転生したらドンちゃんのママになりました ~娘がティアラ三冠取ったあたりで本格化が来てしまったのでメイクデビューするウマママさんじゅうぴーさい~ 作:雅媛
ウマ娘に転生して三十うん年。前世はブラック企業で過労死したボッチの日本人男性だったが、今世ではそこそこ、いや、かなり良い人生を歩んでいると思う。
最初は自分が女の子──それも、耳と尻尾の生えた『ウマ娘』になってしまったことにひたすら戸惑っていた。けれど、10年も経てば新しい身体にも徐々に慣れてくる。ましてや夫と結ばれ、お腹を痛めて子供を産む頃には、前世の記憶なんて霞がかった過去の彼方へと追いやられていた。
幼い頃は、前世の知識と大人の精神年齢を武器に「俺つえー」「チートで無双だ」なんて息巻いていた時期もあった。事実、地道な努力が実を結び、狭き門である中央のトレセン学園に入学することまではできたのだ。
しかし、ボクの姿がターフを彩ることは一度もなかった。ウマ娘が競うために必要不可欠な身体の急成長期、『本格化』が、ボクには一向に訪れなかったのである。
ウマ娘の中には、極稀に本格化が来ないまま引退を迎える子もいるらしいし、逆に、早熟すぎて入学前に本格化を終えてしまう子もいるときいている。才能とタイミングの世界だ、それならそれでしょうがないと割り切るしかなかった。
ただ、身長が140センチにも届かないところでピタリと止まり、体型までツルペタなロリのままで固定されてしまったことだけは、いまだに若干の納得がいっていない。
その後はトレセン学園を無難に卒業し大学へ進学した。そして、この合法ロリ体型にドストライクで運命を感じたらしい男に猛アタックされ、そのまま結婚。
夫は「ロリコンで性癖がねじ曲がっている」という致命的な一点を除けば、ルックスも性格も経済力も完璧な男だった。前世の知識を活かして株などでそこそこの財を築きつつ、すっかり夫に甘やかされて、いわゆる“メス堕ち”状態を満喫しながら愛の結晶を授かった。
そうして生まれた可愛い可愛い愛娘が、先日やってのけたのだ。
一生に一度しか挑めないウマ娘の晴れ舞台、その頂点である『トリプルティアラ』の三冠奪取を。
娘の名前は、ジェンティルドンナ。
ボクの自慢のドンちゃんは、誰もが振り返るほどの美人で、長身で、手足が長くスタイルも抜群だ。あの圧倒的なプロポーションとフィジカルは完全に夫の血筋だろう。何せ、ボクとは全く違うのだから。
親族総出で最終戦の応援に駆けつけ、涙と歓声の中で三冠達成を見届けた。
その後、身内や関係者を招いて盛大な三冠記念パーティを開き、無事に大役を終えてようやく一息ついた、その夜のことだった。
ふと、リビングのソファから立ち上がろうとした時だ。
身体が、羽のように軽い。
まるで細胞の一つ一つが弾けるように熱を持ち、足先から頭のてっぺんまで、今まで感じたことのない圧倒的な『力』が漲ってくるのがわかった。窓の外に広がるアスファルトの道が、まるで自分を待つターフのように見えた。走りたい。今すぐ、風を切り裂いて全力で駆け抜けたい。
──あれ?
もしかしてボクの本格化、今になって来てない……?