転生したらドンちゃんのママになりました ~娘がティアラ三冠取ったあたりで本格化が来てしまったのでメイクデビューするウマママさんじゅうぴーさい~   作:雅媛

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9 メイクデビュー

 いざ、メイクデビュー戦である。

 ゲートの向こうに広がる青々とした芝生を見つめながら、ボクは呆然としていた。まさか、さんじゅうピー歳にもなって、自らの脚でターフに立つ日が来るとは夢にも思っていなかったのだ。

 

 なお、メイクデビュー戦だが、一生に一度しか出られないという縛り以外、例えば年齢制限とかはなかったりする。本格化する時期がまちまちだからそういうルールになっているらしく、学生時代未出走だったボクはいまだにメイクデビューする資格があったのだ。

 

 出走前のパドックは、異様な空気に包まれていた。

 周囲を歩いているのは、これから夢の舞台へ飛び出そうとしている中等部や高等部の若いウマ娘たちばかりである。そこに、身長140センチ未満の合法ロリがブルマ姿で混ざっているのだから目立たないわけがない。

 

 しかも、普段トレセン学園でヴィルシーナさんやドンちゃんに「可愛い可愛い」と甘やかされ、着せ替え人形にされている姿を目撃されているせいだろうか。周りの若いウマ娘たちからは、すっかり『誰かの妹が飛び級で入ってきた』と勘違いされているようだった。

 

「あら~、可愛い妹ちゃんね。緊張してるの?」

「ほらほら、リラックスしてね。よしよし」

 

 パドックの周回中だというのに、隣を歩くウマ娘たちから頭や肩を優しく撫でられる始末である。

 ……こう見えてもボク、さんじゅうピー歳なんですけど!? あなたたちが生まれる前に普通の大学を卒業して、立派に娘を産んだ経産婦なんですけど!?

 という内心の絶叫は、どうにか飲み込んだ。

 

 とはいえ、この多少緩んだ雰囲気はボクとしても非常に助かった。

 もし仮に、ドンちゃんやオルフェーヴルが纏っているような『近づいたら殺す』レベルのバチバチに尖った闘気を出されていたら、ボクの胃に穴が空いていたかもしれない。

 ガリガリと削り合うようなアスリート特有の重圧に耐えられるほど、おばさんのメンタルは若くないのだ。

 

 ――だがしかし。いざコースに入場し、ゲートに入った瞬間。

 周りの若ウマ娘たちの顔つきが、一瞬にして『勝負師』のそれに変わった。

 

(嘘でしょ!? さっきまでの優しいお姉ちゃんたちはどこ行ったの!?)

 

 ターフに出た途端、みんなガチの殺気立ちまくりである。和やかな『プリティー』成分は完全にどこかへ出張してしまい、そこにあるのはただ純粋な闘争本能だけだった。

 ヒィィ、と泣きそうな気分になりながら、ボクは無我夢中でターフを蹴った。

 横から迫り来る若い才能のプレッシャーに怯えながらも、規格外の本格化を迎えた身体と前世から培った謎の根性で必死に足を回す。

 

 結果として、どうにかこうにか1着でゴール板を駆け抜けることができた。

 

「はぁっ、はぁっ……ふふん。やっぱり、大人は経験が違うんだよ……っ(震え声)」

 

 ゴール板を過ぎた先でそう強がってみせたものの、実際はプレッシャーと疲労で膝がガクガクと笑っていた。精神的な摩耗が激しすぎる。

 

 そして、レース後の控室。

 そこには、自分がトリプルティアラを取った時以上に歓喜の涙を流し、大はしゃぎしている愛娘の姿があった。

 

「やりましたわママ!! 記念すべき初勝利、歴史的な第一歩ですわ!! 今すぐ超高級ホテルを貸し切って、盛大な祝賀パーティーを開きませんと!!」

「俺の妖精さんが世界で一番輝いていたぞぉぉぉ!! よし、親族と関係者を全員集めて三日三晩の宴だ!!」

 

 親子揃って瞳に万札のマークを浮かべながらスマホを取り出し、どこぞのホテルやケータリングに電話をかけようとしていたので、とりあえず夫の鳩尾には容赦のない右ストレートを、ドンちゃんの脳天にはチョップを叩き込んでおいた。

 

「バカ親子!! メイクデビュー1勝したくらいで、親族集めてパーティーなんかするんじゃないよ!!」

 

 ボクの華々しくも胃の痛いウマ娘生活は、まだまだ始まったばかりである。




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