転生したらドンちゃんのママになりました ~娘がティアラ三冠取ったあたりで本格化が来てしまったのでメイクデビューするウマママさんじゅうぴーさい~ 作:雅媛
イヤイヤ、待ってほしい。今さら本格化とか来ても本当に困るのだ。
なんせ現状、ボクはウマ娘さんじゅうぴーさいである。三十路という単語すらおこがましい、立派な経産婦だ。見た目こそローティーンどころか、映画館や電車で平然と子供料金で通れそうな合法ロリ体型を維持しているというか変わっていない訳だが、中身も実年齢もすっかり落ち着いたおばさんなのだ。今から青春の汗を流してターフを駆け抜けろと言われても困惑しかない。
ひとまず、事の顛末を夫に相談することにした。
「なんか今頃になって本格化が来たっぽい。これから背が伸びて、ボッキュッボンになるかも」
「嘘だろ……俺の可愛い妖精さんが……っ!?」
夫が絶望したように泣きながら頭を抱えて崩れ落ちたので、とりあえずグーでぶん殴っておいた。
もし今後、ボクが急激に成長してドンちゃんみたいなダイナマイトボディになったら、このド変態にはあっさり離婚されるかもしれない。まあ、その時はその時だ。たっぷり慰謝料と財産分与をもらって悠々自適に暮らそう。
続いて、愛娘のドンちゃんにも相談してみた。
「──というわけで、ママの背が伸びたらパパと離婚するかもしれないから、よろしくね」
「いや、本格化よりもその離婚するとかいう話の方が困惑なのですわ……」
「でも、ママがロリじゃなくなったら、アイツ絶対にボクに興味なくすと思うんだよね」
「本気で言ってますの……? パパはママの全てを愛していらっしゃいますわよ?」
「いやいや。ロリコンは不治の病だから」
ドンちゃんは優雅な所作のまま、深い深いため息をつき、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえていた。娘に苦労をかけるダメな親で申し訳ない。
そして最後に、なぜかドンちゃんの担当トレーナーさんに熱烈なスカウトを受けた。
彼曰く、庭先で無意識のうちにシャドーボクシングならぬシャドーランニングをしていたボクの動きを見て、天啓を受けたらしい。
「貴女のそのバネ! 踏み込み! 迸るオーラ! 貴女なら何でも勝てますよ!! ぜひ私に担当させてください!!」
最初は走るつもりなんて欠片もなかった。だが、いざ本格化を迎えてしまったウマ娘の身体というのは、とにかくじっとしていられないのだ。
全身からマグマのようにエネルギーが湧き上がってきて、本当にヤバい。少し掃除機をかけようとすればフローリングを抉り、事務仕事をしようとすればキーボードを粉砕してしまう。家事も仕事も、日常生活が一切成り立たなくなってしまったのだ。
かくして、有り余るエネルギーを安全に発散するため、ボクは三十路を超えた四十路にしてかつて諦めた夢の続き、本格的なトレーニングとレースに向けて、メイクデビューの準備を始めることになったのである。