魔法科高校の飛び級生   作:湯っ娘

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第四話

━━入学四日目

 新入生たちの話題は今日から始まる新入部員勧誘週間のことでもちきりだった。勿論それはあやめたちも例外ではなく、部活動についての話に花を咲かせていた。

「あやめちゃんは今日の放課後どうする?どこか気になる部活動があるなら、僕も一緒に見学するけど。」

 吉祥寺がさり気なく放課後もあやめの隣をキープしようと画策していると、当然のように愛梨たちが会話に混ざってくる。

「三矢さんが入る部活、私も興味があるわ。一緒に見学してもいいかしら?」

 珍しく栞が先陣を切ってあやめに同行を申し出た。真顔でどうにも感情が読めないが、あやめの選ぶ部活動に余程興味があるのか若干目が輝いているような気がしなくもない。

「あ、いえ、私はまだ入ると決めたわけでは......。」

「三矢家の魔法特性からしてクラウド・ボール部やSSボード・バイアスロン部が向いてるんじゃないかしら。」

 愛梨はあやめの言葉をまるっきりスルーしてあやめの向いていそうな部活動をピックアップした。

「SSボード・バイアスロン部ならわしも気になっておる部活じゃ!一緒に行くか?」

 沓子がノリノリで同行するかと尋ねたところであやめはこの三人は一ミリも自分の話を聞く気はないようだと悟り、首を横に振った。

 吉祥寺はそんなあやめを不憫に思いつつも、助け舟を出したらまた沓子にからかわれそうなので黙って見守っていた。

「そういえば、一条さんは部活動はどうなさるんですか?」

 あやめが話題を変えようと将輝に話を振ると、将輝の所属する部活動の名前を聞き逃すまいと一気に女子生徒の視線が将輝に集中した。

「俺は風紀委員の仕事もあるから、部活動には所属しない予定だ。特にこれと言って入りたい部活動もないしな。」

「そうなんですね。」

 思わず話を振ってしまったが、このままでは将輝が所属する部活動の新入部員の人数が凄いことになるのではないかと気を揉んでいたあやめだったが、入る予定がないなら安心だと内心でほっと息をついた。

「もし部活動見学をするつもりなら気を付けたほうが良い。」

「えっ?」

 あやめの心情と相反するように将輝の顔は険しかった。

「新入部員勧誘週間は生徒同士のトラブルが絶えないと聞いている。毎年入試の成績がどこからか漏洩して、成績上位者の取り合いなんかも起きているそうだ。」

 夏に行われる全国魔法科高校親善魔法競技大会、通称九校戦の優勝に向けて魔法師の育成に学校は躍起になるという話だ。恐らくは部活動の入部率をあげて九校戦に繋げたい学校側が入試の情報を垂れ流しているのだろう。迷惑極まりない行いではあるが、学校側が主導して行っていることにツッコむことはできない。

 自身の成績がどうだったかなんてあやめはもう覚えてすらいないが十師族という地位だけで群がられるのは確実だろう。これからくる地獄の放課後を想像してあやめは身震いした。同じく愛梨たちも揉みくちゃにされる自分を想像したのか愉快とは言えない顔をしている。

「まぁ、風紀委員や部活連総動員で見回りをするからそこまで心配はいらないさ。」

 あやめたちの様子に将輝が脅しすぎたかと慌ててフォローを入れる。

「三矢さんにはジョージもついてるし......グッ。」

 計算か天然か、余計なひと言を付け加えた親友に吉祥寺が顔を赤くして肘鉄をかました。

 吉祥寺の肘鉄による将輝の謎の語尾が面白かったのかあやめは俯いて肩を震わせる。

「しかし、そうなると放課後は難儀なことになりそうじゃの。なんせわしら有名人じゃし。」

 沓子がくるくると髪の毛を弄びながら呟く。口ぶり的にあやめたちが一緒に部活動を観て回るのはもう確定のようだ。

 あやめは面倒だと思いつつもそうですね、と頷きを返した。

 

---

 

 放課後、すぐに帰ればトラブルに巻き込まれずに済むのでは?というあやめの考えを否定する光景が眼下に広がっていた。新入生を逃がすものかと言わんばかりの気迫を纏って昇降口で待ち伏せする上級生をあやめは教室から辟易とした気持ちで見下ろす。校内での魔法の私的使用は禁止されているため、CADを携帯していても、生身であの人の海を泳ぎ切るしかない。

「これは......すごいね。」

 吉祥寺が引き気味に感想を述べる。

 あやめとしては人目を忍んで帰宅したいところだが、愛梨たちがそれを許さないだろう。これから襲い来る勧誘者たちを思って静かに覚悟を決める。

「と、取り敢えず下に降りてみましょうか。」

 愛梨が先んじて廊下に出ると、もう既に待ち構えていた上級生があっと言う間に愛梨を取り囲んでいく。教室から出てくるのを待ち伏せしていたのかと呆気に取られていると、愛梨の後ろにいた沓子や栞も共に勧誘者たちの輪に呑み込まれる。

 次は自分の番だと察したあやめと吉祥寺はお互い顔を見合わせてから頷き合うと上級生たちの隙間を勢い良く走り抜けた。普段ならば廊下を全力ダッシュなんてしないであろう二人だが今回だけは話が違う。なんとか人目がない教室に逃げ込んだ二人は揃って安堵のため息をついた。

「まさか、これほどだったとは......。」

「驚きでしたね......。」

 勧誘期間が終わるまで放課後は変装しようかと半ば本気であやめが考えていると、同じく逃げ場を求めてきたのであろう息を切らした女子生徒が慌てた様子で教室に入ってくる。女子生徒は息を整えてから顔を上げると吉祥寺とあやめの顔を交互に見やってからハッとした顔をしてまたもや慌てて教室を飛び出ていく。

「す、すみません。私お邪魔するつもりはなくて!ごめんなさーい!」

 気が動転していたのか、女子生徒はあやめと吉祥寺が密会していると勘違いしたのだろう。あやめが制止の手を挙げる前に嵐のように去って行った。

 ぱたん、と教室の扉が勢いよく閉まる。

「......えっと、何か勘違いしてたみたいだね。」

 吉祥寺が頬を掻きながら苦笑する。

「......みたいですね。」

 あやめはどう返事を返したものかと苦笑いを浮かべた。

 よりにもよって、逃げ込んだ先が空き教室。しかも二人きり。タイミング最悪である。追いかけて弁解しようにも今出たら確実に勧誘に捕まるのは目に見えている。現に教室の外からは、廊下を行き交う足音と歓声がまだ聞こえていた。

「......あやめちゃんは、部活動、どこか入りたい所は決めてるの?」

 不意に、吉祥寺が真面目な声で尋ねた。

 あやめは少しだけ視線を落とす。

「正直、部活動に所属するかはまだ決めていないのですが......気になる部活なら。」

 あやめは今まで魔法競技や普通の競技、サークル活動に参加したことがなかったため、そういった部活動にそこそこ興味を持っていた。

「......真紅郎くんは、どこか入らないんですか?」

「うーん。将輝が入らないなら、僕も特にはいいかな。」

 吉祥寺は悩むような素振りで下を向いてからあやめを見やった。

 その瞬間━━ガラッ、と扉が再び開いた。

「おぬしら、逃げ足だけは達者じゃの。」

 仁王立ちする沓子、そしてその背後には、やれやれといった様子の愛梨と栞が立っている。

「よくここがお分かりになりましたね?」

「当然じゃ。廊下を全力疾走する姿、しっかり見られておるぞ。」

「うわ......。」

「しかも“仲良く二人で”な。」

 にやりと沓子が笑うと吉祥寺が耳を赤くして俯いた。

 話題を戻すため愛梨がパン、と手を叩く。

「このまま隠れていても埒が明かないわ。どうせなら、堂々と回りましょ。私たち全員で。」

「全員で......?」

「数は力よ。五人で固まっていれば、強引な勧誘はしづらいはずだわ。」

 ゴリ押し戦法にも思えるが一応理にかなっている。

 あやめは小さく息を吐いた。

「......わかりました。行きましょう。」

 扉の前にまるで出陣前の隊列のように並ぶ。

「作戦は単純じゃ。」

 沓子が指を立てる。

「気になる部活だけ見る。それ以外は即離脱!」

「逃走経路は僕が確保するよ。」

 吉祥寺が真顔で言う。

「なんの作戦会議なのですか......。」

 呆れながらも、あやめの胸は少しだけ高鳴っていた。

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