亡びぬ火、名もなき剣   作:桜大好き野郎

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触れてはならぬ剣

 

 

 王都で起こった、悪魔襲撃事件。その爪痕は深く、倒壊した家屋や割れた路面の補修など、復興の目処は今のところ立っていない。

 

 話に聞けば行方不明者も多数存在し、魔界に連れ去られたのだと実しやかに囁かれる始末。

 それでも民というのは嘆いてばかりいられないもので、王国の支援を待たずして自分たちの手で出来る限りの復興を進めていた。

 

 王国の兵士として、クライムとしては恥ずかしい思いであり、同時にいち早く復興支援の指示を出した自らの主人に敬愛の念を抱く。

 

 人数としては少数であり、その殆どが依頼を受けた冒険者だ。ガゼフの部隊も手伝おうとしたが、貴族の横槍も入って難しい状況。

 

 このような状況でも、自らの私腹を肥やすことに余念のない貴族たちへの怒りが募る。

 

 

「おーい、アンタ。ここはいいから、他を手伝ってくれ。あ、そういや、向こうの連中が板が足りねぇっていってたぞ」

 

「あ、あぁ。わかった」

 

 

 王女直属の兵士とはいえ、復興現場は門外漢。ラナーの賜った鎧を纏って、その存在をアピールしながら手伝うのが関の山だ。

 

 貴族から蛇蝎の如く嫌われるドワーフなどの亜人たちも、自分たちが住む街として認識してくれているのだろう。快く復興を手伝っていた。

 

 

「おい、このボケナス!それじゃあ建物全体が歪むだろうが!」

 

「んだと、ジジィ‼︎」

 

 

 騒がしい事この上ないが、けれど間違いなく活気があった。

 そんな声が耳を擽り、どこかホッと胸を撫で下ろすクライム。木材置き場へと到着すれば、その先に見慣れた人物がいた。

 

 

「ブレイン殿⁉︎」

 

「ん?おお、クライム。久しぶりだな」

 

 

 ひらひらと手を振って応えるブレイン。その隣、クライムの見知らぬ女性が不機嫌そうに木材を担いでいる。

 

 

「お久しぶりです、ブレイン殿。そちらの方は………?」

 

「ああ、気にするな。ただの居候だ。復興を手伝わされて不機嫌なんだよ」

 

「だって別に、私がやることじゃないし〜。第一、ただの居候じゃなくて情報提供者でしょ?もっとマシな扱いしてもいいんじゃな〜い?」

 

「あー、わかったわかった。それよりクライム、お前はどうしたんだ?王女様の護衛はいいのか?」

 

「はい。ラナー様からの命で、現場の確認と手伝いを」

 

「ああ、なるほど」

 

 

 合点がいったとばかりに顎を指で掻くブレイン。その後ろで蔑ろにされた女性が脚を蹴っているが、効いている様子はない。

 

 

「ブレイン殿も、お手伝いを?」

 

「まぁ、な………クライム、八本指の拠点で起こった話は知ってるか?」

 

「え、えぇ、まぁ………」

 

 

 悪魔襲撃事件に隠れて表には出にくいが、その話はよく知っている。何せ、その現場を目撃したのだから。

 

 八本指掃討作戦にて、クライムの班は警備部門の拠点に攻め込む手筈だった。

 しかし、いざ突入してみれば現場は血の海。生存者はどこにもおらず、残されたのは一太刀で落とされた首なし死体だけ。

 

 あまりにも異様で、異質なそれは記憶に新しい。

 けれど、クライムの感想とは裏腹に、ブレインは少年のように目を輝かせていた。

 

 

「なら、わかるだろう⁉︎あれは、あの剣士の仕業だ‼︎ あの切り口は、誰にも真似できない‼︎ くぅ、生で見たかった………」

 

 

 ブレインよりも遥か高みに存在する、灰色の瞳の剣士。彼ならば確かに、六腕を含めた全員を抵抗なく殺せるだろう。

 

 しかし、クライムが抱くのは恐怖の念。

 ゼロという、ガゼフやブレインにも匹敵する実力者が抵抗の痕跡もなく殺された。それだけで警戒するに値する。

 

 

(もし、姫様が狙われたら、その時は、私はーーー)

 

 

 守り切れるだろうかと、その先を考えて不安に駆られるクライム。そんな胸中など露知らず、女性が盛大にため息を零した。

 

 

「あ〜ぁ、まぁた始まったよ………あんな化物の、何がいいんだか」

 

「失礼ですが、あの剣士をご存知なのですか?」

 

「う〜ん?まぁね〜」

 

 

 軽い調子であるが、身に纏う雰囲気からして自身よりも圧倒的な強者である女性。細身でありながらも、軽々と木材を担ぐ姿は疲労が見せる錯覚かのようにも思えてしまう。

 

 

「アレに興奮できる変態なんて、アンタくらいだって。ただでさえ道場連中からも引かれてるんでしょ?」

 

「アレを見て震えねぇ剣士はいねぇよ…………もう一度、剣を交えてみたいもんだ」

 

「うげぇ………自殺願望の変態にグレードアップしてんじゃん」

 

 

 あたしを巻き込まないでよねぇ、と軽口を言い合う女性は、ブレインといい仲なのだろうと推測するには十分な近さで、事情を知らぬクライムでさえ察するに余りあった。

 

 もしかすれば邪魔だっただろうか、と一歩脚を引いたクライムだが、肩を竦めた女性の言葉に脚を止める。

 

 

「……………まぁでも、いいんじゃない?ああいうのに憧れるのは、剣士の性みたいなもんだし」

 

「お、やっぱお前にもわかるか?」

 

「冗談。あんなの、命がいくつあっても足りないって」

 

 

 納得も、理解もできるのだろう。けれど、二度とごめんだと舌を出す女性は本心から、苦虫を潰した顔になる。

 

 まるで相対したことがあるような、その剣を向けられた経験があるようなそれに、興味が湧く。

 

 

「あ、あのっ、もう少しお話をーーー」

 

「くぉら、そこの‼︎いつまでくっちゃべってんだ‼︎」

 

 

 あまりにも長々と話しすぎたのだろう。手を動かさないクライムたちに業を煮やした、通りすがりの一人のドワーフ。

 小さいながらもその声量は相当で、思わずクライムの背筋が伸びる。

 

 

「ほれ、ちゃっちゃと運べ‼︎ さもなきゃ、武器の整備はしてやらねぇぞ‼︎」

 

「あー、はいはい‼︎」

 

「はい、は一回だ‼︎このトンマ‼︎」

 

「はいよ‼︎………ったく、人使いの荒い奴だ」

 

 

 悪態を吐きつつも、珍しくドワーフの言う通り木材を担ぎ上げるブレイン。頭に疑問を浮かべるクライムに、こそりと女性が耳打ちを。

 

 

「鍛錬のしすぎでさ、刀折れちゃったんだよね〜。んで、火髭ってドワーフが修理してくれるみたいなんだけど、今回の騒動で工房が潰れちゃったんだってさ〜」

 

「ああ、なるほど………」

 

 

 ブレインがこの場にいる理由に、ようやく合点がいったクライム。しかし、まだ疑問が残るのも確か。

 

 

「ですが、刀ならば人間の鍛治師の方が適切では?」

 

「な〜んか知らないけど、伝説に追いつくんだ〜って人間のトコに弟子入りしてるみたいなんだよね〜。今回のは渡りに船ってわけ」

 

 

 火髭という二つ名が付くほど技術を持ちながら、それでも尚足りないということなのだろう。まるで、鍛冶師界のブレイン殿のようだ、とつい思ってしまう。

 

 

「ほら、さっさと行くぞ。これ以上、ドヤされてたまるか…………クライム、それじゃあな」

 

「じゃあ、バイバ〜イ」

 

「はい!二人とも、お元気で」

 

 

 ここで頭を下げる姿を見せれば、何と言われるやら。目礼だけで済ませる事に内心で謝罪しながら、二人を見送るクライム。

 

 二人の背を見送りながら、クライムは小さく息を吐いた。喧騒は絶えず、誰もが前を向いている。それはきっと、正しい姿なのだろう。

 

 それでも、脳裏に浮かぶのは、あの光景。抵抗すら許されなかった死。音すら置き去りにする剣。

 

 

(……届かない)

 

 

 それは、疑いようのない事実だった。どれだけ鍛えようと、どれだけ剣を振ろうと、自分があの域に至ることはない。

 

 だが、クライムは、ゆっくりと拳を握る。

 

 

(それでも………‼︎)

 

 

 視線を上げた先には、復興に励む人々の姿。そして、その先にいるはずの主人の姿。

 

 

(私が守る)

 

 

 それだけは、譲れない。

 

 力が足りぬのなら、足掻き続ければいい。

 

 届かぬのなら、その前に立てばいい。

 

 ただそれだけのことだと、クライムは静かに息を吐いた。

 

 その時、ふと視線の端に違和感がよぎった。屋根の影、誰かが、こちらを見ていた気がしたのだ。だが次の瞬間には、もう気配は消えていた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 ラナー王女の私室にて。

 部屋の中にいるのはラナーと、そしてナザリックから来た影の悪魔だけ。

 

 テーブルを挟んで談笑するような間柄でもなく、平伏の姿勢を取るラナーに、影の悪魔が伝言を伝えた。

 

 

「デミウルゴス様からの伝言だ。引き続き、亡剣の情報を集めろ」

 

「かしこまりましたーーーそういえば、悪魔は討伐されたと聞きましたが、デミウルゴス様はご無事ですか?」

 

「…………貴様に教える義理はない」

 

 

 それだけ言って再び影の中に消える悪魔。気配というものは感じられないが、おそらく監視しているのだろうと当たりをつける。

 

 不自然にならないよう、まるで脅威が去ったとばかりに胸を撫で下ろし、椅子に腰を下ろす。

 テーブルの紅茶に手をつけながら、考えるのはナザリックの現状だ。

 

 

(私を試しているにしては、報告が簡素すぎる………それに、無事かどうかを問うた時の反応………あれは、知らないではなく、答えられない者の反応)

 

 

 カップに口をつけ、一呼吸。安心するような、安堵感を付け加えるのも忘れない。

 

 

(なるほど………一度、壊されたみたいね)

 

 

 くすり、と思わず笑みが溢れた。

 

 

(姿を現さないのは、アインズ・ウール・ゴウン様の命令?いえ、それだけだと説明がつかない…………ならば、亡剣を恐れている?ーーーどちらにせよ、ナザリックは万全ではない)

 

 

 ティーソーサーがかちゃり、と音を立てる。それでようやく落ち着いたのか、深く息を吐く演技を。

 

 

(それを崩した亡剣を警戒しているーーーいえ、排除しようとしているでしょうね。ふふ、触れてはいけない者同士が、既に触れている)

 

「安心しました………ナザリックは何の問題もないようですわね」

 

 

 ティーカップへと視線を落とし、指でなぞる。まるで未来へと期待を寄せるような仕草と表情。けれど、考えるのは全く逆のこと。

 

 

(このままナザリックに身を置くのは危険ね。けれど、クライムを手に入れるにはナザリックが一番効率的…………そも、亡剣は誘導できても制御はできない)

 

 

 盤上遊戯で例えるのなら、指し手の意志を反映しない特殊な駒(ワイルドカード)。相手の駒も奪うが、こちらの駒も下手したら消される、厄介な駒。

 

 だからこそ、敵味方関係なく注目が集まる。盤面を動かすには、今が絶好の機会なのだ。

 

 

(そう、ね…………布石は打っておきましょう)

 

 

 あの剣がどこまで誘導できるのか、どこまでを悪と断じるのか。

 

 

(貴族たちに、少しだけ餌を与えましょう。無能な者ほど働いてくれますもの。そしてその先にーーー)

 

 

 くすり、と珍しく本心から笑うラナー。

 ナザリックや亡剣がどのような結末を迎えようと、変わりはない。ラナーの隣にクライムがいる、それだけでいいのだから。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 ーーーバハルス帝国。

 

 古きを尊ぶのが王国であれば、こちらは新しいを尊ぶ国。鮮血帝と名高い、ジルクニフが統治するここでは、有能であれば例え平民であろうと取り立てられ、逆に無能であれば貴族であろうと切り捨てられる。

 

 貴族からは恨まれ、臣民たちからは尊ばれる皇帝は、今日も今日とて激務に追われていた。

 

 

「陛下、先日王国で発生した悪魔の件です」

 

「ふむ………アダマンタイト級の冒険者、蒼の薔薇と漆黒が討伐。推定難易度は200を超える…………なんとか引き抜けないものか」

 

「それは、難しいかと…………蒼の薔薇のリーダー、ラキュースは貴族でありますし、漆黒は金で動くような性格ではないと聞いております」

 

「知っている、言ってみただけだ。…………それにしても、それほどの成果を上げながら国から何も褒美を出さんとは………王国の無能共にはほとほと呆れる」

 

 

 これが帝国ならば、全員に貴族の称号を与えられるほどの偉業だ。大方、貴族派からの横槍で褒美を出せなかった所だろうと当たりをつけ、次なる書類に手をつける。

 

 

「ふん…………街道でモンスターの首無し死体………またか。今回も下手人は見つからないのか?」

 

「はい………現場を目撃した騎士の話によりますとーーー」

 

「言わんでいい。またぞろ、いつの間にか首が落ちていただろう?」

 

 

 呆れと厄介さをない混ぜに、鼻息をひとつ漏らす。ジルクニフが皇帝の座に着いた頃から出た、首斬り事件。

 その殆どが野盗やモンスターがターゲットであり、必ず誰かが襲われていた現場での出来事。だと言うのにその姿を見たものはおらず、まるで御伽話の亡剣のようだと囁かれる事件。

 

 

「パジウッド。どう見る?」

 

「へぇ?なんでまたオレに意見を?」

 

「騎士の意見を聞きたい」

 

 

 ジルクニフの側に控えているのは帝国でも指折りの実力者。四騎士に数えられる一人、雷光のパジウッド。

 とても皇帝に向けるべき口調ではないが、その強さゆえに許されていることであり、周囲はもちろんジルクニフからも苦言が飛ぶことはない。

 

 

「う〜ん、そうですねぇ…………現場の死体を見る限り、ありゃかなりの実力者ですわ。断面の鮮やかさはもちろんなんですが、全員気づかないうちに斬られてますね」

 

「四騎士で対処できるか?」

 

「そりゃ無理な相談ですわ。どんな奴かはわからねぇですけど、これだけは断言出来ます。オレたちの首が並ぶだけだ」

 

「そうか………」

 

 

 パジウッドの言葉はある程度予想していたのだろう。大した落胆もなく、今度はその隣へと視線を。

 

 

「爺、魔法詠唱者としての見解は?」

 

「そうですな………」

 

 

 パジウッドの隣にいる老人。第六位階を操る人類最高峰の魔法詠唱者、英雄の域を超えた逸脱者、フールーダ・パラダイン。

 身長の半分ほどもある白髭を撫でながら、ジルクニフの言葉に応える。

 

 

「ふむ………かつて八欲王は時を止める魔法を使ったと聞きますが、その類かもしれませんのう。もしそうならば、伝説の第十位階を操る存在…………是非、帝国に迎え入れて欲しいものですな」

 

「なるほど、魔法剣士の可能性か………」

 

 

 二百年以上の時を生きるフールーダでさえ、噂で伝え聞くしかない存在。フールーダのように、禁術で寿命を伸ばしたのであれば何百年と続く噂にも信憑性は増す。

 

 

(表に出てこないのは、フールーダと同じ類か?地位や名誉に執着がない………だが、帝国や王国の各地にある道場はどうなる?その弟子達が作ったらしいが………自己顕示欲か?それとも、弟子達の暴走という線もあるか)

 

 

 集められた情報を頭の中で組み立てて、噂の存在を利用できるか思案する。

 

 王国にある道場と違い、帝国にある道場は国が管理している。騎士見習いなどの訓練所として活用しているのだが、肝心の道場ができた理由はどの資料にも載っていない。

 

 しばらくの熟考の後、ジルクニフは大きく息を零すと、手元の資料を机へと放り投げる。

 

 

「いい、放置しておけ」

 

「いいんですかい?」

 

「良いも悪いも、姿が捉えられんのならどうしようもないだろう。野盗やモンスターの処理をしてくれるのなら、放っておけ」

 

 

 本音を言えばその戦力を確保しておきたいところであるが、それを得るために大損害が出るのなら手は出せない。今は静観しか手段を選べないのだ。

 

 

「ただし、関わった者の記録はしっかり残しておけ。何か共通点があるやもしれん」

 

「畏まりました」

 

「ならば、儂の方でそやつを探りましょう」

 

「ほう………魔法狂いの貴様が、いつになくやる気のようだな」

 

「魔法である可能性がある以上、見逃すのは損失でございます。未知の魔法は、いずれ国家の力となりましょうぞ」

 

 

 やる気の原因はそこか、とジルクニフが呆れる。自分の扱えない、未知の魔法を知りたいが為にこうして動いているのだ。

 もしここでジルクニフがGOサインを出せば、フールーダは嬉々として窓から飛び出し、国中を飛んで探し出そうとするだろう。

 しかし、国の最大戦力を遊ばせる余裕はない。

 

 

「ならん。未知の相手に自ら首を突っ込む愚行を、私が許すと思うか?ーーーオイ、冒険者やワーカーに依頼を出しておけ」

 

「冒険者はともかく、ワーカーもですかい?なんでまた?」

 

「非合法に手を染める奴らであれば、得られる情報も違うだろう。無論、使い捨ての貴族経由にしておけよ?」

 

「かしこまりましたーーーしかし、最近、貴族位を剥奪された者たちの動きが怪しくなっておりますが………」

 

「なに?………例の墳墓の調査の件か?」

 

 

 フールーダが偶然見つけた、ドブの大森林にある墳墓。元々存在した歴史はなく、突然現れたそれに警戒しない方がおかしい。

 王国領のため、正規軍は動かせずワーカーを利用しての調査作戦。もし元の地位に返り咲こうとする貴族(無能)共が独断で動いたとなれば事である。藪を突いて出た蛇が、帝国を襲わないとも限らない。

 

 しかし、部下はゆるゆると首を横に振るだけであり、その詳細は掴めていない様子。

 

 

「それはなんとも…………ですが、商人を招いた夜会を開催しているようで…………探りますか?」

 

「ふむ………」

 

 

 元貴族たちに、頻繁に夜会を開催するような資金は残されていない。借金をしてまで夜会を繰り広げるメリットはないだろう。

 これがよくある、皇帝に屈さないというアピールならまだしも、裏で何かが操っている可能性もある。悩み抜いた末にジルクニフは口を開いた。

 

「……………探れ。ただし深入りはするな。連中が何を企んでいようと構わん。どうせ碌なものではない。使えるなら使う。使えぬなら――切り捨てるだけだ」

 

 

 恭しく頭を下げた部下を尻目に、ジルクニフは次の資料へと視線を移す。

 

 ーーーだが、その指先が紙を捲ることはなかった。

 

 

(……妙だな)

 

 

 一瞬だけ、思考が引っかかる。小さな小骨が喉奥に刺さるような違和感。

 だが、それを振り払うように小さく息を吐くと、何事もなかったかのように書類へと目を落とした。

 

 その背後で、フールーダは静かに目を伏せる。その瞳に浮かぶものを、誰も知ることはない。

 

 

 

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