亡びぬ火、名もなき剣   作:桜大好き野郎

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剣士を磨く者、骸骨の期待

 

 

 王都近郊、亡剣の弟子が遺したと謳われる道場で。

 

 エ・ランテルにあるものよりも敷地が広く、冒険者だけでなく王国騎士なども利用する施設。その演習場の中央で、男は刀を構える。

 

 周囲には同じく、木剣ではなく鉄の剣を構えた七人の人々。それぞれ冒険者であったり、騎士見習いであったり、果てはドワーフだったりと統一性はないが、全員の視線は中央の男に注がれていた。

 

 耳が痛くなるような静寂。ただ構えているだけだというのに、嫌に心臓が高鳴り、呼吸が荒くなる。剣を握る手が汗ばみ、思わず滑り落としそうになるのを防ぐためにぐっと力強く握る。

 

 対して、中央の男はあくまで自然体。腰を低く落として、目を閉じてただゆったりと構えているだけ。包囲されているというのに呼吸も荒くなければ、汗ひとつかいていない。

 

 

「っ………ぉおおおおお‼︎」

 

 

 やがて、一人の掛け声と共に七人全員が中央の男目掛けて刃を振るう。キラリ、と太陽を反射する光はおもちゃではなく、本物だと叫んでいた。

 

 誰もが一瞬、血飛沫が上がる姿を、男が惨殺される姿を幻視する。けれど、その予想を男は裏切った。

 

 

「シッ………」

 

 

 一瞬の煌めき。

 気がつけば男の刀が鞘から解き放たれていた。

 

 七つの火花が弾け、一拍遅れて金属の悲鳴が響く。七重のそれは耳障りの一言で、思わずそれを聞いた全員が耳を塞いだ。

 

 やがて七人の足元に落ちる、へし折られた剣の先端。手元の剣に視線を落とせば、全員の剣が綺麗に半ばほどで切り落とされていた。

 

 

「おぉ………‼︎おみごと‼︎」

 

 

 七人のうち、誰かが感嘆の声と拍手をあげれば、続くように周囲の人間が手を叩き称賛をおくる。

 

 だが、男は満足いかないのか、刀を収めながら不満顔。蓬髪頭をがりがりと掻きむしって、不満を溢す。

 

 

「くそっ………まだ足りねェ‼︎もう一回やるぞ‼︎」

 

「お、おいおい。道場中の剣を折る気か、ブレイン?」

 

 

 ドワーフの助けもあって格安で手に入るとはいえ、剣もタダではないのだ。慌てて止めに入るが、ブレインとしては不完全燃焼。

 

 脳裏に浮かぶのは、かつて傭兵時代に出会った一人の男の姿。

 その男は何の前触れもなく、突如として現れた。傭兵団の一人がカモだと油断したが、次の瞬間そいつの首がずれ落ちた。

 

 そこからは地獄絵図。何もできず、誰も手も足も出ない相手。

 応戦したブレインであるが、絶対を誇っていた武技領域と瞬閃のコンボ、秘剣虎落笛も通じない。

 

 刀を弾かれ、尻餅を付いたブレインの目の前に刀を突きつけられて問われた言葉は今でも覚えている。

 

 

「…………その剣、何を斬る?」

 

 

 温度も感情もない灰色の瞳。

 けれど、これは審判だと本能が理解した。

 

 返答を誤れば死。

 沈黙もまた死が訪れるだろう。

 カラカラに乾いた唇を舌で濡らし、湧き上がる感情をそのまま口にする。

 

 

「お、オレは、アンタに………アンタに追いつきたい‼︎」

 

 

 みっともなく命乞いをすれば良いのかもしれない。

 けれど、ブレインの心にあったのは悔しさ。

 

 剣の高みを目指しておきながら、御前試合でカゼフに敗れ、そしてまた目の前の男に敗れた。

 

 けれど、同時にあるのは羨望。

 遥か遠く、届かないかもしれない果て。

 だが、剣でそこまで至れるのだと前例が現れたのだ。

 

 これが化物相手ならば、種族の壁によるものならブレインの心は折れていただろう。

 だが、目の前の男は、傷だらけの男は、剣のみで至ったのだ。

 

 この男よりも若い

 この男より、まだ伸びる

 

 ーーーならば、届く。

 

 望んだ高みへ、剣の高みへと手が届くのだと言う野望。

 

 

「…………ならば、良い」

 

 

 気がつけば、男は背を向けていた。

 足音もなく、幽鬼のような足取りで。決してブレインを振り返ることなく、月の下へと消えていった。

 

 死を振り撒く傭兵団は壊滅したが、ブレインからすればどうでもよかった。

 

 確か、道場があったはずだ。

 亡剣なんて御伽話に憧れた、弱者の巣窟だと思っていたが、この際どうでもいい。

 

 鍛えられるのならばと傭兵団にいたが、結局は鍛錬がほとんどだったのだ。ならば、道場であろうと変わらない。

 

 道場は思っていたよりも活気があって、そしてレベルも高かった。正直、下手な冒険者や護衛を相手するよりも経験が積めるだろう。嬉しい誤算。道場からしても、全体の士気が上がるため大歓迎であった。

 

 

「もっと、こう………自然と一体になってたんだよな………剣を振るうって感じじゃなくて、そういう現象みたいな………」

 

「まーた始まったよ、ブレインのやつ」

 

「あーなると長いぞ………また徹夜しないよな?」

 

「明日の朝まであそこにいるに、酒をひと樽賭けられるわ」

 

「やめろ。賭けにならねぇ………」

 

 

 これ以上の実技は難しいと判断すれば、脳内でその時のことを反芻する。ぶつぶつと言葉を溢す姿は不気味であり、先ほどまでの賞賛はどこにいったのやら。ブレインの周囲は円形の穴が出来ていた。

 

 やがて陽も暮れて月が真上に登る頃、脳内でずっとシミュレーションと反芻を行っていたブレインだが、ふと人の気配を感じた。

 

 一瞬にして刀に手をかけるブレインだが、月明かりが照らしたその顔を見てため息と共にその手を離す。

 

 

「なんだ、お前か。クライム」

 

「ブレイン殿‼︎」

 

 

 夜の闇でも目立つ純白の鎧を纏う少年、クライム。人がいると思ってはいなかったのか、けれどブレインの姿を見るとまるで仔犬のように近づく。犬のような耳と尻尾を一瞬幻視してしまうが、瞬きのうちに消えてしまう。

 

 

「お久しぶりです。ブレイン殿はこの時間まで鍛錬を?」

 

「あぁ、まぁな。お前は………いつも通りか?」

 

「はい。ラナー様の護衛として、鍛錬できる時間は限りがありますから」

 

 

 王国の第三王女、黄金姫と名高いラナー。その護衛というだけあって、日中はほとんどラナーの側にいなければならないクライム。

 鍛錬できる時間といえば陽も昇り始めた早朝か、こうした深夜帯くらいのもの。

 

 月に数回、こうして顔を出しているクライムと遭遇するのは初めてではない。何せ、ブレインは殆ど道場に入り浸っているのだから。

 

 御前試合の決勝でガゼフと渡り歩いたブレインは、英雄譚収集が趣味のクライムの憧れであり、生きる伝説だ。

 派閥争いでガゼフに鍛錬を乞うことはできない中、こうしてブレインと会えることを密かな楽しみとしていた。

 

 

「ブレイン殿も、いつも通りですか?」

 

「まぁ、な。まだまだ、あの日みた剣には届かねぇ」

 

 

 自虐でもなんでもなく、純然たる事実。けれど、クライムからすれば高みに座していながら胡座をかくことなく上を目指すブレインに更なる憧れを抱くだけ。

 

 クライムの実力は、お世辞にも高いとは言えないだろう。剣をいくら振ろうとも、身体をどれだけ虐めても、得られるものは少ない。

 才能が無いということはクライム自身が一番理解できていることだ。

 

 王宮内で揶揄されても仕方がないことであるし、ラナー王女の護衛に相応しくないと言う声も理解できる。

 

 けれど、この道場は違う。

 ここにいる殆どの人間は理不尽に抗う亡剣の思想に憧れてきたのだ。努力が身につかないクライムを嘲笑うことなく、寧ろ指導をしてくれるほど。

 

 ブレインだってそうだ。

 隔絶した実力差がある故に、クライムのそれは児戯に見えるだろう。けれど、ぶっきらぼうに、厳しくも悪い点を挙げてくれるのだから、知らず知らずのうちに懐いてしまった。

 

 

「ほら、腕が下がってるぞ。構えひとつ、足運びひとつに気を抜くな」

 

「はい!」

 

 

 今だって素振りを始めたクライムの構えの悪しき所を指導してくれる。周辺国家最強の戦士ガゼフさえ認める、ブレインの指導。一刻一刻が値千金になる時間を噛み締めながら、クライムは素振りを続ける。

 

 

「…………なぁ、クライム。お前さんは何で剣を振るう?」

 

「は、はい………?」

 

 素振りを開始してどのくらいの時間が経ったのだろう。滝のような汗を流しながら一呼吸入れたクライムに、ブレインが問いを投げかける。

 

 

「正直言って、お前に才能はない。だが、それでも諦めずに剣を振るう理由はなんだ?やっぱり、王女様のためか?」

 

 

 篝火が照らすブレインの視線は真剣そのもので、思わずクライムがびくりと肩を震わせる。

 その問いに何と答えるべきか、手元の木剣に、何度もマメが潰れて硬くなった手のひらに視線を落とす。

 

 

「………なんで、でしょう?」

 

「はぁ?」

 

「ああ、いえ。勿論、ラナー様を守る為に鍛えているのは確かなのですが………」

 

 

 その気持ちに嘘はない。拾ってくれたラナーへの恩義を返す為に、隣に立つことはできなくとも、せめて災厄から守れるようにと、強くなろうと志した気持ちは変わらない。

 

 けれど、壁にぶつかって、それでも前に進もうとする原動力はそれだけではないのだ。

 

 

「………きっと、負けたくないのだと思います。周りにも、自分にも」

 

 

 わからないままに口に出した言葉であるが、不思議とすとんと胸の中に落ちる。

 

 ああ、そうだ。

 ラナーを守るという、殊勝な気持ちだけではない。負けたくないのだと、見返してやるのだと泥臭い感情も確かに原動力だ、と改めて確信した。

 

 

「やっぱり、くだらないですかね………?」

 

「ーーーいや………お前らしいよ」

 

 

 誤魔化すように笑ったクライムに、ブレインは薄く笑う。

 自身が剣を取ったのも、負けたくなかったからだった。上を目指すあまり忘れていた初心を思い出して、ブレインは立ち上がる。

 

 そこらにあった木人の破片を幾つか手に取って、空中へと放り投げる。

 すぐさま腰を低く落として刀を構えると、領域を発動。

 

 

(今までは上を目指し過ぎていた………けど、それは足元を疎かにしていいわけじゃねぇ)

 

 

 頭に流れ込んでくる、領域内の情報。土の匂い、木片の位置、風の流れ。いつもならそれで済ませていたはずの情報を、もっと深く知る。

 

 土の硬さを、風の匂いを、対象の構成を、どこに剣を落とせば良いのかを探る。

 

 

(焦るな………もっと情報を。ひとつひとつを噛み締めろ)

 

 

 いつもなら既に刀を振るっているタイミング。反応しそうになる身体をぐっと抑え込み、焦りそうになる心に喝を入れる。

 

 そして、木片がブレインの目の前を通過した刹那、篝火が消えた。同時に起こる突風に煽られて、クライムは思わず尻餅を。言葉なく唖然と、立ち上がることも忘れて呆然としていれば、再び篝火台に火が灯される。

 

 視線を落とせばブレインの足元、複数バラバラに落ちていたはずの木片が全て両断されていた。

 それはおかしい事ではない。ただ、問題はその抜刀速度が異常なこと。クライムの目では追えず、そして納刀の音さえ置き去りにした神速の剣。

 

 自分は今、神話の1ページを目にしたのだと理解したクライムの瞳には涙が。それを見たブレインが口の端だけを上げた。

 

 

「どうした?」

 

「いえ………ただ、あまりにもすごくて………」

 

 

 感涙するクライム。

 少しはあの男に届いただろうか、と手のひらを見つめるブレイン。

 

 

「………見事」

 

 

 そんなふたりの感慨を打ち破るように、声がひとつ聞こえた。ブレインは即座に構えを取り、クライムは涙を止めて立ち上がる。

 

 視線の先にいたのは、件の男。相も変わらずこちらを見つめる灰色の瞳は温度も感情もなく、まるで別の世界を見ているようにも見える。

 

 異質であり、異常。

 前に進めた実感のあったブレインだが、男を目の前にするとその感覚が嘘のように萎みだす。

 

 進めば進むほど、男の背が遠くなる。

 ーーーけれど、それは追いかけない理由にはならない。

 

 

「…………その剣、何を斬る?」

 

「へっ、忘れたのかよ?オレはいつか、アンタに追いつくぜ」

 

 

 虚勢にも似た挑発。展開した領域は男の情報を読み取る。彼がどう動くのか、どう対処するのか手に取るように理解できる。

 

 ーーーだが、そのどれもが届かないことは、他でもないブレイン自身が感じていた。

 

 

「………そう………そう、か…………」

 

 

 どこか懐かしいものを見たように、眩しいものを見るように男は目を細める。

 そして、その踵を返した瞬間、ブレインは領域を解除。カウンター主体の武技では、この男は捉えられないと判断したためだ。

 

 

「ッ⁉︎ブレインーーー」

 

 

 クライムの傍をすり抜けて、矢のような速度で男へと肉薄するブレイン。クライムの動揺した声を置き去りに、刀を振り抜いた。

 

 

「チィイイイ‼︎」

 

 

 間違いなく、これまでの中で最高速度であり、最高の斬撃。けれど、男は振り返る事なく、自身の刀でそれを防ぐ。

 

 いつの間に抜いたのかわからない速度。

 死角からの一撃を簡単に受け止める判断能力。

 けれど、ようやくその刀身を拝めたことにブレインは歓喜した。間違いなく、自身は成長しているのだと、ようやく実感が湧いたのだ。

 

 

「…………よい、剣」

 

「うぐっ⁉︎」

 

 

 これまた一瞬の動きで納刀すると、鞘の先端でブレインの胸を押す。

 タタラを踏んだブレインが次に顔を上げた時には、すでに男の姿はそこにない。初めて会った時のように、幽鬼の如く姿を眩ませてしまった。

 

 

「あぁ、くそっ………‼︎やっぱ遠いなぁ………っ‼︎」

 

 

 額に手を当てて天を仰ぐブレイン。言葉とは裏腹に、その表情はどこまでもすっきりとしていて、星々が照らす夜空に負けないくらいに晴れやか。

 

 何より、男に剣を認められたのが大きい。

 油断すればまるで子供のように大はしゃぎしそうになる身体。それを意思の力でぐっと抑えるが、喜色に満ちた表情は隠せない。

 

 

「なぁ、今の見えたか?ーーーどうした、クライム?」

 

 

 この喜びを共有したいとクライムに話を振ろうとするが、予想に反してクライムは思案顔。ブレインの言葉にハッと気がつくと、その胸中を吐露した。

 

 

「あ、いえ………あの方の刀を、どこかで見た気がして………」

 

「刀をか?」

 

「ええ。実物を見た、というよりも、伝え聞いた事があるといいますか………」

 

 そう言われてブレインも男の刀の事を思い出す。

 あれほどの剣豪なのだから、さぞ名剣を携えているのだろうという予想とは裏腹に、そこまで目を見張るものはなかった。

 何度も手入れされた刀はまるで新品同様の輝きを放っていたし、珍しくルーンが三つほど刻まれていたが、ただそれだけ。

 

 ブレインが知らないだけで、実は国宝の剃刀の刃レベルの名刀なのかもしれないが、そんな圧は感じられなかった。

 

 しばらくの熟考。そして不意に思い出したように、クライムがあっ!と声を上げる。

 

 

「思い出しました!亡剣伝説に出てくる刀と一緒なんですよ‼︎」

 

「亡剣?亡剣ってあれだよな?御伽話に出てくる、凄腕の剣士のことか?」

 

「そうですよ!どんな強者でも、モンスターでも斬った亡剣!………もしかして、あの方は亡剣伝説の証人だったりして」

 

「あのなぁ………そんな、何百年前からの御伽話を鵜呑みにするような………いや、待てよ」

 

 

 老若男女知っている、昔々の御伽話。悪を斬り、厄災を斬り、理不尽を斬り捨てる剣士の話。

 御伽話の中で剣士は世界の絶対強者でもある竜さえも斬ったとあるが、あの男ならそれが可能やも知らないと考えてしまう。

 

 いやいや、それはあり得ないと頭を振るブレイン。だって、何百年も前からある御伽話だ。エルフのような長命種ならまだしも、男は人間。時代が合っていない。

 

 けれど、そのもしを考えてしまって、ついさっきまで男がいた空間に目を向けてしまう。

 

 

「まさか、な………」

 

 

 その翌日の朝、王都にてひとつの事件が知れ渡る。

 なんでも、違法と噂されていた娼館で人死が出たらしい。従業員、客を含む全員が首を落とされ、無事だったのは無体を働かれていた女性たちのみ。

 

 利用していた貴族も死んだこの事件。解明のために事情聴取をしても、皆口を揃えて応えるのだ。

 「気がつけば首が落ちていた」と。

 

 下手人の姿はどこにも見当たらず、またこれ以上の捜査は不要と貴族の横槍も入って事件は迷宮入り。

 

「またか………」

 

「また、ですか?」

 

「たまにあるんだよ。悪党の首だけが飛んでる事件が。どれも揃って下手人を見たことはない」

 

「へぇ………まるで、御伽話の亡剣みたいですね」

 

「ああ。だから、この手の事件は亡剣事件、なんて言われてるよ」

 

 

 そんな兵士たちの会話は誰の耳に届くこともなく、王都の喧騒の中に消えていくのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「そう言えば、モモンさんは知ってますか?亡剣の噂」

 

「ぼうけん………?」

 

 

 漆黒の鎧を身に纏う、モモンと呼ばれる男。

 その正体は、スケルトンの上位種――オーバーロード。今は冒険者として趣味と情報収集を兼ねた活動をしている。

 

 先輩冒険者、漆黒の剣と共にンフィーレアの依頼を終えた帰り道。巨大なジャンガリアンハムスターの背に揺られていると、ニニャが思い出したように口を開いた。

 

「亡剣、ですよ。ここ数年、よく噂になってるんですよ」

 

「へぇ?どんな噂なんですか?」

 

「それこそカッツェ平原や街道、それこそ森の奥でモンスターや山賊の首が切り落とされるって噂です。しかも、襲われていた側には傷ひとつないんですよ」

 

(視認不可の斬撃ってことか?…………もしかしてプレイヤー?まさかーーー)

 

 

 馬車の荷台のニニャの言葉を聞き、アインズの脳裏にはかつて白銀の鎧を纏い、弱きを助けていたギルドメンバーの姿が蘇る。

 懐かしい思い出と、僅かな期待。内心震えるアインズは言葉を紡ぐことができず、代わりに反応したのは仲間たちだった。

 

 

「ニニャ。そんなおとぎ話、モモンさんが信じるわけないだろ?」

 

「まぁ、でも?憧れはあるよな。俺もナーベちゃんの危機に颯爽と駆けつけてぇ‼︎」

 

「口を閉じてなさい、ゴミムシ」

 

 

 そしてアインズの護衛として抜擢されたナーベーーー真名ナーベラル・ガンマ。彼女以外のナザリックの面々も、基本的にギルド以外を見下しているので口を開くたびにアインズはヒヤヒヤと。今のところルクルットとナーベのやり取り、で済んでいるがそれがいつまで続くのか。

 

 やめろ、と言ってもなぜ怒られてるのか理解していないから同じ事を繰り返すナーベラル。頭が痛いとフルフェイス越しに抑えながら、漆黒の剣の言葉に耳を傾ける。

 

 

「まぁ、ルクルットはさておき………御伽話の亡剣に憧れる人はいるんですよ。そんな人たちが立ち上げたのが、王都やエ・ランテルにある道場だって言われてます」

 

「道場、ですか………」

 

 

 行ったことはないが、冒険者ギルドの近くに道場らしき建物があったはずだ。

 登録の前に前を通っただけだが、造りは簡素だった。

 

 だが、庭には巻藁や木人が大量に置かれており、それを利用して鍛えるものや、模擬戦で汗を流す人々は記憶に残っている。

 あの調子であれば、小屋の中でも激しい訓練が繰り広げられているのだろう。

 

 

「はぁ、人間はそのどうじょう?とやらで鍛錬するのでござるな。殿も経験があるのでござるか?」

 

「いや、私は………そうだな。日頃の訓練の賜物、と言っておこう」

 

 

 依頼の最中に下僕となった、森の賢王とも呼ばれていたジャンガリアンハムスター。ハムスケと名付けたそれの問いに何と答えるべきか、アインズが一瞬迷う。

 

 ゲームで培った経験だとは言えず、それとなく誤魔化せば少しダインが肩を落とす。

 

 

「そうであるか………」

 

「あれ?ダイン、どうしたんですか?」

 

「モモン殿のような御仁であれば、道場トークができるかと期待していたのである」

 

「あー、そっか。ダインは道場に通ってたんだっけ?」

 

「実際どうなんだ、あそこ?冒険者の中でも通ってる奴多いだろ?」

 

「うむ!亡剣の意思に感銘を受けた人々の溜まり場なのである!」

 

「(宗教?………いや、それだけ強いプレイヤーだって事だよな。やっぱり、亡剣の正体はーーー)その亡剣はどのような姿なんですか?」

 

 

 アインズの質問にニニャたちは視線を合わせ、そして最後にダインへ。けれど、ダインも首を横に振るだけで何も答える様子はない。

 

 

「早く答えなさい、ガガンボ。モモンさーーーんがお待ちしてるでしょう」

 

「それが、亡剣は噂だけで、その殆どが謎なんですよ」

 

 

 苛立つナーベに答えたのは、依頼主であり御者役でもあるンフィーレア。手綱を握り視線を前に向けながら口を開く。

 

 

「男か女かも、年齢もわからない存在らしいですよ。確か、蒼の薔薇もその調査に乗り出したけど、結局何もつかめなかったとか」

 

「そう、なんですか………」

 

 

 仲間の情報が手に入る、と思っていただけあって落胆はひどい。その機微を察したナーベが漆黒の剣の面々を睨みつける。

 美人の怒り顔は怖いもので、さしものルクルットさえも四人で肩を抱いて竦み上がった。

 

 

「この、羽虫共………‼︎」

 

「しょ、しょうがないでしょう⁉︎アダマンタイト級が掴めなかった人を、僕たちが知ってるわけないですって!」

 

「そ、そうそう!それに、ダインなんて道場通いの癖に知らないし‼︎」

 

「ど、道場はあくまで鍛錬の場所なのである‼︎」

 

「な、ナーベさん、落ち着いて‼︎」

 

「え⁉︎えぇ⁉︎背後で何が起こってるんですか⁉︎」

 

「やめろ、ナーベ」

 

「ーーーかしこ、まりました…………」

 

 

 両手の間に雷が走り、バチバチと威圧的に音を立てていたが、アインズの一言でそれを納める。不服ではあるが、至高の御方の命令を無視することはできない。

 あからさまに胸を撫で下ろす漆黒の剣とンフィーレア。申し訳ない、とアインズが頭を下げて取り敢えず手打ちに。

 

 不自然にならないように会話をしながら、頭の奥で考えるのは亡剣のこと。

 仲間であるか、敵であるかは確定できない。けれど十中八九プレイヤーだとアインズは想定する。

 

 

(亡剣の事を徹底的に調べ上げるよう、アルベドたちに連絡しておこう)

 

 

 何はともあれ、必要なのは情報だ。

 はやる気持ちを抑えながら、ナザリックの知恵者たちに連絡を入れるタイミングを今か今かと計るアインズであった。

 





 書き溜めはここまで
 ゆっくり書き進めていきたい思います

亡剣は原作キャラを救済

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