転生したらドンちゃんのママになりました ~娘がティアラ三冠取ったあたりで本格化が来てしまったのでメイクデビューするウマママさんじゅうぴーさい~ 作:雅媛
デビューも済ませたし、いざ、海外遠征である。
今回、ボクはドンちゃんのドバイ挑戦に同行することになった。
親としてのメンタルサポートはもちろんのこと、本格化を迎えた今のボクなら、異国の地での頼れる併走相手としても十二分に役目を果たせるからだ。
日本に残る夫は、仕事の都合でどうしても外せなかったのだが、出発前夜から「俺の妖精さんが中東の石油王に攫われてしまう!!」と涙と鼻水まみれで大騒ぎしていた。
どうにか彼を黙らせるために、ボクまで節々が痛くなるまで『うまぴょい』をして全力で搾り取ってやったのだから、未練がましく泣いていないで、今日からちゃんと社会人として仕事に行ってほしいものである。
さて、そんなこんなで降り立ったドバイの地。
煌びやかな街並みと熱気に包まれた環境の中、ドンちゃんは非常にリラックスして調整を進めていた。それは良いことなのだが……一つだけ、ボクには大きな不満があった。
現地の人々やホテルのスタッフが、ドンちゃんとトレーナーさんを見て「Oh、ビューティフルな奥様! 新婚旅行のご夫婦ですか?」と頻繁に勘違いしてくるのだ。
ドンちゃんは「まあっ! そ、そう見えますの!? 困りますわ~!」などと言いながら、顔を真っ赤にして満更でもない様子(というかご機嫌度MAX)なのだが、問題はボクの扱われ方である。
二人の隣に立つボクを見て、現地の人が口を揃えて言うのだ。
「とってもキュートな妹さんだね!」
「いやいや、若いお二人の可愛い娘さんかい?」と。
……解せぬ。
確かにドンちゃんとは顔立ちのベースが似ていて、一目で血縁関係があるのは明らかなのだろう。
ドンちゃんは身長170センチ弱の長身で、ボクは140センチに満たないちんちくりんだ。その差じつに30センチ以上というえげつない体格差があるのだから、初見で親子(しかもボクが親)だと見抜けないのはしょうがないのかもしれないが……。
一応言っておくが、ボクの方が親なのだ。三十うん歳の立派な経産婦なのだ。いくらなんでも、自分の娘の「娘」扱いされるのは複雑すぎる。
「トレーナーさん! 現地の方もああ言ってますし、今日は『夫婦水入らず』で夜の街を歩きませんか!?」
「いや、ジェンティル。明日は大事なレースなんだから早く寝なさい。それとドナさんを置いていくわけにはいかないだろう」
「チッ……」
「今、見事な舌打ちが聞こえたんだけど?」
浮かれた娘の頭にチョップを落としつつ、ドタバタと迎えたドバイでの本番。
異国での勘違いがよほど良い精神安定剤になったのか、それとも母との併走で仕上がりが完璧だったのか。ドンちゃんはかつてないほどの絶好調でターフを駆け抜け、見事に世界の強豪たちを真っ向からねじ伏せて勝利を飾ってしまった。
ウイニングランの後、トレーナーさんに満面の笑みで飛びつき、ドサクサに紛れて熱烈にハグをしている愛娘の姿を見ながら、ボクは小さく息を吐く。
まあ、可愛い可愛い娘が、こうして世界という大きな舞台で頂点に立ち、あんなに幸せそうに笑っているのだ。
ボクの理不尽な扱いくらい、今回だけは親として笑って目を瞑ってやるとしようか。