転生したらドンちゃんのママになりました ~娘がティアラ三冠取ったあたりで本格化が来てしまったのでメイクデビューするウマママさんじゅうぴーさい~ 作:雅媛
さて、本格的なトレーニングを再開することになったボクだが、基本的には中央のトレセン学園のトレーニングコースを利用している。
別にもう学生ではないのだが、トレーナーさんが『専属の併走パートナー』という名目で特別に施設利用の申請を通してくれたのだ。可愛い娘のトレーニングに付き合えるなら、ボクとしても願ったり叶ったりである。
「あの頃はずいぶんここで走ったなぁ……」
昔と変わらないターフの匂い。一方で、新しく改修されたダートコースや真新しい設備など、時の流れを感じる部分もある。そんな感傷に浸りながら、例のブルマ姿で軽快にトラックを流していると……
「あれ? もしかして……ドナ、先輩……?」
「げ」
背後から掛けられた上品な声に、思わず変な声が出た。
振り返ると、そこには見知った顔があった。メジロマックイーンさんだ。
学園時代、ボクの後輩だった彼女は、お嬢様然とした雰囲気を他所にお菓子で暴走したり、挑発に簡単に乗ったりして大暴れしていた。そんな彼女を、ボクがよく先輩風を吹かせておさえつけたり励ましたり、あちこち連れ回して振り回したりした記憶がある。
今は名門メジロ家の総帥として立派にやっていると風の噂で聞いていたが、なぜこんなところにいるのだろうか。
「やっぱりドナ先輩、ですよね?」
「う……マックちゃん、久しぶり。そうだよ」
気まずく手を挙げるボクを、マックちゃんは頭のてっぺんからつま先まで、いや、正確には豊満になった胸元からブルマの裾までを、ジッと値踏みするように見て一言。
「さすがに三十ピー歳でそのブルマ姿は、色々な意味で犯罪かと」
「わかってるけど、夫が絶対に譲らなかったんだよ!!」
「……ああ、あの人ですか」
ボクの絶叫を聞いて、マックちゃんは「なるほど」と深く納得した。
彼女もまた、ボクの夫の業の深さをよく知る一人だ。「アイツならしょうがないですね」という同情の表情を浮かべている。
「まあ、事情を知らない人が見れば、先輩はまだ中等部の生徒に見えますから大丈夫ですよ。ちょっと……その、おっぱい大きすぎますけど」
「そんな聖母みたいな慈愛の表情で言われても、何も信用できないよ。というか、総帥様がなんでここに?」
「いえ、私の子が今日も元気に頑張っているので、その応援ですね」
「へー、マックちゃんの子? だれ?」
そう言ってマックちゃんの視線を追いかけると、コースの向こう側で、凄まじいオーラを放ちながら爆走しているウマ娘がいた。
黄金の暴君、オルフェーヴルだ。
「えっ、マジで?」
「マジですわ」
「……ちょっと、あの気性の荒さ、どうにかできなかったの?」
「それは……可愛さのあまり、幼い頃に少々甘やかしすぎてしまったのは認めますわ」
オルフェーヴルとドリームジャーニーの姉妹といえば、学園でも一、二を争う気性難で有名だ。
マックちゃんも現役時代は隠れ気性難なところがあったが、一応『メジロのお嬢様』という分厚いコーティングである程度隠せていた。しかし、彼女たちにはそのコーティングすら一切ない。完全に剥き出しの暴君である。
「そういえば、ドナ先輩のお子さんのドンナさんと、次のジャパンカップで勝負ですわね」
「おー、そうだね。初めてのシニアとの対決だし、うちのドンちゃん、優しい子だからさ。あの暴君でいじめないでよ?」
「……」
「おい」
ボクの牽制に対し、マックちゃんは気まずそうにスッと目を逸らした。
きっと「うちの暴君が手加減などできるはずがない」と思っているのだろう。ボクも、可愛い娘がオルフェーヴルの気迫に呑まれてしまわないか、親として心底心配していた。
しかし。
数週間後に行われたジャパンカップ本番。
直線で抜け出そうとしたオルフェーヴルに対し、ボクの愛娘・ジェンティルドンナは、一切怯むことなく横から強烈な『体当たり』をかまして弾き飛ばし、そのまま真っ向勝負で競り落としてしまったのだ。
「……うちの娘が、大変申し訳ありませんでした」
「いえ……こちらこそ、まさかあそこまでパワフルに弾き飛ばされるとは思いませんでしたわ……」
レース後の関係者控室。
ボクはメジロの総帥に対して平伏する勢いでジャンピング土下座をキメる羽目になったのだった。