魔法科高校の飛び級生   作:湯っ娘

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第六話

 翌朝、どこか落ち着かない教室の空気に、あやめは眉をひそめた。

 ざわめきの中心にあるのは、昨日の屋内演習場での一件だ。クラスメートはあやめに気が付くと、興奮気味に歩み寄ってきた。

「昨日上級生の乱闘騒ぎに巻き込まれたってほんと?!」

「止めたのって、三矢さんなんでしょう?流石だわ!」

 好奇と賞賛と、少しの誇張。悪意はないのだろう。ただ、昨日の一件はあやめの知らぬ間に尾ひれをつけていたようだ。

「いえ、私は何も......。」

 遠慮気味にあやめが否定しようとした矢先、別の声が飛ぶ。

「でも、魔法での私闘なんて物騒だよね......。」

「マーシャル・マジック・アーツって結構危険って聞いたよ。」

「三矢さんにはもっと落ち着いた部活の方が向いてるんじゃないかな。」

 どれもあやめを心配するような声音だったが、押しつけがましい善意だとあやめはモヤモヤした気持ちを抱えつつ、微笑みを崩さぬよう努めた。

「良かったら、一緒に弓術部に入りませんか?三矢さんに似合うと思いますよ!」

「クラウド・ボール部はどうです?」

 次々と差し出される“居場所”。どれも厚意だと分かっていても、あやめのモヤモヤが晴れることはない。

「......ありがとうございます。でも......もう少し、考えたいので。」

 その言葉は、昨日から何度も胸の中で転がしているものだった。クラスメートたちはあやめが断ったことを気にせず、素直に引き下がる。

 気にかけて貰えて、良くしてもらえて、ありがたいことだと分かっている。だが、日が経つにつれ、あやめの胸の奥は落ち着かなくなっていった。

 弓術部の弦音を想像してみる。ボールをラケットで打つ想像をしてみる。どれも、悪くはなかった。

 しかし、何よりもあの日見た模擬試合の風景だけが、やけに鮮明だった。

 新入部員勧誘週間、最後の放課後。あやめは人知れず校舎を出ていた。向かう先を、はっきり意識しないまま。

「あやめちゃん。」

 後ろから軽い声が追いつく。振り向けば、吉祥寺が立っていた。ついてきていたのか、今、あやめに追いついたのか、それすら分からないほどにぼんやり歩いていたのかと、あやめは自分に驚きを隠せずにいた。

「......マーシャル・マジック・アーツ部に入るか、迷ってるの?」

「そんなに分かりやすい顔をしていたでしょうか。」

「うん。あの日からずっとね。」

 二人は並んで歩き出す。行き先を確かめるまでもなく、二人の足は同じ方向を向いていた。

「......皆さん気にかけてくださっているのに、どっちつかずで申し訳ないです。」

 あやめがぽつりと呟くと、吉祥寺は肩をすくめた。

「それはそれ。これはこれ、でしょ」

 少し間を置いて、続ける。

「そんなに深く考えなくて良いと思うよ。」

 屋内演習場の建物が見えてくる。

 あやめはその場に立ち止まって、隣に立つ吉祥寺の顔を見つめた。

「......私が入部したら、またご迷惑をおかけしてしまわないでしょうか。」

「あのことは別にあやめちゃんのせいじゃないよ。それに、先輩もいつでも来てくれって言っていたし。」

 吉祥寺はあやめを安心させるように笑った。

「大丈夫だよ。あやめちゃんの思うようにしたらいい。」

 背中を押されたような気がして、あやめはギュッと制服の裾を握った。

「......ありがとうございます。真紅郎くん。」

「どういたしまして。」

 あやめが演習場の扉を開けると、今日のマーシャル・マジック・アーツ部の模擬試合はとっくに終わったようで、他の部が見世物をしている真っ最中だった。演習場を見回していると、中条があやめに気づいてやってくる。

「やぁ、また来てくれたんだね。」

「......あの!」

 何か言いたげなあやめの様子に中条は続きを促すように頷いた。

「私、マーシャル・マジック・アーツ部に入部したいです......!」

 ほんの一瞬の間があって、それから中条は穏やかに笑った。

「うん、歓迎するよ。」

 中条は大げさに喜びはしなかったが、あやめにとってはその一言で十分だった。

 

 この場所が、これからの自分の居場所になるのだと━━あやめは確かに感じていた。

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