きみと一緒に呪いを背負いたい 作:アフロコガネ
二度目の人生なんて無い方が良いと思う。
別に転生そのものを否定しているわけじゃない。
生きて死んで巡るというのが世界の摂理だというのならそれはそれで良いと思う。それでも僕自身の、天音紫苑の意見としてはやっぱり転生とか無い方が良いと心の底から思うわけなのだ。
百歩、いや一億歩譲って転生するのは良しとしよう。それでも前世の記憶なんか百害あって一利無しだ。
前世の記憶があるからその分だけアドバンテージがあるという意見があるのも分かる。しかしそれは上手くいく場合の話だ。
自分の場合はあまり上手くいかなかった。
性別が違うっていうのが結構きつい。ただ股にぶら下がっているキノコが無くなっただけと最初は思ってたけど想像以上にギャップがきつ過ぎた。
適応出来る人も居るのかもしれないが、僕は無理だった。
ストレスが凄過ぎて若白髪になってしまったくらいなのだから。
加えて親も所詮毒親というやつだった。
束縛が強過ぎる上に自身が描いた将来設計通りに僕を歩ませたいのか勉強勉強勉強ばかり。現代日本であるにも関わらず漫画やアニメはもっての外、見られるものは新聞やテレビのニュースだけ。おやつとかも無いしご飯とかだって野菜ばっかり、肉と魚を食べる機会なんて殆どない。動物性のタンパク質なんかチーズや牛乳だけだ。
それだって大学の教授である父親が成長中の子どもに必要な栄養があるからと言ったからで本当は野菜とかだけにしたかったんだろう。
そんな人としても母親としても失格な母親に逆らえばヒステリックに泣き叫び、父親は母親の味方をして自分を責め立てる。
転生者でなければ耐えられず歪んだ人格になっていただろう。ちゃんと成長さえしていればの話だし、転生者の時点で歪んでると言われてしまえばそれまでだが。
「おめでとう。きみは選ばれた」
そして今、性別のギャップが一割、自己中心的な両親が九割のストレスフルな二度目の人生に悍ましい何かを感じさせる額に縫い目のある女性が何かしら意味深な事を言って僕の頭に手を乗せて去って行くという十割ストレスオーバーな出来事が追加されてしまったのである。
この世界が呪術廻戦の世界なのは既に分かっていた。
しかし、自分に呪霊を見る事は出来ず特筆すべき超常の力があるわけではない。少し残念に感じていたが才能が無いのなら仕方ない、と甘んじて現実を受け入れていた。
あんの毒親ーズとの地獄の生活もあと10年くらい耐えれば家を出てけば良いし、東京に近寄らなければ大丈夫と言い聞かせて今まで頑張って生きてきたんだ。
たった今、全ての黒幕にして元凶であり主人公の産みの親である羂索の手によって否定されたが。
どうやら自分には
「世の中クソだな」
何が悲しくてこんな二度目の人生を送らなければならないんだ。
地獄か? ここは地獄なのか?
普通に苦しめろよ。救いなんて偽りのゴールをちらつかせるな。
今まで耐えてたのも無意味になったし、レベル1の状態でデスゲーム に参加しなければならないのも確定したとか辛過ぎる。
神よ、何故自分に最初から力を使わせなかったんだ。何故あんな毒親のところで産まれさせた。何故男ではなく女として生まれ変わらせた。
「どうしたんだ? 天音」
聞き馴染みのある声が耳に染み渡り、思わず視線を向ける。
そこにはピンクっぽい色の髪をした今生の僕の数少ない、否、唯一の友人と言っても過言では無い少年が立っていた。
「ちょっと、ね。世の中の理不尽さに絶望してただけだよ――――悠仁君」
彼の名は虎杖悠仁。この世界の創造主にして唯一神、単眼猫の寵愛を一心に受けた主人公。
寵愛と言ってもこの世界らしく呪いに近いものだが。
続編のモジュロは全部見てなかったから最終的にどうなるのかは分からない。ただ何となくだが呪霊の居ない世界を目指して一人孤独に戦い続けるようなそんな未来しか想像がつかない。
「私――――いや、他の人の目なんか無いし僕っていうか。僕って不運だなって改めて思っただけだよ。世の中には僕以上に恵まれない人が居るって分かってるけどね」
「天音勉強出来んじゃん」
「勉強が出来ても自分の意思が入る余地が無いから意味が無いんだよ。あの人達にとって僕は人に良く見られたいが為のアクセサリーみたいなものなんだから」
きっと親の言う通りの進路を進んで親が望んだ相手と結婚する、そんなくそみたいな人生設計を企んでいる事だろう。
大人になったら家出するつもりだけど。
「でも天音、皆に勉強教えてくれたじゃん。それも自分の意思じゃなかったのか?」
「…………いや、それは自分の意思でやった事だよ」
「ならやっぱ天音は良い奴だよ。皆、天音の教え方上手だったって褒めてたぜ」
「悠仁君が助けてくれたからだよ」
自分の見た目はそれなり、いや、贔屓目で見ても結構整った容姿をしている。
そして髪の毛は真っ白で勉強しか出来ないからまあ視線を集める。
加えて中身がこんなのだから異物感が凄まじい。
にも関わらずイジメに繋がらなかったのは悠仁君のおかげだと言っても過言じゃ無い。前世の記憶があるとはいえ、イジメは辛いし今のストレスフルな自分じゃ耐えられないから。本当にこんな良い奴があんな辛く険しく厳しい道に一人で歩まなくちゃいけないなんて、あってはならないと思う。
「ねぇ、悠仁君。今度は僕がきみを助けるから」
多分、この思いを貫き通せるとは思えない。
ごく普通の一般人として生きた自分がこの世界の呪術師という頭のネジが外れたイカれている狂人どものように強さを発揮出来るわけが無いと思う。でも、このクソみたいな世界の何かを変えられるかもしれないというのなら、それで前世を含めても唯一の友達の負担を一緒に背負う事が出来るのなら僕は死ぬ事だって怖くない。一度死んだんだから死生観が狂ってると言われればそれまでの話だが。
そんな他愛の無い会話の一ヶ月後、親の都合で転校して八年が経過した。
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「よう! オレはコガネ! お前は死滅回游の
「…………ついに、か」
10月31日の夜。
突如現れた僕そっくりの頭髪が生えたコガネが死滅回游の始まりを告げた。
「死滅回游は明日11月1日からスタートするぜ! ルールについては――――」
「大丈夫、ある程度は知ってるから。まあ後で確認はしたいけど…………それはそれとして皆にこんな感じで現れて説明してるの?」
「ああ、術式を最初から持ってた者だけな」
「…………成る程。過去の術師は兎も角、目覚められた泳者が何故死滅回游に参加しているのか、その理由が分かったよ」
こうして目の前に現れて懇切丁寧に説明されたらそりゃ参加する奴も現れるよ。
術式が剥奪されるとどうなるのか、そうコガネにこう質問する者も居たんだろう。
それで返ってくる答えが脳を弄るから死ぬって解答なのだから。
「色々と話を聞きたいところだけど少しだけ隠れてて。親が来るから」
「分かったぜ」
コガネが消えた辺りで部屋に親が入って来る。
ノックくらいしろよと思いながら視線を勝手に侵入して来た親に向ける。
「今誰かと喋ってなかったかしら?」
「独り言。問題文を口に出して考えていただけ」
「変ねぇ…………今確かに誰かと話していたような気がしたんだけれど」
非術師だからコガネが見えないとは思うが、もしかしたら見えるかもしれないので隠して正解だった。
実際、この時の為に口に出して考えるようにしていたのは幸いだった。
「そうそう、小腹が空いたと思ってお夜食用意したの」
そう言って母親が出したのは蒸し野菜だった。
味は何もついてない。いつも通りの素材の味だ。
ちなみに朝昼晩と全く同じメニューである。これで腹を満たせというのはあまりにも酷過ぎじゃないだろうか?
「チーズ、牛乳は無いの?」
「ダメよぉ。いくら成長期だからって脂肪を取り過ぎちゃ太っちゃうわよ」
僕としてはもうちょっと体重が欲しいんだよ、筋肉をつけたいんだよ。
色々と親の目から隠れて動物性のタンパク質を取ったり筋トレはしてるけどさ、禪院真希や九十九由基みたいなバルクが欲しかった。一応筋肉はついてるし同世代の中で運動は出来る方ではあるけど、これから行われる殺し合いで勝ち抜けるかは微妙なところだ。
「そうそう、明日お父さんの知人に会いに行くの。とっても良い人なのよ」
「へー、そうなんだ」
「ええそう。きっと貴女も気に入る筈よ」
ねちっこく僕を見ながら言う母親の姿を見て内心溜め息をつく。
やっぱり、この人は自分が選んだ男と僕を結婚させたいらしい。
はっきり言ってゴメン被る。
「それじゃあ勉強頑張ってね」
そう言って母親が部屋から出て行き、一分くらい経ってから持ってきた野菜に口をつける。
本当、味気ない。野菜は好きではあるけど、普通にじゃがバターが食べたくなる。
ああもう、ストレスばっかり溜まってく。でも今はそんな事は後回しだ
「さて、と…………まずは呪力と術式の確認をするか」
これから先、自分の武器となる力がどんなものなのか。
そんな思いを抱きながら呪力を練る。呪力は腹から、臍から流していくのがセオリーだ。
これを頭で正のエネルギーに変えるのが反転術式。臍で練った呪力を身体の部位を意識して流して遅れさせるのが逕庭拳か。
いや、逕庭拳に関しては悠仁君の人間離れした瞬発力の高さも理由の一つだから僕じゃあまり意味ないか。
兎に角、以上の知識を踏まえて負の感情から呪力を捻出する。
生み出し方は知っていたし、無為転変の影響で影響か呪力はすんなりと練りだせた。
否、練りだし過ぎた。
「うわっ、と…………」
全身から勢いよく立ち上る呪力に思わず声が出る。
どうやら総量はかなり多く、出力も高めだ。
これなら単純に身体を強化するだけでもある程度はやれるかもしれない。
黒閃か発生すればもっと強くなるし、これはこれでありがたい。
とはいえ、こんなに出すつもりは無かったので押さえておく。ある程度練習すればもうちょっと無駄が少なくなるだろう。
当然の話だが試しに反転術式もやってみたが上手くいかない。
要練習する必要がある。
「問題は術式だ」
この出力と呪力なら余程のハズレ術式でない限り強く使えると思う。
僕個人としては放出や御厨子とかの方がありがたい。複雑だったり攻撃性能の無い術式でも使い方次第だけど、果たしてどうなるか。
「術式は右脳の前頭前野に刻まれている、ならそこに呪力を流せば――――」
勢いよく呪力を流さないように慎重に、少しずつ流していく。
イメージとしては蛇口をゆっくり緩めていく感覚だ。こうすれば勢いよく出し過ぎず最適な量も分かっていく。
そんな風に思いながら術式に呪力を流す。すると手に持っていたシャーペンに勝手に呪力が流れ始めた。
いや、違う。これが僕の術式の効果だ。
「付与。それが僕の術式」
多分、武器に呪力を込めて戦う人と同じ効果の術式だ。
手に持った、あるいは身体が触れている物質に呪力を纏わせる。
当たりではないかもしれない。けど、ハズレでもなさそうな感じだ。
この呪力を武器に纏わせて戦えば最低限なんとかなる。
「いや、待て。単純な分、拡張術式を考えやすいか」
物質に呪力を込めるという単純な効果なら色々と応用が効きそうだ。
手に持っていたシャーペンに勢いよく呪力を込めて破壊する。
成る程、強度にもよるだろうけどこんなに一気に流したら壊れる、と。
もうちょっと練習する必要があるな。
「生物に流したらどうなるのかも知りたいな」
もし、自分の予想が正しいのならこれは死滅回游において相当なアドバンテージを稼げる術式だ。
押し入れを開けて天井裏に隠していた荷物と靴を取る。
この荷物の中には死滅回游対策で準備した様々な道具が入っている。一応武器もあるけど、無いよりマシ程度な代物だ。
「さて、と…………行くか」
窓を開けて外に出て地面に着地する。
気付かれないように窓も外側から閉めておいた。これで暫くは稼げる筈だ。
そう思いながら外を歩き始めて、近くの家に居る犬に近付く。
人懐っこいわんちゃんでよく近付いてくるのだ。今も嬉しそうに僕に近付いて舐めてくる。
「ごめんね。きみを傷付けるつもりはないから」
わんちゃんの頭を撫でながら術式を発動する。
今回の実験、拡張術式の発動で誰も傷付けないという縛りともう一つの縛りを乗せてわんちゃんに呪力を流す。
生物にも有効なようだが流した呪力は生物の中には残らないらしくすぐに消失する。
代わりに自分の呪力ではない、わんちゃん自身の呪力が立ち上った。
「成る程、どうやら僕の術式で生き物に呪力を流すと、呪力を使えるようになるのか」
詳しい原理は分からないけど、僕の術式は他の人の脳を術師の構造に変化させる事が出来るらしい。
「コガネ」
「あいよ!」
「幾つか聞きたいことがあるんだけど――――」
出現したコガネに僕は今まで考えていた事、そしてこの術式で出来るようになった事を踏まえて尋ねる。
するとコガネは少し考え込んだ後、答え始める。
「前者の天元との重複同化の権利は所有してない為追加出来ません。ですが後者に関しては可能です」
「よし、それならそのプランでいこう」
これなら全てが上手くいくかもしれない。
死滅回游の平定も、僕の目的も。
「コガネ。ここから一番近いコロニーは?」
「青森だぜ!!」
「よし、じゃあそこに行くとするか。計画に必要なものを揃えつつね」
わんちゃんから離れて夜の街の中へと消えていく。
「目指すは呪力の最適化だ」
呪力の最適化RTA開始。
ちなみに主人公のスペックとしては呪力出力は死滅回游で2番目、総量は乙骨の5分の4強で宿儺の指換算で8から9本分。
呪術センス9、座学10、運動神経8。
これだけ盛らないと死滅回游では生き残れない。