転生したらドンちゃんのママになりました ~娘がティアラ三冠取ったあたりで本格化が来てしまったのでメイクデビューするウマママさんじゅうぴーさい~ 作:雅媛
何の偶然か、抽選でうまく通ってしまったからか。
ボクはあろうことか、一生に一度の晴れ舞台であるティアラ戦線の最初、『桜花賞』に出走することになってしまった。
さて、GⅠに出るとなれば必要になるのが『勝負服』である。
あまり時間もないのでさっさとデザインを決めないといけないのだが、前世のボクはファッションにひどく疎いボッチ男だったし、今世でもその手のセンスは皆無だ。
仕方なく、家族の意見を募ることにした。
「俺の妖精さんには絶対にこれ!!」
「……」
「ごふっ!?」
勢いよくバンッとテーブルに出された夫の案は、『水色のスモックと黄色い帽子』だった。
さすがに幼稚園児は身長140センチ未満でも無理があるだろ!! あとここはターフであって、お遊戯会の会場じゃないんだよ!!
思わずみぞおちへ的確に拳をたたき込んだが、ボクは絶対に悪くない。
「ママ。これでどうでしょうか……?」
「これは……」
気を取り直して。長女のブルーちゃんが恐る恐る提案してくれたのは、彼女らしい上品で大人っぽいドレス風の衣装だった。
ブルーちゃんもドンちゃんも、この系統の勝負服だ。色味こそ青と赤で違うが、高身長でスタイルの良い彼女たちが着ればそれはもう美しく映えていた。
だが、悲しいかな。ちんちくりんのボクがこの大人びたドレスを着たら、どう見ても『七五三』か『子供のおままごと』にしか見えないのだ。ブルーちゃんの優しさが逆に胸に刺さる。
「ママ! 絶対にこれですわ!!」
続いてドンちゃんが自信満々に出してきたデザイン画は、『サスペンダー付きのプリーツスカートにブラウス』だった。
……さすがにこれは、小学生ではないだろうか。
「おおっ、それも素晴らしいなジェンティル! ランドセルも背負わせよう!!」と、床から復活した夫が物凄い勢いで食いついてきたので、無言でもう一度拳で沈めておいた。
しかし困った。どれも微妙だが、拒否してばかりいると自分で決めないといけない。
そもそも、冷静に考えてみてほしい。ウマ娘の勝負服は、あくまで『レースで走るための服』なのだ。ひらひら、フリフリ、過剰な装飾。可愛いのは認めるが、スポーツの場においてはおかしいだろう。
そう論理的に考えたボクは、人間の陸上競技のユニフォームを参考にすることにした。
そうして特急で仕立て上げ、出来上がったボクの勝負服。
それは、身体にピタリと密着する『へそ出しのセパレートシャツ』と、『ブルマ』である。
試着室から出た瞬間、へそ出し&ブルマという破壊力抜群の格好を見た夫が、鼻血を吹き出しながら「おおおおおおお!!!」と大興奮で天を仰いだので、今日三度目のストレートを顔面に叩き込んでおいた。
とはいえ、この勝負服の機能性は抜群だ。空気抵抗は極限まで計算されているし、股関節や肩の可動域も一切邪魔しない。ひたすらに走りやすい。
そして迎えた、桜花賞の本番。
華やかなドレス風やアイドル衣装のような勝負服が並ぶティアラ路線において、一人だけ陸上の『ガチユニフォーム』を着ているボクは、尋常ではないほど浮いていた。
パドックの観客も「えっ、あのちっちゃい子、一人だけガチの陸上選手みたいだけど……」とザワついている。
だが、気にすることはない。
すでに年齢が他の出走メンバーの倍(さんじゅうピー歳)という時点で浮きに浮きまくっているのだから、今さらである。
なお、肝心のレース結果だが。
「こんだけガチのユニフォーム着て、ヒラヒラのフリフリを着てる小娘たちに負けるわけがない、負けたら恥ずかしくて死ぬ」という強烈な思い込みと執念のおかげか。
気づけばボクは、桜花賞のゴール板をトップで駆け抜け、娘に続いてティアラ路線の一冠目を獲ってしまっていた。
母娘制覇である。娘の方が先に制覇しているというところには目をつむることにする。