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脳が活動を開始する。瞼が上がる。視界が広がる。見渡す限り、赤、赤、赤。不気味な照明に照らされた、打ちっ放しの鉄筋コンクリートの空間。
身体を動かす。そこでようやく、座った状態で椅子に縛り付けられていることに気が付いた。
「おや。お目覚めですか」
“……黒服”
黒いスーツを着た男──性別を持っているのかすら分からないが──は、先生の意識の覚醒を確認すると、そちらへゆったりと近づいた。
“私に何をした?”
「質問の意図に答えるとするのなら、私は何もしていません。強いて言えば、拘束はしましたがね」
“これから何をするつもりだ?”
「それは貴方が一番よく分かっているのではありませんか?」
先生は答える代わりに、黒服をぎっと睨みつけた。
「先生。実のところ、この状況は私にとっても大変に心苦しいのです。契約もなしに、とても価値のある貴方を無力化している訳ですから」
“なら、止めればいいだけだ”
「はははっ!」
黒服は麻袋を擦り合わせたような、独りよがりで不快な笑い声を響かせる。
「それは無理な話です」
“生徒達に手を出すな”
「貴方の考えが一貫した思考体系であることは理解していますが、それは私の至上ではありません。マエストロにとっても、ゴルコンダにとっても、フランシスにとっても、ベアトリーチェにとっても」
先生は身体を捻り、どうにか拘束からの脱出を図る。しかし、鉄製の椅子の脚がガタガタと大きな音を鳴らすのみで、希望を感じられるような変化は何も起こらない。それでも必死に動くものだから、バランスを崩して横に倒れた。
転んだにも関わらず、服の隙間からシッテムの箱が滑り出ない。既に持って行かれたのだろう、と先生は推測する。
「そして、世界にとっても」
“……私達は、困難な壁を乗り越えるだけだ”
「どうでしょうか? 乗り越えるために使い潰される過程について考えたことは?」
“努力を否定するつもりか?”
「いえいえ、そうではありません。貴方も分かっていながら、そう言うしかないのでしょうが」
黒服は倒れた椅子を先生ごと抱えると、元の位置、元の向きに丁寧に戻した。
「我々の立ち位置は大きく変わりました──いえ、正確には、初めからそうではあったのですが。気付いていなかった、予想もしていなかったのです」
“私は変わりはしないよ。ずっと同じ、生徒の味方だ”
「それは信条の話でしょう? 立ち位置は既に否応なく変えられています。いずれにしても、我々は認識を修正しなければなりません」
その時、けたたましい音と共に、黒服のズボンのポケットが震えた。彼はそれを取り出すと、耳があると思われる位置にそれを当てる。
「はい。──分かりました。すぐに向かいましょう、フランシス」
そして、それだけ言うと通話を切り、先生の方へ再度顔を向けた。
「それではまた。今回ばかりは、彼の独り勝ちと言わざるを得ませんね」
これにて第一章は終わりです。次話から第二章が始まります。一体ユウキ達はどうなってしまうのか……その答えは第二章を書き終わった時に、ということで。要するに更新時期は未定ということですね。頑張ります!
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