転生したらドンちゃんのママになりました ~娘がティアラ三冠取ったあたりで本格化が来てしまったのでメイクデビューするウマママさんじゅうぴーさい~ 作:雅媛
さて、結婚式の準備である。誰の結婚式かと言えば、もちろん次女のドンちゃんのものだ。
ドンちゃんも来年でトレセン学園を卒業する。そうなれば、そのまま大学へ進学しつつ、担当トレーナーさんと結婚して、ボクのように若くしてママになるのだろうと思われる。
前世の日本人の感覚からすれば「高校卒業即結婚・出産」なんて早すぎるヤバい将来設計だが、このウマ娘の世界ではごく普通のことなのだ。なんせ『ウマ娘の数がそのまま国力に直結する』なんて言われるくらいだから、国を挙げての早期ライフプラン支援が手厚いのである。
相手は当然、彼女の担当トレーナーさん。
まだプロポーズされたわけでも確定したわけでもないが、まあ九割五分くらいで成功するだろうと踏んで、今のうちから式場やドレスの準備を進めているのだ。万が一、残りの五パーセントを引いてダメだった時は、親として全力で慰めてやろう。いくらウマ娘の想いが重くても、相手の意思があることだからね。絶対じゃない。
──と、そんな風に水面下でボクがウキウキと準備を進める中。
あろうことか、ジャパンカップを見事勝利した直後のドンちゃんとトレーナーさんの間で、『専属契約解除』の騒動が勃発したのである。
「いや、今さらなんで!?」
頭を抱えたが、原因はすぐに判明した。
どうやらボクの夫が、どこから目線なのか「愛娘にはもっと実績のある、ふさわしいトレーナーを選ぶべきだ!」などとアホなことを言い出し、それに今のトレーナーさんが「……確かに、僕なんかより相応しい人がいるかもしれない」と応じかけてしまったらしいのだ。
とりあえず、余計な火種を撒き散らした夫には、問答無用でキン肉バスターを極めておいた。首と腰が同時にへし折れる音がしたが、まあウマ娘の夫を長年やっているのだから生きてはいるだろう。
問題はトレーナーさんの方である。なんで応じかけたのか、全く意味がわからない。
いやだって普通に考えて、担当ウマ娘にトリプルティアラを獲らせて、海外のドバイも勝たせて、おまけにシニアでジャパンカップ含めて数個のGⅠまで勝たせるトレーナーに匹敵する「もっといいトレーナー」なんて、この世界のどこにいるっていうだ。自己評価がバグりすぎである。
しかし、大好きなトレーナーさんが契約解除に応じかけたという事実に、ドンちゃんの乙女心は完全にへし折れてしまった。
「うわぁぁぁん! わたくし、やっぱりトレーナーさんに選ばれなかったんですわ──っ!!」
自室のベッドに突っ伏して、普段の女王の風格はどこへやら、大声で泣きじゃくるドンちゃん。
さらに「よくも姉さんを泣かせたな! あの野郎、絶対に許さない!!」とシスコンを最悪の形でこじらせた長男のレーくんが、物理的にトレーナーさんを襲撃しに行こうとしたので、とりあえず首根っこを掴んで、首を痛めて転がっている夫と同じ部屋に放り込み、外から鍵をかけておいた。
まったく、面倒ごとが大爆発である。
まあ、トレーナーさんがドンちゃんを異性としてどう思っているかはボクにはわからない。
本気で「生徒との結婚はないわー」と思っているなら、それはもうしょうがない。
だが、お互いの推測や勘違いだけで決別するのは一番よくないことだ。
ボクは泣き腫らしたドンちゃんを座らせ、母親として、そして人生の先輩として、まずはみっちり説教をすることにした。
「いいかい、ドンちゃん。今回の件、あっちの自己評価の低さも問題だけど……根本的には『貴女が普段からトレーナーさんを褒めない』のが一番悪いのよ」
「えっ……? わ、わたくしが……悪いですの?」
「そう。前から気になってたけど、あんたツンデレの『ツン』ばっかりで、全然感謝や好意を素直に伝えてないでしょ。それじゃあ相手だって自信をなくすよ」
男という生き物は、というか基本的に生き物は、基本的に褒められて伸びるし、褒められないと不安になるのだ。
ボクだって、あの変態夫のことは普段からかなり大袈裟に褒めておだてている。
まあ、それで調子に乗りすぎた時は今回みたいに物理的に〆るわけだが、要はその『アメとムチ』のバランスが大事なのだ。ツンだけのツンデレなんて、ただの理不尽な女でしかなく、ちっとも可愛くないのである。
「いい? 変なプライドは捨てて、ちゃんと自分の素直な気持ちを伝えてきなさい」
そうアドバイスをして、ボクはドンちゃんの背中を力強く叩いて押し出した。
あとはもう、若い二人の問題だ。知らん。万が一フラれたら、その時は一緒にヤケ酒(ドンちゃんはジュースだけど)でも付き合ってやろう。
──結論から言えば。
その後、無事に話し合い(という名の愛の告白)を終えた二人は、見事に固い絆を取り戻した。
年末の有馬記念ではドンちゃんが圧巻の勝利を収め、もちろん専属契約も継続となった。
ボクがこっそり進めていた結婚式場の予約も、無駄にならずに済んだことだけ告げておこう。