転生したらドンちゃんのママになりました ~娘がティアラ三冠取ったあたりで本格化が来てしまったのでメイクデビューするウマママさんじゅうぴーさい~ 作:雅媛
ついに、この時がやってきた。
ウマ娘たちの集大成であり、多くのウマ娘が引退レースとして選ぶ夢の舞台、距離別に行われる『URAファイナルズ』である。
今回、娘のドンちゃんだけでなく、なんとボクもこの晴れ舞台に出走することになった。
ボクのウマ娘としての戦績は、トータルで5戦2勝。
数字だけ見れば控えめかもしれないが、そのうちの1勝がティアラ路線の一冠(桜花賞)なのだから、さんじゅうピー歳の経産婦ママランナーとしては、歴史に名を残すレベルで上々すぎる結果だろう。我ながらよくやったと思う。
ドンちゃんは中距離の区分にエントリーしたが、ボクが選んだのはマイル部門だ。
なんだかんだで持ち前の規格外のパワーと大人の意地で、予選、準決勝とトントン拍子に勝ち進んでしまったのだが……
決勝戦のパドックで、ボクは思わず苦笑いを浮かべた。
「本日はよろしくお願いしますね、ドナさん」
「あはは……お手柔らかにね、ヴィルシーナさん」
なんと、決勝戦の相手として、娘の最大のライバルであるヴィルシーナさんとかち合ってしまったのだ。
彼女はドンちゃんと同じティアラ路線を歩み、すべてドンちゃんに阻まれて『オール2着』という悔しい思いをしてきたウマ娘だ。
しかし、シニアになってからの彼女は一味違う。マイルの女王を決める『ヴィクトリアマイル』で堂々の2連覇を果たした、正真正銘のマイルガチ勢である。
ノリと勢いと謎の思い込みで桜花賞を勝ってしまったボクとは、マイルという距離に対する情熱もレベルも全く違うのだ。
ふと観客席を見上げると、うちの長男のレーくんが柵にすがりつき、顔をぐしゃぐしゃにして号泣しながらヴィルシーナさんに声援を送っていた。
どうやら彼、ヴィルシーナさんがこのURAファイナルズをもって引退し、担当トレーナーさんと結婚するという事実を(今さら)知ってしまったらしい。初恋の完全な終わりである。哀れな息子よ。
ただ、君は泣き叫ぶ前に、両脇に立っているヴィルシーナさんの妹たち、シュヴァルちゃんとヴィブロスちゃんのジト目に気づいたほうがいいと思う。そのうち背中から刺されるぞ。
さて、いよいよマイル決勝のゲートが開いた。
「いっけえええええええええっ!!」
ボクはいつものガチ陸上ウェアで、大人気なく最初から全力でカッ飛ばした。
三十路を超えてから目覚めたこの有り余るエネルギーも、きっとこれで最後だ。
今までの鬱憤も、家族への愛も、全部ひっくるめてターフに叩きつける。
最終コーナーを回り、直線に入った時点では、ボクは先頭集団で完璧なポジションにつけていた。
(いける! このままいけば、伝説のママウマ娘として有終の美を──!)
そう思った瞬間だった。
外から、凄まじい気迫とオーラを纏った青い影が、ボクをあっさりと抜き去っていった。
「トレーナーさぁぁぁぁぁん!! 見ていてくださいませえええええっ!!」
ヴィルシーナさんである。
普段の優等生でお嬢様な仮面を完全にかなぐり捨て、愛するトレーナーへの重すぎる想いと、マイル女王としての絶対の意地を爆発させた彼女の末脚は、もはや誰にも止められなかった。
結果は、ヴィルシーナさんの圧勝。
ボクはそれに次ぐ2着でゴール板を駆け抜けた。
「はぁっ、はぁっ……完敗だ。やっぱり、愛の力と若さには勝てないね」
膝に手をつき、荒い息を吐きながらターフを見上げる。
悔しさは全くなかった。むしろ、娘のライバルであり、時にはお茶をした彼女の最高に輝く姿を特等席で見られたのだから、清々しい気持ちでいっぱいだった。
ウイニングライブでは、センターで満面の笑みを浮かべるヴィルシーナさんの後ろで、ボクもブルマ姿のまま全力で踊りきった。
なお、夫は観客席で尊さのあまり泡を吹いて倒れていたらしい。
こうして、遅れてきた超新星・ドナママの短くも濃密すぎた青春のレース生活は、笑顔と喝采の中で、無事に幕を下ろしたのである。