かれており、フィールドを直に見渡すことのできる窓がつけられている。思ったよりも整えられた設備にあやめは驚きつつ、窓からもうすぐ試合が始まるフィールドを見つめた。

 櫓に立って試合開始を待つ先輩は去年の準優勝者だ。氷柱の並ぶフィールドを静かに見下ろすその姿は落ち着き払っており、すでに試合の流れを読んでいるかのようだった。

 アイス・ピラーズ・ブレイクは自陣営12本、相手陣営12本の氷柱の破壊を巡って魔法で競い合う競技だが、ただ魔法を放てば良いわけではない。

 破壊順序、攻防の優先順位、相手選手との駆け引き、柔軟な戦略が求められる競技だ。

 やがて、試合開始の合図が鳴ると、相手選手より速く先輩がCADを操作し魔法を発動した。拳銃型のCADがわずかに閃き、氷柱に亀裂が入る。

 恐らく加重系魔法を使っているのだろう。氷柱が音を立てて割れていった。

「速い......。」

 栞がその速度に感嘆の声を漏らす。

 あやめはフィールドに展開される魔法を食い入るように見つめた。

 先輩が使用している拳銃型のCADは特化型だ。魔法発動の速さは特化型のCADを使っているからだろう。照準補正で魔法の効果範囲を上手く設定している。相手選手が情報強化で上手く攻撃をしのごうとしているが、間に合わないだろう。

 フィールドの攻防を見逃さないように、あやめの視線は一瞬たりとも離れない。

 あやめは窓に手を当て、相手選手の陣地の氷柱が全て破壊されるのを見つめながら、静かに闘志を燃やしていた。

(......私も、負けるわけにはいかない。)

 

 

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